書籍化記念SS
更新が滞ってしまい大変申し訳ありませんm(__)m
―――野営訓練?
ゴアナ国王都からマルナ領に帰って来てから2か月。
父も兄も忙しいのは分かるが、私は暇だ。
音声レコーダーと共に写真機や映写機の注文が入ってくるからと、せっせと在庫を増やす以外、私に仕事は無い。
勉強は、ほとんどの先生が領政の整備に手を取られているので一時停止。
武術・魔法練習は、警備の再編成でこちらも忙しいので練習どころではない。
なので、私の使用人が合間を縫って構ってくれるが、皆もお手伝いに駆り出されているため忙しそうなのである。
そう、邸宅の中で私一人暇なのだ。
「む~……。本は制覇したし、ダンスも相手が居なきゃ出来ないし……。暇だ暇だ暇だ」
侍女のミアンでさえ、呼ばなければ部屋に来ない。
監視の無い部屋に、ポツンと独り。
ベッドの上でゴロゴロしても怒られない。
絨毯の上に座っても怒られない。
だけど、一人でしても楽しくない。
「……はあ……」
乱れた服と髪を直してソファーに腰を掛けて考えてみる。
人の手を借りる程の用事もない。
することも無い。したい事も……。
ん? したい事?
「ふっふっふっふっふっふ」
そうだ! 野営訓練したかったんだよ!
だけど、外に一人では出られないし……。
誰かに付いて来てもらっても絶対に外は反対されるよね~。
「あ。部屋の中ですればいいんじゃん」
ポンと手を叩いて、良い考えだと独り呑み込む。
周囲への警戒やテント張りは出来ないけど、かまど作りとか出来るんじゃね?
では早速。
絨毯や床を汚すといけないので、予備のシーツを敷きます。
そして、土魔法でレンガを出してみる。
「あれ?」
形はレンガなのにシーツの上に落ちるとサラサラと形が崩れてしまう。
うん、硬度が足りなかったんだな。
もう一度。
「よし」
コンっといい音がして、レンガが出てくる。
この調子で次も……。
「ありゃ……」
……出し過ぎた。まあいいか。
取り敢えず、レンガをずらして組み上げ、コの字型組のかまどを作ってみる。
うん、完璧。
「網があったら、もっと雰囲気出そうだ」
バーべキューがしたくなるが、部屋の中じゃ出来ないし。
それに、流石に鉄は魔法で出せないので省略。
だが、レンガがまだ余っている。
……どうしよう。
何か他の物……。
よし、ピザ窯作ってみよう。
ドーム状のピザ窯にしたいので、底も円形にしたい。
レンガを扇状に並べていくが、隙間が出来るし、
「……美しくない……」
台形のレンガを出そうかと思ったが、どうせ隙間ができるのなら、円形のでっかいレンガを出せばいいんだ。
よし、そうしよう。
出していた長四角のレンガを端に寄せて、直径50センチのレンガをしっかり想像して出してみる。
「おお♪ いいじゃん」
長四角のレンガを風魔法で半分に割り、円形レンガの淵の上に並べていく。
「ふんふふんふふ~ん♪」
機嫌よく四角のレンガを積み上げていくが、天井が丸く出来ない事に気が付いた。
ちょっとずつずらしながら積み上げても、バランスが崩れてドーム状に出来ない。
あれ? どうやって積んでいくんだろう?
前世の記憶にも作り方なんぞ無い。
あれ? これ詰んだ?
それに、入り口もどうやって作るんだろう?
「ぐぐぐぐぐg……」
唸っても作り方は出てこない。
レンガ同志を繋げる糊の役割のコンクリートもないし、どうやってもドーム状にレンガを組み上げる方法が思いつかない。
マジどうすればいいんだろう。
腕を組んで真剣に思い出してみる。
繋ぎになる物…………粘土?
なら、粘土質の石を出してみよう。
出せども出せども、サラサラの砂しか出てこない。
石を思い浮かべると、ちゃんと石は出てくる。
岩を思い浮かべると、岩も出てくる。
でも、粘土は出てこない。
「これは、魔力で出せる石の性質は変えられないって事?」
岩を砕けば石になるし、石を砕けば砂になる。
でも、岩を粘土には代えられない。
そういえば、水魔法でジュースは確かに出ない。
つまり、魔力で出せるものは決まっている種類の物なんだろうか。
ならば、粘土も出ない事に納得する。
あ、でも、木魔法はどうなんだろう。
蔓が出せるはずなんだけど……。
いっちょ、やってみますか。
いつものように、クルクルと巻いている蔓を出してみる。
うん細い。
人を締め上げられるような蔓を想像してみる。
「うおっ」
ぶっとい蔓が出てきた。
ここで実験。
細い蔓を木魔法で成長させてみる。
うん、木にならずにぶっとい蔓になった。
チッ。木になれば木片とか出せるのに。
「木片も出せれば、野営の時に便利なのになぁ……」
出せない物はしょうがないが、ついこぼれてしまう。
まあ、木魔法は植物成長が促せるから便利っちゃ便利なんだけどね。
それよりも、ピザ窯どうしたらいいんだろう。
この際、入り口付きのドーム型レンガを想像して出した方がいいのか?
