13話:異世界の勇者その2
「それで俺に何の用でしょうか?」
異世界の勇者アシュタール、彼女にそう問いかける。
いや、言いたい事は大体予想はつく。しかし、それでも相手からの正式な返答を待つ。
「和真、近隣諸国で随一の治癒術師として知られるあなたに私の旅に同行して頂きたい」
ああ、やはりか。
「正式なお返事は明日お聞かせ頂けるだろうか?」
「断るとは思われないので?」
「可能性はあると思っています。ですので、駄目ならまた別の方にお願いする事になりますね」
個人的には怖い、怖いが……。魔族、奴らに関してはそうも言ってられないのもまた事実だ。
話が出来るならいい。
それなら、交渉によって落とし所を探る事も出来るだろうし、無駄な虐殺をしたりもしないだろう。いや、無論世の中には集団ヒステリーというか、何かをきっかけに突然隣人が虐殺者に変わるような事例も存在しているのは確かだけど、魔族の場合はそれとも違うような気がする。
突然魔の森から出現した多数の軍勢、まともな交渉も行わず片端から虐殺していく姿。
魔の森に密かに住み着いていた民族という考えを誰も考えなかった訳じゃない。
実際、この世界でも巨人族は自分達と異なり、街に暮らしていない。どうしても彼らはその体の大きさの関係上、一緒に暮らすのが難しかったからだ。公的な建物だけでも巨人族に対応するなら建物も巨大にしなければならないけれど、そうなると当然建築費も資材も大幅に増える。
結果、何時しか巨人族は街の外で暮らすようになった訳だが、別に交流が途絶えた訳じゃない。街で巨人族を見かける事はあるし、商売で巨人族と取引してる商人も普通にいる。
魔族はそんな、遥か昔に交流が断たれた落ち人の子孫なのではないか?
そう考えた者もいた。
だが、それにしてはあれだけの規模を持ちながら、これまで全く接触がなかった事や、武装の度合い、交渉にすら応じる様子がない事などから現状一番可能性が高いと考えられているのは「ごく最近種族ごと落ちて来た落ち人達なのではないか」という考えが主流だ。
「ねえ」
「……うん?」
「アシュタールさん達もう帰ったわよ」
頭を小突かれて、ふと顔を上げてみればそこには妻のリエラの顔が。
……しまった、考えに没頭しすぎて気づいてなかった。
「明日来られた時にちゃんと謝っておきなさいよ?」
「はい」
失敗した。
しかし、どうしよう。リエラにも相談してみるつもりだが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで結論は如何でしょうか?」
「同行させて頂きましょう」
翌日来られたアシュタールさんに俺はそう答えた。
魔族に対する苛立ちはある。
静かに暮らしたかったのに、何故俺が勇者の仲間になって旅立つような事をしないといけないのか、魔族なんてものが来たせいでえらい迷惑だ、といった理不尽を感じるのも事実だ。念の為に言っておくがアシュタールさん達に対して怒ったり、苛立っている訳じゃない。アシュタールさんもまた、魔族の侵攻なんてものがなければ静かに暮らせていたはずなんだから。
でも、俺は守りたかったんだ。
今回、勇者一行と言っているが異世界の勇者がいるから勇者一行と称しているだけで、やる事は偵察だ。「蒼の雫」も含めた冒険者達も動員され、魔族の本拠地やその目的を探り出す。目的が分からなくては相手の狙いが何か分からず、対応策も取れない。
本拠地が不明では、相手の規模が分からず、どれだけの兵力を動員可能なのかも予測がつかない。
本来ならば国がやるべき仕事だが、国は現在軍勢を動員して睨み合いの真っ最中。
国の抱えた隠密相当の連中も本領を発揮できるのは都市部や、建物の潜入などで実は案外野営任務や、遺跡などの探索は得意ではない。求められる物が違うんだから当然かもしれないけど。
そんな中、俺達治癒術師が動員されている。
治癒術師はその性質上、付与術師と並び、冒険者なんかをやってる数が少ない。腕利きになると更に少ない。
それでも既にチームを組んでる冒険者パーティは今更下手に人を加えるよりは、とポーションに頼るみたいだが、アシュタールさんのようなこれからチームを組むという人にとっては治癒術師は欲しいんだろう。国からも治癒術師達に協力を求める声明が出ている。
正直に言えば、ここで残っても中年以降の年配者ならともかく、若いのに残ってたら後味が悪いんじゃ……といった気持ちがない訳じゃない。仕事に支障を来す可能性もある。でも、それより。
「俺も守りたいですから」
妻や子供を自分の力で。
それに……戦える方法がない訳じゃない。
治癒術師は戦闘には向かないと言われてきたが、身を護る為にも工夫は凝らしてきたつもりだ。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
必ず生きて帰って来よう。また、リエラと我が子を抱く為に。
涼しくて助かりますね……
暑い時は頭が働かなかった




