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ゴアナ国その後③貴族会議

読んで頂きありがとうございます(* ̄∇ ̄*)


罰金支払で体力も気力も財力も奪われている貴族達の会議です。

 国内処罰施行後に、貴族会議が開かれた。


 モンスタービート議会による領地・個人の罰金徴収後、ゴアナ国貴族達は、いきなり負債を負わされた鬱憤を晴らすかのように、怒濤の勢いで上層部を処罰した。怨み辛みがかなり込められた処罰決定会議では、処刑を求める声が沢山上がった。

 しかし、引き継ぎの問題を考えて、結局 役職や爵位の剥奪・爵位降格となった。

 ただ、今後は国民の怒りを一身にかってしまうため、処刑されなかったことが良かったのか悪かったのか‥‥‥。そう、彼等は国民への人身御供でもあるのだ。

 そうしてゴアナ国は、国王や各部署長・評議会議員が揃って空席となった。


 その空席を埋めるための国王・上層部の選出は、本来は国の中枢を担う役職者や評議会の面々で行われるが、処罰で人数がかなり欠けたために、いつもは呼ばれない 各領主並びに領地を持たない貴族達も集めるだけ集められた。ぶっちゃけ、責任が取れる爵位を持つ人員が足りなくなったから、呼ばざるを得なくなったのだ。


 初めて呼ばれた者の中には、自分の意見を言えるチャンスとばかりに、会議開始と同時に現状報告と怒りの発言をしようと考えていた者がいた。ただ、同じ事を考えた十数人が一斉に発言したので、会議開始から誰が何を言っているのか解らない状態になってしまう。しかし、各人ともお互いに順番を譲ろうとはせず、むしろ、俺の意見を聞け!とばかりに声を張り上げいく。

 見兼ねた人が注意すると、今度はその注意をした人に文句をぶつけだし、あちらこちらでケンカの言い合いになり始めた。


「負債の額が大きすぎて、我々も領民達も生活が苦しくなるのは当たり前でしょう!」


「なっ!その様なことを言っているのではない!」


「皆様、席にお座りください!」


「さっきから、金を返せだの!重役になる人間は借金を減らせだの!負債額が少ない領地に対して不正をしただの!愚痴と八つ当たりばかりで何一つ建設的な話し合いになってないではないか!今は、この国の今後を担う王と重役を推薦しなければならないのだぞ!」


「いきなりの罰金徴収で、領地が困窮に陥っている事はこの国の今後に関係無いといわれるのか?!」


「私は、国政策への決定権を持っていない者達が、なぜ莫大な負債を領地並びに個人で追わなければならないのかが、不当だと抗議しているのだ!」


「今までの国の失態をカバー出来る手腕と国際的評価を持っている事が絶対条件だと思われますが、どうお考えですか?」


「皆様、席にお座りください!!」


「ですから!議題に関係無い発言は控えた方がよろしいですと申しているのです!貴方はきちんと国際的処罰の内容を理解されよ!」


「モンスタービート議会から提示された各領地・各貴族別の負担は、各々に対する国際的評価だろう!自分達の立場を今一度考えて発言されてはいかがか!」


「◇$¥*%◎※☆△!」


「$|¥∧※▼★●△〓∋¥¢%!」



 一生懸命着席を促しているのは、進行役。いくら声を張り上げても、感情的になっている者達へは届かない。半泣きになりながらも、己の任務を遂行しようとする姿は‥‥‥可哀想になってくるほどだ。


 それにひきかえ、自分の意見を披露する者達の多いこと。


 負債返済で精も根も金も尽き果てた貴族は、自分の生活や領地の経済状況が苦しいから国が支援しろと訴えるものが多かった。彼等は、とにかくお金がないのでそこを誰かにどうにかしてもらいたいと思っている、所謂他人任せの者なのだ。しかも、一人が言えば、「自分も支援してもらいたい」と 便乗して声を上げる者が増えていく。


 また、「不当だ」と喚いている貴族は、モンスタービート議会から請求された負債に抗議をしてはどうかと訴えていた。彼らは、ぬるま湯に浸かり傲慢さや自分勝手さを無自覚に育てているため、自責の念がないから「払わなくてもいいんじゃないの?」と言っているのだ。


 そして、国際的処罰を受け止めている貴族は、議題に関係無い訴えに反論を言っていた。ただ、話し合いの邪魔になるから注意をしているのだか、相手があまりにも分からず屋なため、どんどんヒートアップしてしまい口調がキツくなってしまっている。言い合いになっている彼等は、根本的な価値観や思考力が決定的に違っていて、話が通じないのだ。



 それぞれが訴えや反論など思いをぶつけ合っているなかで、マルナ領地に隣接している数人の領主達が、「そろそろいいのでは」とお互い目配せをし始めた。


「少し宜しいですか?」


「支援しろ」VS「不当だ」VS「邪魔だ」の言い合いを白けた目で見ていた、マルナ領地の次に「魔の森」に近い領地を持つフール領主が、スッと右手を上げた。


 自分の意見を言うことに夢中になっている者達は、当然気付かずに声を張り上げ口を動かし続けていたが、国王・上層部の選出について真面目に意見交換していた者達が口を閉じ、フール領主の顔を見つめる。多人数が同じ方向を見ていると そこに何があるのか気になって見てしまうのが人間の性で、口を動かしていた者達も振り向き始めた。


