22 出発1日目 ~お勉強 その1~
お待たせいたしましたm(_ _)m
変な空気が漂う中、私達は装飾のないシンプルな馬車に乗って領宅を出発した。
私の両隣にニールとスーさん。
向かいにイェネオミナスのトゥーンさんとベーマーさん。
他の人はもう一台の馬車や馬で移動している。
なんでか、さっきから誰も言葉を発しない。
そんな中、スーさんとニールからビシビシ飛んでくる物言いたげな視線に、何がまずかったのかと目が泳ぐ。
えっと、『亜空間倉庫』使いたかったから得意魔法は空間魔法って言ったんだけど……。
得意を付けるからには、使える魔法の中で威力や効力があるものを挙げれば、嘘にはならないしカモフラージュになるからいいはずよね?
だって、他の魔法が使えないとは言ってない。
現に、ニール達だって、本当の得意魔法を挙げてなかった。
使える魔法を全てさらけ出してる訳じゃないので、他の魔法を使っても別に不思議じゃないはずだし。
ニール達は何が言いたいんだろう?
考え込む私と、目で何かを訴えようとしているニールとスーさんの様子に、気まずそうに口を噤んでいたイェネオミナスの2人だが、ついに、トゥーンさんが口を開いた。
「あの、レミーナ様は本当に空間魔法が得意なのですか?」
「……ええ」
困惑しながら答えると、悲しそうな瞳で見つめられた。
「では、他の魔法が使えるとはいえ、威力が低いはずです。これから決して我々より前に出ないように気を付けて下さい」
―――――はあ?
え? 気を付けなきゃ物を消し炭にしてしまう火魔法とか、うっかり浸水被害をもたらしそうになる水魔法とか、苗木を大木に成長させちゃう木魔法とか、領宅を吹き飛ばしそうになるくらいの風魔法とか、湖が作れちゃうほどの穴を空けられる土魔法とか、これって威力低かったの?
兄が引きつった顔して『領宅で絶対に全力で魔法を使っちゃだめだよ』って言ってたんだけど?
言われたことが理解できずに、ぽかぁ~んとしてしまった。
「はぁ~……。レミー様、アイテムボックスが空間魔法であることはご存知ですよね?」
仕方がないと溜息をつきながらニールが訊いてきた。
「……うん、知ってるよ」
「アイテムボックスは容量に違いはありますが、ほとんどの人が使えます。しかし、特殊魔法に分類されるため、能力を上げる事が非常に困難なのです。師匠を見つけるのが試練とも言われるくらい、空間魔法使いは少ないのです。そして、一般的に、空間拡張の魔道具を作る事が出来れば適性があるとみなされますが、その空間拡張を習得するには、他の属性を一切伸ばすことなく空間魔法のみを修練しなければならないのです」
「え?」
「そして、空間魔法はアイテムボックスや空間拡張以外に知られている魔法がありません」
「え?!」
『真空』とか『空間断裂』とかもないの?
「つまり、空間魔法が得意という事は、他の魔法が使えない、という事になります」
ちょ、しかも、他の魔法が使えないと私自己申告しちゃったの?!
ニールを見ると、『そうなんですよ』と頷かれた。
……ああ……やっちまった!
「レッ、レミーナさま、我々が居ますので、ご心配なく!」
頭を抱えて項垂れる私に、オロオロしながらトゥーンさんが言うが、言葉が返せない。
もとはアイテムボックスを装いながら『亜空間倉庫』で便利な道具を出して、他の属性魔法でガンガン魔物を倒していく予定だったのに……。
まさか攻撃に使える『真空』や『空間断裂』まで使えないなんて……。
あれ? っつうか、魔法ってどこまで使ってよかったんだろう?
天災になるようなものは一応封印しようとは思ってたけど、それでも私が使う魔法は珍しいって皆言ってたんだが……。
「ねえ、そういえば訊くのを忘れてたんだけど、私は魔法を使ってもいいの?」
顔を上げてニールに訊いてみた。
すると、瞬きをしてニールは口を開いた。
「そう言われますと……」
「ふふふ。レミー様、使っても良いに決まってますわ。身を守るためですもの。ただし、仲間に怪我をさせない事が大切ですよ」
ニールが思案している間に、スーさんが笑いながら小さな子供に言い聞かせるように言ってきた。
『使ってもいいが、人を驚かせたりしない魔法にしろ』って事ね。
「イェネオミナスの方々はAランクパーティーで、冒険者ギルドから信用のおけるパーティーだと伺っています。また、今回の依頼は領主家からという事で依頼中に知り得た事柄はギルド長以外には口外禁止の約束がされています。ですから、レミー様がお困りにならないようにもう一つの使用できる魔法を申告なさったらいいかと思うのですが、どう思われます? ニール様」
意味あり気な笑いを浮かべてニールに話しを振るスーさん。
一瞬口元を引き上げると、ニールは澄ました顔で頷いた。
「そうですね。あのバルフェ家のご令嬢であり、素晴らしい才能の持ち主であるレミー様を他の空間魔法使いと同列に扱うのは非常に失礼になってしまいます。それに、レミー様が侮られる様な事を私達がしてはなりませんね。と言いますか、一般的な魔法使いとレミー様が同じなどと思われるのは、非常に遺憾です」
「という事で、レミー様、お2人に教えて差し上げて下さい」
ムッとした表情のニールとにっこり笑顔のスーさんは見た目正反対だが、中身が同じで真っ黒だ!
