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オルコと類友側近~その裏で~

―――――遡る事、数日前。



「オルコ様、ラハト帝国のロンバルディ公爵様より書状がきております」


「……この前の令嬢の件だろうね。……ふぅ……」


「恐らく」


執務室でいつものように事務処理をしていたオルコの元へ、ダーンがやって来た。

部屋へ入るなり、印章が捺印された赤蝋でしっかりと封がされたものが、ダーンからオルコへと手渡される。


あの押しかけ令嬢―――キャシー・ロンバルディ―――は、領兵に連行されてイラルド国のイラド―――第2都市とも言われ、魔の森からイラルド国を守る『守護都市』―――へ身柄を移された。

本来なら、マルナ領に拘束してロンバルディ公爵に迎えに来てもらうのだが、侍女が側に付いておらず護衛もどきを2人しか連れていなかったので、キャシーがロンバルディ公爵息女だと主張してもオルコ等は疑っていたのだ。


ただ、服装や持ち物が確かに高級品であり、言葉遣いや所作も貴族らしかったので、一応ロンバルディ公爵令嬢として扱ったのだが……キャシーのあまりの行動にブチ切れた。

このまま拘束して生活費を領費で賄うのも馬鹿らしいので、勘違い令嬢を野放しにした監督役の所へ送り返す事にしたのだ。

まあ、護衛もどきから元々の滞在場所を訊き出し、勘違い令嬢が『イルド武術魔法学習院』の生徒である事が判明したので、キャシーの扱いをまるっとイラルド国に丸投げしたとも言う。


その間に、オルコはゴアナ国へ赴いていた父ファルガに連絡を取り、モンスタービート会議出席国代表の方々が周りに居る事を承知の上で、キャシーの所業をバラした。

通話機越しにレミーナの怪我を知ったファルガが烈火のごとく怒り、ラハト帝国の代表者に詰め寄ったのは、まあ仕方のない事だろう。

なにせ、溺愛する娘にワザと怪我を負わせ、謝りもしなかったのだから。


ファルガの迫力とモンスタービート会議出席国代表達の冷たい視線にさらされたラハト帝国代表者が、急ぎロンバルディ公爵に連絡を取り、キャシーの仕出かした事を叱ったのは言うまでもない。

こうして、キャシーの迷惑行為&傷害行為は、数日のうちにロンバルディ公爵のみならずモンスタービート条約同盟国の知る所となっていた。


「そう言えば、あの令嬢は謹慎を受けたんだったかな?」


「はい。詳しく申しますと、イラドにて国兵に引き渡し、その後の確認のため我が領兵を3名残して後は引き上げさせました。あの()()()は、イルド武術魔法学習院の生徒だったため、イラドからイルドへと強制連行され、一先ず学習院預かりになりました。ロンバルディ公爵様とご連絡が付くまで謹慎……まあ、部屋に閉じ込められていたようです」


イラルド国営の『イルド武術魔法学習院』は、魔物討伐に重きを置き、武術や魔法、生活術などが実践を通して身に着けられる学校であり、オルコが留学していた学校である。

なので、オルコはどのような校風なのかもよく知っていた。


この学習院は、アマルナ国の魔物討伐術や生活術を基に教育がなされ、モンスタービート対策をガッチリ学べるとあって、モンスタービート条約加盟国や冒険者ギルドから大いなる支持を受けている、人気の学校の一つである。


また、学習院は王都にあるので、文化交流の一環として各国から入学希望者が集まる学校でもある。

イルドはイラルド文化の集約地。

様々な交易品や農産物が集まり、他国の商品も入手しやすい。

しかも、国王の住まう都であるため治安が良く、穏やかなお国柄も相まって、他国出身者でも住みやすいと評判であるので、各国の親貴族達からすると、安心して子息令嬢を送り出せる学校の一つになっている。

その中には、有名貴族の子息令嬢達と人脈を繋ぐ目的の者もいるが、大体はアマルナ国の魔物討伐術を学習しに、貴族や平民関係なく、各国から沢山の入学希望者が集まるのだ。


大体の子供は、学院生活で『魔物の前では身分なんか武器にならない』事を学び、身分の垣根を越えて友情を育み、貴重な人材・人脈を築いていくのだが、一定割合『困ったちゃん』が居たりする。