「皆様、ご意見がお有りのようですが、この場は国王・評議会議員・各部署長の選出が最優先事項ですので、そのお話をしませんか?支援要請や負債見直し請求は、また違う機会に話し合いましょう?」


 苦笑いを浮かべて子供に言いきかせるように柔らかく言われると、関係のない話をしていた者達は、フール領主から目を逸らしたり、顔を赤くしたりして、口を閉じて着席した。

 フール領主は、その様子を「良くできました」と笑顔で見守り、話を続けた。


「皆様の訴えは、国王・評議会・上層部の承認を必要とする事案です。現在その役職は空席ですので、実現はまず不可能でしょう。ですから、実現可能にするためにも、その空席を早く埋める話し合いをしましょう。」


 フール領主は、会場にいる貴族達にニコニコと笑顔を振り撒いて柔らかく皆を諭し、ピリピリした空気から話し合いのできる雰囲気へと変えた。そして、そのまま進行役へ目線を滑らし、会議の進行を促した。


「んっんう!ありがとうございます。」


 進行役は目に溜まっていた涙を拭い、気合いの咳払いをした。


「国王・評議会議員・各部署長の選出が議題です。まず、優先順位、選出条件、選出期間、選出決定日、また選出決定までの業務遂行形態などを決める必要があり、またそれぞれを話し合う期限」


「そんなまどろっこしいことせずに、今すぐ投票でもすればいいんじゃないのか。」


「さっさと決めればいいのに」


「‥‥‥それぞれを話し合う期限も決めておかなければなりません。」


 進行役が会議の流れを説明していると、ボソリとヤジが入る。ただの説明にも文句を言われ、進行役が言葉に詰まった。

 そこで、ある貴族が手を上げた。


「集められた者の中には、このように大人数での会議に参加したことがなく、ルールが解らない者がいるようだ。そこを始めに話してはどうだ?フンッ」


「なっ!なんだと!」


 シニカルな表情で嫌味を言った貴族とヤジを言った貴族がにらみ合い、バチバチと火花を散らす。


「まあまあ、落ち着かれてください。発言を宜しいですか?」


 フール領主が穏やかな笑みを浮かべて仲裁に入る。

 進行役に確認を取り、会議中のルールの必要性・有効性と進行役が言った一つ一つの懸案事項がスムーズな会議進行の為に最良であることを話し、フール領主は出席者全員にルールの大切さを意識させた。


 そのおかげで、その後話し合いが中断することがなくなり、少しずつ検案事項が決定されていった。


 まず真っ先に決められたのは、選出決定までの業務遂行形態。

 上層部がモンスタービート議会に拘束されてから政務が滞り始め、現在各部署長の机の上は書類タワーが何本もできている。官吏達は溜まっていく書類に阿鼻叫喚し、貴族を見かけると捕まえて国政危機と上層部の早期就任を切々と訴えるという、なかなか迷惑な行為を頻繁にしていた。それで、かなりの貴族が国政の停滞を知っており、一番に話し合われたのだ。


 次に決められたのは、検討する順番。そして、それぞれの事案の話し合いの期限。それにより、選出決定日がおのずと決まった。

 各事案の話し合い期限はあくまでも予想と目標とし、選出決定日も目標とされた。


 なんとか会議が進んでいるなと、進行役がほっと息を吐いて時間を確認すると、今日の会議終了の時間まで10分程となっていた。キリもいいだろうと、進行役は今日の会議を終わらせようと口を開いた。


「皆様、間もなく会議終了時間となります。キリが良いので本日はここまでとさせて頂いてよろしいでしょうか?」


 皆の顔を見回し、反対意見があるか確認していると、フール領主がニコニコしながら手を上げた。会議進行中、フール領主に何度も助けられていた進行役は、快くフール領主の発言を促した。


「フール領主様、何でしょうか?」


「明日から選出決定日まで、話し合いが続きますね。お互いに意見をしっかりと持っていることが、今日の会議で解ったと思います。その中で、少し気になることがありました。もしかしたら私の思い違いかも知れませんが、確認しておいた方が良いのではないかと思います。」


「‥‥‥確認ですか?」


 会議がなんとか進んだ事にホッとしていた進行役は、話し合い中に特に気になるような事は無かったし終了時間が迫っているのに、と 少し戸惑った。


「どのような事でしょう?」


 貴族たちも気になるのか、フール領主に注目して発言を待った。


「今回の処罰についての共通認識の確認ですね。」


「共通認識ですか?」


 進行役は首を傾げた。


「そうです。絶対にしなければならないのは、条約違反をした原因の確認でしょうね。それと、私が気になったのは、違反内容、モンスタービート条約、そして、この国と国民の国際的評価、の確認ですね。あと出来れば、モンスタービート会議内容でしょうか。」


