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水上要塞

と、言うわけで今回は水上要塞の視察になります……なお、偵察の期間が短すぎるのでは、という指摘は甘んじて受けます。


 翌朝目が覚めると、旭日は今までの疲労が嘘のように気分爽快となっていた。

そんな旭日は早めに昼食をとって屋敷を後にすると、雲龍と共に港湾施設へと向かった。

「いやー、まさかこれほど疲れが取れてスッキリするとは思わなかったぜ。ほら、腕が回る回る」

「はい。明らかに顔色がよくなっていますからね。あの薬は恐ろしい効き目です」

「さて、今日はバッチリ要塞の視察と行きますかぁ」

 2人は屋敷を出て歩くと、14時30分には港に到着した。

 余談だが、ヴェルモント皇国には壁掛け式や建物に設置するタイプの大型時計があるので、時間にはそれなりにうるさい。

 受付のエルフの女性は旭日の顔を覚えていたようで、旭日と雲龍を見るや、『おや、お早いですね』と声を掛けてきた。

「あれ?手前のことを覚えていてくだすったので?」

「ふふっ。若奥様が人間種『如き』にしては『中々に』可愛らしい方でしたので、自然と記憶に残っていたんですよ」

 受付嬢はなんてことの無いようにころころと笑ったが、旭日はその言動の中に自然と他種族蔑視の言葉が混じっていることに戦慄していた。

 もっとも、かつて社畜だった経験からその戦慄を表面に出さないだけの精神力を持ってはいたが。

「ははっ。皇国で名高いエルフの心に残るようであれば、手前の女房も中々の器量良しだと認められたようなものですなぁ」

 旭日は内心腸が煮えくり返るような感情を覚えていたが、そんなことはおくびにも出さずに笑って見せる。

 雲龍はと言うと、そんな旭日の内心が怒りのオーラとなってにじみ出ていたからか、オロオロとした表情をしていた。

 2人は港の中へ入ると、30mほどの大きさの木造船に乗り込んだ。

「うぉっと、結構揺れるな」

「ち、小さな木造船ですから……」

「見学用とは言えもうちっとどうにかならんもんかね……」

 据え付けられている番号の座席に座り込むと、端の方であった。

 見れば、他にも結構な人数の客が乗り込んでいる。

「あれは第3世界大陸の文明国、モシンナガン王国の服装……それに、あちらは文明圏外国のハリファックス諸島連合王国、あっ、ラボーチキン連邦の者も見えます」

 雲龍は服装からどこの国の者なのかを察していた。

「はっはっは。皆考えることは同じってか。ま、列強国の弱点の1つでも見つけることができれば、それは様々な形で利用できるからな」

「よく皇国も許可してますよね……」

「まぁ確かに……ただ、噂が本当なら、皇国にとっては『見せても問題ない』ものばかりなんだろう」

「噂、ですか?」

 旭日は水筒の水を一口含むと、『はぁ』と息を吐いて話し始めた。

「皇国の水上要塞は、皇国の前身であるユグドラシル皇国の頃に作られたものらしいんだが……その頃の技術ってのはとても高くて、超音速で飛行できる魔導飛空機や、誘導弾のような兵器も実用化していたらしい。だが、現在の皇国はそんなものを使えるように見えるか?」

「……いいえ。飛行機はおろか、回転砲塔の戦艦すら実用化できていないですね。では旦那様、皇国の考えとは……」

「あぁ。恐らくだが『自分たちに分からない物を、自分たち以下の連中に理解することは不可能だろう』という感じで高を括っているんだろうと思う」

「なるほど。見られても問題がないのであれば、観光資源にして、『弱点が分かる、かも』という甘い言葉で誘い込んで高い金を払わせてやろうということなのですね……セコいというかこすっからいと言いますか……」

