皇国へ
ようやくヴェルモント皇国の首都に到着します。
はたして、どんな世界なのか……
最初のモンスターとの遭遇からさらに2週間もの日々が過ぎたが、その道中も、決して楽な道のりとは言い難かった。
隙あらばモンスターのみならず、クマやトラのような、モンスターとは言い難い大型肉食獣も襲ってくるので、基本的に気持ちが休まらないのである。
そんな並大抵ではない苦労をしつつ、旭日たち一行は遂に、マチルダ共和国とヴェルモント皇国の国境を通過した。
国境を通過してからは、そこで隊商の到着を待っていた皇国の地方隊200人が護衛に加わってくれた。
「なるほど。地方隊はゲベール銃っぽい先込め銃らしきもので統一されている……それに」
ちらりと伺うと、大型の魔獣の出現に備えてなのか、馬が曳いている大砲のような兵器も見えた。
大砲の形状は、やはり旭日の知識にあるアームストロング砲に似ているように思えるが、強いて言えばそれより少し軽そうに見える。
「射程3kmで炸裂する大砲ね……ウチの野砲にちょっと劣るくらいの射程と威力、と考えると結構危険だよな……戦車も正面装甲はさておき、履帯や後部をやられたら結構面倒かもしれない」
「旦那様、本格的な考察は後でもよろしいのではないでしょうか?他の人に怪しまれてしまいますよ」
雲龍に窘められ、旭日はひとまず観察を後回しにした。
そしてその日は皇国軍と共に日暮れまで歩き、ようやく皇国の地方都市ヴォンダムに到着した。
街に到着すると同時に、皇国軍は都市防衛隊の詰所へと向かっていった。
旭日と雲龍は街の料理屋に入ると、まずは一杯ということで酒を注文する。
といっても旭日はかなり酒に弱い下戸なので、店ではかなり弱めの蜂蜜酒を貰うことにしたのだが。
故に、日本で食事をする時は基本的には『飲まない』旭日であった。
「さて。皇国軍の装備についての評価だが……接近されると面倒かもしれないな」
「と、言いますと?」
旭日は一口蜂蜜酒を口に含んでから切り出す。
「奴らの腰には、リボルバー式拳銃が下がっていた。つまり、奴らにはリボルバーを製造できるだけの技術があるということだ」
「リボルバー……回転式弾倉のことですね」
「あぁ。日本では幕末には既にアメリカのコルト社のモノが入っていたというが、それだってゲベール銃よりははるかに新しい兵器だ」
日本の幕末から明治時代レベルと言えば、もっと進んだ銃で言えば元込め式で何発か発射できるスペンサー銃やミニエー銃という銃もあった。
「しかし、ヴェルモント皇国の地方隊は先込め式のゲベール銃に似たものを主力として採用しているにもかかわらず、雷管やアンビルなどを備えた拳銃を持っている……これがどういうことかわかるか?」
雲龍も蜂蜜酒を一口含むと、『ほぅっ……』とアルコール混じりの少し艶めいた息を吐きながら答える。
「少なくとも、元込め式の連発銃に至りそうでありながら、大型化、長銃身化というよりは、量産化までのギリギリな技術的問題をクリアできていない、と言ったところでしょうか?」
「あぁ。皇国がもっと物理学・化学に強ければ、とっくにスペンサー銃、ミニエー銃レベルはちゃんと量産開発していてもおかしくはないんだが……もしかして、元込め式銃は出てきたのは最近なのか?」
「ですが旦那様、回転式弾倉のまま長銃身化するのではダメなんですか?」
「あぁ。拳銃ならそれほど問題ない話なんだが……リボルバーってのはな、射撃した時にシリンダーギャップという現象が起きる。要するに爆煙で火傷、酷けりゃ爆傷を負うんだ。戦艦の艦砲のように、発砲の衝撃で人が死ぬって現象があるだろう?それと同じように、爆発の衝撃で怪我をするんだ」
「なるほど」
「それもあって、リボルビングライフルはあまり流行らなかったんだ。地球でも多少は存在したけど、すぐに元込め式、しかしそれでいてリボルバー式でないライフル銃が登場してその後の主流の地位を確固たるものにしている」
『ただ』と旭日はつけ加えた。
「オルファスター王国の時と同じように、魔法陣学などで強化されている可能性も否めないからな、油断は禁物だ」
「蒸気機関が存在しない代わりに、我が国のように魔法陣学で部品の強度などを補っている、ということでしょうか?」
「そうとも限らない。そもそも皇国の船は魔導機関と呼ばれる特殊な機構を持っているらしいじゃないか。これを物質加工に用いたとすれば……」
