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30 出発1日目 ~お勉強 その9~


「帰るのが遅くなって申し訳ない。おかげで明日の昼食分までは確保できました」


トゥーンさんだけこちらに来て、ニールに話し掛けてきた。


「まだ日は落ち切っていませんから大丈夫です。夕食時間はどうしますか?」

「そうですね……ずらしながらでどうですか?」

「分かりました。では、レミー様とイェネオミナスの皆様は先に。我々は後から食べます」


食べる順番って決めなきゃいけないの? とは思ったけど、警戒のために必要との事。

周囲の様子に変わった事は無かったと話すと、トゥーンさんはテントに戻って行った。


その後、私が毒見役で一番なのか? と疑問に思いながら夕食を食べ、皆に料理上手だとお褒めの言葉を貰い、見張り番の準備に。

竃の近くに毛皮を敷き、クッションの上に座っているとニールがトゥーンさんを連れて近寄ってきた。


「レミー様は、スーさんとミアンさんの2人と一緒に一番目に見張りです。番をする人数は2人以上が望ましいです。襲撃があった場合に、一人は牽制役を、一人はメンバーを起こす役をするからです。見張り中は、周囲の観察、聞こえてくる音、漂ってくる匂い、等五感も研ぎ澄ませて警戒に当たって下さい。夜中は真っ暗になりますから、特に異常音がしないか耳を澄ませて下さい」


トゥーンさんに見張り番の注意点を教えて貰うが、1つ疑問が。


「……索敵とかはしなくていいの?」

「してもいいですが、向こうもこちらの魔力を感知する可能性があります」

「え? 感知されないから問題ないわよね?」

「「は?」」


2人が『何言ってんだ?』と呆けた。

いや、私の方が不思議だよ。


魔力って、大気中に漂っている魔素を動植物が体内に取り込んで魔力として溜めておくんだよね?

んで、魔法を使う時に属性を乗せて発動するんだよね?

なら無属性で発動して、相手に攻撃だと思われないように工夫すれば、『気のせい』だと勘違いして貰えるんじゃないの?


「……レミー様、そもそも魔法を使えば魔力が込められていますから、魔力を感知され『敵が居る』と警戒させてしまう物なのです」

「でも、ニール達は気付かないよ?」

「え?」

「ちょっと待って下さい! レミー様は私達に使った事があるのですか?!」


あ、しまった……。

幼子に言い聞かせるように優しく諭してくれていたトゥーンさんが驚いた顔で固まり、ニールに問い詰められた。


「いっつも使ってるけど、誰も気付かないわよ?」

「どういう事ですか? というか、レミー様! レミー様はどういう風に魔法を発動しているのですか?!」


あ~……ニールが騒ぐからスーさんも寄って来ちゃったじゃない……。

その無言で『私にも教えて下さいますよね?』って目で訴えるの、止めて貰っていいですか、スーさん。


「あ~う~、その、新しい魔導具を作ってる時は人に見られないように、警戒のために大体使ってるんだ。純粋に魔力だけ細~く伸ばして自分の周囲にスパイダーの巣みたいに張っておくと、人が通ると魔力が途切れるから動くモノの探知として使ってる」

「まあ。………………あら、出来ますわ」

「…………レミー様のおっしゃる通りですね……」


スーさんの眼力に負けて白状すれば、スーさんは嬉しそうに、ニールは真剣な顔をして、魔法を発動した。


「あの……レミー様は空間魔法と風魔法だけでは無いのですか?」

「へ? この魔法誰でも出来るわよ? だって無属性だもの」

「え?」


新しい発動方法の索敵魔法を知ってきゃいきゃい騒いでいる2人を他所に、トゥーンさんが恐る恐る声を掛けて来た。

というか、普通の索敵は何属性で発動するもんなの?

は? 自分の得意属性でしてるって?

ねえ、それって『ここで私が魔法を使ってますよ』ってアピールしてるようなものじゃないの?

「そうなんです」って、分かってて使うのってどうなのよ。

気付かれないような工夫しないの?


トゥーンさんと一般的な索敵魔法の発動法を話してみると、なんか魔力の解釈が私と違う?

あと、魔力の使い方や魔法に対する認識の違いとか、多分魔力操作の能力とかも関係してる?