「ま、使えるモノはなんでも使おうって言う感性は間違っちゃいないさ。ウチだって色々やってるじゃないか」

「えぇと……まぁ」

 すると、舳先の近くにエルフの男性が立った。

 その手には魔法陣学を描いたメガホンのような物を持っている。

『皆さん、本日は皇国が誇る水上要塞の見学ツアーへ、ようこそお越しくださいました』

「意外と丁寧な対応だこと」

『皆さんに見ていただく水上要塞は、数千年以上昔にヴェルモント皇国の前身たる、世界でも1、2位を争ったと言われる強国、ユグドラシル皇国の頃に作られ、首都防衛を担っていたとされるモノです。我々はその技術を解析しつつ運用し、日々技術と練度の向上に努めております。本日は、そんな水上要塞を皆さんに見ていただこうというのです。是非ともその目にしかと焼き付けるか、既定の料金を払った方は写真機の準備をお願いします』

 その言葉を受けると、何人もの客が魔導写真機を取り出した。

『それでは、これより出港いたします。4時間の旅になりますので、気分の悪くなられた方はどうぞ船内へお入りください』

 随分と長いが、往復に時間がかかるようなので、仕方ないだろう。

 船の後ろから弱い水流が噴き出す(あくまで現代日本人感覚で)と、船がゆっくりと加速していく。

「速力6ノットから8ノット前後、ってところか。全力とは言わないだろうが、皇国の技術力と総重量を考えると、そこそこの速度が出せていると思うぜ」

「はい。司令の仰る通りだと思います」

 船は波をかき分けながらゆっくりと進む。

 1時間ほど揺られながら進んでいると、大きな構造物が見えてきた。

「あれか」

「とても大きいですね」

 10km以上離れている場所からはっきりと見えるということは、とんでもない大きさである。

 しかし、旭日の目にはジェット機が飛び立つにはギリギリのように見えた。

「カタパルトのような物があるかどうかはともかく……ジェット機も飛び立っていたんだろうと推測すると、結構ギリギリの全長かもな」

「そうなんですか?」

「あぁ。長くても800mほどにしか見えないな……短距離離陸が可能なスウェーデンの『JAS39 グリペン』くらいの迎撃多用途戦闘機がメインだったのかね?」

 ちなみにエアロ・ホークが飛び立つには150m、ワイバーンでも180mあれば飛び立てるので、この滑走路であれば一気に3,4騎は飛び立てるだろう。

「航空戦力単体の性能はこちらが勝っているとはいえ、一気に数を上げられたら厄介だな……」

「旦那様でしたらどのように攻めますか?」

 旭日は近づくにつれてカメラを構える。

「水深が浅めだから潜水艦は使えないな……現代技術なら、巡航ミサイルの飽和攻撃で一気に粉々にするんだが……俺たちの今の能力だと、流星の800kg爆弾を一気に叩きつけて滑走路を破壊して、そこに艦砲射撃を叩きこむ、かな?」

「反撃は来ますか?」

 近づいてくると、布で覆われているが、対空砲らしきものが見えた。

 さらによく見れば、ミサイルを発射するランチャーらしきものも見える。

 だが、布はずっと使われていないかのように埃をかぶっており、何年も取り払われていないようであった。

「恐らく、元々据え付けてあった防衛兵器は皇国からすれば高度すぎてまだ解析すらできていないんだ。あちこちにとってつけたような魔導ガトリングガンが見えるから……そっちを使っているんだろうな」

 よく見れば、皇国兵らしき服装の者たちが各ガトリングガンに3、4人の規模で配備されている。

 実際、ユグドラシル皇国の頃というのがどれほど高度な技術を有していたのかは想像でしかないが、この水上要塞の雰囲気を見るに、仮に現代アメリカ以上だったとすれば、十分納得がいく。

「もっとも、水上要塞なんて俺が生きていた頃でも作られていなかったけどな……強いて言うなら、中国が南シナ海に水上フロートによる人工島を作っていたけど、こんなドデカい航空基地タイプじゃなかった」

