大和、入港
と、いうわけで今回も色々解説ですね。
そんなことしつつイチャイチャも少しだけ入れてますけど……
旭日を含めた面々は、港に入ってきたその船の堂々たる威容に思わず唖然としていた。
それこそ、大和型戦艦1番艦『大和』である。
「こ、これほどの巨大戦艦を、我が国が独力で作り上げたというのですか……?」
「時代の進歩とは……これほどの……」
これまでにも200mを超える船となると『雲龍型航空母艦』や『薩摩型巡洋戦艦』などを見たことはあったものの、それよりも一回りほど大きく、より重厚に見えるのだから、当然と言えば当然だろう。
特に、3基9門が悠然と並ぶ50口径46cm砲(改装で50口径に延長)は、現代人からすると実用性があるかどうかはともかくとして、見る者を圧倒する迫力と優美さがあった。
これに関しては、薩摩型の38.1cm砲が豆鉄砲に見えてしまうほどの迫力である。
そして、それでいて旭日から日本の辿った歴史を聞いたエリナは顔を曇らせる。
「それでも……これほどの巨大戦艦を建造するほどの能力を持ちながら、お父様の故郷である大日本帝国は、アメリカという大国に負けてしまったのですね……」
戦いは数だよ、と言われることもあるが、日本の求めた『質』に対抗したアメリカの数で押す戦略は、その国力と人口、そしてなによりも生産力の差によるものである。
『M4シャーマン』中戦車然り(もっともシャーマンの場合は日本の『九七式中戦車』や『九五式軽戦車』などに対しては『質』でも大幅に勝っていた。どちらかと言えば戦車戦において数で押したのは、ドイツのティーガーを始めとするアニマルシリーズが主な相手である)、『フレッチャー級駆逐艦』及び『ギアリング級駆逐艦』然り、さらに言えば大量建造された護衛空母とその艦載機、そして五大湖によって大量育成された艦載機パイロットである。
さらに言えば、それらの兵器類を活かせるだけの技術……特に電子機器類と強力な機関部の能力については日本と大きな差があったと言えるだろう。
やはり、大陸を制しているということと燃料及び資源が自国内で産出するということは、国家の国力に大きな力を与えるのである。
また、この点に関してはかつてのソビエト連邦も言えることである。
『Tー34』を始めとする『圧倒的な数で押す』戦術は、アメリカのみならずソ連も得意分野としていることであった。
そして、それは現在の大日本皇国も言える。
国土はアメリカと比較してしまえば遥かに狭いが、可住域はそれなりに広く、それでも地球における日本列島から比べると広い国土に加えて、資源や燃料は自噴するし、なにより精霊の協力と魔法で足りない部分を補うこともできる。
唯一足りないものがあるとすればそれは人口だろうが、その点も医療技術を進歩させることで補うしかない。
「そうですね。残念ながら、例え単艦でどれほど強くとも、雲霞の群れの如く迫りくる航空機の猛攻の前には無力だったわけですが……」
まぁ、それにはそもそも慢性的な燃料不足故に燃料をバカ食いする戦艦が損耗することを恐れるあまりに温存し過ぎた(そもそも戦艦は撃たれても撃ち返せるようにする存在というコンセプトのはずなのに)ことと、空母に随伴できるだけの速力を持っていた金剛型以外の戦艦を出し惜しみし過ぎたという一面もあるのだが、それは言っても仕方がない。
ついでに言うと、実際の燃費は金剛型も大和型もそれほど巡航速度では変わらなかったとする説もあるという(魔改造と言っていいほどの改装をされたとはいえ、大和の方が金剛よりはるかに新しいのだから当然と言えば当然かもしれない)。
そんな風にその場の全員の注目を集めながら港に停泊した大和から、大日本帝国の海軍軍服に身を包んだ背の高い女性が降りてきた。
「おぉ……」
「なんと美しい……」
明治帝もイトウも、そしてエリナでさえも、明治日本では見ないタイプの美しさを持った、しかしどことなく大和撫子を思わせるその女性に見惚れた。
