14 スーさんとツサメ子爵
「‥‥‥有りました。有りましたから、献上したのです」
うん、やっぱりか。スーさんにあそこまで嫌な顔をさせるくらいだもん。
結構な嫌がらせをされたんじゃないのかな?
どんなことがあったのかと話を促すと、
「それは…………。……夫の事からお話しした方が分かりやすそうですね……」
そう言って、スーさんは少し顔を俯かせた。
「夫はどちらかというと研究者気質であの魔道具に満足していませんでした。あの魔道具は主人に言わせると“未完成”でした。主人は、レミー様が作製された“通話機”のように相互会話が出来る物が作りたかったのだと思います」
そういえば、あの魔道具は対になっていた。
一つはしゃべりかける物、もう一つはその声が聞こえてくる物って商店のおじさんが言ってたな。
「ある時、開発に行き詰まって仲の良い友人に相談すると“未完成”のままでも十分通用するからと説得され、開発登録をしました。ちょうど開発費用にも困っていましたので、あの魔道具を売る事で開発資金にしようとしたのです。そうしましたら、思いの外好評で……。名誉貴族の称号まで頂いてしまい、開発どころではない程あの魔道具の作製依頼が舞い込みました。私は魔道具の事に関しては相談を受けるのみで作製の手伝いはしておりませんでしたので、夫一人で作製・開発を頑張っていました。時間が無くて結局完成品は開発できませんでしたが、夫は楽しそうでした。ふふ」
遠くを見つめながら話すスーさんの目には旦那さんが映っているのかもしれない。
懐かしそうな表情から、今度は困った顔に変わった。
「ただ、“未完成”の魔道具のレシピを広めるのは嫌だったようで、主人は、開発登録はしましたがレシピ公開は致しませんでした。開発登録当初からかなりレシピ公開の問い合わせがありましたが、主人が頑として頷きませんでした。あの時はまだ良かったのですが、主人が亡くなってから……」
おおう……眉間にシワが……。
「まず、夫が亡くなってすぐに納品確認の問い合わせが殺到しました。そして、私では作製出来ないと分かると、“レシピを公開しろ”“権利書を寄越せ”と色々と‥‥‥ええ、イロイロと嫌がらせをされましたわ。尾行されたり絡まれたり家捜しをされたり‥‥‥‥」
つらつらと出るわ出るわ。
しまいには、物を売ってもらえなくなって買い物が出来なくなったって、どんだけの人と力が動いてたんだよ!
ミアンやジョンも気の毒そうにスーさんを見つめた。
「わたくしは、冒険者ギルドに登録しておりますので食糧の確保は大丈夫でしたが、日用品を手に入れ辛くなった事には困りました」
嫌がらせの事を商業ギルドに相談しても解決してくれず、むしろ権利書を手放せと進められる始末。
これで、スーさんは権利書を寄越せと言いに来る者達と商業ギルドがグルになっていると思ったらしい。
納税の事を考えると、バンバン作って売ってくれる方が商業ギルドとしてもありがたかったんだろう。
「権利書を売る事も考えましたが、夫の魔道具を悪用されても嫌でしたし、あいつらの思い道理にしたくなかったので、考えに考えて国に献上することにしたのです」
当時を思い出しているのか、手を握りしめて瞳に怒りを灯すスーさん。
「あいつらに煩わされるのはもう御免でしたので、夫の研究書類やら道具やら一切合切、全て献上したのですが‥‥‥」
一段と低~い声で、怒りを圧し殺しながら続けるスーさん。お茶のワゴン近くで待機していたミアンが、そのスーさんの様子にちょっとびびって、一歩下がる。
「国から権利書を買ったツサメ男爵―――ああ今は子爵でしたね―――から詐欺だと犯罪者扱いされました。国に渡した資料では作成できないと。嘘の書類を献上したと。こうなったら第三者に家中探してもらって渡した書類が全てだと解ってもらい、かつ、渡した書類で魔道具が作成出来ることを証明しないと、わたくしの無実を納得してもらう事はできないと思いました」
スーさんは、身に覚えがない罪を着せられそうになった事に怒り、国に直談判。
衛兵とツサメ子爵に大々的に家捜しをしてもらい、国のお抱え魔導師の方々に旦那の資料を見せて魔道具を作製してもらったそうだ。
結局、魔導師の一人が魔道具を作製できたので、ツサメ子爵の言い分は退けられた。
しかし、貴族と騒動になったことが後を引き、街での生活が面倒になってしまったスーさんは、街を出るついでに他国に行ってみようかと思って、評判の良いイラルド国に向かい、その後兄と出会ったみたい。
「あ~‥‥‥うん。そっか」
スーさんの話で気になる事がある。
歯切れの悪い相づちに、ニールもジョンもスーさんもミアンも“どうかしました?”と視線を向けてくる。
「え~っと、あのね。ちょっと聞いてみるんだけど、その魔道具を作製出来た魔導師? の方は、どうして作製できたのかスーさんに説明した?」
「え? ……あら? 出来たとしか聞いておりませんわ」
「じゃあ、その魔導師か、もしくは国からツサメ子爵に詳しいレシピが説明されたり、その魔導師が開発登録をしたりした?」
「…………記憶にありませんので、説明も開発登録もされてないと思います」
「そっか~……」
作製出来た理由をツサメ子爵に言わないのは、なんでだろう。
教えれば、ツサメ子爵が魔道具作製してくれるのに。
ツサメ子爵に教えないとしても、レシピ公表すれば特許料が稼げるのになんでしてないんだろう。
……もしや公表出来ない理由だったのか?
チラリとスーさんを見てもキョトンとしてるし、旦那さんが何か悪い事をしていたようにも思えない。
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