ゴアナ国その後②王妃と側室
レミーナにやらかした第三王子の話があります。
ご想像と違うかもしれませんが、読んでいただけると嬉しいですm(__)m
王妃と元王太子のある日のお茶の席でのこと。
活気の無くなっていく王都と殺伐としていく王城に、心を痛めていた王妃が、国内処分で王太子の位を白紙にされた息子を呼び、心の内を話しだした。
「そなたには、不甲斐ない母親であり、王妃であろう。わたくしがもう少し要領よく立ち回っていれば、そなたの王太子の位も白紙とならなかったであろうに‥‥‥。」
「いえ、母上のお陰で、各国の我が王族に対する不信感が和らいでおります。私が、王太子として相応しい振る舞いが出来なかった責任ですから、母上が気に病むことはありません。母上の教育を受けながら、私は迷っておりました。母上から教えて頂いたことと、教育係から教わったことの違いに、どちらが正しいのか自信が無かったのです。」
「そなたを国内の政務ではなく、外交の場にもっと参加させれば良かったのか‥‥‥。」
「今さら、何を言っても詮方ありません。」
「そうであるの‥‥‥」
「私は、王太子を白紙にされましたが、除外された訳ではありません。道のりは厳しいかもしれませんが、可能性は残っております。王族の責務として、苦しいこの国を少しでも良くしていけるように尽力致します。」
うららかな天気のもと、心痛な面持ちで息子に話をする王妃。それに対して、何かを吹っ切ったかのように、穏やかな表情をしている元王太子。
以前は、王妃の教育に戸惑いを抱いていた元王太子が王妃を少し避けていたので、こんな話も出来なかった。しかし、今回の条約違反発覚により、この親子は距離を縮め、国の未来を決める者として、同じ方向を向き出した。
王妃は国王の言動を止められなかった事を重く見られつつも、外交手腕の評価がソコソコあったために、各国から同情の眼差しが送られた。聞けば、国王に進言をしていたら国内の貴族に疎まれるようになったという、王妃の境遇。この国の上層部の『常識からどこかずれている対応』を知っている各国の代表者達は、大変納得した。「さぞや話の通じない日々だっただろう」と、皆が労る想いを抱いた。しかし、この国が行ったあまりの事の重大さに、手心を加える訳にはいかなかったため、『国王に次ぐ権力者の責務』として、罰金が課せられた。
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「どうして一度着たドレスを着ないといけないの?!新しいのを作らせなさい!!この前も――――――――――。」
母上が侍女達を怒鳴り付けている声が今日も聞こえる。きっと服が気に入らないんだ。僕だって気に入らない。僕の服も前と違ってゴワゴワしてるから、何度も何度も侍女に違う服に変えろと言った。けど、いつだったか、侍女頭と侍女達が揃って僕のところに来て説明を聞かされた。
「無いものを着せろと言われても、無理です。」
と。少し前まで着ていたから絶対にあるのに、そんな嘘をつくから
「嘘つきは要らない!今後、僕に顔を見せるな!」
と命令した。そしたら、侍女頭は眉間にシワを寄せて僕を睨んできた。だから、僕は睨み返して
「少し前まで着ていたから、絶対にある!無いなら、お前達が盗ったんだ!」
と、侍女頭に言った。僕の服が良い物だから、目が眩んだんだ!そう思って言うと、衣装部屋に連れていかれた。
部屋の中は、あるはずの服が10着程しかなく、ガランとしていた。並んでいる服は、確かに僕の服だと解るが、数日前まで着ていた他の服が無くなっている。僕の服がこんなに少ない訳がない!もしかしたら、僕の服を下賜された者の衣装部屋かもしれない。
「これがどうした?」
「ですから、ここが第三王子様の衣装部屋です。」
「そんなわけがないだろう!!」
「いえ、ここが第三王子様の衣装部屋です。」
「なら、僕の服をどこにやった!!」
「ですから、これで全てです。」
絶句した。どうして僕の服が無くなっているのか、僕の物を誰が盗っていったのか、なぜなのか、解らなかった。王子である僕の物を、勝手に盗っていくなんてまず有り得ないことだ。
「‥‥‥‥‥‥。」
目を見開いて、服を凝視していると、
「解っていただけましたか?」
と、侍女頭が目を細めて言った。解るわけがない。どうして無くなっているのだ!!僕の物だ!!盗ったヤツを見つけて、処罰しなければ!!
手を握りしめ、怒りで胸が焼けそうになっていると、冷たい視線と厳しい口調で侍女頭が続けて言った。
「‥‥‥‥本当にお母様にそっくりで、瓜二つでございますね。第三王子様もご存知とは思いますが、この国が条約違反をしておりました。その責任を負って、国王様や宰相様など国の中枢を担っていた方々は処罰されました。その他にも多くの方々に処罰が下されております。その処罰で、側室の皆様も王子様方も財産を没収されております。」
「なっ?!そのようなこと、知らぬ!」
「未成年の王子様方の場合は、母親、つまり側室の方々にお話がされております。」
「‥‥‥‥母上に?」
「左様でございます。側室様と王子様の会話に、私たちは関与できませんので、もしかしてご存知無いのかと思いましてご説明いたしました。ご覧頂ければ、すぐにご理解いただけることと思います。」
僕は何も言えなかった。母上から教えて頂いてないなんて言えなかったし、僕のプライドが許さなかった。
それに、侍女達の冷たい視線が僕の心を凍らせていく。今まで、こんな面と向かって冷たい視線を浴びせられたことはなかった。僕が怒ったり怒鳴ったりしたら、謝罪して赦しを請うのが当たり前だったのに‥‥‥。
そして、僕は侍女達の態度が以前と少し違っている事に気付いた。僕をひとつも「恐れ多い」と思っていないのだ。
金切声を上げている母上は、気付いているだろうか。
側室達の罰金だが、検討中、マルナ領主の顔を崩させる出来事があった。
当初、「側室は王の私財の一部ではないか?」という ある国の過激な発言のもと、財は全て接収する動きであった。王子達は乳母や教育係りが育てているため、特に母親を必要としていないし、側室自身が国政に携わっている様子もないので、側室達は家との結び付きとただ子供を産むためだけの存在であった。しかも、国内処罰で、国王は恐らく王位剥奪か処刑されるだろうと考えていたので、役職も持っていない彼女達は罪人である元王の側室になる。たとえ『未来の国王の御大母』になるかもしれないと言われても、各国は揃って言うだろう。「ならその責任を今とれ」と。じゃあ、財をまるっと没収しますか?という雰囲気の中、「その考えだと‥‥‥側室自身もですよね?」と誰かが突っ込んだ。その瞬間、皆の動きがピタリと止まり、頭の中には『冷笑しているマルナ領主が断固拒否する姿』が思い浮かんだ。そろ~っと本人の顔色を窺うと、大っ変渋い顔をして側室達の受け取りは拒否された。
結局、『王の私財』と『未来の国王の御大母』の間をとり、生活出来る分だけの家財道具―――下級貴族並み―――を残して、没収することになった。




