コミック発売記念SS
初めての日向ぼっこ―――1歳―――
ぼんやりした日々を過ごしながら、ベビーベッドの上で前世の記憶と格闘し、今世の事を目と耳でひたすら情報収集していたある日。
「レミー♪ そろそろ一人で歩けるようになったから、お庭を散歩しましょうか?」
にこにこしながらお母様に言われた。
この頃、私は体力もついてフラフラしながら一人で歩けるようになった。
ハイハイの時は決まった部屋にしか連れて行ってもらえなかったが、立てるようになってからは邸宅の中を散歩していた。
そろそろ邸宅の中も飽きていたので、ぜひとも行きたい!
「きゃ~う~!!」
腕をバタバタさせて行きたいアピールをすれば、お母様が、
「ふふふふ♪ じゃあ、初めてのお外だから、お父様とオルコも一緒にね♪」
と言いながら、私を抱っこした。
お外に行ける! とルンルンで、つい、歌っちゃいました。
「おしゃん~お~おしゃん~お、うえい~ま~♪(お散歩お散歩嬉しいな)」
「まあ! お歌が上手ね!」
音は外れてるし、言葉もはっきり発音出来てないけど、そんなの関係ない!
初めて外に出られるんだもん!
ご機嫌な私の様子にお母様も嬉しそうだし、いいよね。
そんな感じで、歌を歌いながらお母様に抱っこされて初めて外に出ました。
「あ~う? ま~ま?」
玄関からではなく、豪華な家具が置いてある部屋の掃き出し窓から出た庭は、芝生と花畑でした。
通り道や休憩スペース? は芝生で、それ以外はたんぽぽくらいの高さの色とりどりの小花。
あれ~? バラとかガーベラとかじゃないの?
「レミー、綺麗でしょ? お花がいっぱいよ。ここのお花はね、お薬になる良いお花なのよ♪」
(―――って、おい! 薬草じゃね?!)
あんぐりとしてお母様を見るが、花をキラキラした眼で見ててこっち見てない!
「あら? どうしたの? 綺麗で言葉が出ないのかしら?」
「……ちれいちれい(綺麗綺麗)」
楽しそうなお母様に水を差すのもアレなので、貼り付けた笑顔で手を叩いておきました。
「ふふふ。じゃあ、お父様とオルコが来るまでお散歩しましょうね」
そっと降ろしてくれ、地に足を付けたはいいが、ふわふわしてバランスがとりにくい。
……これ、すぐこけるんじゃないかな。
そっとお母様を見上げると、ニコニコしながら、
「いってらっしゃい。お母様はここに居るから、好きな所へ行っていいのよ」
と言われたので、
「いちぇらっちゃ(いってらっしゃい)? いちぇちましゅ(いってきます)♪」
上機嫌で駆け出しました。
「おぅ? ふあ?」
頭が重くてフラフラしたけれど、走れることが嬉しい!
が、もちろん芝生に躓いて扱けましたよ。
しかも、小花のうえにスライディングしました。
「ふぇ……」
(―――まずい!! 怒られる!!)
身体をぶつけた痛みより、花を潰した事にオロオロしていると、
「レミー、大丈夫? 泣かなくて偉いわね」
お母様に起こされ、頭を撫でてもらいました。
よかった。怒られなかった。
「ここのお花は少々潰れても大丈夫なのよ。だから気にせずに、遊んでいらっしゃい。……これで薬が増やせるわね」
……最後の小声は聞かなかった事にします。
怒られなかったので、散歩の続きを再開。
駆け出してスライディングのセットを何度もしたけど、お母様はニコニコとそれを見守ってくれ、何も言いませんでした。
もしかして、薬が作りたかったから私をここで散歩させてるとか……。
「レミーどうしたの?」
「!! ん~ん」
あっぶね。母の眼がキランっと光った気がする……。
扱けるたびにお母様が笑顔になるのは、きっと気のせいよ。気のせい。
私は空気が読める子です。
走るのも飽きたので、しゃがんで小さな花を観察してみる。
黄色や白色、桃色、紫色、橙色と色々な花が混在して咲いていた。
これら全てが薬草なら、ここには何種類の薬草があるんだろう?
しかも、薬効ってどんなんだろう?
