15 考えられる未来
「嫌な予感がするの。まず一つ目。―――――」
私の考えを一つ一つ話していくと、ニールの顔が厳しくなってくる。みんなもハッとして考え込んでいく。
わたしの嫌な予感は、「恨まれる」「絡まれる」「奪われる」だ。
まず、私の魔道具のせいで、ツサメ子爵の魔道具が売れなくなっていくと、恨まれる。
すでにラハト帝国の商人さんが取引を止めるって言ってたから、これは確実だろう。
次は、恨みによる嫌がらせと、私の魔道具の作成過程を知ろうとして、絡まれるのではないだろうか。
んで、私の側近にスーさんが居る事を突いて、私が作った魔道具はスーさんが教えたもので、本来自分達が知るはずだと主張して、権利書を奪いにくるんじゃないかと思うんだけど‥‥‥。
飛ぶ鳥を落とす勢いのバルフェ家に貸しが作れたら、さぞ鼻が高いだろうし、旨味がたっぷりだろう。
「考えられますね‥‥‥」
「申し訳ありません。わたくしの事情でレミー様にご迷惑をかけるなど‥‥‥」
ニールは難しい顔をして、スーさんはうつ向いて、言った。
「いいのよ。スーの話を聞いて、ツサメ子爵はナンダカンダ理由をつけてくると思うもの。こういう可能性があると、みんなも心に留めておいてね。一応対策として、ニール。ツサメ子爵の事を父か兄に伝えて。それから、商業ギルドで魔道具の登録日を証明してもらって。スーは、国に直談判したときの書類を全て父か兄に預けて。ここにいない人にも、今話した事をつたえておいてね」
「「はい」」
キリッとした顔で頷いた二人。
これで、何か起きても大丈夫だろう。
「それで大丈夫でしょうか?」
心配顔をして、ジョンが言った。
「‥‥‥えっとね、実は、音声レコーダーの登録日は今から七年前なの」
「そんなに前なのですか?!」
「ええ。登録したのはお母様。スーや旦那さんは、マルナ領地に来てないでしょ?」
「はい。わたくし達夫婦は、国外に出たことはありません」
「なら、お母様が独自で考えた魔道具ということが証明されるわ。通話機はスーが来てから開発登録したけど、“使い方によっては凶悪な事になり兼ねないから”って、父と兄に任せたし、貴方達にも一切関わらせなかったからね。たぶん、父と兄が上手くやってくれていると思うわ」
「そういえばそうでしたわね……」
あの時のスーさんとジョンはかなり落ち込んでいた。
作業室にも入れられなかったので、『知りたいのに教えてもらえないなんて!』と肩を落としてスゴスゴと部屋から出て行ってたっけ。
「だから、音声レコーダーと通話機の利権書があれば私の方は何とかなると思うの。それと、スーの書類は旦那さんの研究全てをツサメ子爵に渡してある、という証拠になるわ。しかも、スーは魔道具が作成できないこともその時に知られているから、私に教えられない証拠にならないかしら?」
「「「なるほど(そうですわね)」」」
皆がそろって首を縦に振る。
「それにね、似ているからと言っても、全く同じものではないからツサメ子爵の理屈は通らないわ。まず無理なのよ」
「どういうことですか?」
キョトンするジョン。
「例えば、赤玉や水玉。みんな工夫を凝らして作成しているけど、赤玉のファイヤーボールは炎の威力と距離が違うだけで、ほぼ同じもの。でも、一応違う魔法だから別商品として売られているわ。水玉のウィンドウカッターなんて、一枚刃か二枚刃の違いでしょ? 私の魔道具とツサメ子爵の録音機? は、まず、出来る事が違うもの。スー、そうでしょ?」
「ええ。夫の魔道具は、録音できる時間が指定出来ず、再生は一度のみでした。それに相互会話は出来ませんでした」
予想範囲内だと、ふむふむ頷く。
「私の魔道具……音声レコーダーは、録音時間5分間、録音回数1回、再生は5回。録音時間と再生回数がまず違う。それに、通話機は相互会話が出来る。これだけ機能が違えば、付け出す魔法陣や組み合わせる魔法陣がとても複雑になるから、別の商品だと主張出来るわ。それに、あれだけ似かよっている赤玉や水玉が沢山登録できて、私の魔道具はいけないの? 出来る機能が全く違うのに? 結局、自分達で開発すればいいんだから、理屈が通らないわ」
「「「そうですね(そうですわね)」」」
三人とも、安心して笑みを浮かべた。
まあそれでも突いてくる人は突いてくるからねぇ……。
お出かけで買ったツサメ子爵の魔道具を調べておこうっと。
ふふふふふふ。ツサメ子爵や。無いと願っているけど、もし言い掛かりをつけてきたら、その言い分を丸っと丸めて打ち返して差し上げるわ!
三人でアハハウフフと笑っていると、お昼の鐘が鳴り響いた。
テヨーワでは、時間を知らせるために一日三回~八回、鐘を鳴らす。時計は高価な魔道具になるので、一般家庭にはまず無いからだ。国や地域によって違いがあるが、マルナ領地は、六時・九時・正午・三時(15時)・六時(18時)の、五回鳴らす。
「レミー様、失礼いたします。食事は領邸の食堂でよろしかったですか?」
私達の話に加わらず、お茶のおかわりやお昼の確認で一人動いていたミアンが確認してきた。
「そうね‥‥‥。領邸に戻るわ」
急に食べる場所を変えると侍女や厨房の人が大変なので、我が儘は言いません。
(‥‥‥はあ……なんだか今日も、一日が長そうだなぁ‥‥‥‥)




