帰投、そしてその先へ
ようやく帰ってきました……結構長かったかも
それから約3日後、旭日たちはようやく日本の港湾都市キイへ辿り着いていた。
日数で言うと1カ月近く留守にしていた(行きに費やした時間が2週間ほどと長かった)ため、オルファスター王国の時よりも『帰ってきた』という実感が強い。
港を見れば、非常に目立つ扶桑の艦橋がよく見える。
他にも雲龍の船体や北上・大井など、見慣れた船が並んでいる姿にようやくほっとする旭日だった。
「やっと帰ってきたって気がするな」
「はい。長かったですね」
雲龍もどこか遠い目をしている。恐らく道中で触手プレイを受けたことや、『酔っぱらった』を通り越して泥酔してしまった旭日に添い寝したことなどを思い出しているのだろう。
今日はヴァルゴを含めて14cm単装砲の設置されている甲板に出ており、海軍兵による接岸作業を見ている。
ヴァルゴの視線は、やはり異様な形状の、しかし大口径主砲を搭載している艦橋を持つ扶桑に注がれていた。
「なんという巨大戦艦……このような兵器が存在するのであれば、オルファスター王国はおろか、ヴェルモント皇国ですらも鎧袖一触でしょうね……」
しばらく洋上を漂っているように見えた『伊400』だったが、タグボート2隻の誘導を受けてゆっくり岸壁に近づいていく。
接岸すると、金属の板が渡されて足場になる。
旭日に促されたヴァルゴは潜水艦から降りて日本の地を踏みしめる。
「ここが……現在の日本……」
確かに港湾都市キイは以前からアイゼンガイスト帝国の影響もあって、本来の文明水準と国力からすればそれなりに発展していたが、今のキイはかつて写真で見た時よりも遥かに発展しているように見えた。
魔導文明の円を基調とした先進的な構造とはまた違う、石材(正確にはコンクリート)と木材を組み合わせたことによる直線を基調とした昭和前期頃の建築物は、それまでヴェルモント皇国で生きてきたヴァルゴからすると異質ではあったが、同時にどこか先進的に感じられる部分もあった。
「これは……予想以上かもしれないぞ……」
ヴァルゴは、自分の商人としての感覚が間違っていなかったのだということを実感した。
「ダンナ。長旅お疲れ様でした。以後のことは外務省と打ち合わせた上で行動をお願いします」
「あ、旭日殿はどうされるのだ?」
「私はこれより急ぎ参内し、天皇陛下にお目通りの上皇国に関する報告をしなければなりません」
「て、天皇陛下にお目通りを!?旭日殿……貴殿は龍子殿やあの潜水艦の艦長殿から『司令』と呼ばれていたが……ただの軍人ではあるまい。貴殿は何者なのだ?」
「あぁ、申し遅れましたね。自分は大日本皇国第0艦隊司令官、大蔵旭日と申します」
「大日本皇国……第0艦隊司令官!?」
「はい。ま、一応そういう立場にあります」
「あ、あの鋼鉄艦の大艦隊を率いる司令官だったとは……数々のご無礼を……」
平服しようとしたヴァルゴだったが、旭日は手を突き出してヴァルゴを止めた。
「ダンナ、やめて下さいな。ダンナの眼に前にいるのは、商会の若旦那で修業中の旭日というケチな男ですから」
要するに、ヴァルゴの前ではそう振る舞いたい、ということである。またも某越後のちりめん問屋の隠居のような言い回しだが、それが旭日の本音であった。
「は、はい。ありがとうございます……」
「外務省の方々、こちらのダンナは亡命者なんで、くれぐれも丁重にお願いいたします」
「はっ。大蔵司令もお気を付けて」
旭日はヴァルゴの身柄を外務省へと預け、自分は急ぎアヅチ城へ参内することにした。
既に扶桑の『零式水上偵察機』は準備を終えており、旭日の搭乗を待つばかりであった。
「扶桑、ただいま」
「お帰りなさいませ、司令」
「早速で悪いけど、ひとっ飛び頼むわ」
「では、早速参りましょう。シートベルトを忘れずに」
「おうっ」
――ブルルルルルルルルルルルルルルウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!