その女性……大蔵撫子は港へ降り立つと、旭日の姿を見て駆け寄ってきた。
「ひーくんっ‼」
ガバッ、という擬音がしそうな勢いで旭日に抱き付くと、昨晩の神界での時のようにおっぱいホールドで顔を埋めるのだった。
「あぁ、やっと……やっとひーくんをまた抱き締められたっ‼お姉ちゃんそれがなにより嬉しいのっ‼」
一方、その場にいた面々は撫子のいきなりの行動にポカンとしていた。
だが、なにか思うところがあったのか、北上が割って入った。
「は、離して下さい‼し、司令が窒息してしまいますっ‼」
普段の北上からは想像もつかない素早さで、そしてこれまた想像もつかない大きな声を上げると、旭日を守るかのように立ちはだかり、『うぅ~』と唸っていた。
「あら、あなたが北上ちゃんね?ひーくんがお世話になっています」
「へ?」
そして扶桑の方を向くと、頭を下げた。
「扶桑さんですね。ひーくんを……私の弟をサポートしてくれて、ありがとうございます」
「弟……あなたは、司令の姉君なのですか?」
「はい。あら?ひーくんからなにも聞いていなかったんですか?」
艦長娘はもちろん、明治天皇たちも頷いている。
「もー。ひーくんったら、ちゃんと言っておいてよー」
「ゴメンゴメン。でも実際に顔を見てから自己紹介してもらった方がいいかと思ってさ……」
「まぁ、それはそうね。では皆さん、改めまして。私は大蔵旭日の姉で、大蔵撫子と言います。今は……大和型戦艦一番艦、大和の艦長です」
「「「なっ!?」」」
大和の艦長である、という言葉に、北上を始めとして天城や葛城、香椎やヨーなど、一部の女の子が声を上げていた。
「や、大和の艦長……?」
「名前だけじゃなかったんだ……」
「うぅ……私並みにむっちりしているクセにくびれてるところはくびれていて、でもおっぱいぷるんぷるんじゃないですかぁ……」
ヨーに至ってはぽっちゃり気味な自分の体躯と比べてしまったのか、涙目になっている。
すると、そんな撫子に付き従うように何人かの女性が『樫野』から降りてきた。
「もしかして……君たちは『大淀型軽巡洋艦』か?」
「はい。大淀型1番艦、大淀です」
「2番艦の仁淀と申します」
「前線に立った数は少ないですが、事務仕事はお任せください」
「完成すらされませんでしたが、お役に立って見せましょう。今後ともよろしくお願いいたします」
2人とも大学生くらいの、雰囲気としては頭脳派と言った方がよさそうな落ち着いた女性であった。
恐らく史実の大淀が連合艦隊司令部の施設を設置されたことに由来しているのだろうと旭日は考えていた。
仁淀に至ってはその船体を改鈴谷型重巡洋艦『伊吹』として流用され、さらにそれを空母にしようとしたところで終戦を迎えたという話もある。
それを考えれば、確かに前線に立ったことがないというのも納得だ。
「ウチは書類仕事も多いから、頭のいい奴は大歓迎だ。色々苦労と手間暇をかけることになると思うが、よろしく頼むぞ」
「「ははっ」」
そして、そんな2人の後ろに立ち、まるで引率の若い先生のようなジャージ姿をしているのが、給兵艦『樫野』、潜水母艦『剣崎』、『高崎』だろう。
「君が樫野だね?」
「はっ。大和型の主砲から通常貨物まで何なりとお運び申し上げます」
兵器・兵装輸送を第一任務とする縁の下の力持ちだけあってか、真面目そうな女性であった。
扶桑や大鳳辺りとは話が合いそうである。
むしろ、兵站に関する話をしっかり煮詰めてくれるのであれば大助かりである。
旧軍のみならず、ドイツ機甲師団やナポレオンなど、人間の戦争の歴史において、その手の話に事欠かないのだ。
それはさておき。
「で、後ろにいるのが剣埼と高崎か?」
「はい。潜水母艦兼給油艦として司令官と共に働かせていただきます」
「かつては軽空母となった身ではありますが、今度は建造当初の目的を達せられそうです」
この2隻は潜水母艦兼給油艦として建造される予定だったのだが、高崎に至っては建造途中で改装され、それぞれ『祥鳳』と『瑞鳳』となっている。
