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16話:勇者の記憶その2

アシュタール編後半

夜勤明けの眠さが辛い

 私がいた国の冒険者の水準は他国に比べて高いと言われていた。

 もっとも、それは他国に比べて国としての水準が低いからこそ生まれた副産物でもあった。

 魔の森から出てくる魔獣の迎撃一つとっても他国ならば国から派遣された専門の部隊が存在し、周辺貴族と連携して魔獣に対処していた。これに対して、私のいた国では魔の森に面した貴族に対応は一任されていた。任されたと言えば聞こえはいいが、現実は自分の領地に国王直下の軍勢が入って来るのをどこの領主も嫌がったせいでそうするしかなかっただけだ。

 そして、彼らは統制が取れていない。

 統一された指揮系統、連絡系統というものがろくにないんだから当然だ。

 その結果、魔の森からの魔獣にした所で迎撃失敗の度合いが他国よりずっと多かった。国内に入り込んだそれらを倒すのに活動する事になるのが冒険者という訳。他にも他国に比べて国内貴族同士の争いも多いのでそうした依頼も多かった。

 国が弱かった分、冒険者に負担がかかる。

 でも、それが依頼となる事で仕事の多い国という事で他国からも冒険者が集まり、質が向上する。そんな状態だった。


 でも、魔族相手にはそんな冒険者でもどうにもならなかった。

 もっとも仕方ない話ではある。

 冒険者は基本数人、私のパーティで四人。大き目の所でも十人未満。

 これに対して、魔族は軍隊だ。

 無論、動員して冒険者を一つの軍隊規模で扱えばまた話は変わっていたかもしれないが、それを察した冒険者は脱出を図る知り合いや商人の護衛という形で次々と国を離れてしまった。この国出身の冒険者であっても愛着があるのは各貴族の領地である自分が生まれ育った故郷だけ。

 そんな冒険者達に国を護れ!と檄を飛ばしても無理だった。

 私のいた冒険者チームはそんな中、この王都出身のチームだった為にまだ残っていた。

 私自身も王都を第二の故郷としてそれなりに愛着を抱いていたから、彼らを手伝っていた訳だがそれも魔族の奇襲で全てがご破算になってしまった。


 その後はもう語られた通りだ。

 知り合いを極力集めて、王都から脱出を図った。

 包囲されていたとはいえ、そこは地元の人達というべきか。今はもう使われていない地下用水路などを伝って、包囲の外へと逃れる事が出来た。

 移動術師である私が手伝ったとはいえ、それでも家財道具など置いてきた物は多く、彼らの生活はどうしようと悩んでいた時に王女と出会ったという訳だ。

 彼らの名誉のために言っておけば、「助けてもらったのに、これ以上そっちに負担をかける訳には」と辞退されたのだけど、土地勘もない、持ち出せばのは僅かな現金のみという状況で新しい土地でやっていけるなど世界規模の冒険者ギルドに所属している冒険者ぐらいのものだ。折角助けた知り合いがスラムに落ちるといった姿は見たくない。

 まあ、それに……。

 魔族達を放置出来ないのもまた事実だったしね。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 そんな私達は王女の騎士という形で雇われたお陰で、少し有利な立場になれた。

 装備は貸出、国の奪還が為った暁には武具か防具一つを下賜という形で譲る。

 それに、各国が合同で出す依頼にも優先的に入れてもらう事が出来た。

 こうした国が出す依頼というのは信用が重視される。本来私達には受けられない依頼だったが、亡命政府のお抱えという事で受ける事が出来ました。

 そんな私達の不安点が回復魔法の使える治癒術師の不在です。

 ポーションがあるじゃないかと思われるかもしれませんが、治癒術師と違い、それらは消耗品です。持ち運べる量には限りがありますし、万能に対応可能なだけに治癒術師が個別に対応する回復魔法に比べて治癒の度合いが大きく劣ります。

 熟練の回復魔法の使い手ならば断ち切られた腕でも即座に繋ぎ合わせる事が可能ですが、ポーションではそんな事は出来ません。

 魔族との戦闘も考慮しなければならない魔の森に分け入っての戦闘において、ポーション頼みというのは不安が残ると言わざるをえません。

 

 駄目元でギルド含めて探してみた結果、近隣でも一番の腕利きと呼ばれる人が見つかりました。

 霧生和真さん、私同様の落ち人だそうです。

 当初は冒険者ギルドで働いていたものの、今では一人立ちして結婚して奥さんと子供もいる。

 正直に申し上げれば、そのような人を魔族との戦いに引っ張り出すのは気が引けました。

 事情を話し、説得し、幾度も通い、遂に口説き落とした訳ですが……。

 

 「結界は物体を排除する魔法、なるほどこういう使い方もありますか」


 私も移動術師としては変わり種と思っていますが、和真さんも結構な変わり種ですね。

 今、私達は森の中にある大河を渡っています。……川底を歩いて。

 結界を張り、水を弾き、半球状の結界で覆って水の中を歩いているのです。もちろん、通常の回復魔法の結界とは異なるのでしょう。私のアレンジした魔法と同じですね。

 このアレンジする、というのがどうもこの世界で生まれ育った人には難しいようです。どうも「この魔法はこういう魔法」というのが各人のイメージとして固まってしまっているみたいですね。だから、そこから発想が飛躍しない、或いは思いついても元のイメージから新しいイメージに変えるのが難しいと言いますか……。

 例えば、見た目の悪いキノコがあったとしましょう。

 私や和真さんが初めてこの世界に来て、それを見たら間違いなく「毒キノコかな、近寄らないようにしよう」と思うような毒々しい見た目だとします。

 しかし、この世界の人にとっては美味で有名なキノコだったとすれば、この世界の人からは「美味しそう」となるはずです。


 その後も和真さんは大地に結界を張り、眼前の土を押しのけて急造の落し穴を作り、突っ込んできた魔獣を落すなど色々な使い方を見せてくれました。

 これは私だけではなく、和真さんも多少は……いえ、やはりこれは緊急時のものですね。回復魔法の使い手を前線に出すのは間違っています、ええ。

 

 

最近夜勤が続いてます

大丈夫な日もあるんだが、耐えられない日もある……

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