23 出発1日目 ~お勉強 その2~
遅くなってすみませんm(_ _)m
暫く馬車に揺られ、領都を出た。
それまでは、ニールの『レミー様情報』と『領都情報』の独談会だったよ。
2属性持ちを暴露した後、トゥーンさんとベーマーさんが、私を侮った訳ではないと必死でニールに弁解しつつ、私にチラチラと視線を寄越して何かを訊きたそうにしていたので、それを阻止するためにニールが気を遣ってくれた……んだと思う。
私的には、ニールの忠誠心が爆発してた―――褒め殺されそうだった―――から、そっと視線を逸らして聞き流してたんだけどね。
で、今は領都の外周の説明をしてくれている。
「守護壁から10メートル程の範囲に畑が、その外側に放牧場があります。こちらの外周は魔物などの被害に合う可能性が壁内よりも高いですが、見張りも兼ねています」
「「「へぇ~」」」
トゥーンさんとベーマーさんも知らなかったようだ。
「でも、危ないんじゃないの?」
領民を守るのは領兵の仕事なのに、平民を見張りに使ってもいいの?
「率先してモンスタービートに対峙なさる領主様のお姿を拝見しているマルナ領民は、少しでも領主様の負担が軽くなるように、少しでも自分達の住む街の被害が少なくなるように、と皆が思っています。その気持ちの表れが、この守護壁の外周なのです。年数を掛けてこのような形になったそうです」
「「「へぇ~」」」
「そして、マルナ領では街以外の領土を歩く際、守られてきた決まりがあります。これも、モンスタービートを乗り越えるために先祖から受け継がれてきたものです。レミー様はお勉強なさっていますか?」
領土を歩く際の決まりね~……。
ちょっと漠然としてるけど、思い当たるのはあれかな?
「えっと、食べられる実が生る樹木は切り倒さない事?」
「そうです。領民たちは、非常食に出来るという理由で切り倒さない事が多いのですが、領政的にはどのような意味がありますか?」
「え? 他の理由があるのか?」
トゥーンさんの呟きが聞こえてきた。
見ると、思わず口に出してしまったようで口を手で押さえてる。
ニールの独談会中は、「へぇ~」とか「ほぉ~」とか感嘆の相槌しかせず、会話に加わる事は無かったので、私のお勉強会を邪魔しないようにしてくれていたんだろう。
ニールが、チラッとトゥーンさんを一瞥した後、私に視線を寄越したので、トゥーンさんの疑問に応えるべく、口を開いた。
「一つ、領民の非常食。二つ、領民の収入源の確保。三つ、視界の確保。四つ、モンスタービート時の障害物。……あと…………領民の識別」
「レミー様はやはり素晴らしいです! 私でも知らない事をご存じなのですね!」
トゥーンさんが「そんなにあるのか」と驚いていたが、ニールの眩しい笑顔と弾んだ声で遮られていた。
「レミー様、是非! 二番目と三番目、そして最後におっしゃった事を詳しく教えて下さいませんか?」
グイグイ寄ってくるニールよ。
これって私に教えてくれるお勉強会じゃなかったの?
ってか、教えてもいいのか?