首をひねって考えてみるが、見た事のない花なので分かるはずもない。
花をツンツンしたり、葉っぱの形を見てみたりして遊んでいたが、ふとお母様を見てみると、いつの間にか用意されていたテーブルセットで優雅にお茶を飲んでいた。
「ま~ま~!」
私も喉が渇いたので、お母様の所に戻って飲み物を貰おうとダッシュしようとして、思いっきりバランスを崩しました。
(―――あ、これ、顔ぶつける)
目を瞑って、衝撃に耐えようと身体に力を入れていると、ふわっと浮遊感に襲われた。
「レミー、危ないから走っちゃだめだよ?」
兄が抱っこしてくれて、地面とキッスは免れました。
「い~い(にーに)!」
ありがとうの気持ちを込めて、満面の笑みで兄を呼ぶと、デレっと顔が崩れた。
かっこ可愛い兄なのに、名前を呼ぶと何だか残念な顔になるのよね……。
そして始まる、褒め殺し。
「レミーはあんよが上手になったね。扱けても泣かない強い子で、お花にも優しく出来るいい子だね」
いや、めっちゃ潰しましたけど?
「でもね? 怪我をするかもしれないから、走るのはもう少しあんよが上手になってからね?」
そう言って、テーブルの方へ抱き上げたまま連れて行ってくれました。
「母上、レミーが走るのを何故止めないのですか?」
「キラキラした可愛い笑顔で走り出すんですもの。止められないわ」
「……それは止められないですね」
「しかも、扱けるとちょっと涙目になって可愛いのよ!」
「確かに! 花と母上を交互に見てシュンとなってて可愛かったです!」
(―――!!! 兄はいつから見てたんだ?!)
「ね? レミーのしたいようにさせた方が可愛いレミーが見られるから、お母様は見守っていたのよ」
「そうなのですね! さすがです!」
うん。聞こえないふりをしよう。
メイドさんが出してくれた飲み物と食べ物に集中しましょう。
うまうま~。
よし、お母様と兄は話が弾んでいるので、また散歩に行きましょう。
「まま、いちぇちぇましゅ!」
兄に止められない内に、もう一度芝生の上を歩きましょう。
今度は庭を良く見渡してみた。
ここの庭は中庭になっているようで、3方向が建物に囲まれ、残りは木と生垣で遮られていた。
この生垣の向こうはどうなっているんだろう?
興味が引かれて生垣に近づいてみたら、可愛い赤い実が生っていた。
これも、薬になるのかな?
キョロキョロと左右を見てみると、緑や紫、白の実も生っていた。
色んな色の実が楽しくて、生垣に沿って歩いていたら、葉っぱも実もない箇所を見つけた。
枝はあるものの、向こうが透けて見える。
ちょっと顔を突っ込んでみたら、何やら木製の平屋が見えた。
あれ何だろう?
ぐっと前のめりになると、多少顔に葉っぱや小枝が引っかかったが、生垣から顔が抜けてしまった。
そのまま歩いてみると……生垣を通り抜けられました!
よし! 平屋に何があるか確かめてから戻ってもいいよね?
壁板をぐるっと回ってみたら、お馬さんが居ました。
「ぶるるるる」
「いえっ(ひえっ)! っだ!!」
驚いた拍子に尻餅をつき、じりじりと後ずさる。
馬のデカさと嘶きに驚いていると、合唱するように他の馬も嘶きだした。
これはマズイと、立ち上がり生垣に戻ろうと振り向いた瞬間。
「レミー! お父様を迎えに来てくれたのか?」
お父様が手を広げ、土煙を上げながら突進してきました。
「いあ、ちあうよ(いや、違うよ)。れも、しょ~う~ころにちちょいちぇ(でも、そういう事にしといて)」
引きつった顔で呟いたけど、きっとお父様には聞こえてないだろう。
ってか、あの勢いでぶつかられたら、私どっかに飛んでいきそうなんだけど?
逃げるのは諦めて、死んだ目をしてお父様を見ていると、ヒョイッと抱き上げられたと思ったら、そのままぐるぐると回された。
突進の勢いは回転に変換されたようで、高速回転。
「ぶえぇぇぇぇ……」
さっき食べた物をリバース。
「お? おわわわわわ! だっ大丈夫か、レミー!!」
ワタワタと慌てるお父様の相手をする余裕はねえ。
「すっすまん!! どっどうすれば……」
ゆらゆらと振動が伝わってくる感覚で、お父様が走っているのが分かったが、あまりの気持ち悪さに私はブラックアウトした。
私の初めてのお散歩は、お父様が説教されて終わった。
読んで下さりありがとうございますm(_ _)m
番外編で申し訳ないですが、本日コミックが発売になるのでお礼を兼ねて更新いたしました。
本編の方は準備中ですので、もう少しお待ち頂ければと思います。
コミックの詳しい情報は活動報告に乗せておりますのでそちらをご覧ください。




