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オルコと類友側近~その裏で~2

 ロンバルディ公爵からの書状で、『出来るだけ早く会って話がしたい』という向こうの焦りを感じたオルコは、その焦りの原因を探らせることにした。


 もちろん、キャシーの行いに対しての謝罪や賠償が一番の目的であることは分かっているが、その裏に隠れている目的―――例えば『マルナ領との関係悪化の防止』―――があるのが普通だ。

 また、謝罪や賠償が済んでしまえば、違う話題を持ちかけられる可能性もある。


 そのあたりの情報を出来るだけ多く想定しておこうと、オルコはヤミツとミヤツを呼んだのだ。


 オルコの側近であるヤミツとミヤツは、当主ファルガの弟であるハキルとその妻フィアルの子で、双子の兄弟。オルコにとっては、従兄弟である。

 だが、オルコの側にはいつもヤミツしか侍っていない。


「「オルコ様」」

「ヤミツ」

「ミヤツ」

「「参りました」」


 声も姿もほぼ一緒で、どちらがヤミツでどちらがミヤツなのか見分けがつかない程似ている双子。

 お辞儀の角度まで一緒である。


「ああ、すまないが、ちょっと頼まれてくれないか?」


「いいですよ」


「ロンバルディ公爵の事ですか?」


 軽い感じで返事をする姿に、オルコは苦笑いをしながら席を勧めて、2人をソファーに座らせた。


「2人とも用件は察しているようだが、何故焦って面会しようとするのか裏を取ってくれないか?」


「公爵家の経済状況や派閥関係、仕事関係からでいいですか?」


「ああ」


「……え~と……あ、公爵様は今イラドに滞在してますよ」


 オルコの命令に、即座に具体的指示を仰ごうとするヤミツと、【アイテムボックス】から何かを探しているミヤツ。

 そう、この双子、姿や声はそっくりだが、雰囲気と行動に違いがあるのだ。

 カッチリと真面目そうな行動をするのがヤミツ。

 おっとりと抜けていそうな行動をするのがミヤツ。


 その実、サッパリした性格なのがヤミツで、裏の顔が激しく違うのがミヤツであり、しかも、お互いを最もよく知っている2人は、たまに『入れ替わり』をして楽しむ悪癖を持っていた。

 その2人のボスであり、上手く使っているオルコも、……まあ、言わずもがなである。


「そうか。それと、あの令嬢の事も調べ」


「あ、あった」


「「……」」


 ニコニコと手にした紙を見せびらかすようにオルコ達に見せるミヤツ。


「オルコ様、今の所分かっている情報がコレです。ブリックに訊けば、ヤミツが言っていた情報もすぐに分かりますよ?」


「あれ? そうだったか?」


「もう! ヤミツは集めた情報をなんで纏めないんだよ!」


「すまん……」


 ニコニコしながら怒るミヤツに、ハッキリ言って迫力は無い。

 が、ヤミツは青い顔をして丁寧に頭を下げた。

 そこに、2人の力関係が垣間見える。


「ヤミツだからいいけどさ。忘れずに情報だけは、ちゃんと渡してよ?」


「それはキチンとしてる」


「ん」


 すまなそうなヤミツと満足そうなミヤツのやり取りを、いつもの事だと微笑ましくオルコは眺めていた。


 ヤミツもミヤツもオルコの側近であるが、ミヤツの存在を知っているのはごく一部しか居ない。所謂『暗部』に属しているからだ。

 これは、『ヤミツ』を『2人』で演じる事で、諜報活動をよりやり易くしているのだ。

 アリバイ工作をする時に、見た目そっくりな双子である事は大変便利なのだ。

 1人が『補佐』としてオルコの側に侍り、主にオルコの護衛や領兵の監視、来客の監視などをしている間、もう一人は陰で主に商会関係の情報収集、市街や他国の情勢などを調べている。


