03 音声レコーダーフィーバー
読んで下さりありがとうございます。
メイン道路の両脇にはびっしりとお店が軒を連ねている。
元々、貴族向けだの庶民向けだの分け隔てる事無くお店が並んでいたが、他国からの訪問者を予想して、潤った財政に物を言わせて父は区画整理を行った。
なにせ、モンスタービート会議であれこれと新作魔道具を披露してしまったものだから、絶対買い付けに他国の貴族や商人たちがやって来ると、誰もが予想した。
兄がモンスタービート会議で使った魔道具は、大勢にプレゼンしたり紙媒体ではない保管用の記録機にしたり出来るので、学校や執務、商売をしている貴族がこぞって目を付ける。
だからこそ、身分の考え方の違いで諍いが起こる事を懸念して、貴族向けと庶民向けのお店をメイン道路で分けたのだ。
大らかな気質であるマルナ領民(戦闘以外は余り気にしない脳筋とも言う)は、理由を聞いて「それならそうします」とすんなり従ったらしく、店の入れ替えはスムーズに終わったらしい。
まあ、十年に一度のモンスタービートで建物が潰される壊されるのが当たり前だし、なにより避難するときに区画が整理されていると逃げやすいからね。
それよりも、貴族に対する接客というか、マナーを徹底させる方が難しかったようで、父の弟であるラーペス叔父様が、よく私に愚痴りに来た。
いや、確かに『ゴアナ国条約違反暴露』に賛成したけれども、10歳の幼女というか小娘に執務の愚痴を言うのはどうかと思う……。
それに、ラーペス叔父様も賛成したのに……。
まあ、それはいいとして。
北の行政区域と隣り合っている、西の生産区域と東の工業区域の間にあるメイン道路とそれに続く西門・北門が貴族向け、南の商業区域と隣り合っているメイン道路と東門・南門が庶民向けになっている。
私が行きたい魔道具屋は、もちろん庶民向けの方。
邸宅から近い貴族向けの西門通りと北門通りも見てみたいけれど、絡まれそうで行きたくない。
まあ、ほとぼりが冷めたらそのうち行こうと思う。
馬車の昇降場から、店先に並んでいる商品をチラ見しながら目的の商店までテクテク歩いて行く。
「レミー様♪ こちらにも音声レコーダーがありますわ♪」
「レミー様! あちらにもございますよ!」
嬉しそうにスーさんとニールが報告してくれるが、これで五度目。
いい加減、恥ずかしいんですが。
そうして、着いた商店は他の店舗よりも3倍大きかった。
「このお店は、武具や防具、魔道具などを売る複合店です」
ニールが何故か得意気に言ってくる。
そう言われると、大体どこの店も専門店のように扱う商品が分かれていた。
「ここは、ルーナ商会が庶民向けに開いているお店なのですよ」
なんですと?!
つい、スーさんの顔を凝視してしまった。
一番の人気店は、まさかの我が家の店?!
ドヤ顔で説明してくるニールによると、今、注目を集めている魔道具は、我がルーナ商会の音声レコーダーや写真機、映写機でした。
ええ、モンスタービート会議で使ったやつですね。
まさかここまで注目を集めているとは思わなかった。
ただ、通話機や簡易郵便魔方陣(簡易移動魔方陣)は置いていなかった。
今のところ、遠くにいる人との連絡手段は、鳥や馬を使って手紙をやり取りするのが普通。
もしかしたら他国でも開発されているかもしれないけど、軍事利用される可能性を考えるとこれらの魔道具は公に広める事をしない方がいいだろう。
それに、値段が高すぎて庶民には買えない感じがする。
音声レコーダーが金貨1枚=1000ペー。
写真機が金貨7枚=7000ペー。
映写機が金貨5枚=5000ペー。
ボッタクってないか?
他の店に音声レコーダーしかなかったのは、値段の関係じゃね?
