18話:魔獣との戦い
明日は竜に生まれまして更新の為お休みします
魔の森。
ここは、この世界へと落ちてくるのが良いものばかりではない、という現実を突き付けてくる存在だ。
この世界はいわばセーフティネット、墜ちた物や者を拾い上げ、世界へと救い上げる装置としての世界。落ちてくるものを選り好みしたりはしない。
魔の森を形成したのもそうした存在の一つ。
遥かな昔、強大な魔獣が出現し、縄張りとした広大な地域がやがて森となり、数多の魔獣が跋扈する危険地帯と化した。
無論、過去にはその一国をも上回る広大な土地を我が物にせんと野望を燃やした国もあったが、その全てが失敗に終わった。何時しか森は魔の森と呼ばれるようになり、人が定住しない獣の国となった。こうした場所は世界に他にも存在し、伝説では暗黒大陸と呼称される魔物が支配する大陸もあるという。
そして、墜ちてくるのは人だけではない……。
「いい加減くたばれッ!!」
強化術師の一人、盗賊を務めるカイラが回り込んで一撃を放つ、が浅い!
「いかん、引け!!」
「あがッ!?」
アシュタールの警告も間に合わず、カイラが噛みつかれた!
だが、そこへ駆けつけたもう一人、強化術師ベルクトが奴の顎をかちあげた事で、顎が緩みカイラは噛みつかれた腕を引き抜く事が出来た。しかし、腕はあの一瞬でボロボロ、使い物にならないレベルに達し出血も酷い!
「前に出ます!カイラさんと合流します」
「おう、頼んだ!!」
後方に待機していたもう一人、攻撃術師である凱嶮に声を掛け、走り出す。この世界、色んな世界から落ちて来た人で住人が構成されているせいか、名前も実に多彩だ。中には和真からすると妙な組み合わせになってしまっている人もいて、今攻撃を受けたカイラなどフルネームは山田カイラだ。
もっとも、何年も暮らしていればそこら辺はもう慣れた。
カイラに駆け寄った和真はまず肩を貸して、距離を取る。
「ごめん」
「気にしないで」
戦闘に巻き込まれないよう建物の陰に引っ張り込む。
周囲の警戒を頼んでから、回復魔法を発動させる。
【戻れ、戻れ時の歯車。我が望みし場を戻し、癒せ】
認識した位置の時を戻す。
これが回復魔法と呼ばれる魔法の正体。考えてみりゃ、この世界レベルの医学で正確な体の知識なんてある訳がないし、自分の世界の医学知識だってこの世界にそのまま適用出来るかは怪しい。魚人なんて直立した魚みたいな種族や天人なんて翼の生えた種族だって存在している。
そんな相手に使った回復魔法でもきちんと効果を発揮する。それは定めた範囲の時を戻しているからだ。もっとも、それだけじゃないんだけど……。
これがポーションと治癒術師が直接魔法を使う場合の差を生む。
ポーションでは短時間限定、しかも弱いレベルでの時戻しでしかない。強力すぎる時戻しはどうも次第にポーション自体の時を戻してしまうからなんだそうだ。つまり、エリクサーレベルの強力なポーション作ったりしたら、ポーションの瓶に穴が開く。瓶が壊れない程度の時戻しになると、どうしても短時間になってしまうという……。
【復元/リペア】
腕が戻っていく。
時が巻き戻り、砕けた骨が破片ごと元の位置へ、ズタズタになった筋肉の繊維が再度寄り集まる。修復に不足した部分は魔法が補う。この不足分を補う点が単なる時戻しと異なる部分であり、ポーションが治癒術師に劣る最大の原因でもある。どこを戻すか術者が認識していないと、それこそ腕を癒すのに内臓を癒す術式が発動したら目も当てられない。
みるみる内に腕が修復され、再び動くようになる。
「よっし、助かったよ!」
「気を付けて」
即座にカイラも再び戦線に復帰する。
それと他二人がまだ健在な事も確認。
ベルクトが真正面から攻撃を受け止め、アシュタールは滑るような動きで間合いを図り、相手の弱い部分を的確について弱体化させつつある。
それを確認してからふと周囲を見る。
「……こんなものまで落ちてくるんだからな」
周囲は森に呑まれた都市。その廃墟。
こうした落ちた都市には財宝や貴重なものが眠っている可能性も高いが、人の領域にあるような探索しやすいものは既に探索しつくされ、魔の森のような人が普段分け入らないような場所などでしか今ではもう見る事はない。
この都市も本来なら冒険者としては探索したい所だろうが……。
「帰りに余裕があれば、だろうな」
そう呟いて、和真も戦闘へと復帰した。
眠い、ひたすらに眠い
この眠気何とかならんものか……