レシプロエンジンの轟音を響かせつつ、蒼空の彼方へ旭日を乗せた飛行機は消えていく。
それから1時間後、旭日はアヅチ城の天守閣、皇の間にいた。
玉座の明治天皇と、勢揃いする閣僚を前に旭日は深々と腰を折る。
「陛下。大蔵旭日、ただいま戻りましてございます」
「うむ。帰りはいつになるやらと待ち侘びたぞ、旭日よ」
転生したこと、この世界の明治天皇が様々な種族の混血によって種族がワーキャット族になったことによる耳の『ピコピコ』という擬音がしそうな期待ぶりに、旭日は『分かりやすいな……』と内心思いつつ話を進めることにした。
「まず、皇国の技術力及び戦力に関してですが……ほぼ事前調査の通り、守りに徹する上では現在の我が国の敵ではありません」
『守りに徹する上では』と注釈した旭日に、当然明治天皇も反応する。
「守りに徹すれば、ということは……相手の首都まで攻め込むのは難しそうか?」
「少なくとも、皇国の戦列艦を始めとする軍艦群は我が国の軽巡洋艦や駆逐艦はもちろんのこと、敷設艦の主砲ですら余裕で倒すことができるでしょう。しかし、皇国には陸海空における圧倒的な物量があります。技術格差を作れているとはいっても、これはかなりの脅威です。これは、万が一にも『こちらから攻め入る必要が出た場合』におおいて大きな障害となるでしょう」
旭日は守り抜くことは全く気にしていなかったが、皇国が航空戦力を含めて数で押してきたときに被害が出ることと、自分たちが相手国に攻め入ることを考えれば厳しい話であった。
「では、相手の『数』に対応するためにはどうすればよいと思う?」
「暫定的な話ではございますが、現在建造中の『薩摩型巡洋戦艦』が最低でも6隻、そして『新型航空母艦』がさらに2隻は必要になります」
新型航空母艦とは、最新式のカタパルトの搭載やバルバスバウの採用などに加えて、ジェット機の離発着を最初から想定して、船体の延長と甲板の全長を270m以上まで延伸(海上自衛隊のいずも型護衛艦を超える長さ)にする空母のことである。
ネーミングとしてはやはり龍の名前を付けようと考えているが、いずれ第一世代のジェット機を艦上で運用するためのことを想定しているため、耐熱処理なども必要であった。
それだけではなく、この空母はアングルド・デッキを備えた近代的な航空母艦にしたいとも思っているのだが、こちらは高い造船技術を持つ大日本帝国の魂と腕を持つ大日本皇国の技術者たちと言えども難しく、まだもうしばらくかかりそうであった。
ちなみにこの空母のイメージしている形状としては、アメリカの航空母艦に酷似している。
ここに大和型を超える20万馬力の蒸気タービンエンジンを搭載することで、30ノットを超える快速を発揮することができる想定だ。
なので、旭日は現在『Fー86』に相当する世代の第一世代ジェット機をいくつか図面から勧めて研究・製造を始めさせていた。
旭日の理想としては、現在の空母でもある程度の運用が可能なアメリカの『Aー4』スカイホークや、本土防衛に役立つであろうスウェーデンのマルチロール機である『サーブ29 トゥンナン(樽)』を製造して欲しいと思って頼んである。
特に『Aー4』スカイホークは優秀な艦上攻撃機で、高い運動性能から攻撃機としてのみならず限定的な制空もこなす戦闘機として現代でもブラジルやアルゼンチンなどの一部の国で活躍している(もっとも、既に老朽化の影響で退役という声もあるが……)。
しかし、大日本皇国では現在ようやく『橘花』の運用訓練が始まったばかりなので、本格的に製造するにはまだまだ時間がかかりそうだが。
「また、大型艦ばかりを増やしても仕方がございませんので、『秋月型駆逐艦』を参考により高性能な防空艦を建造するべきでしょう。少し前に我が旗下にある技術者の1人である夕張が、誘導弾の原型と言える『イ号乙無線誘導弾』を完成させました。これで初歩的な運用を覚えると同時に、赤外線誘導で相手に飛翔していく対空誘導弾・『銭取』を搭載し、より高い対空能力を得られるようにします。また、この対空誘導弾は地上発射型と航空機発射型も開発させ、我が国風の『Aー4』スカイホークこと、多用途艦上機『旭光』にも搭載できるようにするつもりです」
閣僚たちの手元には『Aー4』スカイホーク及び赤外線誘導の対空誘導弾『サイドワインダー』の資料が配られている。