底になる円形レンガを見ながら、ぴったりと重なる大きさのドーム状レンガを丹精込めて想像する。
入り口を作るために、一部を半円にくり抜く形にして……。
「てい」
想像通りのドーム型レンガが出てきて、ドスンと円形レンガにぴったりと乗っかった。
さすが私!! やるな私!!
ええ、自画自賛ですが何か?
きゃっほーいと喜んでいたら、それはやって来た。
「レミー様っ、大きな音がした……」
慌てた様子で、ノックもせずにガチャリとドアが開かれた。
ヤバイっ!! と振り向くと、ビックリ顔のミアンが固まっていた。
言い訳を考えて、「あの……その……」と焦っていると、ミアンはくるりと向きを変えて走り去った。
「オルコ様~~~~~!!」
やっやめて~!!!
止めなければ! と立ち上がるが、開いたドアからスーさんが入って来た。
「あらあらまあまあ」
部屋の惨状を見て目を丸くするが、微笑ましそうな顔で近寄って来た。
冷や汗を掻きながら、どう逃げようかと算段していると、バッチリ腕を掴まれた。
ですよね~。
部屋の中に、レンガや岩・石・砂・蔓があるのはダメだよね~。
ああ、ドナドナがどこからか聞こえてくる……。
「どうした!」
「何があった!」
「レミー!!!」
ドタドタと走って来る足音が、私にはドナドナと聞こえるがな。
「はあ?」
「え``?」
「どうしだんだい、これ?!」
ジョンとニール、兄のビックリ顔、3つ頂きました~。
すんません。暇だから、遊んでました~。
もう、こうなったら開き直ってやる。
「野営の時にかまどをちゃんと作れるように練習していました」
キリッとドヤ顔で言ってみた。
「だからって、部屋でする事ではないよね? レミー?」
ヒヤッとする冷たい声で兄が言って来た。
そうですよね~……。
うん、分かってるよ。
でも、部屋が汚れるのはシーツを使って防いだし、作った物は苦労して実現させた【亜空間倉庫】に入れればすぐに片付けられるよ?
心の中で言い訳をしながらチロリと兄を見てみると……。
『このクッソ忙しい時に何をしているんだい?』
とコメカミに青筋を立てて微笑んでいる兄が居た。
アババババb……。
冷や汗が滝のように流れてますが何か?
「そうですわね。申し訳ありません。すぐに片付けますわ」
これ以上兄を怒らせまいと、魔法で出してしまった物をささっと亜空間倉庫へ移動させる。
よし! 証拠隠滅!
部屋は汚れてないし、あとはシーツを洗えば問題なし。
とっととシーツも洗ってしまおう。
50センチほどの水球を出してシーツを放り込む。
そして以前洗濯場にお邪魔した時にもらった洗剤も放り込む。
あとは、水球に魔力を流してグルグルと回す。
砂汚れが無くなったところで、窓を開けてシーツを掴んで水球だけ庭に投げる。
そして、すすぎの為に水球を出してシーツを放り込む。
これを一応三回。
今度は脱水のために風球を出してその中にシーツを放り込めば、あら不思議。
遠心力で水分は飛ばされ、シーツがほんのり湿っているくらいに。
最後に風球の近くに炎球を出してしまえば、乾燥もあっという間。
綺麗になってフワフワなシーツを畳んでしまえば、部屋の中はいつも通り。
この間、5分。
皆私が何をするのか眺めていたが、突っ込みは入らない。
よし、このまま逃げよう!
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
部屋の中も一応【浄化】をかけて、シーツを片付けるためにしれっと部屋を出て廊下にある物置に向かおうとした。
え? シーツも【浄化】でいいんじゃないかって?
それがね、【浄化】は綺麗にはなるけど、汚れを落とすだけでお日様の匂いとかホカホカした感触とかがないから、普通に洗濯した方が好きなんだよ。
後ろを振り返らず―――皆の顔を見るのが怖いから―――焦っているのがバレないようにドアへ歩くと、
「ちょっと待ちなさい」
今度は兄に腕を掴まれた!!
やべぇ!!
ここは、白を切るしかねぇ!!
「お兄様、何か?」
「……レミーは随分と時間が余っているんだね。それなら、僕のお手伝いをしてもらおうかな?」
(暇だからこんな事をやらかすんだね。なら、暇が出来ないようにお仕事をあげよう)
兄の心の声がバッチリ聞こえた!
冷え冷えとする声に、私の暇時間は終わった……。
くすん……。
にこやかなのに黒い笑みを浮かべた兄に抱っこ―――逃げられないように拘束―――された私は、兄の執務室にドナドナされた。
(―――のおぉぉぉぉぉ……暇つぶしの楽しみがぁぁぁぁぁ……)
更新を待ってくださっている方々には大変ご心配をお掛けしております。
第二章の見直しをしましたが、筆が進まず・・・。(;・ω・)
この記念SSが良いきっかけで、長文を書こうとするのが不味いのだと気がつきました。
書籍化で緊張と不安が先立ち、楽しく書くことが遠退いてしまったのだと思います。
ですが、このSSのおかげで、楽しく書くことを思い出せました(笑)
拙い作者ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m