「‥‥‥多いですね」


「そうですね。ですが、私は、大切な事だと思いますよ。」


 時間を気にしてつい本音が出てしまった進行役。その様子に、フール領主は苦笑いを返した。


「我々は今回のモンスタービート会議内容をほとんど知りません。議題、進行状況、条約違反の露見理由、我が国の対応、各国の対応、各国からの要請など、詳しい内容を知らずただ処罰のみを簡潔に伝えられました。知らない事は大変危険な事だと思います。知らないからこそ、同じ事を繰り返してしまう可能性がありますから。」


「なるほど。」


 進行役も貴族たちも、下された処罰内容以外の詳細を知らないことに気付きだした。


「少し宜しいか?」


 難しい顔をした貴族から手が上がった。


「フール領主殿が言っている事は理解できる。しかし、どうやって確認するのだ?」


 自分だけが知っている情報を曝すのは、優位性を無くしてしまうことになる。貴族にとっては、武器を相手に渡すようなものだ。

 彼は、そんなことはしたくないと難色を示した。


 進行役も、どうやって確認するのだろう?とフール領主を見つめた。


「聞けばよいのですよ。」


 フール領主は、人に頭を下げて教えを請う行為を何とも思わない様子で笑ってキッパリと言った。

 矜持が無いのかと呆れて貴族は聞き返した。


「はん。誰に?」


「勿論、モンスタービート議会にですよ?」


 見下されていることも気にせず、満面の笑みでフール領主は答えた。


「はぁあ?」


 フール領主に質問していた貴族は、予想外の答えにびっくりし過ぎて 口の悪さが出てしまった。進行役も他の貴族達も、「敵対視している相手に教えを請う事は命を差し出すのと同じ事ではないか?!」と、フール領主の発想に驚愕し、口が開いていた。


「なっ!貴族としての誇りはないのか!」


 何故わざわざ無能を曝すような真似をするのかと、質問していた貴族がフール領主に詰め寄る。他の貴族達もキツイ視線をフール領主に向けた。

 フール領主は、全方位からの刺さるような視線を気にした素振りもせずに、微笑んだまま貴族達の顔をぐるっと見回した。

 そして、全員の表情を確認したかと思うと、元の方向に向き直って、にこやかだった表情をバッサリ無くして無表情で言った。


「勿論、ありますよ?‥‥‥‥‥‥ですが、貴方とは少し違うようですね。」


 刺すような視線を送っていた貴族達は、雰囲気が一気に変わったフール領主にびびって固まった。


「『貴族としての誇り』にしても、私と貴方が違うように、人それぞれ違います。それは、個人の問題ですからいいでしょう。しかし、此度の『条約違反』は、条約に対する『我が国の認識』と『各国の認識』が違っていたから(・・・・・・・)国際的な問題となりました。『条約に対する認識』は、間違えたらいけないのです。ですから、他国と同じ認識、共通認識を持つ必要があると私は、先ほどから言っているのです。間違いを正す為には、個人の思惑や感情など必要ありません。」


 フール領主は、片眉を上げてピシャリと言いはなった。

 急に雰囲気の変わったフール領主に、進行役はびっくりし、「怒らせるとこうなるんだ‥‥‥」と冷や汗をかいた。

 他の貴族達も、フール領主の迫力に顔色を悪くして視線を外した。


 フール領主に詰め寄った貴族は、無言のまま視線をウロウロさせて気まずそうな様子になっている。どうすればこの場を収拾できるのか考えているのだろう。

 その様子を見て、フール領主はクスリと笑って表情を戻し、笑顔で言った。


「共通認識って、大切でしょう?」


「あ‥‥‥ああ‥‥‥」


「ここにいる我々の中から、上層部が選出される可能性もあります。ですから、正しい共通認識を皆で持ちましょう?」


「「「「「ああ。(ハイッ!)」」」」


 フール領主の笑顔に何故か迫力を感じてしまった貴族が、つい一緒に返事をしてしまった。まるで、フール領主が保父さんに見えるのは気のせいだろうか。




 ほどよい緊張と柔らかな雰囲気のまま、会議は終了した。


 言い出しっぺがお願いしろと、モンスタービート議会に教えを請う役を押し付けら‥‥‥担ったフール領主。

 にこやかな笑みを浮かべたまま部屋から出て行こうとするフール領主の後ろ姿を、皆、思い思いの顔で見送った。

 陶酔した表情で見送る者。

 苦々しい表情で見送る者。

 無表情で見送る者。

 口元を歪めて見送る者。

 ニヤリとして見送る者。


 皆の視線を背中に感じながら、ドアをくぐった瞬間、フール領主は、





 ――――――――――冷笑した。







フール領主‥‥‥怒らせると怖いです。((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル

感想でもいただきましたが、「知らない」って、誤解や勘違いを生んで、不満や不安を抱かせる原因でもありますよね?なので、恥を忍んで正解を聞きにいきましょうと言うことです。

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