値段……というか、お金の単位はテヨーワのどの国も一緒で、ペーという単位。
鉄貨<銅貨<銀貨<金貨<白金貨 で、10鉄貨=1銅貨、10銅貨=1銀貨、10銀貨=1金貨、10金貨=1白金貨という風に、10枚ごとに貨幣が変わる。
貨幣もデザインが少し違うだけで、どの国もほぼ一緒なので、ペーを使うより分かりやすい貨幣の種類で金額を表すことが多い。
銀貨5枚で一家3人の平民が一ヶ月生活できるくらいで、前世の円で言うと1鉄貨(1ペー)=100円くらい。
『魔の森』から肉が沢山狩れるので、マルナ領は食費が他の国より安いかもしれないが。
だが、私からすると、頑張れば一日に100個以上作れる音声レコーダー―――作り慣れ過ぎてサクッと出来ます―――が金貨1枚だなんて。
兄も作れるし、ルーナ商会の作製部もジャンジャン作れるんだけど……。
そりゃあ写真機と映写機は作製部でも一日数個しか作れないけど、私はジャンジャン出来るんだよ?
流石に、通話機や簡易郵便魔方陣(簡易移動魔方陣)は私も一日に数個しか作れないけど、兄や作製部の長である部長さんは一週間に1つくらい作れるはずだし。
私と一緒に魔道具を作ってるスーさんも、兄と同じくらい作れるし。
ふと、自分の口座の金額が気になった。
ワタシハ ドレクライ カセイデイルンダ?
8才の時、音声レコーダーの利権書を貰って、商業ギルドに私の口座があるのを知った。
あれ? そういえばいつ商業ギルドカード作ったんだろう?
まあいいか。
商業ギルドでは、まず身分証を発行される。
あの、血を一滴垂らす事によって個人を判別する身分証カード!
これって、冒険者ギルドで発行される身分証も魔力で個人を判別するので、同じような魔道具を使っているんだと思う。
高額な金銭の取引をする商業ギルドや冒険者ギルドでは、お金の授受の安全性を考慮して、個人や商店で専用の口座を持つことが出来る。
「個人預金」「当座預金」って事ね。
私が気になっているのは、その「個人預金」に入って来る「特許料」。
商業ギルドには、特許制度がある。
何やら前世記憶持ちが関係している匂いがプンプンするが、絶対そうだと思う。
特許制度は、開発者を登録する制度の事。
確か、魔道具開発の盛んなラハト帝国で、魔道具の利権を巡る争いが激化した過去があって、新発想の商品は必ず登録をする事が義務づけられるようになったのだ。
魔道具は作製に大体魔石を使用するので、魔石に刻まれた魔力で誰の作品なのか一発でバレる。
だから、新発想の魔道具は、持ち込んだ商品の魔力の持ち主が開発者として登録される仕組みになる。
まあ、色々と既存する商品との発想・性能・効果・使用方法などの違いを審査されて「特許」に登録されるんだけどね。
そして、新発想商品として登録されると、同じ魔道具を作製する許可として開発者は「特許料」を徴収する事が出来る。
その「特許料」は、「許可料(一括)」と「レシピ使用料(売り上げの2~1割)」の二段階で徴収される。
開発者からすると、許可料が「レシピ販売料」で、レシピ使用料が「印税」かな。
これがあるので、一攫千金が狙える魔道具の開発は、誰もがこぞって行なっており、何とか特許登録をもぎ取って利権の特許料を得ようと必死になるのだ。
ただし、特許登録は開発者(一番初めに発明・開発した人)を特定する意味合いが強く、同時期に同じ性能・効果の魔道具を開発した者が複数人居た場合、真っ先に登録した者が開発者となる。
つまり、早い者勝ち。
また、新発想商品は真似・研究されるのが当然で、「特許レシピ」を使用しない「模倣品」は普通に作られる。
まあ、自力で特許レシピにたどり着いたら儲けものだけど、発想が理解できなけりゃレシピを買うしかないんだけどね。
このため、「特許レシピ」を使用している商店には、商業ギルドから「〇〇魔道具特許料支払店」という証明書が発行される。
要は、誰もが真似できない、仕組みや原理が謎な魔道具でないと「特許料」で儲ける事は出来ないようになっている。
うん、上手い事出来てんなぁ……。
そんな事を考えていると、言葉が耳に入ってこない。
「レミー様、こちらは――――――――――」
一生懸命ニールが店のコンセプトや方針などの説明をしてくれているけど、それよりも気になってる事があるんだもん。
話半分で聞き流しててごめんよ。ニール。
だってさ、ここまで歩いて来る間に、かなりの商店で音声レコーダーを見かけた。
利権書持ってるって事は、もしや「特許料」がガッポガポ?