「はぁ……なるほどぉ」

 雲龍がポカンと見つめている傍らで旭日は次々とシャッターを切るが、その中でふと気づいたことがある。

「待てよ……『あれ』ならもっと安全に攻撃できるか……?」

 旭日は続けて写真を撮るが、その間に海の中も覗き込んでみる。

 海はエメラルドグリーンで非常に美しく、プランクトンがあまり生息していないのか透明度が尋常ではなく高いため、まだ海底がうっすらだが見えるほどであった。

 もっとも、旭日の推測が正しければそれでも水深30mほどはあり、いわゆる遠浅の海、ということのようだが。

「(さっき雲龍に説明したように、潜水艦はまず使えない。艦砲射撃も……これほど浅い海じゃかなり沖合から砲撃しないといけないから、いくら大きくて動かない『的』だとしても、きちんと命中させられるかどうか……やっぱり、『アレ』が使えるかもしれないな)」

 旭日にはなにか名案があるようだが、少なくとも敵地となる可能性のある場所のど真ん中で口にするほど愚かではなかった。

「(だとすれば……絨毯爆撃とまではいかなくとも、なんとかここを無力化した上で完全に破壊したいもんだな)」

「(外交的にも、戦略的にも、ですね)」

「(あぁ)」

 ボソボソと小声でやり取りしながら見れば、他にも銃を持った皇国兵が多数配備されていた。

 やはり重要拠点というだけあってか、かなりの人数が警備・警戒に当たっているらしい。

「本当、戦争にならないことを祈るしかないな」

「旦那様は本当に戦争嫌いですね」

「あったりまえだろ。平和が一番だよ。美味しくご飯が食べられて、楽しく本が読めて、兵器が出番を迎えることなく退役していく……それがどれほど幸せなことか」

 旭日は兵器好きだが、戦争は当然嫌いである。

 平和な平成・令和時代に生きていた者として、2つの世界大戦を経て『世界大戦など懲り懲り』という結論に達したことで、『表面上でも』大戦と言えるような全面戦争を経験すること無く平和を享受できていた、というのは素晴らしいものだと思っていたからである。

 しかし、だからと言って『力を持たない』ことには大反対である。

 平和とは、自国を守れるだけの力と技術、そして国民性があってこそ維持できるものだと旭日は考えていた。

 すると、旭日が急に雲龍の腰を抱えて抱き寄せた。

「えっ、旦那様!?」

「見ろ龍子、皇国はあんなところにまで魔導砲を配備しているぞぉ」

 少しばかりわざとらしい言い方だが、見れば、アルムスロト・カノンと呼ばれるアームストロング砲モドキが砲口を海に向けている。

 だが、それは近未来的な構造の水上要塞に対してあまりにちぐはぐでレトロに見えるのだった。

 恐らくこれも、魔導ガトリングガン同様にあとから据え付けたモノなのだろう。

「まぁ本当。このような強力無比な兵器が多数配備されていらっしゃるのであれば、ヴェルモニアの守りは盤石でしょうねぇ」

 雲龍も旭日の芝居に合わせるかのように大きな声で皇国のアルムスロト・カノンを指さしていた。

 2人が注目していたのは、水上要塞の上部構造物を支える『柱』であった。

「……やっぱり、これなら」

 旭日はなんらかの確信を得たようだが、雲龍はまだその全てがわからないので、それに合わせて微笑むことしかできなかった。

 3時間後、船を降りた2人は黄昏時の光が差す中を歩きながら、ヴァルゴの屋敷へ戻った。

 ヴァルゴはちょうど仕事がひと段落したところらしく、夕飯ができるのを居間で待っていた。

 そんな時に2人が帰ってきたのを見て期待するような視線を見せていた。

「ただいま戻りました、ヴァルゴのダンナ」

「で、どうでしたかな?」

「ここではなんですので……」

 旭日の言葉に頷いたヴァルゴは、旭日と雲龍を自室へ連れ込んだ。

「それで?」

「はい。水上要塞を含めて多くを視察させてもらいましたが……これならば我が国は勝てますね」

「勝てる……被害はどのくらい出そうかな?」

「私の分析が正しければ、流れ弾に当たるような不運がなければほぼ0でしょう」

 その言葉にヴァルゴは戦慄する。

 少なくとも、オルファスター王国と戦う少し前までの日本であれば、皇国に勝てる確率こそが0だったはず。

 その国が、たった2年ちょっとで呆気なく『ほぼ被害なしで勝てる』と分析している理由をできれば聞きたかったが、旭日の目は強い自信に満ちているため、『これは聞くまでもないのかもしれない』と思い始めた。

