28 出発1日目 ~お勉強 その7~
「あの、解体教えて下さい!」
魔物を狩って来ても捌けなきゃ食べられないもんね。
今の内に練習しとかなきゃ。
鼻息荒くお願いすると、アラスさんとバーデンさんには目を丸くされた。
その後ジョンに、コソコソと「レミー様にやらせても大丈夫なのか?」「気持ち悪くなっちまうんじゃねぇか?」と話しかけていたのが丸聞こえなんですが。
ジョンが苦笑いしながら視線を寄越してきたので頷くと、私も解体をさせてもらえる事になりました。
解体はちょっとグロかったけど、思ったよりも平気だった!
本で解体の仕方は読んだけど、実地ですると色々難しい事もあって大変勉強になりました。
ブヨブヨしてて毛皮が剥ぎにくかったし、骨が固くて上手く切れなかったし。
でも、これもちゃんと食事をするためと気合を入れて捌き方を覚えました。
……素材達がちょっとボロボロになっちゃったけど、そこは許しておくれ……。
「まあ、これくらいなら食べる分にはいいんじゃねえかと……」
「そ、そうですよ。慣れてきたらもっと上手にできるようになりますから」
シュンと肩を落としていると、苦笑いをしてアラスさんとバーデンさんから慰めの言葉を頂きました。
うん、しょうがないよね。
毛皮や角などの換金可能な素材は、倒した人の物になるのが常識で、ホーンラビットの毛皮と角、魔石はアラスさんに渡された。
羽根を毟られていたガリーニコッコは魔石だけをジョンに。
聞けば、依頼遂行中に倒したモノの素材は皆で手分けをして持ち運び、依頼終了時に欲しい物は残して後は換金するとの事。
「一般的に倒した人が倒した魔物の所有権を持ちます。なので、大抵倒した人が優先的にその魔物の素材を貰えるようになっていますが、誰がどの魔物を倒したなど分からない事もありますので、基本的に欲しい素材はパーティー内で相談する感じになります」
「へぇ~。でも完全に一人で倒したのならいいけど、2人とか3人で協力して倒した場合はどうするの?」
「それが同じパーティーの者であれば相談ですね。大体が、一番攻撃を与えた者や致命傷を与えた者などの一番功績を上げた者が優先されます。なので、もしパーティーを組むなら、素材の所有権や報酬の取り分などは事前にきちんと話し合っておかなければ、後々もめる原因になりますので気を付けて下さい。今回のように、複数のパーティーで行動する場合も、事前に相談するのが一般的です」
「ふ~ん」
「今回は、なるべく所属パーティーメンバーで行動してもめ事を無くすようにしていますが、例えばイェネオミナスの方が2人、俺が1人の混合で魔物を倒した場合、人数の多いイェネオミナスの2人が主軸に戦って、俺はサポートに回ります。そうやってイェネオミナスの2人に倒した魔物の所有権がいくようにしています」
「え、でもジョンが一人で倒した時は?」
「その時は、俺のモノになります」
倒した魔物が誰のモノになるのか首を傾げていたら、ジョンが詳しく教えてくれた。
色々と深い所まで話してくれたけど、要は『倒した人のモノ』って事よね。
うん、分かった。
食べられなかったり換金できなかったりする内臓やゴミは、匂いで魔物を呼び寄せないように穴に埋め、これで解体は終了。
それぞれが解体で得た素材を持ってテントに戻れば、ウチの臣下達が竃の周りに座っていた。
「皆、何してるの?」
一番近くにいたミアンに尋ねながら、キョロキョロと辺りを見る。
トゥーンさんとベーマーさんはどこ行ったんだろう?
