26 出発1日目 ~お勉強 その5~
心配そうな表情―――でいいんだよね?―――の領兵さん達に見守られながら、私が乗っていた馬車とミアン達が乗っていた馬車、エドワードとアルバートが騎乗していた馬を厩舎で預かってもらった。
結構な広さの空き地といった感じだったけど。
その時に割札を渡された。
「預かり札はあくまでも目安です。もし何か非常事態が起こった場合は、他人でもこの札と馬車の所有者の名前を言えたら馬車を貸し出す事が出来ますので」
……馬車を貸し出すってどういう事?
首を捻っていると、ニールが詳しく教えてくれた。
曰く、『アイテムボックスに入りきらなかった素材の回収のために、他所のパーティーにお手伝いをお願いする事がある』って。
なるほど。そんな事もあるんだね。
「レミー様の魔法鞄のような大きな容量の鞄は一般的に出回っていませんし、アイテムボックスの容量も個人差がありますから、定期的にこの村に帰還するのが普通です。しかし、魔物の群れに出くわしたり、薬草の群集地を見つけたりすることもありますからね」
確かにそういう事も……あるのか?
う~んと唸っていると、割札を渡してくれた領兵さんが苦笑いをしながら口を開いた。
「レミーナ様、魔の森では魔物や植物の大きさが通常よりも大きくなっているのです」
「……そうだったわね……」
いや、うん、ごめん忘れてた。
恐らく、魔素が濃いから魔物や植物が沢山体内に取り込んで巨大化しているんじゃないかって言われてるんだった。
「まあ、トラブルになり兼ねませんから馬車の貸し出しはほとんど行われる事はないですが、時折……年に数回でしょうか、たまにありますのでご説明しました」
「そうなの。ありがとう」
巨大化を忘れていた事をごまかすように、澄ました顔でニコリとすれば、生温い視線が背中に突き刺さる。
……見ない振りしてよ~!
馬車を預け終わったので、イェネオミナスの皆を待ちつつ領兵さんにこの辺りに生息している魔物を教えて貰ったり、入森手続きについて尋ねたりして時間を潰した。
この辺りで生息している魔物は、小型から大型かぁ……。
しかも街周辺よりも1.5倍の強さと大きさになっているみたいだから、十分警戒しなくちゃね。
林の奥や街道から離れた場所は大型が多い、と。ええ、行きませんよ。
入森手続きは、パーティー人数、個人名、滞在予定期間の確認と注意事項の確認ね。
詳しい話は、またその時にお願いします。
今言われても、忘れてしまうかもしれないし。
領兵さんとニールに色々と教えて貰って満足していると、買い物を終わらせたイェネオミナスの皆が戻ってきた。
「お待たせしてすみませんでした」
トゥーンさんが一人前に出て頭を下げてきたので、気にしていない旨を伝え、頭を上げてもらった。
そこへ、スーさんが「では行きましょうか?」と移動を促すが、イェネオミナスの皆の視線が私へ集まっている。
えっと、何?
「……あの、レミー様はウエストポーチしか持っていませんが、荷物は大丈夫なのですか?」
バーデンさんが心配そうな顔をして見つめて来た。
亜空間倉庫は内緒にしとくとしても、確かに荷物が少ないよね。
スーさんやニールを窺うと、ニコリとしたので情報解禁。
「ん~と……最近、新作の魔法鞄が出回っているのご存知ですか?」
「っ!! もしかしてっ?!」
「はい。このウエストポーチ、新作の魔法鞄です。見た目よりも容量が大きいので、荷物はしっかり用意してこの中に入れていますのでご心配は要りませんよ」
「そ、そうですか。これが新作の魔法鞄……。すごいですね! 容量が大きいといっても、全部の荷物が入るなんて! しかも、新作って時間停止しているんですよね! すごいです! その魔法鞄はどちらで買われ」
「オイオイ、バーデン、そこら辺にしとけよ。姫さんが驚いてるじゃないか。まったく……人の持ちもんに興味が湧くのは分かるが、限度ってもんがあるだろうが」
「だからちゃんとお伺いしてるじゃないか」
「オマエのは、お伺いじゃなくて迫ってるんだよ」
「何だって?」
バーデンさんとアラスさんが口喧嘩を始めてしまい、どうしようとオロオロしていると、トゥーンさんがバーデンさんの頭に拳を振り下ろした。
「痛っ! なんで私だけ殴られるんだよ」
「装備やスキルの情報を漏らしたくない者も居る。ましてや、レミー様は辺境伯家のご令嬢だ。身を守るためにそこら辺の情報は隠すべきだ。レミー様がご自分から言ってくるならともかく、護衛の俺達が根掘り葉掘り聞くものじゃない」
両手で頭を押さえて蹲まっていたバーデンさんが、バツの悪そうな顔をして何やらブツブツと言っていたが、最後には「申し訳ありません」と謝って来てその場は収まった。
……謝るまでニール達の眼が笑っていなかったので、バーデンさんは謝って正解だと思う。
「えっと、どこに行くのか訊いてもいい?」
村を出て街道を戻ってコラスティ丘陵地の麓の方面に歩き出した皆について行ってるけど、そういえば行先知らないんだよね。
「今日の野営場所は池か沼の近くにしようと思っています」
あれ? はっきりとは決めてないんだ?
どうしてなのか尋ねても、ニコリと笑みだけを返されたので、着いてからのお楽しみなのだろうと思ってそれ以上訊くのは止めておいた。
代わりに、魔物が寄ってこないかキョロキョロと周囲を見渡して警戒しておいた。