どちらも艦隊育成ゲームをプレイしていた提督たちからすれば馴染み深い名前であろう。
「皆、今日からこの7隻と……あれ?にぎつ丸もいるよな?」
「なんと、にぎつ丸がいるのですか?」
「にぎつ姉さん?どこですか?」
自身の姉妹でもあるあきつ丸と熊野丸はキョロキョロと辺りを見渡す。
すると、船の陰からひょこっと顔を出した女性がいた。
あきつ丸と熊野丸に似た雰囲気を持った女性である。
「お、君かい?」
声をかけるとビクリと肩を震わせてから、少し怯えた様子で出てきた。
「は、初めまして……上陸用舟艇母艦のにぎつ丸、です……よろしくお願いいたします……」
「なんだか随分自信なさげだけど……大丈夫?」
「は、はいっ……その、あの……わ、私たちって、ゲームのせいかあきつお姉ちゃん以外はそんなに有名じゃないから……人前に出るのがちょっと……」
「あぁ……」
あきつ丸は某プラウザゲームに登場していることもあってかなり知名度が高いが、その姉妹船たちは当然そうでもない。
他の姉妹船たちもほとんどが輸送船として従事している間に米軍の攻撃で撃沈しているのがほとんどであるため(もっとも、これは当のあきつ丸もそうだが)、ゲームに登場するあきつ丸以外の知名度はそれほど高くないのだ。
そんなことから、あまり自分に自信がないようである。
ちなみに熊野丸は2023年に実装された。
「気にするなって。君たちは軍艦の化身であり、軍人みたいなものだ。やるべきことをやり、務めを果たせばいい。な?」
旭日の頼りになる大きな手で撫でられたことで、にぎつ丸はどこか安心したような表情を浮かべていた。
「は、はいっ……未熟者ですが、よろしくお願いいたします……」
その様子を北上や天城たちはジト目で見つめている。
「司令ったら……ああやって自然体で女の子を口説くんだから……」
「あれはちょっと反則ですよねぇ……」
旭日が女性に慣れているのも、やはり姉である撫子と一緒に居ることが多かったからだろう。
とはいえ、彼女が自分たちの仲間であることは本能的に理解しているのか、本格的な敵愾心を持つことはない。
すると、そんな旭日をまたも撫子が抱きしめる。
「ひーくんいい子っ!お姉ちゃんもぎゅーってしてあげるねっ!」
……お姉ちゃんとは、どこまでも弟を甘やかしたいものなのであろう。
そんな風にデレデレしている姿を見ると、ついつい北上たちはかなり深い嫉妬の目で見つめるのだが。
「ね、姉さん……そんなにギュッてされると……むぐぅっ!?」
もっとも、そんな風に姉に甘やかされる旭日も満更ではなさそうなのが、そんな姿を見ると余計に腹が立ってしまう。
「ぐにに……司令をあんなおっぱいで包み込むなんてぇ……」
葛城がうらやまけしからんと言わんばかりの表情をする。北上や、意外にも香椎も似たような表情をしていた。
逆に飛鷹や隼鷹、山城などは微笑ましげに見つめているのであった。
大人(建造された年代的に)と、子供(北上は本来の年代的にそうでもないが……)の差と言ったところだろうか。
「司令ったらやるねぇ~」
「司令は女泣かせになりそうです」
「我々もいずれはベッドの中で泣かされてしまうのでしょうか(ヨヨヨ……)」
「おーい、人が喋れないと思って好き放題言ってんじゃないぞ~……」
一応ツッコミを入れることは忘れない旭日であった。
「そ、それはそうと姉さん……」
旭日が胸から顔を上げると、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「意識が飛ぶ寸前に、太陽神様がなにか言ってたけど……あれ、なんだったの?」
「あぁ~、あれね~……」
撫子はニコニコと笑ったまま、黙ってしまう。
「え、なんで沈黙!?」
「ひーくん、お姉ちゃんとしてももうちょっとちゃんとした雰囲気で言いたいから、その件についてはまた今度でいいかな?」
「え、ま、まぁ……姉さんがそう言うなら……」
