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23話:幕間/魔族の事情2

風邪やっと多少は落ち着いてきましたので続きをば

喉の痛みと熱は収まってきましたが、今度は鼻が……一気に寒くなったからなあ

 魔族達の軍勢、その動きは緩慢だった。

 いや、本当ならば彼らももっと迅速に動きたい。だが、そう簡単にはいかない理由があった。


 「まったく……このままでは再度の侵攻は何時になるのか」

 

 アルジュのぼやき声も漏れるというもの。

 もっとも、今頃物凄く忙しいであろうルオーネの所に文句を言いに行く気にはなれない。間違いなく強制的に手伝わされるのが分かりきっている。


 (元々、無理に無理を重ねての進軍だったからな。仕方ないと言えば仕方ないのだが)


 彼らの住んでいた元の世界が何故この世界と繋がったのかは分からない。

 調査の結果、発見こそしたもののそこまでは彼らの現在何とか住んでいるアーコロジーからは離れた場所にある。当然、そこに至るまではきちんとした防護対策を施した上で、食料も持って行かねばならない。

 ここで問題になったのはその食料だった。

 元の世界に比べ、この世界では食料は豊富だ。食うのも問題はない。

 だが、そこには常に運ぶという問題点が生じる。

 もっと大規模に運べるのならば問題がないのかもしれないが、我らの世界における門は所詮洞窟の奥にある門でしかない上、流入してくる瘴気を遡らねばならない。おまけにアーコロジーまで運ぶまでに汚染されないよう厳重な梱包が必要だ。

 洞窟から出れば多少は楽になるというのは慰めにもならない。

 本音を言えばこんな作業は後にしてしまいたい。だが、そうもいかない。

 この部隊もそうだが、危険な場所に赴いて、瘴気のなき地を探索する連中は総じて「元の世界を助けたい」「何とかしたい」と願って志願した者ばかりだ。そうして、今、我らの前には豊穣な恵みがある。その一部だけでも故郷に届けたいと願う者が少なからずいるのは当然だろう。

 

 そして、その感情優先の話に、理でもまた賛同しなければならない。

 我々は元の世界のアーコロジー全てを統括する責任者ではない。そんな立場にいれば、こうやって危険を冒して探索に出向くなど許される事ではない。

 しかし、それは逆に言えば、私達が軍の増派を求めるにはそれなり以上の根拠が、物証が必要だという事だ。物証を示して初めて、彼らはこの地への増派を考え、決断出来る。それを遅い、優柔不断だとは思わない。限りある資源を、食料ををどう動かすか、どれだけ彼らが苦労しているかは私も散々見せつけられている。中には約束の地を見つけたと称して、物資を騙し取ろうと考えた者さえいるのだ。

 情と理、双方が私達が元の世界へと食料や物資を運ぶ事を求めている。

 だが、この世界で得た物資を元の世界へと人手を用いて運び出すという事は必然的に、こちらの世界で得た物資は減り、人手もまた減るという事だ。

 兵達の顔は明るい。

 それはそうだろう、彼らが生まれて初めて見つけた希望だ。苦労も苦労とは思っていないに違いない。その気持ちは私、アルジュにもよく理解出来る。

 だが……。


 (この世界の連中があのまま黙っている訳がない)


 これまた考えるまでもない現実だ。

 いきなり現れた自分達に殴りつけられ、仲間を殺され、土地を奪われ。それで何もせず泣き寝入り?そんな事ある訳がない。

 こちらにも事情はある。幾らあっても足りない食料、大勢を入植させるに必要なだけの広大な土地。もしかしたらこの森を切り開いていけば資源も食料も解決するのかもしれないが、それには膨大な時間が必要。そんな時間は自分達にはない。

 既にある所から奪っていくしか道はない。

 既に開発された街を奪い、そこに移住者を入れる。

 既に開発された耕地を奪い、そこで耕作を行う。

 既に開発された鉱山を奪い、資源を採掘する。

 それだけではなく、水を奪い、食料も奪う。当座自分達が必要な物資だけでなく、元の世界で苦しむ者達に少しでも希望を届ける為に。

 だが、それを聞いて、この世界の者達が納得できるだろうか?もし、逆だったら?

 到底納得できる訳がない!

 貴様らの勝手な都合を押し付けるな!そう怒って、正当な怒りと恨みに燃えて襲い掛かって来るだろう。というか、自分なら絶対にそうする。ましてや、この世界の現状は彼らの先祖達が頑張って切り開いたものであり、自分達の世界の現状は愚かな先祖達が招いた事。

 折角一度はこの世界を上回る繁栄を築きながら、土地を食い潰し、誰かを妬み、羨み、それを奪う事を考え、他者を貶め。最後は世界そのものを汚染しつくし、潰してしまった愚かな先祖達。その傷跡は未だ残り続けており、生き残っているアーコロジーもまたいがみ合いが絶えない。 

 自分達の先祖は喧嘩を売られた方だと教えられているが、対立する別のアーコロジーでもまたそう教えられているだろう。今ではどちらが本当なのか分かるはずもなく、そんな事を調査する余裕もないし、そもそもそんな事は「どうでもいい」。


 だからこそ、アルジュは悩んでいる。

 この地に確固たる足場を築き、相手がまだ戸惑っている内に攻め込む必要があるという現実。

 足場を築くには人手と物資を元の世界へと送らねばならないという現実。

 二律背反だ。

 

 (まあ、ルオーネの言っている通り、出来る事を少しずつこなしていくしかない)


 既に後戻りはできはしないのだ。

 戦力の関係上、他国の都市は自分達が抑えている点であり、面どころか線でさえ押さえてはいない。

 となれば、間違いなく……。


 (この森を探りに来るはずだ。俺達がやって来た森のどこに拠点があるかを)


 そのためにこそ少ない自由に動ける戦力をやりくりして、監視網を構築しつつあるのだ。

 

 「アルジュ閣下!!」

 「どうした?」

 「センサーに反応がありました。獣とは異なるものです」


 そして、それが動く時が迫っていた。

  

 

じょじょにまた投稿していく予定です

体調落ち着くまでは毎日投稿は厳しいかもしれませんが、ご容赦下さい

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