「物理学・科学的な意味で19世紀相当の能力は手に入る、と?」
「あくまで想像だがな」
要するに蒸気機関の代用にしているのではないかという話だが、旭日の想像は正しかった。
皇国では鉄を加工する溶鉱炉や、生産された銃身、弾丸などに付与魔法を用いて付与された魔法陣学により、リボルバー銃の威力と能力に関しては間違いなくコルト・ピースメーカー相当を有していた。
「もしかしたら想像以上に自動化が進んでいて生産能力なども高いかもしれない……早く首都を見てみたいもんだな」
「そうですね」
その後も出てきたソーセージや鳥の素揚げに舌鼓を打ちつつ、蜂蜜酒をチビチビと飲む2人であった。
それから2時間後、宿への帰路につく旭日は雲龍に肩を貸されてフラフラと歩いていた。
「大丈夫ですか、旦那様?」
「す、すまねぇ……」
「弱いとは伺っていましたが、ここまで弱いとは……」
対する雲龍はまだまだ余裕がありそうで、真っ赤な顔で旭日に肩を貸しているにもかかわらず足取りはしっかりしている。
宿に入ると、旭日はもう限界に近そうに眼を瞬きさせていた。
部屋へ入ったところで、雲龍が声を掛ける。
「旦那様、もうちょっとで布団ですから……」
「うぅ、す、すまねぇ……」
「ひゃっ!?」
旭日は最後まで言い終えることなく、そのまま布団へ倒れ込んでしまった……雲龍を抱き込んで。
「し、司令!起きて下さい‼私は抱き枕じゃありませんよぉ‼」
だが、旭日はすっかり寝落ちしてしまっていて、ぐったりとした手を振り払えそうにもない。
「ぐおぉぉぉ……」
「……もうっ、知りませんっ」
雲龍は開き直ったような声を上げると、そのまま旭日に抱き付いて自分も眠るのだった……。
翌朝、目を覚ました旭日が雲龍に全力で謝罪したのは言うまでもない。
朝食を取って宿を後にした旭日たちは、隊商と共に最南端にある皇国の首都、ヴェルモニアに向かうことにした。
幸いなことにここからは森を抜けた見通しの道を行くため、余程のことが無ければ魔物に襲われることはなくなる。
「ここからは少しのんびりした行程になりそうだな」
「そのようですね。ホッとしました」
砲撃を主体とした戦艦らしく接近戦も得意としている扶桑や山城と異なり、基本的にアウトレンジで戦う撃たれ弱い空母であるせいか、肉体的にはさほど強くないらしい雲龍としては、触手プレイ(意味深)はもうこりごりなのである。
「まぁ、こんな状態だからこそなにかイレギュラーが起こるかもって想像をしておかないと、なにか起きた時に……」
「やめて下さいよぉ~!」
当の雲龍はもうあんな目に遭いたくないからか、旭日の肩をポカポカ叩きながら顔を真っ赤にしていた。
まぁ、地方都市ヴォンダムを抜けるとそこから皇都ヴェルモニアまでは直線距離で20kmなので、今日中には到着するだろうと考えられていた。
しかも、見晴らしの良い野原を行くので、基本的には問題がないはずである。
そして、6時間後……
「あれが……」
「ヴェルモント皇国の首都、皇都ヴェルモニア……」
「想像以上、かもしれないな」
眼前に広がっていたのは、緑を基調とした、美しい街並みだった。
旧世界……地球では考えられないような設計思想をしており、樹木と家が一体化したような構造をしている。
「なるほどな。樹木そのものを家とすることで、森林を維持しつつも居住可能な環境を構築している、か……正にファンタジーの世界だな」
「しかも、煙が出ているところを見ると工場らしき施設なども確認できます。一見すると原始的に見えますが、とても先進的かもしれません」
そんな皇都ヴェルモニアの外れには、石造りの建造物も見えた。
「あれは……」
「あぁ、あれは大使館街さ。各国の大使館はあそこに集中してるんだよ」
教えてくれたのは、この道中ずっと旭日に良くしてくれた中年の商人だった。
「へぇ……こりゃすごい」
「だろう?ハイエルフ様はちょっとばかり高慢なところもあって辟易することもあるが……俺は獣人だからか、この緑豊かな都市が大好きでね。変と言われるかもしれないが、魔力が割と少ない獣人の俺でもやっていこうって気になったのさ」
「しかし、随分と都市機能が集約しているみたいですね。災害が起こったらどうするんですか?」