そう思っていると、気が済んだニール達が眼をキラキラさせて会話に割り込んできた。


「あのレミー様、無属性で発動すると何故気付かれにくいんでしょうか?」

「魔法が体に触れても、風に撫でられたようにしか感じませんわ」

「あ~……多分、属性が混ざってないから識別しにくいんじゃないかな。……トゥーンさんと話してて思ったんだけど……私と皆の『魔力に対する考え方』というか、『捉え方』の認識が違うみたい」

「どう違うのでしょうか?」


あ、スーさんとニールの眼がギラギラし出した。

これ、しゃべるまで話してもらえないパターンだわ……。


「身体に溜めている魔力って、そもそも何属性なの?」

「「適応属性です(わ)」」

「トゥーンさんもそう思っていますか?」

「え……それが当たり前なのでは?」


不思議そうに答えるトゥーンさん。

確かに、世間一般では『習得・行使しやすい魔法は、体内魔力の属性からきている』という事が周知されている。

でもね。


「じゃあ……なんで無属性魔法は皆使えるの?」

「魔力から属性を抜くからですわ」

「なら、練習して属性が増やせるのはなんで?」

「……誰しも得意属性の他に適応属性を持っているからですわ」

「うん。その適応属性なんだけど、無属性は全員あるよね?」

「はい」

「なんで?」

「「「???」」」


質問の意味が分からなかったようで、3人が困惑した表情になった。


「適応属性という事は、『不適応の人が必ず居る』はずよね? なのに、何で全員無属性を持っているの?」


そう言うと、眉間に皺を寄せて思案し出した。


「えっとね、体内魔力が適応属性という事は、魔力総量に対して各属性の割合が得意順になっているのかな? と思ったの。でもそれだと、得意属性で魔法を使っても、他の属性の魔力が残ってるはずだから『魔力が尽きる』のはおかしい。なら、得意属性で染めてるのかな? って考えたけど、相反する属性って同時発動は出来ても属性の混合は出来ないでしょ? だからスーが言ったみたいに属性を抜いてから別の属性に染め直してる事も考えたけど、そもそも魔法発動の時に『属性を抜いて染め直す』なんて事を考えながらしないもの」

「……そう言われると……」

「……そうですわね……」

「だから私はね、全員が持っている無属性が体内魔力で、魔法発動の時に適応属性で染めてるんじゃないかと考えてるの」

「「なるほど……」」


真剣な顔で話を聞く2人。

フィアルや家族にはこの話をした事があるけど、ニール達にはした事がなかったっけ?


「確かに、適応属性が増えても魔力総量は変わらないですね……」

「魔法発動は属性を思い浮かべて詠唱しますわね……」


ブツブツと呟きながら考えに耽る2人は、己の世界に入り込んで最早私の事が見えてないみたい。

この状態をどうにかしようとしても無駄だろうし、ホントどうしよう……。


まあ、『これが常識です』と教えられた事に疑問を抱いて、一般的ではない考え方に至った私がおかしいのかもしれないけど、私にとってはこれが真実だし。

そもそも、適応属性とか努力すれば増える属性とか、とにかくややこしい。


あ~もう、この話は早く終わらせたい!

2人が戻って来るのを待つしかないのかなぁ……。

ちょっと憂鬱になって、ふいっと視線を動かした時に難しい顔をしたトゥーンさんに気付いた。

しまった! トゥーンさんが居るの、忘れてた!


「……これはお聴きしてもよろしかった内容でしょうか?」


「え~と……判断してくれるニールが……」


無属性のままの魔力を放出しながらブツブツ呟いているニールに目を向ければ、トゥーンさんも釣られてニールに顔を向ける。


「……話しかけられそうにもないですね。……この話はパーティーメンバーにも教えたいのですが、広めてはいけない話でしたら忘れる事にします……」


肩を落とす姿が可哀想そうだけれど、私じゃ判断出来ないしなぁ……。

私の名前を出さなければ、別に話してもいいと思うけど……。



暫くの間どんよりとした空気の中二人とも無言で佇んでいたけど、耐えられない!


「ちょ、ニールもスーも戻ってきて!」


揺さぶれば、イイ笑顔で「失礼しました」と何事も無かったかのように振る舞う2人。

……この辺りは良く似てるよね、この2人。


我に返ったニールと相談したトゥーンさんは、私から聞いた話だと漏らさない事を条件にパーティーメンバーにのみ話してもいいと言われたらしく、目に見えて雰囲気が明るくなった。

その後は、ハキハキと見張り番の時間や注意点をさらっと説明すると、背中をウキウキさせながらパーティーメンバーが居る方へ去って行った。


「……ねぇ、時間っていつから開始時間なの?」


口を挟む暇もないくらいの速さで去って行ったトゥーンさんの背中に、私の声は届いていないだろう。

茫然とする私に、スーさんが苦笑いしながら大体の時間を教えてくれて、隣に座ってニコニコし始めた。


あ。……嫌な予感……。


その後、スーさんにしっかりと手を握られ、見張り番の間中魔法の事について根掘り葉掘り訊かれて、寝袋に入った瞬間に寝落ちしたのは言うまでもない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 現代知識チートマニュアルのまとめにありましたが、やはり科学的な考え方が一番の知識チートですよねえ。
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