「あ、レミー様お疲れ様です。私達はレミー様の護衛で残っていますが、イェネオミナスの方は討伐と採取に行かれましたよ」
「「えっ? 俺(私)達置いて行かれたんですか?」」
にこやかに答えてくれたミアンの言葉に、バーデンさんとアラスさんが唖然として周囲を見渡し始めた。
あちゃ~、解体が遅かったからかなぁ……。
なんか、ごめん。
「あら? お2人も行かれて構いませんよ?」
竃の前でキノコに何かしていたスーさんが声を掛けてくると、バーデンさんとアラスさんは「すみませんが、俺(私)達も行ってきます」とコラスティ丘陵地の方へ走って行った。
それを見送っていると、スーさんが解体をしていた間の事を話してくれた。
火の番は、私の訓練を主軸に考えていたのですぐに決まったみたい。
そしたらやることが無くなったので、お互いの希望を話すと、イェネオミナスの2人が採取をしたいと。
それならば、護衛はニール達するので存分にしてきてくれと送り出したそうだ。
「そっか。で、皆は何をして過ごすの?」
「私はキノコを選別しています。食べられる物はあちらに置いていますので、夕食の時に使ってもらって構いませんよ」
え? じゃあ、今餞別してるキノコは何?
スーさんの手元のキノコを見てみると、紫色や赤色、青色、グロテスクな形、可愛らしい小さなモノ、といった色んなキノコが。
これ、何に使うキノコだったけ?
……あ、これアカンやつだわ……。
引きつった顔でスーさんを見ると、ニッコ~と意味深な笑みを返された。
ええ、尋ねませんとも!
泡を吹いて倒れるヤツとか、痙攣起こすヤツとか、吐血するヤツとか、どうするつもりなのかなんて訊きませんよ!
そっと目を逸らしてニールが居る方へ離れました。
スーさん……手袋してたのはそういう事だったのね……。
さて、エドワードとアルバートとニールが武器をメンテナンスしながらお喋りしている所へササササっときました。
何かこう、生温い目で見られてる感じがするんだけど……。
「ああ、レミー様お疲れ様です。今はスーの近くに居る事はお勧めしません」
それ、早く言ってよ~!
「スーは調合とかしてなかったですか?」
「あれ、マジヤバいですよね。ってか、匂いでヤられるヤツとかなかったですか?」
苦笑いして尋ねてくるエドワードとは違って、アルバートは引きつった顔をしていた。
うん、アルバート、その気持ち分かるよ。
「大丈夫。調合とかしてなかっ……たけど、何個か火にくべてたわ……」
「ちょ! それ大丈夫じゃないんじゃ!」
「……レミー様もいらっしゃいますので、恐らく大丈夫です」
「……そうだな」
真っ青になるアルバートをニールとエドワードが宥め……宥めてるの?
むしろ不安を煽ってるようにしか見えないんだけど。
「……うん、匂いで体に害がある物じゃなかったし、むしろ火にくべてくれて私は安心したわ」
「え……っと、何か聞いてもいいですか?」
「……知りたいの? 本当に知りたい?」
真顔でアルバートに言うと、首を横にブンブン振って「いいいいい、いいです!」と後ずさった。
そのコミカルな姿に、プッと笑いがこぼれた。
「ちょ、レミー様冗談ですか?」
「ううん。マジで聞かない方が身のためだと思うわ」
顔色を悪くしながら一瞬ホッとしたようだけど、アルバート甘いわよ。
「聞きたいなら教えるけど?」
スーさんが燃やしてたのは、腐敗させる作用のあるキノコだったんだよ。
しかも、筋肉とか脂肪とか動物にしか作用しない危険なヤツ。
前世の記憶に『熟成肉』があるけど、あんな生易しいものじゃない。
他の薬草とかと調合しないと効果が出ないのが唯一の救いなのよね。
じゃなきゃ、採取した次の日から指が腐っていくし。
真面目な顔をしてアルバートと視線を合わせると、アルバートの顔色が一瞬白くなり口元がヒクヒクと痙攣していた。
そして、表情をストンとなくすと、
「すみません。教えなくていいです」
と言って、私の側から離れた所で、手に持っていた剣を一心不乱に磨き出した。