 しかもこの2人、たまに入れ替わって、お互いの行動や印象を似せるという努力をするため、無駄に似過ぎているのだ。

 親であるハキルとフィアルも、子供が『双子』であると訂正しないため、ごく一部以外はヤミツが双子であると知らないという、完璧な布陣である。


「あ、オルコ様、すみませんでした」


「いや、いいよ」


「僕の持って来た情報は、ブリックが持っている情報とは違う点を主に書き出していますので、不明な点がありましたらおっしゃってください」


「わかった。ここ数日ミヤツを見かけなかったのは、コレのためだったのか?」


「はい。レミー様に怪我を負わせたバカはしっかりと〆ておかないと危険ですからね」


 笑顔で冷気を漂わせるミヤツに、ヤミツもうんうんと頷いた。

 オルコの側近達は皆、レミーナを可愛がっている。

 その中でも、ミヤツはオルコに負けないぐらいレミーナを溺愛している。

 それを知っているオルコはミヤツの内心を思い、『まあそうだな』と心の中で同意した。

 そして、レミーナの話題は火に油を注ぐと判断し、渡された紙を見ながら口を開いた。


「気になる情報はあったか?」


「バカっぷりが素晴らしい事くらいでしょうか」


 サラッと毒を吐くミヤツに、一瞬動きが止まるオルコ。


「そ、そうか」


「はい。ご両親もご兄弟もしっかりとされているのに、一人だけバカです。ですので、周囲にはバカしか集まらない、廃棄場ですね。ご兄弟とは仲が悪く、母親を見下しているようですが、ご当主が少し甘いようで、我が儘になったバカですね」


「「……」」


「周囲の評判は『身分は優』『顔は良』『中身は下』、総評『下の上』ですね」


 辛辣な評価を淡々しゃべるミヤツから、『目が合ったら石化する』と思わせるオーラが漂い、オルコとヤミツはミヤツと視線が合わないように逸らした。


「ちなみに、評価単位は『優』『良』『上』『中』『下』の5段階で、更に『上中下』の3段階になっていますので、15段階中の下から3番目です」


 かなりの低評価である。

 その理由に、『身分が高いくせに利用されやすく、しかも責任が取れないバカで、害悪でしかない』と述べるミヤツに、オルコも反論は無い。

 むしろ、高めに見積もった評価ではないかと感じていた。


 が、言葉を発して変に刺激を与えないようにオルコは耳だけ傾け、目は書類に向けていた。

 その間も、ミヤツは「家族がまともなのでこの評価だ」と話しているが、オルコは聞き流して書類を読んでいく。

 内容は、『ラハト帝国でのロンバルディ公爵家の評判』や『学習院でのキャシーの評判』、『黒い噂』などであったが、貴族としては予想範囲内のモノばかりで特に気にする必要はなさそうであった。


「オルコ様、俺の考えでは、ご当主ゴディス様はラハト帝国の国軍団長をされているので、いくら娘のためとはいえ、無処罰を願われる事は無いと思います」


 なぜ書状の内容を知っているのか、オルコは尋ねない。

 ダーンが話したに違いないからだ。


「そうですね。僕もそう思います。ロンバルディ家は腐っても公爵家。下に示しがつきませんし、何よりバカのご兄弟が処罰を望むかもしれません」


「兄弟が? ……確かに仲が悪いとは書いてあるが……」


「複数の証言ではなかった事とラハト帝国内で確認が取れていないので記載しておりませんが、今年結婚した嫡男の奥方にバカが嫌がらせをしたらしく、嫡男とバカの仲は決裂状態になっているそうなのです。奥方は『つわりが酷い』という理由で、現在ご実家で療養中と確認が取れていますが、さすがに症状の確認までは出来ていません。しかし、妊婦を移動させるほど『奥方やお腹の子の安全が公爵家で保障出来ない』、もしくは『危険と感じるような出来事があった』と考えますと、バカの嫌がらせに信憑性が増します。元々仲の良くなかった嫡男とバカですが、奥方への嫌がらせが嫡男の逆鱗に触れたって感じでしょうか」


