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14話:異世界の勇者その3

 「装備はいいんだな」

 「事情がありますからね」


 アシュタール班は俺の他に三人がいた。

 強化術師が二人に、攻撃術師が一人。

 何と驚いた事にアシュタール自身は移動術師だった。てっきり強化術師かと思ったのだが、考えてみれば落ちてくる前がどうあれ、この世界に落ちて来た時点でどんな魔法を得られるかなど分かる訳がない。この世界の住人も自分が望んでいたのとは異なる魔法を得た事で鍛えるのを止めてしまう事だってある。

 そう考えると彼女が移動術師であるのも不思議ではないのかもしれない。

 武装はしているが、それは俺とて同じ事。幾ら強化術師に比べれば劣るとはいえ、魔の森へと入るという時に何も武器を持たずに入る気にはなれない。ナイフの一本であってもそれが命を救う事だってある。

 ただ、その装備が予想していたよりも良いものだった。


 「私の場合は言ってみれば姫の騎士扱いですからね。国宝なんかも預けられているんですよ」

 「それはまた……」


 この国へと逃れてきた際に王女と合流したのは既に話した訳だが。

 その時に、彼女から自らの専属という形での契約を依頼されたのだそうだ。代償はアシュタールがお世話になった人達の生活の面倒を引き受ける事。

 いい奴だとは思う。

 それで依頼を引き受けたのだから。

 今の王女には言い方は悪いが手駒がいない。母国は実質滅んだが、魔族という奴らが倒されれば母国の復活もありえるだろう。何せ、周囲のどの国も魔族の国なんて認めないに決まっている。今更方針転換したとしてもどうにもならないぐらいに不信感が双方の間には横たわっている。

 そうなれば、王女を旗印にして復興する可能性は高い。もっとも、その時王女に支援した国の継承権の低い王子辺りが一緒にいない確率は相当低いだろうが……まあ、復興にその国の力も期待出来るのだから王女にとっても悪い話じゃない。

 とはいえ、王女にしても自分の国も多少は頑張った、という所を見せないといけない。

 ただ、庇護を受けてました、だけでは立場はその分弱くなる。

 問題はそのための戦力が彼女の手元にはいない、という事だ。信頼出来る騎士はほとんどが脱出時に命を落とした。今、彼女の身辺には僅かな騎士しか残っていない。後は共に脱出してきたメイドや執事なんかの下働き連中だけだ。彼女の傍から離して、探索に協力させる余裕がない。

 かといって、冒険者を雇っては彼女の国の功績にならない。そこにあるのはあくまで契約であり、冒険者の功績は当人と冒険者ギルドに属するものだからだ。

 だが、ここに抜け道がある。

 ある国において、大きな功績を上げた冒険者を騎士なり貴族なりに取り立てる、という事は普通に行われている。そうなった場合、冒険者ギルドに籍を残す事も出来るが功績はその国に属する。

 冒険者ギルドとしてもそうした成り上がった者と繋がりを保つ事は利があるので、それを受け入れている。


 つまり、アシュタールを騎士として王女が任命した事で、アシュタールが功績を立てた場合はその功績が自分に巡って来るようにした訳だ。

 で、その際に色々と国宝である剣とかを借り受けた、と……、いや違うな。これからどんだけ金がかかるか分からん。王族、貴族ってのはどうしたって金がかかる。普段の生活はひたすら質素にしつつも、他の貴族の前では見栄を張ってみせないといけない。

 その為に自らの体を磨き、ドレスを整え、宝石で飾る。

 高額な食材で彩った宴席を開き、客を招く。

 そこには当然金がかかり、亡命政権の顔である王女は飾ってみせないといけない。

 つまり、将来を考えたならなるだけ節約しないといけない。そこで、国宝故に売る訳にもいかない武器やら道具やらを報酬代わりに貸し与えた訳だ。

 しかし、移動術師というならそこまで豪勢な武装が必要なんだろうか?




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 移動術師強い。

 俺は前言を即行撤回に追い込まれた。

 参ったね、創意工夫こそが魔法使いには大事なんだって事は俺自身がよく分かっていたはずなのに……。

 転移魔法を操る移動術師は様々な者や物の移動に関わる術を操る。

 空間を操作し、物体を収納する。

 付与術師と違って、物をどうこうする力はない。物の変形は一切行えない、あくまで移動に関わる事だけが出来る。

 けれど……。


 『ぐがるううううッ!!』


 魔獣の一体、大型の熊がアシュタールに向かって突進してくる。

 熊の魔獣は厄介だ。タフで、力が強く、しかも狡猾だ。体格こそ初めて見た鹿の魔獣の方が上だが、危険性で言えば熊の方が上だ。強化術師でさえ真正面から一対一での戦闘は嫌がる。

 なのに、アシュタールは躊躇なく踏み込む。

 そして、魔獣と瞬く間に接触するという時。


 『ぐあ!?』


 熊の魔獣が大きくバランスを崩した。

 原因は分かっている。奴の足元の土塊を奴が踏み込む絶妙のタイミングで移動させたんだ。

 踏み込んで力を入れた先が実はローラーのついた板だったと考えて欲しい。その板が踏み込んだ瞬間にずるっと動いたらどうなるか?当然、バランスなんか崩れまくって、とても攻撃するどころじゃなくなる上に思い切り隙を晒す事になるだろう。

 熊の魔獣も正にその通り。

 足元が滑って、けれどそこを踏ん張って留まろうとした為に顔が上を向き、思い切り喉元をさらけ出す。


 一閃。


 そこに光が煌めいた。

 強化術師に比べ足りない力の分を剣自体を移動させる事による速度で補っている。もちろん、こんな使い方は通常の移動術師が学べる類の術じゃない。つまりアシュタールのオリジナル。

 発想や魔法の改造だけじゃない。他の移動術師がやっても同じ事は無理だろう。

 あれは前の世界で、異世界の勇者という役割をこなしていたアシュタールだからこそ出来る。勇者として数えきれないほどの戦いをこなしてきたからこそ磨き抜かれた剣の腕と見極め。巨大な熊が自分に殺意を向けて突進してくる中、冷静にその踏み込みのタイミングを正確に見定め、移動の魔法を発動させて相手のバランスを崩させる。これが出来る奴がどれだけいるのか。

 アシュタールの仲間だった他の三人も良い腕だ。

 治癒術師だけは元々冒険者をやってる治癒術師が少ないだけにいなかったみたいだが……どうやら俺は当たりを引けたかな?

 

本日分更新です

ガチャで引きたいキャラが引けないのは滅多に出ないと理解してても哀しいですね

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