「ヴァルゴのダンナ。ダンナにはこの上ないほどにお世話になってしまいました。しかし、我々は明日にはここを出ようと思います」

「えっ、だ、だが……」

「あまり長居して皇国に警戒されるか、正体がバレるようなことになれば、ダンナにも多大な迷惑を被らせることになってしまいますからねぇ。恩人をドブに突き落とすような不義理は、手前の望むところではございませんので」

「旭日殿……」

「このご恩は忘れません。明日の早朝には誰にも見つからぬように出立いたしますので、そのおつもりで」

 旭日はそれ以上を告げるのはマズいと思ったのか、雲龍を促して退室した。

 部屋に1人残されたヴァルゴは、顎に手を当てて考えていた。

「……やるしかないな」

 彼の胸中は如何に……それはさておき、旭日と雲龍は普通に夕食を取り、普通に眠った。

 まるで、なんでもないかのように。



 翌早朝、雲龍は旭日に『午前5時には起きるぞ』と言われていたことから、その5分前にパッチリと目が覚めていた。

「司令、司令、起きてください」

 すると、てっきり熟睡していると思っていた旭日がフッと目を開けた。

「あぁ、時間だな」

 2人は素早く身支度を整えると、ヴァルゴの屋敷の人々を起こさないように忍び足で屋敷を出た。

「本当に、とんでもなく世話になっちまった。幸いここは大使館街だ。首都攻撃作戦が発生した際には『大使館街への攻撃を禁ずる』とするだけで被弾の危険性はぐっと下がる。できれば連れて行きたかったが……」

「それは無理ですよ、司令。彼はこのトーネード商会の会長なのですから」

「そうだな」

 2人はペコリと一礼してから、小走りで港に向かい始めた。

 すると……



――パタ、パタ、パタ、パタ、パタ



 背後から、小走りのような足音がするではないか。

 旭日は敵の諜報組織に気づかれたと感じ、懐の浜田式拳銃に手を伸ばした。この拳銃はサプレッサー……つまり消音器を取り付けられるように改良が施されており、発砲音を最低限にすることができる。