閣僚たちの多くは昭和以前に没しこの世界へ転生した者ばかりなので、誘導弾という兵器の概念そのものが驚愕のシロモノであった。
だが、旭日に言わせれば科学技術でもそのような空想じみた兵器を作ることが『可能』なのだという。
ちなみに、『銭取』という名前の由来は、かつて徳川家康が三方ヶ原の戦いで武田信玄に敗れて敗走した際に茶店で小豆餅を食べた逸話があるのだが(この場所の地名は現在、『小豆餅』として残っている)、食事中に馬の嘶きを聞いた家康は追手と勘違いして慌てて外へ飛び出したというのだが、茶店のお婆さんがそれを見て『あんたお代払ってないだろ!金払え!』と2km近く家康を追いかけて料金を徴収した、という逸話からくるネタである。
ちなみに、婆さんが家康から金を取った場所も『銭取』として残っているのだ。
というか、家康の脱糞疑惑といい、小豆餅や銭取のネタといい、三方ヶ原の戦いにおける逸話の多さは尋常ではない。
それはさておき。
実際、雲龍に搭載されている12cm噴進砲(ロケット砲)に赤外線追尾機能を持たせられないかと現在改良中で、もしこれが完了すれば、熱を持つ飛行機を相手にした場合有利になる。
ただし、現在相手することを想定しているヴェルモント皇国に関しては、火炎放射や火炎弾を放つとはいえ、ワイバーン相手に使えない。
赤外線、つまり熱に誘導されるということは、ワイバーンの吐き出した火炎弾に誘導されてしまうからである。
いずれ99式空対空誘導弾のような高性能誘導弾が完成した際には、光波部分を『炎の塊に反応しない』ように調整できるだろうが、そこに至るにはまだ数十年単位がかかる。
真空管から集積回路への移行開発が進めば、研究も大幅に進むだろうと考えているため、電子技術開発斑(転生と共に付いて来た技術者たちの一部)にはその辺りの研究をさせている。
真空管で強力な電子機器を表現しようと思うと、アメリカの原子力巡洋艦『ロングビーチ』のフェイズド・アレイ・レーダーのような異様な艦橋(褒め言葉)になりかねないので、早くなんとかしてほしいところであった。
一応旭日が転生特典に持っていた自分のスマートフォンの中に搭載されていたLSIは既に提供済み(持っていてもあまり役に立たない)なので、その研究が待たれるところである。
もし集積回路が完成し、スーパーコンピューターを作れれば、国家の発展は目覚ましいものになるに違いない。
話は長くなったが、要するに『継続して力を高め続けるべし』というのが旭日の言いたいことであった。
閣僚たちはその報告を聞き、『うぅむ』と唸り声をあげる。
「幸い我が国は諸国との貿易もありまして空前の好景気を記録しております。その財力を諸技術の開発及び普及に集中し、民間レベルで電子機器類に慣れ親しんでもらう必要があります」
文明圏外諸国のみならず、文明国の一部も現在の日本に対する認識を改める国が現れており、日本との交易・貿易を持ちかける国が増えている。
そんな国にまず量産しやすい兵器(この場合は小銃や歩兵砲など)の購入を持ち掛け、ノックダウン生産を利用して労働力不足を解消すると同時に技術を少しずつ得てもらうという段階を旭日は提案しており、大海洋共栄圏に参加している国の多くはこれを受け入れている。
唯一アルモンド王国だけは既に総合的な技術レベルが第一次世界大戦ほどまで高まっているため、日本の至らない部分を補佐・補強してくれるレベルに至っている。
また、旭日は北の列強国であるグラディオン王国に接触したいとも考えていた。
グラディオン王国はこの世界では珍しい機械文明国家らしいので、多くの部分で協力できる分野があるに違いないと思っていた。
特に、各国から聞く話としては『アイゼンガイスト帝国以外で唯一テレビ・ラジオを自国の技術で放送している』らしいため、カメラを撮影する技術はあっても映像を映し出すことができない現在の大日本皇国としては喉から手が出るほど欲しい技術であった。
大蔵艦隊にも大掛かりなビデオカメラは存在するが、テレビ放送に使えるレベルの機材ではないのだ。
「このため、北方のグラディオン王国との国交開設は急務であり、もし必要とあれば私自らが赴いて交渉に臨む所存であります」
「グラディオン王国か……噂では戦艦と戦闘機、空母を保有する国だとのことだが、ヴェルモント皇国との戦争を避けるという意味では、軍事同盟ができれば御の字か?」