姉の言うことにあっさり納得した旭日に、その場にいた面々のほとんどが『甘っ‼』と考えたという。
弟にとって普段甘やかしてくれる分、姉が『こうしたいの』と言うことは絶対服従なのだ。
別にそう言われてきたわけではないにもかかわらず自然とそのような行動をとる辺り、旭日のナチュラルボーン弟ぶりがうかがえる。
ひとまず、新しい船を港に再配置するために皆で動き出すのだった。
「えーと、大淀型はそっちに。樫野は輸送艦の側に停泊させて……」
ちなみに、大蔵艦隊は元々存在する港湾都市キイを母港としており、大日本皇国へ来てから建造された船(松、竹、梅、秋月、照月)と一等輸送艦、二等輸送艦の一部は今のところ西部港湾都市ナゴヤなどを拠点としている。
「司令、大和はどうされるのですか?」
「できればこのまま港に停泊させておきたいけど……扶桑はどう思う?」
「私としては練習巡洋艦である香取たちの内2隻くらいをナゴヤに移し、その穴埋めに大和を充てるべきではないかと具申します。また、北方への備えもありますので、できればもう1隻は北方への穴埋めに充てるべきかと」
「北方かぁ」
香取型軽巡洋艦は元々練習巡洋艦として建造された船であるため、新造船が次々と就役して配置されるナゴヤに移すべきだ、ということである。
北方は今のところ列強国であるクレルモンド帝国とグラディオン王国の2国と、その友好国・属国が支配する大陸で真っ二つになっており、こちらへ目を向けている様子はない。
だからといって油断していいわけでもないので、新造船の一部をそちらに配置し、香取たちの誰かに訓練させたいということだ。
「しかしなぁ……北部港湾都市オオミナトまでは1千km以上離れている。香取たち『だけ』をそんな僻地に送るって言うのはな……」
すると、様子を見ていたエリナが『あのぉ』と声をかけてきた。
「もしかしたら、『空間の精霊』がお力になれるかもしれません」
「空間の精霊?」
「はい。国内限定で、しかも1日1回しかできないそうですが……国内であれば北端から南端までどこにでも行くことができる転移魔法を用いることができる精霊がいるのです」
「なんじゃとてー!?」
思わず間抜けな声を上げてしまった旭日であったが、隣では扶桑と大鳳も同じように口をあんぐりと開けている。
転移魔法は空間に作用するため非常に多大な魔力を消費するらしく、エルフの大魔導師ですら綿密に準備を重ねた儀式の末に、ようやく1人を100kmほど瞬間移動させることがやっと(それも十分にとんでもない話なのだが……)だとオルファスター王国王女のメリアから聞いたことがあった。
「じゃあ……会いたい時には1日1回だけとはいえこのキイにある俺の屋敷に転移できる、と?」
「はい。可能ですよ」
「マジか」
転移モノ・転生モノラノベでは転移魔法を、まるで息をするかのように使いこなすキャラクターもいるにはいる。
だが、それにはなんらかの補助があるか、神様特典で莫大な魔力を得たりしているかのどちらかであることが多い。
その点、精霊という大自然を司る存在がそのような形で力を貸してくれるのであれば、旭日としてはこの上なくありがたい。
「じゃあ……それで香取たちには行き来してもらおうかな。そうなると向こうに居られる拠点みたいなものが必要になるな……」
流石にそのためだけに飛行機を飛ばすわけにもいかず、かといって機関車では時間がかかりすぎるため、渡りに船である。
「その点に関してはお父様に頼んでこちらの方で手配しましょう。できれば機関車の速度がもう少し上がると良いんですが……」
「機関車については現在こちらの方でも新型を開発しているところです。もう間もなく試作品が完成するところです。新型の動力を搭載したタイプでして、蒸気機関より効率よく、よりパワフルなものになります」
旭日はロマンある蒸気機関車もいいが、実用性と将来性を考えると、どうしてもディーゼル機関車と電気機関車を開発する必要があると考えていた。
