08 ザンニ国の貴族さん
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「ま……まいどありー……」
魂が口から出そうなほど萎れたおじさんの店を後にした。
買った魔道具が気になるけど、まだまだ色んなお店を見てみたい。
買った魔道具は全てニールに持たせ、また、露天を覗き見しながら歩いていく。
値切りで鬱憤を晴らしたスーさんはいつものおっとり笑顔。
今度から、買い物は必ずスーさんにしてもらおう。
面白いものあるかな~? とキョロキョロしながら歩いていると、エドワードとアルバートがススッと前に出てきた。
「おい。邪魔だ。どこに目をつけてるんだ」
エドワードとアルバートの背中しか見えないので、誰が言ってるのか見えない。
声は、若い男の人のようだ。
「おお? すまん。ちょっとこの店が気になって見てなかった」
「悪かった」
エドワードとアルバートが片手を上げて軽く謝る。
「俺の邪魔をして、悪かったで済むと思うのか?」
「はあ? ここは皆が歩く道だ。混雑してるから、誰かの邪魔になるのは当たり前だ。だから、皆悪かったで済ますぞ?」
「そうですね。貴方の道ではありませんし、貴方も後ろの方の邪魔をしていますよ?」
凄んでくる男に、呆気に取られた様子で言い返す、エドワードとアルバート。
周りの人も言い合いになりそうな雰囲気に、遠巻きに見始める。
「なっ!」
「ほら、後ろ見てみろよ」
エドワード達が話している隙に移動して、私達も野次馬にまざって若い男を見てみる。
ガタイが言い訳でもなく、顔も普通で、ちょっと服が良さげな感じ。
平民の服装をしているエドワード達を見下している雰囲気もする。
「俺は、ザンニ国の貴族だ。無礼だぞ!」
「えっ? 俺らちゃんと謝ったよな?」
エドワードが呆れた顔で言った。
「貴族に楯突いてただで済むわけ無いだろう!」
「別に楯突いてないぞ? 謝ったし、本当の事を言っただけだが?」
「僕たちは貴方に怪我をさせたわけでもありませんし、既に謝罪もしています。どこが楯突いてるんでしょうか?」
ザンニ国の貴族の言うことに“なんだコイツ?”と首をかしげる二人。
そうしていると、向こうの方からバタバタ、カチャカチャと音が聞こえてきて、野次馬が道を開け始めた。衛兵が来たんだろう。
「何事だ!」
人を掻き分けて、ザンニ国の貴族とエドワード達の側に衛兵二人が寄ってくる。
「この男が、歩いていた俺の邪魔をしてきた。そのあと楯突いてきたから、捕らえろ!」
ザンニ国の貴族の言い分に、衛兵達も唖然としている。
「あ~、衛兵さん。俺ら気になる露店があって、その店に寄っていったんだ。そしたら、この方の前にいきなり出ちゃったみたいでな。謝罪はしたんだ。だけど、謝罪じゃ済まされないってこの方は言い張るんだ。なんか、ザンニ国の貴族らしいよ」
「……」
「こいつらは俺に無礼なまねをしたんだから、捕らえるのが当たり前だろう!」
「……ハァ。とりあえず、お互い詰め所に来てもらおう」
「何故俺まで行かなければならないんだ!」
「貴方様は、平民の商業区域に入る際に注意を聞かれませんでしたか? 平民の商業区域に行くなら、平民の常識で対応されるのが普通ですから、犯罪行為や怪我が無い限り多少の言葉遣いや対応についての揉め事はご容赦頂くように言われているはずです」
「こいつらは俺を侮辱したんだぞ!」
「あ~、普通はすまんで済ますって事と、この方も他の人の邪魔をしてるって事を言ったんだ」
「ハァ。君らの言うことは間違いではないが、言い方がな……。貴方様も、貴族街に貴族様用の店がありますし、わざわざ平民の商業区域へ来られるなら平民として扱われるのが普通だとご存じのはずです。偶然、道を塞いだことを侮辱というのは、貴方様のご人格が疑われますがよろしいのですか?」