「まぁ……お上は俺たち平民がどうなろうと知ったこっちゃないだろうが……ハイエルフ様は……ほれ、あの世界樹が守って下さるだろう」
男が指さした先には、天を貫かんばかりの長大かつ、ちょっとしたテーマパークよりも太いのではないかと思わせるほどの巨木が存在した。
以前も延べた通り、世界樹は高さ8千mという地球ではあり得ない高さを誇る樹木だ。
「世界樹……噂には聞いていましたが、あれが……」
「あぁ。少なくとも……かつてハイエルフ様の間で起こった国内紛争において用いられたという究極魔法・『エクスプロージョン・コア』の一撃ですら耐えたっていう、神の時代から存在する樹木らしい。噂だが……あのアイゼンガイスト帝国の戦艦の砲撃すら通じないって話だ」
「港までの距離は約15km……なるほど、帝国の艦砲であれば十分届くでしょうな」
旭日はアイゼンガイスト帝国の戦艦の主砲の能力をよく知らないため、ここはあえて適当に話を合わせておく。
「そうだ。お前さん宿はどうするか決めてるのかい?」
「いいえ。場所が場所なので皇都に入ってから文明圏外国家用の宿でも探そうかと思いましたが……」
「あぁやめとけ。えらい料金取られる割には大したもてなしもねぇ。それより、ウチに来ないか?」
「え、旦那のお宅に?」
「あぁ。自慢じゃないが、俺は大使館街に居を構える一等商人さ……幸い、ハイエルフ様も商売に関しては貴賎なしと考えてくれたらしくて、商才のある者はたとえハイエルフ族でなくても大使館街のような重要区画を任せてくれるのさ。おかげで俺も大儲けさせてもらってるよ」
「そんなところに手前のような者が……いいんですか?」
「あぁ。この道中、あんたにはずいぶん色々教えてもらった。それに……調査のための拠点は安全な方がいいだろう?」
「「‼」」
どうやら、この男は旭日が大日本皇国のスパイだと見破ったうえで良くしてくれていたらしい。
「……手前たちのことを突き出せば、国内での地位は盤石と思われますが?」
「そうだな。1年や2年の安泰を望むならそうするべきなんだろう。だがな……皇国は間もなく滅びるだろう」
「え?」
「皇国は今まで随分と無茶をやってきた。属領への圧政や、人種差別政策とかな……俺はこの緑溢れる美しい都は大好きだが、ハイエルフ様の横暴はそう長くは続かないと思ってる。お前さんの話を聞いて、より確信を持てたよ」
「……なぜ?」
「以前聞いた、『日本が戦艦を持ってる』って話さ。戦艦を持っているってことは、その時点で皇国の船舶より遥か彼方から攻撃できるだろう。ワイバーンの火炎弾だって、鋼鉄製か魔導装甲製だという戦艦の装甲はぶち抜けないって言う。だとすれば、な……」
「旦那……」
男はそれまで見せた中で一番真剣な表情を見せた。
「もしもの時は、助けてほしい」
「……お名前を、ずっと聞いていませんでしたね。手前は大日本皇国廻船問屋の大蔵屋の若旦那で、大蔵旭日と申します」
見抜かれたからと言って、旭日としては表向きの身分を貫き通すしかない。
少なくとも、相手が合わせてくれるというのであればなおさらだ。
「ははぁ。海軍の方だったか。なるほどな、皇国の海軍といえば第3世界大陸付近じゃ有数の力を持つからなぁ。それを探りに来た、ってわけか」
「ご想像にお任せします」
『廻船問屋』と名乗ったことで船に関わる存在、つまり海軍関係者だと判断したようだ。
「んじゃ改めて。俺はヴェルモント皇国一等商人、ヴァルゴ・トーネードってもんだ。よろしくな、若大将」
旭日とヴァルゴは、がっちりと握手を交わした。
その後、旭日とヴァルゴは隊商から別れて街中を馬車で行く。
街はかなり広く、ヴァルゴとはぐれたら迷子になってしまいそうなほどに入り組んだ構造だ。
しかも、よく見ると樹木の枝同士が繋がっており、そこに人々が洗濯物を干している。
アニメで見るヨーロッパの街並みにある、家と家の間にワイヤーを張って洗濯物を干す絵面によく似ている。
「重要な省庁は全て世界樹の結界が及ぶ範囲に集中していてな。魔法的な攻撃はほぼすべて弾かれるという話だ」
「……ん?魔法的な攻撃?では、『物理的な』攻撃は?」
「……あぁ、誰も実験したことがないから分からないが……魔力を帯びていなければどうなんだろうな?そう言えば、以前暴徒を鎮圧した際に世界樹付近で暴徒がマスケット銃をぶっ放したが……あの銃弾、結界の中に飛び込んでたな」