そう、親の指示で入学してきた―――自分で希望していない所がミソである―――貴族意識の強い子息令嬢。

所謂、親の威光を笠にやりたい放題の者だ。


彼等は、平民との生活に馴染めなかったり、授業で連携が取れず落第したりして、段々と評価が悪くなっていく。

すると、当然本人達から抗議が上がる。

実家にバレれば自分の立場が悪くなるからだ。


そんな親の威光をチラつかせる『困ったちゃん』達に対し、『イルド武術魔法学習院』の教師たちは一つも怯まない。

なぜなら、『国営』という国の後ろ盾と、モンスタービート条約加盟国や冒険者ギルドから大いなる支持があるからだ。

もし成績の改ざんを行えば、学習院の評価や国の威信が下がり、最終的に教師側も処罰されるため、手心を加えようとする教師はまず居ないのだ。

なので、この学習院では、教師に対してはほとんど身分の力は通用しない。


だからこそ、あの無礼で強気なキャシーが、ギャーギャー喚いて自分の正当性を声高にまき散らそうとも、教師達は取り合わず、むしろこれ以上騒動を大きくしないよう部屋に閉じ込めたのだろう。

オルコが納得の表情で頷き……かけて、微妙な表情になる。


「……何か、ダーンのいう御嬢様が変に聞こえるよ?」


「気のせいです」


澄ました顔で答えるダーンに、オルコは不審な目を向ける。


「ここから新しい報告になります。その後すぐご実家から学習院にご当主の代理人の方がいらっしゃり、イラルド国兵・我が領兵・学習院院長で話し合いが行われました。当然ですが、当家の音声レコーダーや写真機の証拠により、()()()の不敬罪及び傷害罪が認められ、処罰が決まるまではご実家で謹慎されると聞き及びました」


「ふ~ん」


「学習院からの書状には『マルナ領主の邸宅に約束を取り付けずに押しかけ、ご息女レミーナ様に怪我をさせた事を重く受け止め、また、各国の子息令嬢への危険も考え、キャシー・ロンバルディを退学とします』とありましたが、未だに退学の手続きが終了していないようなので、恐らくロンバルディ公爵様が止めていらっしゃるかと」


「で、この書状が届いたのか」


オルコは手に持っている書状をピラピラと振り、つまらないものを見るような視線を向けた。


「はい。先ほど。あの()()()に関しては、何か起こらない限り事後報告で良いと言われておりましたので、お伝えするのが遅くなりました」


「いや、それはいいんだけど、コレ読まなきゃダメかな? どうせ、謝罪と処罰軽減願いだよね?」


「オルコ様宛ですので、ちゃんとお読みください。お返事も必要です」


「だよね~……はあ……」


面倒そうに書状を眺めるオルコを真っ直ぐ見つめ、ダーンは視線で叱咤した。

その視線に負け、オルコは机に書状を置き、封を開ける。


「オルコ様、この書状を持って来た者が、急ぎ返事を持ち帰るために、明日から昼晩の2回こちらへ日参されるそうです。私の予想ですが、直接謝罪するためにロンバルディ公爵様が国を発たれていらっしゃるかもしれません」


オルコが書状を読み始めると、ダーンは先ほどよりも低音の声でオルコに話しかけた。

片眉を上げ、聞いていると反応しながら手紙を読み進めるオルコだったが、書状の中ほどを過ぎたあたりから、面白くなさそうな表情になっていった。


「……ダーン、当たりだ。謝罪したいから会ってくれだと。今日から……3日以降ならいつでもいいから、こちらの都合のいい日を教えてくれだって」


「……いかがされますか?」


ダーンの顔も表情が面倒そうに顰められた。

それもそうだろう。

『3日以降』と具体的な日数が書かれてあるという事は、『その日には近場に来て待機している』という事なので、礼儀的にあまり日数を延ばせない。

『いつでもいい』は、ただの社交辞令に過ぎず、面会を強行する貴族の常套手段だ。


別に会いたくなければ断ればいいのだが、ロンバルディ公爵とはキャシーの処罰について結局いつか会って話を付けなければならない。

それが、早いか遅いかの差でしかないのだが、相手は大国ラハト帝国の公爵。

会い渋って、ラハト帝国内で「オルコ様が会って下さらない」と愚痴られ、事情を知らない貴族に『大国に何様のつもりだ』と反感を持たれても困る。


そんな、様々な予想を脳内で巡らせ、目を瞑って考えるオルコを、ダーンは静かに待つ。


そして、オルコはゆっくりと目を開き、ダーンを見た。


「返事は明日の朝に書く。夕方に渡すようにしてくれ。面会日は4日後の午後から。あと、ヤミツとミヤツを呼んでくれ」


「畏まりました」


オルコの瞳にはギラリとした鋭さがあり、それを読み取ったダーンは笑顔で返事をして退室した。





読んで下さりありがとうございます(*^ ^*)


レミーナが突然野営訓練に放り出された裏話です。

次回更新は、1週間程の予定です。


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