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11 兄の仕返し 2

レコードプレーヤーに音声レコーダー改―――魔石の魔力によって音声を記録。再生はレコードプレーヤーが必要―――がセットされる。

よく見ると、音声レコーダー改がもう3個並べられている。


……これ、どれぐらいの時間なんだろう……。


そして、映写機に写真機改―――魔石の魔力によって撮影。写真を見るには映写機が必要―――がセットされる。

こちらも、写真機改がもう4個待機している。


(―――映画鑑賞ならぬ、令嬢鑑賞……)


見る前から死んだ魚の目のようになってしまう。

が、どんな事があったのかは知りたい。

こうやって情報をくれるという事は、私にも何かしら伝えたい事があるからだと思うし。


―――――そうして始まった令嬢鑑賞。


レコードプレーヤーからは兄の声が流れ出し、映写機からは応接室の様子が映し出される。


『お待たせいたしました。ご面会のお約束がありませんでしたので、こちらも準備に時間がかかってしまいました』

(面会したいなら約束を取り付けろ。待たされて当たり前だろう)


『かまいませんわ。美味しい紅茶を頂いておりましたから』


扉を開けて入ってすぐ、対他人用の完璧な王子スマイルで毒を吐く兄。

副音声がどこからか聞こえてくるよ……。ブルッ


兄がソファーに座ると、令嬢も映し出された。

兄の顔も令嬢の顔も横顔ではなく心なしか斜めで良く見えるので、写真機の置き場所かソファーの位置に工夫がしてあるのかもしれない。


『ところで、――――――――――』


兄が要件を訊けば、ブリックさんの予想通り、ただ会いに来たと言う令嬢。

それを迎え撃つは、一度も会った事の無い者の家に約束も無しに来るマナー違反を指摘する兄。


それをひらりと避けて、婚約の打診をした事を言及する令嬢。

お断りの了解を引き合いに出し、帰宅を促す兄。


折角だからお話ししたいと自分をアピールし出す令嬢。

突然の訪問で仕事があるので、急用でなければ帰れと暗に言う兄。


何とも言えない堂々巡り。

暖簾に腕押し、糠に釘って感じ。


いや~、この令嬢粘る粘る。

兄が対他人用の完璧王子スマイルで目が笑っていない事に気が付いてないの?


ああ、この令嬢、たまにぽ~と熱に浮かされた表情や、肉食獣のような鋭い目つきになってるし、言葉の端々によく分からない自信が出てる。

どうにか出来ると思い込んでるんだろう。


兄の副音声が物騒なものになってきた所で、令嬢が紅茶をドレスにこぼしそうになった。

ただ、それをする前に口元が明らかにニヤリとしてるんだよね。

これ、わざとだよね?


その瞬間、今まで映っていなかった侍女が倒れそうなカップを拾い上げ、紅茶がこぼれるのを阻止した!

すげえ! 忍者みたい!


『お嬢様、紅茶はこぼれませんでしたが、どこかお悪いのですか?』


散々カップを持ち上げてたのに、これで怪我したなんて言っても通用しないよね?

というか、侍女の『(体が)お悪いのですか?』って『(頭が)お悪いのですか?』に聞こえるんだけど。ぶふっ。


流石に令嬢も言い返せなかったようで、『いいえ。少し手が滑ってしまったみたい』と引きつった顔をして返していた。


この様子を見ていた兄の目がすっと細くなった。

ああ、対他人用……よそ行き用の対応を切ったな。


『さて、ロンバルディア公爵令嬢様、体調がお悪く見えますのでそろそろお帰りになられた方がよろしいかと思います。我が家へ来られる際にお泊まりになったご貴族様へご連絡した方がよろしければいたしますので、遠慮なくおっしゃって下さい』


『いえ、こちらにお泊め頂きたのです』


『大変申し訳ありませんが、無理です』


『っですが!』


『我が領に来られる際にどちらかにお泊りになっていらっしゃるはずですから、問題ありませんよね? 我が家のようにご連絡無しにご訪問され、急きょ宿泊されるよりも、前もってご連絡がなされている所へお泊りになる方が快適に過ごす事が出来るかと思います。ご連絡いたしますのでどうぞおっしゃってください』


『わたくしは! こちらにお泊め頂きたいのです!!』


『何度も申し上げますが、無理です。はっきりと申し上げると、前もってもご連絡を頂いていない不審なお客様をお泊めする訳には参りません。この邸宅はファルガ・バルフェの家です。国王と同等の扱いのマルナ領主の家です。少し勘違いをなさっているようですが、ロンバルディ公爵令嬢様は他国の王城にアポイントも無しに訪れ、急きょ宿泊を希望されている事になりますが、分かっておっしゃっておいでですか?』


うん、兄の笑顔が恐ろしい。

仮面をしているかのように表情が動かねえ。

なのに、目が物凄い物を言ってる。「うぜえ」「帰れ」と。


『……』


これには、令嬢も悔しそうに黙った。



『それに、アポイントも無しに男性の家に押しかけ、あまつさえ泊めるように強請られるのは淑女の振る舞いとして不作法ではないでしょうか。全く状況を知らない方がお聞きになれば、誤解を招く可能性もあります。……まさか、それが目的だとおっしゃいませんよね?』


黙って俯いて目を泳がせている令嬢に、兄は追い打ちをかけた。

その言葉に、令嬢の肩がピクッと動いた。


えええええ~!

それが目的?! ブリックさん大当たり!!


『私には内々の婚約者がおりますので周囲に誤解を招くようなことは致しかねます。それに、ロンバルディ公爵令嬢様のように一度も顔を合わせていない男性の家に押しかける様な方を婚約者にしたいと微塵も思いませんのでお帰り下さい』


『えっ?!!!』

「ええええええええ?!!!!!」


奇しくも令嬢と声が被った。


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