「そうですね。相手がどのような国かまだ計りかねる部分も多々ございますが、元々グラディオン王国は東の列強国であるクレルモンド帝国の侵略から我が身を守るために発展してきた国です。覇を唱えようという性質があるわけではないので、平和的に接触できればこちらにも恩恵は大きいかと……」
「うむ。外務省は引き続き国交の拡大を求めて行動してくれ。厳しい話だが、第一世界大陸へも手を伸ばせれば、我々にそれだけの力があるのだと諸国に知らしめることもできるであろう」
外務大臣のエンドウ・ナオツネが『心得ました』と頷いて退室する。
閣僚たちもほとんどが退室し、残ったのは旭日、防衛大臣であるヒロセ・タケオ、明治天皇、そして娘のエリナだけであった。
「……さて、旭日よ。重大なことを話さねばならぬのだが……」
「ケナシュルム王国がヴェルモント皇国に攻められた件ですね?」
この件について明治天皇は緘口令を敷いていたらしく、旭日が知っているとは思っていなかったようだ。
「実は、ヴェルモント皇国から帰国する途上で攻められている島国を見ました。地図の地理的関係、そして戦っていた軍船の旗を双眼鏡で確認しました結果、ケナシュルム王国であると判断いたしました」
「そうか……わかっているならば話は速い。ケナシュルム王国は我が国に対して大海洋共栄圏の条目に基づく支援を要請してきている。お主は出撃に賛成か?」
ヒロセと明治天皇、そしてエリナの視線が旭日に集中する。
旭日は一呼吸置くと、キッとまなじりを上げて言葉を続けた。
「残念ですが、王族の退避に留めるべきかと」
「その理由は?」
「はっ。我が国は現在ヴェルモント皇国に『攻められる』想定で軍備を増強しておりますが、これがこちらから『攻める』こととなりますと、間違いなく補給で大きくつまずきます」
「断言する程か。その方の1等輸送艦と2等輸送艦、それに客船改造の特設輸送船を最大限に駆使しても無理か?」
旭日は『残念ながら』と顔を俯かせた。
すると、防衛大臣のヒロセが異論を述べた。
「しかし、お主の下には揚陸艦でもある『あきつ丸』及びその姉妹艦が2隻存在するではないか。兵員及び物資の輸送はそれで事足りぬのか?」
「恐れながら大臣。我が国が攻勢に出る場合、『制空権の有無』が非常に重要となります。これを確保するには、隣国にして現在ヴェルモント皇国に支配されつつあるオルファスター王国の領地から皇国軍を駆逐し、橋頭保を確保する必要がございます。また、海上輸送においては制空権確保に空母が必須となりますが、我が国が現在保有している空母は飛鷹型2隻、雲龍型3隻、そして大鳳型1隻の計6隻でございます。仮に輸送隊に護衛として練習巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、空母を1隻つけたとしても、皇国軍の物量を鑑みますと、場合によっては被害が出ます。私としては、『被害ゼロ』で皇国『程度の』国には勝ちたいと思っておりますので、できうる限り万全の準備を整えたい次第でございます」
曲がりなりにも列強国を相手にするというのに『程度』と表現する旭日の先を見る眼に、思わずたじろぐ3人であった。
実際、旭日はそのために飛鷹型の船体を流用した高速輸送船や、多数の戦車・車両を一気に陸揚げできる戦車揚陸艦を作らせようとしているのだ。
さらに必要とあれば、油圧式カタパルトを搭載した戦時量産型の護衛空母も作らせなければならないと考えている。
「確か、旭日様はそのために新しい高速輸送船を建造しようとお考えでしたね。飛鷹様たちを参考にしたものだったような……」
旭日としても公の場なので、エリナのことを愛称の『エリィ』とは呼ばず、『エリナ様』と敬称をつけて呼ぶ。
「はい、エリナ様。ですが、それが完成したとしても、やはり航空優勢が取れないことには輸送など危なくてやっていられるものではありません。秋月型や松型も近接信管のおかげで対空能力は高い方ですが、それでも艦船です。残念ながら、私が生きていた時代……平成や令和の世に開発されていた高性能な対空誘導弾でなければ、やはり撃墜は難しいでしょう」
その当の戦車に関しても、今の時点では四式中戦車で事足りているが、近代国家……仮に第二次世界大戦当時の米軍に相当する技術を持つ相手と戦うようなことになれば、『M4シャーマン』レベルの戦車とほぼ互角の存在でしかない。
