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09 憤慨したお客様?

遅くなりました。すみません。。。

昇降所で馬車を捕まえて領邸に帰ると、見慣れない馬車があった。


「あれ? 誰か来てるの?」


「いいえ、私は聞いておりません」


「私もです」


ニールもスーさんも首を傾げている。


「もしかしたら、ファルガ様かオルコ様にご来客があったのやもしれません」


「でも、そうするとご挨拶しないと失礼にならないかしら?」


思った事を口にすると、スーさんとミアンが私の身だしなみを整え始めた。


「服を着替える時間はないので、このままご挨拶なさってください」


「レミー様、私達は先に行って確認してきますね」


ミアンとウェルナが小走りで駆けていった。

私はニールとスーさんを従えて、その後をゆっくり歩いて玄関へと向う。


「お帰りなさいませ」


玄関には兄の執事が立っていた。

ん? ミアンとウェルナは?


「ミアンはレミー様の湯あみの準備に、ウェルナは用事を申し付けました」


ダーンさん、心の声が聞こえてるんですか?


「いいえ? レミー様はお顔に全部でますので」


いや~~~!!

あの兄にしてこの執事アリ!!

こえぇぇよ~~~。この主従~~~!!


「ありがとうございます」


褒めてないから!!

ねえ、褒めてないから!!

ちょっとはにかんでるダーンさん、素敵だけども褒めてないから~~~!!


心の中で叫んでいると、玄関から一番近い応接室から大きな声が聞こえてきた。


「~~~~~~! ~~~~~~~~!!」


内容は分からないが、女の人の声だ。


「ねえ、誰かいらっしゃってるのかしら?」


「ええ、招かれざるお客様がいらっしゃっています」


え? 招かれざるって、どういう事?

応接室の扉を見ていると、バンッと扉が開かれた。


「わたくしの提案を蹴るなんて、身の程を知るとよろしいわ!!」


大声を出しながら扉から出てきたのは、―――誰だ? この人?

見た事の無い人でした。


赤いドレスの裾を翻し、カツカツと靴音を鳴らして如何にも憤慨している様子。

何があったのか、どうして家にいるのか分からないが、ひとまず失礼にならないようにご挨拶を。

ダーンさんの横でカテーシーをしていると、なぜか靴音が近くなってきた。

はて? ダーンさんに何か言う事があるのかな?


「いたっ!!」


前を通り過ぎたかと思ったら、何かが顔にぶち当たった。


「邪魔なのよ!!」


はあ?!

こちとら邪魔にならないように、玄関脇にいたし、むしろあんたがこっちに来てぶったんじゃないの?!


「お嬢様!!」

「「レミー様!!」」

「レミー!! 大丈夫かい?!」


ダーンさんをはじめ、スーさんとニールが声をあげ、兄も応接室からすっ飛んできた。


「あぁぁぁぁ、お顔に傷が!!」

「なんて事だ!! レミー!!」

「ふんっ!! 邪魔な所に居るのが悪いのよ!!」


女の人は、兄やニールたちが慌てている様子を鼻で笑い、傲慢に言い放った。

瞬間、玄関の空気が重くなり極寒の地となった。


「言いたい事は、それだけですか? 貴女の言動全てをロンバルディ公爵様にご報告いたします。可愛い妹の顔をわざと扇で傷つけ、謝りもせずむしろ妹が悪いと言い放つ性根の悪さと礼儀の無さ、そして、約束も取りつけずに家に押しかけてくる厚顔無恥な行動、貴女は本当に公爵令嬢ですか? いえ、本物のご令嬢でしたらそんな事はなさいませんね。ダーン! 公爵令嬢を語る不届き者だ! 馬車で丁寧にロンバルディ公爵様の関係者の所へ連れて行け!」


うおおおおおお!!!

兄の表情がストンと無くなった!!!

ダーンさんもニールもスーさんも、兄と一緒に表情が抜け落ちたぁぁぁ!!!

皆、こえぇぇぇよぉぉぉぉぉ!!!


空気っていうか、重力がかなり上からのしかかって来てるし、玄関の壁が凍りついて氷が広がってるんだけど!!!

これ、兄?! 兄のせいだよね?!

え? ダーンさん、ニール、スーさんからも威圧感が?!

しかも、二階の廊下からも?!


「「「「「はっ!!」」」」」


返事の人数が、多いんだけど?!

皆、重いし寒いし怖いから戻って~~~!!!


ガクブルしながら兄達に心配されていると、女の人とお連れの人は警備隊員に連れられて、玄関から出されていた。

かなり、罵声を上げていたけど、兄達はまるっと無視していた。


「ああ……。ごめんね、レミー。あんな奴を家に入れたのが間違いだった。今度からは、どんな奴でも追い返すからね?」


お姫様抱っこをされてリビングへ連れて行かれる最中、兄が半泣きで懺悔してきた。

いや、さっきの女の人、公爵令嬢でしょ?