これは重要な情報であった。
世界樹の結界は魔法的な攻撃には滅法強いようだが、物理的な攻撃を跳ね返すことは想定されていないらしい。
つまり、魔法攻撃限定のバリアなわけだ。
「考えてみりゃ、省庁に出入りする都合もあるのか、人の行き来は自由だしなぁ。もし入れないんだとすれば、余程世界樹に嫌われている存在だけだろうが……」
「それはいいことを聞きました。ありがとうございます」
その後も街中を進みながら、大使館街へと向かう。
途中で兵とすれ違うが、兵はヴァルゴの顔を見るとペコリと頭を下げてから通過する。
「ははぁ。ヴァルゴの旦那は随分と顔が売れてらっしゃるようで」
「まぁな。自慢じゃないが、ハイエルフ、エルフ、ダークエルフ族以外で一等商人にまでのし上がった存在ってのはこの国じゃ珍しいんだ」
やがて、馬車は真っ白な石造りの建物の前で止まった。
「ここが俺の本拠地、トーネード商会だ。歓迎するぜ」
ヴァルゴが扉を開けると、ずらりと並んだ様々な獣人やヒト種の使用人が頭を下げてきた。
『お帰りなさいませ、大旦那様』
「あぁ、ただいま。早速で悪いが、この若夫婦を空いているお客用の部屋に案内してあげてくれ。俺の大事な客なんだ」
『はい。かしこまりました』
すると、メイドの1人が旭日と雲龍の前に立つ。
「私はトーネード家にお仕えしています、アンネ・チヌークと申します。お二方をお部屋までご案内させていただきます」
「これはどうも。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
2人は部屋へ入ると、荷物を置いて一息をついた。
「まさか、現地人の協力者を得ることができるとはな」
「思わぬ誤算でしたね」
「ま、トーネード氏は恐らく諸国を巡っている中で皇国の支配体制が間違っていることに気付いたんだろうな」
各地を回るということは、それだけ様々な思想や考え方に触れる、ということである。
「しかも、一等商人ということはアイゼンガイストなどにも赴いたことがあるって感じだろうな」
「では、今後の計画ですが……」
「そうだな……やはりまずはここを拠点として港の軍艦と、沖にあるという噂の水上要塞を見てみたいもんだが……まぁ、水上要塞は無理だとしても、せめて港の様子くらいは見ておきたいもんだな」
今までの情報から、皇国が水際の防衛ラインとして水上要塞というものを運用していることは知っていたが、どんなものかは自分の目で確かめなければわからない。
「では、ここからは……」
「待て、雲龍。焦る気持ちも分からないわけじゃないが、相手の懐の中に飛び込んだ以上、慎重になるべきだ」
「は、はい……」
『しゅん』と言わんばかりに落ち込む雲龍を見て、旭日は頭を撫でる。
「ま、まずは街中からだな」
「どこから視察しますか?」
「そうだな……居住区画はそんなに参考にならなさそうだからいいとして、やっぱ商人の集まる場所と、港湾部だな」
「わかりました。あ、それと司令……」
雲龍がバッグの中からなにかを取り出した。
「お、こいつは……」
「はい。光の精霊の加護を利用させてもらったという精霊魔導写真機……要するに、司令の時代で言う簡易撮影機ですね。なんでも、アイゼンガイスト帝国の産物らしいです」
やはり雲龍も旧軍の存在だからか、海軍の出であるにもかかわらず横文字に弱いようだ。
「相も変わらずアイゼンガイストの能力が不明とはいえスゲェな……もはや俺の時代(平成後期~令和にかけて)ではインスタントカメラもほとんど見なくなっていたけどな……」
「ですが、これならば写真の出来も直ぐに確認できますね」
「これであちこち撮影してたら怪しまれないか?」
「先ほど街中を見た限りでは、多くの観光客らしき人たちが写真を取っていましたので、そんなに問題ないかと思いますけど」
ひとまず、港の方へ向かってみることにした。
居間へ出ると、ヴァルゴが新聞を読んでいた。
「お、早速行かれますか?」
「はい。港の方へ行ってみようと思います」
「気を付けなよ。港、特に軍港の方は警備が厳しいからな。兵士に怪しまれたら、ソッコーで捕まりかねないからな」
「ありがとうございます。では、行ってきます」
屋敷を出て南の方へ歩き出すと、徐々に人の数も増えていく。
旭日は後ろを振り返ると、世界樹を中心とした街の様子を写真に収めた。