私にはそこら辺が判断できないんだけど……。
困ってスーさんを見ると、微笑ましげに頷かれた。
「え~とね」
溜息混じりに言いながら顔を上げると、熱い視線を寄越すニールに加えて、トゥーンさんとベーマーさんからも見られていた。
ううう、しゃべりづらい……。
「『収入源の確保』は、実を売ってお金に出来るでしょ? それに、ゴアナ国との国境であるバラデュール山脈と魔の森の近くにあるコラスィ丘陵地以外に生えてる木は、誰が伐採してもいい事になっているから、木も売れる。でも、モンスタービート時に障害物としてある程度木を残す必要があるから、誰でも分かりやすく識別しやすいように『実が生る木』を伐採しないようにしたんだと思う。そうすれば、極端に木のない土地はできないし、何より領兵の仕事の手間が減るわ」
「なるほど……領兵が伐採者に一々伐採場所を指示する事は難しいですからね。領土に万遍なく生えている樹木で、かつ見分けやすい『実が生る木』だけを伐採禁止にする事で、領民にも領兵にも得がある形でモンスタービートへの対策も兼ねているのですね」
いつの間にか真顔に戻って感心するニール。
トゥーンさん達も真剣な顔をして私を見ていた。
(―――これを考えたご先祖様はマジすごいと思う)
モンスタービート後、自然あふれる土地は、魔物達により木がなぎ倒され、へし折られ、砕け散った木片が散らばった無残な廃土になる。
そう、死んだ魔物以外に視界を遮る物がなくなってしまう。
そんな不毛の大地からは資源が得られない。
しかし、バラデュール山脈の手前でモンスタービートを制圧する事で、バラデュール山脈から木材や石材、薬草などの資材を調達し、復興を始める。
だから、バラデュール山脈は領主の持ち物とされ、侵入禁止となっている。
また、復興にバラデュール山脈の資源を使用する事で、不毛の大地となった領土の植物保護もしているのだ。
踏みつぶされて草すらも無い廃土だが、実は、魔の森に生息していた『魔力を多く含む魔物の血』がしみこみ、木っ端微塵にされた木片が散らばっているので、土壌の栄養価はモンスタービート前よりも高くなっている。
そこへ、魔物の体に付いていたり、胃等の内臓に残っていたりした、魔の森の様々な植物の種が落ちるので、一定期間採取や伐採を禁止して―――代わりにバラデュール山脈を解禁する―――緑を生えさせるのだ。
魔の森は魔力が濃い土地で、植物の成長速度が速く、大きさも通常の2~3倍に育つ。
そんな、特性を持つ植物の種が、魔力を多く含む土地に芽吹けば、通常よりも速いスピードで成長する。
が、魔物の死骸による一時的な高栄養土壌になっているだけなので、ある程度大きくなると成長スピードが通常に戻る。
聞いた話だと、前のモンスタービートでは、最低限の建設を終えた頃には2メートルに達する樹木があったらしい。
その後、家財や職を失った者達の救済のために伐採・採取の禁止を解き、食糧や収入源にしてもらって飢えを防いでもらうのだ。
しかし、何でもかんでも伐採OKにしてしまうと、街の近くの木から伐採されてしまう。
そうすると、街外周に木が無くなり、孤児や怪我の後遺症が残った者達の最低限の収入になる果実採取が体力的に出来なくなる。
また、モンスタービート時の時間稼ぎのための障害物を新たに作らなければならない。
この2点を防止・改善するのが、『実の生る木』は伐採しないという決まりである。
しかも、『実の生る木』を昔から残してきた事で街の近域には様々な果樹が生い茂り、領民の食の栄養面を向上させている。
こうして、代々マルナ領主は領民と領土を守ってきたのだ。
本当に凄い。
「えっと、次は『視界の確保』ね。モンスタービート時の障害物にするならもっといっぱい……密集してる方が良いかもしれないけど、逃げる時にそれって困るわよね?」
「ああ、そうですね。回り道をすると逃げ遅れにもつながりますし、味方の位置把握にもある程度木々に隙間があった方がいいですね」
「あと、薬草とかの成長に木漏れ日があった方が良いと思う」
「「「確かに」」」
「で、最後の『領民の識別』だけど……。……これは、完全に私個人の考えよ」
これはあんまり言いたくないんだよね。
言い渋っていると、
「レミー様、それこそ教えて下さい。私はレミー様のお考えが知りたいです」
と、ニールにキラキラもなく真面目に言われた。
「私も知りたいです、レミー様」とスーさんからも真剣に言われたので、誤魔化さずに話す事にした。
読んで下さりありがとうございます。
次回は1週間程度で更新できると思います。