魔法陣学やこの世界特有の技術を取り入れれば、地球基準より効率よく、パワフルなモノができあがると考えていた。
「あとは……今後のことも考えると、国内の道路の整備も進めたいけど……ま、それはおいおいだな」
国内の輸送路も確保しておきたいところだが、当面は重要なポイント(具体的には穀倉地帯と鉱山地帯と港湾都市キイ及びナゴヤ)の舗装及び拡大に留めている。
現状でも国内整備だけで追い付いていない部分が多く存在するため、もしヴェルモント皇国が仕掛けて来ないのであれば、その間に国内を充実させてできる限りの備えをしておきたいのである。
既に各港湾都市の目立たない所(崖の谷間や森の中)などに倉庫をいくつか建設して、そこに弾薬などの消耗品を多数備蓄しておいてある。
もっとも、本格的に強い国との戦争に陥った場合にはそれでも足りない可能性が高いと旭日は判断しているため、一番余裕のあるキイに更に幾つかの倉庫を建設させている。
また、明石や特設輸送船に存在した技術も、新技術を記載した本により少しずつアップデートを進めており(恐らく太陽神の贈り物)、もう少しすれば全ての技術が大戦末期から朝鮮戦争直後くらいまでの域に達するだろうと予想されていた。
また、間もなく新型の車両輸送艦や物資輸送艦(こちらは飛鷹・隼鷹を参考にした高速貨客船型)も完成する予定なので、それの運用についても会議しなければならないだろう。
「では司令、工場に大和型戦艦の主砲製造に関する設備も設置する必要がありますね」
「あぁ。それに関しては『樫野』に旋盤やら設備は搭載されていたしな……そう言えば……教育方面に関してはずっと聞いていなかったけど、ダメコン……ダメージコントロールについてはどうなん?」
急な話だが、大和型戦艦が現れたことで旭日としてはそのワンオフぶりから傷付くことを恐れた旧海軍の気持ちが分かってしまっていた。
なので、損傷しても戦闘続行、あるいは帰還できるようにするダメージコントロール技術は大事だと考えていた。
特に、旧海軍は率直に言ってダメージコントロールが『ド』がつくほどに下手であったと旭日は個人的に(あくまで個人的に)考えていた(実際にはそうと言い切れない部分も多いのだが)。
ミッドウェー海戦における空母『赤城』及び『加賀』、『飛龍』然り、潜水艦からの雷撃を受けた戦艦『金剛』然り(もっともこちらは幹部が『戦艦が簡単に沈むか‼』と油断してロクに処置させなかったせいという説もある)、空母『大鳳』然りである。
もっとも空母の場合の話だが、日本の空母は密閉式格納庫であるため、ミッドウェー海戦では爆撃を受けた時に爆風の逃げ場がなくなったこともあって被害が拡大したというのも被害が拡大した一因だと言えるかもしれない。
大蔵艦隊に所属している大鳳も、エンクローズド・バウと500kg爆弾の直撃に耐えられる装甲甲板を採用していたことによる『急降下爆撃』に対する防御力は十分だったのだが、潜水艦からたった1回の雷撃を受けただけで航空用ガソリンが気化して艦内に充満してしまったことで、密閉式格納庫がアダとなって排気が上手く行かず、航空機が着艦した際の火花によって誘爆し、大爆発を起こしたと言われている。
そんなことから、旭日は常にダメコンを重視するように口を酸っぱくしながら艦長娘たちに言っていた。
やはりと言うか、旧海軍の意識も継いでいる彼女たちにはあまり感覚がなかったようで皆ポカンとしている部分もあったが、大事なことは大事なこと、という風に理解はしたため、旧海軍時代とは異なる部分もあるものの旭日がまとめたマニュアルを参考に訓練を行っている。
実際にはレイテ沖海戦時の武蔵のようにしぶとく浮かび続けた船やダメコンに成功して帰還に成功した例も多々あるため一概には言えないはずなのである。
「神界での改装の際にアメリカ式レーダー(PPI方式レーダー)を取り入れさせたけど……慣れない奴はしばらく大変だったからな」