 嘲りを含んだ口調で説明するミヤツを一瞥すると、オルコはミヤツに確認するように視線を移した。

 ミヤツが頷いた所で、オルコは呆れたように溜息を吐き、ロンバルディ公爵をどう攻略しようかと頭を悩ませたのだった。


 考え込むオルコを目の前にして、さもありなんとミヤツとヤミツも考え込む。

 そして、ミヤツが「ブリックの情報もあったほうがいいでしょう」と、ヤミツにお使いを頼み、公爵家の経済状況や派閥関係、仕事関係の情報も持ち寄って、3人で様々な角度から分析を試みる。


 が、公爵家とマルナ領が直接関係するものは魔物討伐以外無く、今回の来訪目的は『娘の救済』と『関係悪化の防止』2点が濃厚ではないかと至った。

 次点で、『親戚関係の構築』。

 それ以外では、『領政の調査』『領兵教育の調査』など、現在のマルナ領を知るためという事しか挙がらなかった。


『娘の救済』は、『謝罪』と『処罰軽減願い』で交渉してくるだろうし、『関係悪化の防止』は『謝罪』と『賠償』で達成される。

『賠償』は、『関税の引き下げ』『交易品の優先権』など、マルナ領が一方的に得をする事を提案してくるに違いない。

『親戚関係の構築』は、面会中に『親戚の娘の推薦』をしてくるかもしれない。

 まあ、さすがにキャシーを薦めてくることはないだろうが。

 後は、『提携事業の提案』や『見習い騎士の派遣』などの提案だろう。


 ただ、『この武人らしい武人である公爵が、謝罪すべき場で関係のない話題を出すか?』という疑問もあり、対策は主に『賠償』についてが話し合われた。




 その日の夜、ベッドの上で明日の会議の書類を斜め読みしていたオルコの元へ、着信があった。


「なんだ?」


 右手の中指に嵌まっている指輪に話しかける。

 これは、レミーナが改良を重ねて製作した、指輪型の通話機だった。


「遅くにすみません。ミヤツです。確定ではないですが、お耳に入れておいた方が良い情報が上がりました」


「どんな事だ?」


「バカの取り巻きに、ピフェール商会の関係者がいました」


 ピフェール商会はラハト帝国の帝都ラートに本店を持ち、大国や中国の王都や副都市に支店を出している、貴族向けの魔導具を主に扱う商会である。

 商品は、最新魔導具やオーダーメイド魔導具を主力としていて、各国の高位貴族と繋がりがあり、財力の高い商会として知られている。


 しかし一方で、貴族に口利きをしてもらうために多額の賄賂をしているという、噂もある。

 以前、ゴアナ国の王都ゴーナに支店を出した時にも、その噂が一時流れたことがあった。

 そのピフェール商会の関係者とキャシーに繋がりがあるとなれば、後ろ暗い繋がりを想像してしまうのは仕方ない事だろう。


「それが?」


「魔法鞄や結界石の特許登録の件で横槍を入れて来ていたのが、どうやらその商会のようです。……しかも以前から、伝手を使ってルーナ商会の開発担当者の事を探っていたみたいですね。バカの取り巻きになったのがつい最近ですので、バカを通してルーナ商会に何かしてくる可能性もあるかと……」


「……そうか。分かった」


 オルコは通話を切り、瞳に物騒な色を灯して残りの書類に目を通していった。




 そして、この二日後―――ロンバルディ公爵と面会する2日前―――に、オルコはレミーナを野営訓練に放り出した。





読んで下さりありがとうございます。

何度も体調不良により更新停滞させているポンコツ作者で申し訳ありませんm(_ _)m

ただ今、『オルコと公爵の面会時』を執筆中で、レミーナの続きの方もポチポチ書いています。

書き上がりましたら更新いたしますので、気長にお待ち頂けるとお有り難いですm(_ _)m


また、コミックのお知らせを活動報告に乗せておりますので、宜しかったらのぞいてみて下さい。


年末年始でバタバタされると思いますが、皆様、良いお年を(*^^*)


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