スーさんは、冒険者ギルド長以外に情報は洩れない事や情報漏洩の際の責任の有りかを明言してイェネオミナスの2人に釘を刺しつつ、私に野営訓練中に『突っ込まれて困らない』程度に『攻撃魔法を一つだけ』暴露しとけと。
しかも、『得意』を付けてない以上、臣下達の使う魔法よりも威力が抑え気味で一般的なヤツにしろと。
ただね、『もう一つの使用できる魔法』って限定的な言い方だけど、私には『使用できる魔法の中からもう一つ』という意味で、『もし他の魔法がバレても守秘義務があるから大丈夫ですよ』って言ってるようにも聞こえる。
まあ、全属性が使えるって事は隠しておけという意思は受け取った。
ニールは、イェネオミナスの私に対する態度に『うちのレミー様をそん所そこらの魔法使いと一緒にするなど、万死に値する!』って毒を吐いてるし。
眼光抑えて抑えて!
イェネオミナスの2人、困惑した顔で固まっちゃってるから。
まあ、現時点で使える魔法を全部暴露するつもりもないし、攻撃方法が細剣だけじゃ魔の森で生きていけないだろうから、スーさんのアシストに乗っかろう。
ってか、スーさん達にも内緒にしてる魔法とか結構あるんだよね。
……バレナイヨウニキヲツケヨット。
ええと、とにかく今は申告する魔法の事を考えよう。
火魔法は森林火事の危険があるから却下だし、水・氷・木・土魔法は魔法行使時に視覚で確認できちゃうから却下で、支援・重力・精神等の特殊魔法はすでに空間魔法を申告してるので論外。
世の中には探せば特殊魔法を2属性扱える人も居るけど、あんまり居ないって教えて貰った事があるからね。
回復は……迷ったけどコレも習得者が少ない―――ゴアナ国ではブランドと化していた―――から却下。
というわけで、風魔法。
風魔法があれば、匂いを分散させられるし、『無酸素』で窒息出来るし、『風刃』『鎌鼬』『嵐』で攻撃できるし、何より視えない。
ついでに、風魔法より攻撃力のある空間魔法の『真空』や『空間断裂』も見えないから、行使しても風魔法と勘違いしてくれるだろうし。
「あ~、実は風魔法も使えます」
そう言うと、ニールとスーさんがそっと口角を上げた。
と同時に、イェネオミナスの2人が目を見開いた。
「「えぇ?!」」
「うふふ。レミー様は『マルナの闘士』ファルガ様と『アマルナの守護姫』ルーナ様のご息女です。私達の物差しでは計り知れない才能を受け継がれている可能性は多大ですもの」
「そうです。偉大な先祖とご両親をお持ちのレミー様は、我々凡人にはない可能性を秘めているのは当たり前ではないですか」
黒いオーラをぼんやりと纏って笑い合うスーさんとニールから漂ってくる威圧が酷い。
スーさんもニールも黒い物はしまってよ。
「「……」」
ほら、トゥーンさんとベーマーさんの顔が青白くなったじゃん。
「……あの、まあ、そういう事で、よろしくお願いします」
スーさんとニールを宥める言葉が見つからないので、話を終わりにしてみた。
それからしばらく、トゥーンさんとベーマーさんの顔色が青っぽかったが、私は全力でスルーした。
だって、色々訊かれても答えに窮するだろうし、魔法が得意そうなバーデンさんが後々突撃して来ないようにしっかりとニールとスーさんの恐怖を伝えてもらいたいからね。
ごめんね。
トゥーンさん……。
ベーマーさん……。
読んで下さりありがとうございます(*^^*)
戻ってまいりましたm(_ _)m
今後は、1~2週間に1話アップしていこうと思っています。
詳しくは、活動報告をご覧ください。




