06 口座のお話
ニールとスーさんに連れられて、ルーナ商会の商談用の個室を借りました。
エドワード組は私達の話に目が点になった後、肩を震わせて扉の外に待機しに行きました。
そんなにおかしいかな?
ミアン組はお茶の用意をしたら、店内を散策するそうです。
いいな~。私もそっちがいい。
「では、お話ししましょうか」
扉の横の壁にある魔道具を起動して席に座ったニールが真面目な顔をして話し始めた。
扉横の魔道具は遮音の効果があり、商談の内容を外に漏らさない為に設置されているので、今回も他所の人には聞かれない方がいいと判断したためにニールは起動させたとの事。
「レミー様は商業ギルドや冒険者ギルドの勉強をされていますので、ギルドカードや特許料、口座などの事はご存知だと思います。まさか管理を誰がしているのかご存じなかったとは、私達も驚きました」
驚きを含んだニールの言葉にシュンとなる。
はい。すいません。
今まで生活に必要なかったから、あんまり考えてませんでした。
「ルーナ商会に関する利権書や口座は、会長のバルフェ様が管理されております。しかし、バルフェ様はご領地の政務等でお忙しいですので、現在はオルコ様がほとんど管理なさっています。今回の視察の費用もオルコ様より頂きました」
「そうなのね!」
おお、兄が!
あれ? でもお金の出どころは? どこの誰の口座からなの?
「それ以上の事は、私達は存じ上げません」
「え?」
なんですと?
呆気に取られてニールと見つめても、首を横に振られる。
「私達はレミー様のサポートは致しますが、お金の管理等のレミー様の生活を左右する重要な事はしておりません。と言いますか、出来ません」
「……なんで?」
「レミー様は未成人ですので」
「あ」
そう言われると、そうでした。
私、未成年。保護者の許可が必須でした。
お金はもちろん、利権やその他諸々の財産管理は、保護者がするものでした。
「じゃあ、口座の金額とか生活費とかは、お兄様に訊けば分かるのね?」
「はい。オルコ様がご存じだと思います」
「分かった。お兄様に訊いてみる」
いや~、お金を使う機会がないからって、自分の財産の事忘れてたわ。
うっかりしていた自分に少し落ち込んでいると、今度はスーさんから声がかかった。
「レミー様は、なぜ今になって気になったのですか?」
ですよねぇー。今更なんですけどねー。
「……思ったよりも音声レコーダーが店頭に並んでるから、ふと思い出したの。特許料の事」
「そうだったのですね」
「うん。外に出かけないから、人気があるって聞かされてても実感がなかったの。ルーナ商会の細かい売り上げとか気にした事なかったし、開発が楽しくてそっちに気が向いてて……」
「そういえば、楽しそうに新商品を開発されてましたものね」
くすくすと零しながらスーさんが私を見つめる。
ええ。楽しかったですとも。
お外に出るなと言われて、やれる事といったら勉強か開発なんだもん。
「レミー様、お口がとんがっていらっしゃいますよ」
でれっとした顔で突っ込んでくるなニール。
ちょっと気持ち悪い。
気恥ずかしさを抑えながら、スーさんを見ると慈愛の笑みが心に突き刺さる。
……恥ずかしいんですが……。
生活に不可欠なお金のことを忘れていた私が悪いんですが、なんでこんなにも恥ずかしいんでしょうか。
お布団ありませんか。お布団。
被りたいです。
「……で、結構な数の利権書を持ってるはずだし、どうなってるのかちょっと気になって……」
「そうですね……」
視線を外して考える素振りをすると、スーさんはきっぱりと言った。
「恐らく、レミー様のご想像をはるかに超える金額が口座にあると思います」
「え“?」
ニールもうんうんと頷いている。
まじっすか?!
「私が今覚えているだけでも、13件の利権書はお持ちだと思います。その全てに特許料が発生致しますので、許可料の分だけでも相当な金額になっているのではないでしょうか。それに、レシピ使用料も10年間入ってきますので……」
段々とスーさんの顔色が悪くなってきた。
「えっと、スー、大丈夫?」
「ええ、少し怖くなりましたの」
ええ?!
ガッポガポで嬉しい♪ を通り越して、恐ろしいってどういう事?!
スーさんにつられて血の気が下がってきた。
「ああっ! 違います、レミー様! 怖いと申しましても、想像ですので実際は違うかもしれませんし!」
いや、フォローになってないし。
大人が怖いって思う金額って、どれくらいだ?
恐る恐るニールを見てみる。
「レミー様が優秀だという事ですので、ご心配の必要は全くございませんよ」
こっちはなぜが胸を張って、自信たっぷりだし。
優秀ってことは稼いでるって事だよね?
私としては、金額が心配なんだけど……。
結局、詳しい金額は二人とも知らないので、帰ったら兄に訊いてみるしかなくなった。
なんだか、兄の言ってた婚約の裏話が背中から追いかけてくるような気がして、ちょっぴり怖くなりました。