 雲龍も拳銃と、日本の高い鍛冶技術で作られた肉厚の鉈のような短刀を手にしていた。

 2人は角を曲がって待ち構える。追手は2人を追うように角を曲がってきた。

 曲がってきたところで、雲龍が首に腕を巻き付けて抑え込む。

 当然、頭には拳銃を突き付けていた。

「動かないでください。言うことを聞いていただけないのであれば、命の保証はできませんよ」

「わっ、ま、待ってくれっ。私だ私だ!」

 男の声に『まさか』と思いつつ顔を確認すると……なんと、ヴァルゴ・トーネードその人であった。

「ヴァルゴのダンナ!?」

「な、なぜあなたがここに?」

 ヴァルゴは軽く咳き込みつつも、疑われるようなことをしたのは自分だとわかっているからか恨み言の1つも言わない。

「い、いや……お2人がもう帰ってしまわれるというものだから……ぜひ日本に連れて行ってもらおうと思って……」

「えぇっ!?」

「し、しかし、あなたの商会はよろしいのですか!?」

 思わぬ話に、つい尋ねてしまう2人であった。

「なぁに。商会は女房にくれてやります」

 そんなあっさりとしていていいのか、と思っていたら、衝撃の事実を彼は語る。

「あいつ、ウチの部長とデキていたんです。離婚届を置いて来てやったので、清々しましたよ。まぁ……」

 そう言いながら、ヴァルゴは持っていたカバンから大量の財貨を取り出して見せた。

「こいつは全部持ち出してきましたがね」

 どうやら、自分が好きにできる財産はほとんど持ち出してきたらしい。

「こいつは魔法陣学を織り込んだ日本製のカバンですよ。ご存じでしょう?」

「えぇ、まぁ。我が国の主力商品の1つですからね」

 いわゆる、『収納魔法』の魔法陣学を施された道具で、カバンの大きさはちょっとしたボストンバッグくらいなのだが、その中はちょっとした倉庫並みの収容量を誇る。

 文明国はおろか、列強国でさえべらぼうに値が張るものの、重さはそれほどないクセに大量に収納できるため、行商人は大変に重宝するのだ。

 ヴァルゴも遠方へ商売に行く時は何度もこれの世話になっていた。

「ダンナ……大した度胸ですよ」

「ハッハッハ。商売は時として、大穴を狙うようなバクチであろうとも手を出さなければならない時があるのですよ。それより、陸路から脱出されるのですか?」

「いえ。この明け方を狙って港の商用船を1隻奪い、沖合へ行きます。沖のある場所で、仲間と合流する手はずになっているのです」

「でしたら、私にお任せください。港にはトーネード商会の船がありますし、警備の衛兵たちにも私は顔が効きますから。万が一見つかっても逃れやすいです」

「それは助かります‼」

 思わぬ形でヴァルゴを加えた旭日たちは、港へ急ぐ。

 30分ほどで港に到着すると、軍の施設ではなく商用港へ向かった。

 しかし、そんな旭日たちを警備の衛兵が見つけていた。

「む?なんだあの3人は……沖を哨戒している警備艦隊に通達しておくか」

 内容は、『商用港へ向かう怪しい人影あり。気を付けたし』であった。

 一方、旭日たちは港へ入ると船を探していた。

「ダンナ、申し訳ないがあまり大きい船だと操船に手間取る。ボートみたいなのはありますか?」

「でしたら、沖釣りのために保有している小型のボートが!」

「よっしゃ!」

 ボートはほどなくして見つかったため、それに乗り込む。形状は現代のヨットに似た感じだ。

「風を発生させる魔石をマストに装備していましてね……これで、よし‼」

 すると、船の周囲にだけ風が吹き始め、船がゆっくりと動き出した。

「おぉ、すごい‼」

「元々小型なのもあって皇国の戦列艦に近い速度が出せますからね、この規模の船としては結構速いですよ‼」

 船は水をかき分けて、ゆっくりと出港していく。

 多数の船の中を進んでいくと、沖の方が見える。

 だが、港の出口付近を哨戒する戦列艦らしき影が見えた。

「あれは……」

「皇国の哨戒艦隊です‼旧式の戦列艦を用いていまして、旧式とはいえ大砲の射程は1.5kmから2kmはあります‼」

「どうやら、向こうさんにはバレていたようですな」

「どうします?」

 だが、旭日は不敵な笑みを崩さなかった。

「問題なし。元々は人力で漕いで逃げることを想定していたので、それよりかは速くて助かります‼」

「そ、そうですか!」

 船は帆を目いっぱいに張って10ノットほどの速度で航行を続ける。

『そこの小型船、止まりなさい‼止まらなければ撃ちます‼』

「ほぅ。警告してくれるだけ紳士なところもあるじゃん」

『止まれ‼止まらないと撃つ!』

 皇国の戦列艦は船体こそ木造だが、装甲板で補強しているのみならず、艦首付近に鉄の回転台を搭載した砲台が乗っているため、通常の戦列艦と異なり追撃中でも砲撃が可能だ。

「距離約2km……哨戒艦だとすれば最大射程内には入っている、か」