最悪、『M26パーシング』やドイツの『ティーガーⅡ』のような重戦車が出てくれば、背後や側面から奇襲をしなければほぼ勝てない。
旭日としてはこれから僅かな年数の間に、最低でも戦後第一世代MBT……もし叶うならば、第二世代レベルを開発したいと考えている。
流石に固定砲塔の戦車駆逐車などは戦後世代ではスウェーデンがSタンクと呼ばれる特殊な車両を作ったことを除けばほとんど存在せず、国土防衛が第一としつつも、同盟国及び大海洋共栄圏加盟国の防衛が多くなることによって海外派遣が増えるだろうと想定されれば、二手三手先を読んで開発をしなければならないのだ。
幸い即応火力としては『60式自走無反動砲』の解析が既に終わっており(戦後少しの水準でも作れたから当然と言えば当然だが)、なんとか『61式戦車』レベルの戦車ならば実現可能、という話が陸軍技術開発部から上げられていた。
現在その水準戦車の開発を急がせているが、それでも『M26パーシング』のような相手が出てきたら分が悪い。
機甲戦力を強化するのが難しい以上、地上支援用の攻撃機……旭日が『個人的に』強く信奉している『Aー10』サンダーボルトのような機体も作らせる必要があると考えているため、新兵器開発における各部門はとにかくてんてこ舞い状態であった。
「いずれにせよ、我が国が皇国とことを構えるにはまだまだ力不足と言わざるを得ません。共栄圏加盟国との連携をさらに密にし、彼らの能力強化も併せて行うことでなんとか支援しやすくしてもらうしかありません」
そんな中で、アルモンド王国が『薩摩型より弱くていいから、それなりに砲撃力のある船を輸入するか、古めの船でいいからなにか多少は強そうな船の設計図が欲しい』と言ってきていた。
旭日は第一次世界大戦水準でも作れそうな『川内型軽巡洋艦』及び『青葉型軽巡洋艦』の設計図と、『50口径八九式12.7cm連装高角砲』と『65口径九八式8cm連装高角砲』、『九六式25mm三連装機銃』、さらに『九六式25mm単装機銃』の設計図を送っておいた。
これは、主砲を旧式の14cm砲から高角砲でもある50口径12.7cm砲に換装することで対空能力と速射性を大幅に向上させ、さらに主砲そのものの数を減らしつつ対空機銃を多数搭載することで近接対空能力を向上させようという『改良川内型』とも言うべき船であった。
最初は『3千t足らずの船体に軽巡並みの装備を詰め込んだ』ということで有名な『夕張型』の設計図を送ろうかとも考えたのだが、あちらは高角砲を搭載することはできても、残念なことに対空機銃を搭載するスペースがかなり少ない。
なので、旧式ながら余裕のある船体構造をしていて、なおかつ水上機が運用可能な存在である『川内型』と『青葉型』に白羽の矢が立ったわけである。
「ここからはアルモンド王国と緊密な連携を取る必要もございますので、彼の国には『色々と』送り付けておきました」
「『色々と』か……」
「旭日殿には本当に苦労をかける……」
ヒロセの苦悩ももっともである。
そんな『青葉型』に関しては主砲を20.3cm連装砲から、最上型と同じ60口径15.5cm三連装砲に換装することで速射力と命中率の向上を図っているため、重巡から軽巡にランクダウンしたようなものだが、それでも砲戦能力はそれなりにはある。
カタパルトに搭載する水上偵察機は、こちらも『零式水上観測機』の設計図を送っているが、アルモンド王国がようやく複葉機が作れる段階になったばかりなので、ついでと言わんばかりに小型空母である『千歳型航空母艦』の設計図も送り付けて『空母及び艦載機は自分でなんとかせい』と付きつけてやった。
本当は商船改造型空母(いわゆる大鷹型など)でもよかったのだが、それだと速力に大きな難がある。
同じ商戦型空母でも飛鷹型ならば速力は十分(あくまで商船改造空母としては)だが、搭載量が小国家には多すぎる。
なので、本格空母として鳳翔よりは多いが、小型空母と言えるレベルの千歳型あたりが妥当であろうと旭日は考えたのだ。
数も1隻に集中させるよりは、小型でも数を揃えた方が小国には使いやすい。
もっとも、技術力と国力が向上していて自分たちでなんとか作りたかったアルモンド王国からすればこの設計図は天の恵みのようなもので、大喜びしていたという。