あんな奴って、あっちのが身分が上じゃないの?

それに、どんな奴でも追い返すって、国王とか公爵家当主とか止めてよ。マジで。


リビングに着くと、ソファーに降ろされて患部を皆にじっと見られた。

いや、そんなにガン見しなくても……。


「扇の角が当たったようですね」

「お痛わしい」

「お顔にこのような……」

「そんなに深くなくて良かったよ。レミー、ちょっと我慢してね」


散々見た後、それぞれが感想? を言うと兄が、少し離れた。

何をするのかと思ったら、パシャリと写真を撮った。


バンッ!!


「レミー様ぁーーー!! 大丈夫ですかぁーーー!!」


必死の形相で、ミアンが救急箱を持ってリビングに入って来た。

びっくりしたわ!! ミアン!!

もうちょっと大人しく入ってきなよ!!


「いやぁぁぁ~~~!! 顔に傷がぁぁぁ!!!」


うん、ミアンが一番うるさい。

見兼ねたスーさんがミアンの側に行き、声を小さくさせ大人しくさせたかと思うと、ミアンの手に有った救急箱を奪っていた。

何という早業。

そして、消毒液を出して、患部の消毒をしてくれた。


「レミー、この写真も証拠として送りつける。女の子として顔に傷が出来たと知られると不名誉かもしれないけど、いいかい?」


「ええ、気にしませんしいいですよ。というか、たぶん綺麗に治りますから」


「「「「「本当に?(ですか?)」」」」」


グイッと詰め寄られて、ちょっとタジタジになる。


「う、うん。鏡で見てみないとはっきりとは言えませんが、切れているだけなら大丈夫だと思います」


「「「「「良かった(です)」」」」」


皆、ほお~と息を吐いて安心していた。

消毒の後に鏡を使って患部を見ればただの切り傷。

うん、5秒で治るわ。


回復魔法でサクッと傷を治すと、何故か皆に涙ぐまれた。

「傷が残らなくて良かった」と。

兄は、いつものようにぎゅうっと抱きしめると、膝の上に私を乗せて頬で頭をスリスリスリスリ……。

スリスリが半端ない!


いつもの発作よりも酷かった。

髪がぐしゃぐしゃになったし。

気分が持ち直したのか、スリスリに満足すると兄とダーンさんは黒い笑みを浮かべてリビングを出て行った。


「ロンバルディ公爵様にキチンとご報告とお話をしないとね……」


という言葉を残して。

(―――ロンバルディ公爵様、会った事はありませんが禿げませんように……)

はあ……なんか気疲れした……。


ミアンにお茶を入れて貰って少し気分を落ち着けよう。


家に帰ったら、訳も変わらず扇を顔にぶち当てられた事にイラッとしたが、その後の兄達の完全無表情&物理的圧力に怒りは収まった。

というか、萎んだ。

あんなスゴイ視覚的物理的恐怖を近接で体験して思ったんだよ。

『この人、徹底的に仕返されるな』って。

私よりも策略に富んだ兄に仕返されるって、人生詰んだとしか思えない。

なら、私が仕返す必要は無いね。

ま、兄にお任せします。

兄のお客さんだったし。


「はぁ~……えっと、何するんだったっけ?」


ビックリ出来事があって、家に帰ってから何がしたかったのかスポンと飛んでった。


「レミー様、まずは湯あみをなさってはいかがですか? 街を歩いて埃っぽくなっていますし、心も落ち着くと思いますよ」


スーさんの提案に乗りました。

汗をかいたしね。

すでに、湯あみの準備はバッチリしてあり、即刻連れていかれた。

“一人で出来るもん”を発動しても、スーさんとミアンに笑顔で却下されて、大人しくされるがままに……。

サッパリしたからいいけど、そろそろ一人で入ってもいい気がするのは、辺境伯爵令嬢としておかしい?


湯あみを終えて部屋に戻ったが、買った魔道具を見ても頭が働かない。

うん、あのビックリ出来事のせいだな。

今日はもう作業はしないことにします。

明日の予定を立てて、のんびり過ごそうっと。


「レミー様、オルコ様がお呼びですがいかがいたしますか? お疲れなら休んでいて構わないとおっしゃっていましたが……」


と思ってたら、兄からの呼び出しが。

悪だくみ……じゃなかった、仕返しの相談ですよね?

行きますとも!

当事者ですから!


読んでくださりありがとうございます(* ̄∇ ̄*)

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