「撃ってきますかね?」

「当たらないことを覚悟したうえで撃ってくる可能性は十分あるでしょう」

 その時、マストに上っていた雲龍が叫ぶ。

「敵艦発砲‼取舵一杯‼」

「取舵一杯アーイ!」

 旭日は素早く舵を切ると、先ほどいた場所より200m近く離れた場所に水柱が上がった。

 ホッと胸をなでおろした旭日だったが、あまり余裕もない。

 モタモタしていれば、哨戒艦のみならず本格的な軍艦までもが出てきてしまうだろう。

 そうなれば、武装もなく速度の遅い小型船程度ではあっさり追いつかれてしまうだろう。

 だが、旭日は信じていた。

「雲龍、なにか見えるか!?」

「はい!海が深くなるところで、突き出た岩の側に‼」

 2人がなにを言っているのかはわからないが、ヴァルゴは自信満々な2人を信じるしかない。

 すると、旭日は船内に置いてあった魔導拡声器を手に取った。

 そして、船尾へ向かうと拡声器を使って大声を上げた。

『わっはっは!トーネード商会の主、ヴァルゴ・トーネード氏は確かに頂戴したっ‼捕まえられるものなら捕まえてみろっ‼』

 これを聞いて慌てたのは皇国側であった。

 ヴァルゴ・トーネードと言えば、皇国の中でも指折りの財力を誇る人物である。

 そんな人物が誘拐されたとあれば、皇国の経済に大きな影響が及ぶ。

「あ、旭日殿、なにを……?」

「これで、ヴァルゴのダンナにはお咎めがいきません。『所属不明の勢力に誘拐され、彼らに脅されて仕方なく離婚届を書いた』ということにすれば、商会も無事でしょう」

「旭日殿……お気遣い、感謝する‼」

 旭日はニッと笑った。

 しかも、これによってこの船にトーネード商会の主が乗っていることが明らかになったため、迂闊に砲撃して撃沈するわけにはいかなくなった。

 敢えてヴァルゴがいることを明かしたことで、旭日は砲撃される危険性をも減らしたのである。

 そしてしばらく航行していると、1隻の木造船が座礁しているような場所へ到着した。

「こ、この船は……?」

「これだ。ダンナ、お乗りください‼」

「の、乗るってこの船かい?」

「まぁいいから!」

 旭日はヴァルゴの背を押し、雲竜と一緒に素早く船の中に滑り込んだ。

 皇国の哨戒艦3隻は、じりじりと距離を詰めていく。

『不審者に次ぐ!直ちにヴァルゴ氏を開放し、投降しろ!さもなくば乗り込むぞ‼』

 現代では考えられない言い方とやり方だが、日本で言えば江戸時代から明治時代くらいでの立てこもり事件など、こんなものだろう(偏見)。



 皇国側はしばらく待っていたが、動きがない。

 哨戒艦隊司令のオルドス・インディペンデンスは、その静けさが逆に不可解だった。

「やけに静かだな……」

「なにも動きがありませんね。作戦会議でもしているんでしょうか?」

「いや、普通なら逃げようと動くはずだが……」

 すると、相手の船に動きがあった。ゆっくりと航行を始めたのだ。

「逃げる気だ‼乗り移って制圧しろっ‼」

 相手の速度は精々5ノット。すぐに追いついた皇国艦からは多数の兵士が乗り込み、船の中を捜索する。

「だ、誰もいないぞ!?」

「おかしいな……」

「隊長、猫の子一匹見当たりません‼」

「そんなバカなことがあるか‼もっとよく探せっ‼船底も見てみるんだっ‼」

 何人かの水兵が船底を確認するべく降りていく。

 そんな彼らは、船底に奇妙なものがあるのを見た。

「なんだ、この黒い塊は?」

 警棒の先でつついてみると、硬い感触があった。

「ま、まさかこれ……鉄でできているのか?」

 その時だった。

 鉄の塊が振動したかと思うと、急に水の中へと潜り始めたのだ。

「う、うわぁっ‼」

「鉄の塊が動いたっ‼」

 兵たちは思わず逃れようとしたが、鉄の海獣が潜ったことで船底には大きな穴が開いてしまい、多数の皇国兵を乗せたまま船が沈み始めたのだ。

 当然乗り込んだ船がいきなり沈みだすなどと言うことを想定していなかった皇国の哨戒艦もその沈没の渦に巻き込まれ、沈もうとする不審船に船体をぶつけ、損傷する。

 さらに、その損傷部位から一気に水が流れ込んできたため、哨戒艦3隻のうち2隻がこれによって大破、沈没してしまうのだった。

 皇国では『魔獣使いによってヴァルゴ氏は誘拐されてしまった』という認識が広まり、恐れるのだった。

はい。たった1日で終了です。

本当ならばもっと色々やらせたかったのですが、ネタが思いつきませんでした……

次回は艦これのイベントがあるので1か月休んで11月22日に投稿しようと思います


余談ですが、カービィのエアライダーが発売されるにあたって情報確認したのですが……ファイア・デデデ、アニメから飛び出してきちまったやん……

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