ちなみに、旭日たち大蔵艦隊の方では偵察機を『零式水上偵察機』から『瑞雲』に更新しようとしている。
いくらレーダーによる観測射撃があるとはいえ、弾着観測射撃には水上偵察機はまだまだ必要である。
旭日からすれば、もうしばらくはなにかしら出番があるだろうと考えていた。
瑞雲は20mm機関砲2門に加えて13mm旋回機銃1挺を固定武装として搭載し、さらに250kg爆弾か60kg爆弾2発を搭載できるという異色の水上偵察機であったが、大型化故に搭載できる艦が限られていた。
旭日はそれを見越して、入渠している間に『扶桑型』の改装もさせて、瑞雲を搭載できるようにしておいたのだった。
ちなみに、当然ながらこの瑞雲も輸出するつもりである。水上戦闘機としても爆撃機としても使いやすいので、空母を持てない小国にも陸上機以外で数機くらいは購入してもらえるだろうという算段である。
ちなみに、姉が乗艦している大和型戦艦に関しては元々搭載可能であるため、問題にならない。
あとは機体の完成を待つのみである。
「アルモンド王国が保有する現状の技術でどれほど開発できるかはわかりませんが、彼の国が今回提供した設計図を用いて諸兵器の開発に成功すれば、弱小国が我が国以外からも兵器を買えるようになり、我が国以外の経済活動の多様化も見込めることでしょう」
「おぉ……お主はそこまで見込んでアルモンド王国にわざわざ設計図を……」
「私の理想としましては、エアロ・ホークと互角に戦えるほどの艦上戦闘機として時速300km以上の速度が出せる航空機を開発してほしいところです。艦上攻撃機及び艦上爆撃機としても、せめて200km以上の速度が出せるものを作ってもらわなければ、ワイバーンにすら対抗できないでしょう」
旭日の意見に思わず『うぅむ』と唸るヒロセであった。
「それだけではありません。弱小国であろうとも皇国の戦列艦隊を追い返せるレベルの軍事力を持ってもらわなければなりませんが、そのためには国力の増強と人口増加を促す必要もあります。我が国から医療技術なども輸出が始まっているとはいえ、研究を含めてまだまだ必要なことが多いです。この世界特有の病気もあるでしょうし、それらの研究も必要です」
「お主の船に搭載されていた資料のお陰で、ペニシリンや黄熱病に関する研究も進んでいるからな。あれのおかげでどれほど多くの人間が救われたか」
だが、それでも限界はある。
なにせそれらをもたらす旭日は1人しかいないのだ。
正直、旭日の労働時間はブラック企業も真っ青の状態で、今回の皇国視察は半分以上旭日にとってはのんびりできる時間のある休暇のようなものであった。
正直、神様効果で疲労のたまりにくい体になっているとはいえ、キツイものはキツイ。
そんな旭日を慮ったのか、明治天皇が『そういえば』と声を上げた。
「お主に会いたいという者が来るそうだ」
「私に?どこのどなたでしょうか?」
「うむ。先程話に上がったグラディオン王国から来た、レイモンド・チーフテン殿というらしくてな、なんでも技術将校らしく、我が国の戦艦や空母を見たい、そしてそれをもたらしたお主に会いたいと申しておったのだ」
「グラディオン王国の……あの国とは国交がなかったはずですが?」
「なので、国交開設を前提とした使節団も一緒に派遣されておる。旭日よ、これは好機ではないか?」
「はい。もし列強序列2位のグラディオン王国を味方に引き入れることができれば、ヴェルモント皇国に対する大きな牽制となるでしょう。では、私はそのチーフテン殿にお会いして、我が国の現状を説明すればよろしいのでしょうか?」
「そうだ。やはりというか、お主にしか頼めぬ話なのだ」
「心得ました。チーフテン殿は今どちらに?」
聞けば、グラディオン王国の使節団はつい先日北方の港湾都市オオミナトに到着したらしく、もう間もなく港湾都市キイに到着するとのことだった。
「では、私の部下たちに命じて準備もさせますので、ひとまず明日までお待ちいただいてよろしいでしょうか?」
「うむ。ではそのようにお伝えしよう」
こうして、旭日は外交官でないにもかかわらず、またも外交的活動をせざるを得なくなったのだった。
ようやく、この世界の科学文明国家との接触になります。
果たしてどうなるか……お楽しみに