「終戦間際にはそれに近いだけの能力を持つレーダーもあったようですがね……どうも昭和時代の日本人という種族は電子機器の扱いが下手だったようで……」
扶桑の言葉通り、昭和時代の日本人が電子機器類にあまり手馴れていなかった、さらに言えば工業製品のエレクトロニクス部門の発達に大きな遅れがあったことも旭日は知っていたため、通信機は当然のことながらレーダーを始めとする電子機器類や車などにもっと慣れさせることを重要としていた。
ちなみにどうでもいいことだが、筆者も電子機器類は大変苦手である。
「ま、仕方ないさ。アメリカみたいに合理主義でなんでも機械化ばっかりにしちまったら『味気』がない」
旭日が求めているのは、アメリカのような『合理的な機械化』と、日本的な『職人技・熟練妙技』がいい意味で合体した国家体系である。
精神論も『時には』重要として、柔軟に様々なことに対応できるようにしておきたい、というのが個人的に太平洋戦争を研究した旭日の考えであった。
そして、続いてにぎつ丸から降ろされたのは、特殊攻撃機『火龍』である。
「うぅん……胴体の中にエンジンを収めることができれば『Fー86』みたくなりそうだけどなぁ……」
「それ、なんですか?米国の機体でしょうか?」
戦没した扶桑はもちろん、戦後に解体された者たちも特に知らないだろうとわかったからか、撫子が皆に解説を始めてくれた。
旭日はその間に火龍を検分することにした。
「おぉ……機首の30mm機関砲、頼もしい感じだな」
もっとも、火龍が試験で却下されたにもかかわらず、アメリカではその頃既に『Pー80』シューティングスターという実用ジェット戦闘機が開発・量産されていた。
アメリカでは他にも究極のレシプロ戦闘機と言われている『F8Fベアキャット』も存在していたため、火龍のみならず烈風が実用化していても大戦の不利を覆すことは難しかっただろうとされている。
人的資源の使い方、開発に至るあれこれを含めても、日本はアメリカに一段も二段も劣っていたとしか言いようがない。
設計主任を戦場に送るなど、正気の沙汰ではないのだ。
「んじゃ、この火龍は飛行場の格納庫に入れておいてくれ。あとで技術班に分析させて、量産可能かどうかを確かめる」
「はっ。了解しました」
火龍は大型のトレーラーに載せられると、ゆっくりと運ばれていった。
「さて、と。あとはヴェルモント皇国の偵察か……」
「えぇ~?お姉ちゃんとイチャイチャしてくれないの~?」
撫子を膨れさせるのはよろしくないのだが、これも喫緊の課題なので納得してもらうしかない。
「ゴメン、姉さん。せっかく一緒の世界に転生できたんだけど……しばらく忙しくなりそうなんだ。姉さんと一緒にあちこちを見て回ることもできないんだ。本当にゴメン‼」
旭日が手を合わせて謝ると、撫子はクスリと笑った。
「わかってるわ。ひーくんがこの世界の日本を守るために頑張ってることは、アマテラス様からいっぱい聞いたから」
「姉さん……」
「だから、頑張ってこの国を守ってね」
ニッコリと微笑むその姿は、とても眩しいほどに美しい。
どうやら転生特典で20歳くらいまで若返っているようで、この世界でも旭日との年齢差は変わらないようだった。
すると、またも旭日を抱きしめながら耳元で囁く。
「でも、ちゃんと戦争が終わったらデートしてね♡」
「はいはい、わかってるよ」
そして、ダメ押しと言わんばかりに旭日の頬にキスをすると、エリナや北上らが『あぁ~‼』と悲鳴を上げたのだった。
撫子が一度自分の船に戻った後、旭日は振り返った時に艦長娘の多くが『ゴゴゴ……』と言わんばかりの迫力を出していたために『うぉっ!?』と驚く羽目になった。
その後は警備体制や哨戒体勢を整えて、新兵器の量産体制(この場合の新兵器は橘花とエロ爆弾)、そして訓練体制を整え、1ヶ月ほどで準備を終えた旭日は雲龍と共に海を渡り、マチルダ共和国へと向かうのだった。
いよいよヴェルモント皇国へ向かいます。
果たして、どのようなことになるかはお楽しみに……