これを後に起こると旭日が想定しているヴェルモント皇国の首都攻撃作戦に活かすつもりだ。
『まだ』起こってはいないものの、旭日はヴェルモント皇国との戦争は十中八句起こると考えているのだ。
旭日が前世で読んでいた小説などが参考文献という時点でどうかと思うが、それが『お約束』になるのではないかと思っていたからである。
そして、写真を撮りながら行き交う人々を観察することで、大体誰が皇国人であるかも分かってきた。
「あぁ……なるほどな。皇国人はエルフっぽい輩が多いんだな。服装は明治時代のハイカラさんっぽい雰囲気が多いわ……」
先程まで一緒に居たヴァルゴは英国紳士風の格好をしていたが、日本は開国後、英国風のあれこれを取り入れることが多かったこともあって、他の国の方式よりも英国式の方がより馴染みがある。
それ以外の国の者は、明らかに皇国人より粗末な格好をしているのだ。
ちなみに旭日たちは文明水準を偽るつもりだったが、出発直前に扶桑から『既にバレているのでは?』と言われたので、『皇国と同水準の文明力は保有している』ように見せかけるため、明治時代の日本の服装で訪れていたのだ。
「お、ここが商業区画か。かなり賑わってんな」
「流石は世界に5つしかない列強の首都ですね。港もかなり近いですし」
各国の人々……第3世界大陸のみならず、第2世界大陸、第1世界大陸こと神聖世界の人も見受けられる。
やはりと言うか、服装や人種、様々な坩堝と言ってもいい状態となっており、エルフ、ダークエルフ、獣人、ドワーフ、リザードマンやラミア、ハーピーやセイレーンなどもいて、種族や国ごとに売っているものもまるで異なる。
ゆっくりと雑踏を進みつつ、露店や屋台を物色する。
「この辺は文字通り他国向け、って感じか」
「えぇ。もう少し港の方……真っ先に荷揚げされる場所の方が、即座に展開できるということで皇国人がよく物を売っているようですね」
と、美味しそうな鶏もも肉の串焼きの屋台を見たので、雲龍の分と自分の分を購入する。
「なんというか、日本の祭りもこんな感じだな」
「司令の言うお祭りはよく分かりませんが……とても賑わってます」
もも肉をかじってみると、肉汁と同時にタレの味が染みだしてくる。
とてもおいしい。
そう考えながら進んでいると、だんだんと開けてくる。
「おぉ、流石にデカい港だなぁ」
「これは……凄いですね」
旭日が見たことのある横須賀や呉の港を遥かに上回る規模(ただし、広さの話)の港いっぱいに、機甲戦列艦や空母のような船がズラリと並んでいる。
「なるほど。第3世界大陸最強にして、列強の一角というのも納得だぜ」
「戦列艦だけでひぃ、ふぅ、みぃ……数百隻はありますね」
「そこに200隻近い空母っぽい船、か……あの船もマストはあるが帆はないな……やっぱり魔導機関とやらで動くのかな?」
「事前情報ですとそのようですね。司令が読んでらっしゃった日本召喚小説に登場する飛竜母艦よりは効率が良さそうですが」
「あの物語に出てくる船は木造だし、発艦時には帆を畳まないといけないから機動性が劣悪なんだよな。ま、自称世界最強の国(笑)の航空戦艦化した双胴船体空母といい勝負かもしれねぇ」
「ですが、洋上で航空戦力を展開できるという点はオルファスター王国より厄介です」
「そうか?オルファスター王国は我が国と距離が近かったから元々洋上で仕掛けられることは想定済みだった。それが空母モドキに変わっただけのことさ。しかも木造船と違って装甲板が張り付けられているから、レーダーにも反応しやすくて、むしろこっちは索敵しやすいから助かるけどな」
実際、前回のオルファスター王国との日尾海峡海戦においては、相手がほぼ完全な木造船であったことが災いし、この昭和時代レベルのレーダーでは捕捉し辛かった(捕捉できなかったとは言わない)のだ。
それも想定していたからこそ、旭日は貴重な潜水艦戦力である伊400ことヨーをわざわざ索敵兼敵の位置捕捉のためだけに出動させていたのだ。
「では、このあとは……」
「あぁ。港湾部へ行って、できる限り間近で軍艦を見たいな」
捕まる確率も高くなるが、それをするだけの価値はあるだろう。
「では、行くとしますかね」
旭日は雲龍と連れ立ちさらに南、港の方へと向かうのだった。
次回は8月23日に投稿しようと思います




