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17話:魔法作成

魔法をもう少し詳しく

 この世界の魔法で一番大事なのがイメージだと気づいたのは何時頃だったか。

 車が一台あったとして、俺はそれを見れば「車だ」と思い、乗って移動するものだという認識がある。車を見て、これは調理道具だ!などと思う奴はいない。

 けれど、車を原始人が見たらどうだろう?何か分からず、タイヤを外して椅子にするかもしれないし、何か分からないものとして神様に捧げたりするかもしれない。

 これと同じ事が無意識のレベルで頭の中にある。

 つまり、俺が結界魔法を変わった使い方をしていたり、勇者アシュタールが移動魔法を改造していたとしてもそれを見て真似をしようとしても難しい、という事でもある。先の例で言えば、車を見て「これは車で使い方はこうこう」という概念そのものを頭の中から消し去る必要がある。 

 車を見て、「これなんだっけ?」と思えるぐらいになれば大丈夫だ……と、ここまで言えば難しいのは分かってもらえるだろう。

 こういう事が出来た、と結界魔法の応用を師匠であるマーロンさんには話したのだが、遂にマーロン師匠も使えず諦めた。

 回復魔法に関してはまだ同じ治療の魔法、という事で使う事が出来た師匠でもそれだ。おそらく、結界魔法をこういう風に使う奴は今後も出ないのだろう。


 目の前に突進してくるカバみたいな魔獣がいた。

 前線を支えるメンバーが逃した訳じゃない。こっちが攻撃する手段はある、という事を見てもらう為に通してもらった獲物だ。

 軍隊が相手な以上、これから先、前衛だけでは止めきれず、という可能性もあるだろう。そうならないのが理想とはいえ混戦になってしまう可能性は否定出来ない。

 この時、攻撃が出来ない癖に回復役というパーティにとって厄介な立ち位置にある俺が狙われる可能性は十分にある。その時に他の面々が俺に戦う手段がないと勘違いして、焦ったり無理に助けに来ようとして結果的に命を落とすなんて事だってありえるのだ。

 だから、まだ余裕のある今の内に見せておこうという訳だ。


 (ちょうど大口開けて突っ込んできてくれてるからな……あそこにしよう)


 結界を張る基点を決定する。

 マーロン師匠はこの時点で躓いた。

 結界とは治癒術師が身を護る為の手段、という概念が固まってしまっているからだろう。どうしても結界を術者中心に発動させてしまっていた。お陰で離れた位置にいる仲間を護る為に発動させる、という事すら出来ない。

 と、思っていたのだが。それに関しては歴代の治癒術師達も思う所があったのだろう。結界の形を変形させ、発動させた結界を一気に味方に伸ばす事で守るという手段を確立していた。

 でも、それでは駄目だ。

 それでは身を護る事には使えても、それ以外には使えない。


 (基点を魔獣口内に設定)


 それも喉の奥。

 出来るだけ奥に設定する。


 「結界発動」


 そして、結界の最大の利点はここにある。

 その性質上からだろう。結界は詠唱が必要ない。即座に発動させる事が出来る。

 一気に喉の奥で結界が、「すべてを排除する」という設定の下に発動すればどうなるか?


 「「「「うわ……」」」」


 それがこの答えだ。

 ボン!と爆発するように魔獣の頭部が吹き飛ぶ。

 ……これでもう一つの欠点がなければ最強の攻撃魔法になるんだがなあ。


 「すげえな、これ」

 「これじゃどんな魔獣でも一発じゃないか……治癒術師おっかねえ」

 「それがそうでもないんだ」


 勘違いされても困る。ので、欠点も説明しておく。


 「見えてる範囲じゃないと結界発動の中心点が設定出来ないんだ。今の魔獣は大口開けて突っ込んできてくれたから設定しやすかったけど……」

 「成る程。見えない体内には設定する事は出来ない。兜を被っているような魔族相手にはそうそう出来る手段ではないという事ですね」


 そういう事。

 頑張ってはみたんだが、どうやっても体内に設定するといった事は出来なかった。そうなると、外部に結界を発動させても押し出す事しか出来ない。魔獣なら結界に噛みついたりするからその時に口内に基点を設定したりも出来るんだけどな……。

 先だっての水中を歩く時に使ったものだって長時間は使えない。あの程度の河だったから使えたけれど河の底を歩いて、敵陣に潜入なんて事も出来ない。

 基点の設定の関係上、自分も一緒に水の中に入らないといけないが、あの使い方をする場合は全てを排除する設定でなければならない。したがって、中の空気がなくなったら窒息する。通常の結界はどうやら無意識の内に空気は通すよう設定されてるみたいなんだがな。なので、無色透明な毒となる気体が流れて来たら、例えば二酸化炭素が充満してる窪地なんかに入ってしまったら死んでしまうんじゃないかとは思っている。

 当初は水だけを弾くように出来ないかと思ったんだが、それをやるとまず水の中の空気が風となって叩きつけて来た。

 水の中には結構な量の空気が溶け込んでいる。これが流れから水が排除された瞬間、風となって結界内部にたたきつけられた。

 おまけに、水の中には流木なんかもある。これまた凄い勢いで結界に突進してくる事になる。

 排除する設定を色々弄ってはみたが、結局最後は水中移動の場合は全てを弾くという形に設定せざるをえなかった。そのせいで時間的には余り長時間使う事が出来ない。


 「まあ、それでも結界に閉じ籠るしかない、というよりはマシなんだよ」


 なるほど、と頷いてくれた。

 強化術師、攻撃術師と違い治癒術師は攻撃されたらひたすら結界に閉じ籠るしかない、というのがこれまでの定説だった。結界だって、無敵じゃない。張る当人のイメージがここでも影響する。硬い岩塊をイメージする場合と、レンガの壁、或いは豆腐をイメージした三つの場合どれが一番最初に突破されるかは容易に想像がつくだろう。なので、なるべく硬いものをイメージした結界を張って、仲間が駆けつけるのを待つ、というのが冒険者をやっている治癒術師のやり方だった。

 岩でも魔獣の場合、岩を簡単に粉砕するような突進してくるような奴とか、岩を掘り砕くような奴もいるから全然安心出来ないんだけどな。

 移動術師?アシュタールのアレは卓越した剣技と磨き抜かれた精神あっての技だ。そんなものが早々真似出来る訳がない。

 いや、自分も今の結界による攻撃に辿り着く前、多少は護身術にと思って武器も振ってみたんだけど……武器って重いんだよな。あんなもんまず体を鍛えないとそんなに長時間振れるような代物じゃない。筋肉痛を回復魔術で治すと鍛えた意味がなくなるし……回復魔術は「戻す」事によって癒す魔法だからなあ。

 まあ、大振りのナイフぐらいが武器としては自分には精々だね……。

一度頭に刻み込まれたイメージを返るのはなかなか難しいですよね、何事も…

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