「なにぃ!」
自分の言い分が認められないザンニ国の貴族は顔を赤くし、対応している衛兵Aとエドワード達を睨む。
野次馬も他国の貴族が詰め所に連れていかれるらしいとヒソヒソと話をして、揉め事を見物している。
あ~、これはエドワード達が詰め所につれてかれるなぁ~と思っていたら、仲裁に入らずに一歩下がっていた衛兵Bと目が合った。
「っ!!」
目を丸くして私を凝視する衛兵B。
そっと目線を外して、知らないふりをする。
しかし、衛兵Bは“何でここにいるんですか?!”と驚愕の表情で私を見る。
顎が落ちそうだよ? 衛兵Bさん。
完全にバレたので、にっこりと笑顔をプレゼントしてみた。
すると、衛兵Bさんは私から視線を外し、衛兵Aさんに耳打ちをした。
あれ私の事を言ってるんじゃないだろうか。
耳打ちをされた衛兵Aさんは、目を見開いてバッと振り向き、私を確認した。
目が合ってしまったので、小さく手を振っておく。
ザンニ国の貴族が衛兵達のやり取りにつられて、私の方を向いたのでサッとスーさんの後ろに隠れておいた。
だって、目立ったら面倒くさそう。
「さっきから何をコソコソしてるんだ!」
「申し訳ありませんが、お互い詰め所に来ていただきます」
「だから、俺は行かな」
「決まりですので来ていただきます。来ないとおっしゃるなら、貴方様にも罰が与えられますがよろしいですか?」
「なに?」
「この場には、確実に貴方様より地位の高い方がいらっしゃいます。貴方様の理屈ですと、その方の邪魔をした貴方様を罰しなければなりません」
「ぐ‥‥‥」
ザンニ国の貴族は、ますます赤い顔になって手を握りしめる。
額にうっすらと汗が出てきたので、怒りもあるけどマズイ気持ちもあるのかな。
私としては、さっさと終わらせてほしい。
「彼等を許して、貴方様が心の広い事を示してこの場を済まされた方がよろしいのでは?」
「……わかった」
衛兵達の冷たい視線に負けたザンニ国の貴族。
揉め事が解決したと、野次馬も見物をやめて人の流れに身を滑り込ませていく。
周りの人垣が無くなり、ザンニ国の貴族とエドワード達は一緒に、衛兵達に連れていかれた。その背中を見送っていると、ニールに声をかけられた。
「レミー様、護衛が少なくなってしまったので今日はもうダメです」
ええええええええええ?!
びっくりしてニールの顔を見たけど、真剣な顔をしているので、本当にダメなんだと解った。でも!! まだ見たい!!
見れないことが悲しくって、目がウルウルしてくる。
危ないから仕方がないと解ってはいるけど、せっかくのお出掛けが二時間で終わってしまうとは。
顔を伏せてコクンと頷くと、スーさんとニールに両手を繋がれた。
「また、来ましょう。今度は、どんな物が見たいですか?」
「帰ったら、買った魔道具をどうされますか? 解析してみます?」
気落ちしている私を明るい声で慰めてくれる二人。
まあ、また来ればいいので、次の楽しみにしておこう。
そう気を取り直して、昇降所に向かって歩き出す。
スーさんとニールもホッとして、笑顔で一緒に歩いてくれる。
帰ったら、スーさんの旦那さんの魔道具を解析して、質が落ちた理由を考えてもいいし、新しい便利魔道具―――日常生活に添ったもの―――とか考えてもいいし、戦闘用魔道具とか開発してもいいな。
あの、時限爆弾風をもうちょっと改良したら、タイマー式的なものが作れるんじゃないだろうか。
帰ってからの予定を頭で組み立てていると、自然に楽しくなって笑顔になる。
よし!帰ったら魔道具の解析しよっと♪




