お姉ちゃんが異世界へ、来た
いよいよヴェルモント皇国へ潜入……と思いきや、その前に起きた『奇跡』です。
扶桑たちとは別でこういうお姉ちゃんキャラを出したかった……
旭日が不安がる雲龍を寝かしつけて自分も眠ったその夜、彼はなんとも言えぬ不思議な夢を見ていた。
旭日が目を覚ますと……いや、夢の中で覚醒すると、『眩い』にもかかわらず『眩しすぎる』とは感じない光の中にいた。
「……あれ?ここって……」
見渡す限り、真っ白な光に包まれた、幻想的とすら言える世界。
生きているとも死んでいるとも言えないような不思議な感覚を、彼は味わったことがあった。
「……もしかして、神界?」
「その通りです」
旭日がハッと振り返ると、和装ともいえる服に身を包んだ美人……彼をこの『マギカクロイツ』に送り込んだ張本人、太陽神の姿があった。
「太陽神様!」
思わず反射的に土下座の体勢で見える地面にひれ伏す旭日。
まるで水戸黄門に頭を下げる庶民のようだが、旭日からすれば、自分の意のままになる艦隊を与えてくれた存在で、異世界転生という小説のようなことをさせてくれた恩人(神と言うべきか)でもあった。
「頭を上げてください、旭日さん」
「いいえ。太陽神様のおかげで、私は異世界生活を満喫させていただいております‼このご恩、なにを以ても代えがたいものと常々思っておりました‼」
「……私たち神々のミスであなたを死なせてしまったというのに、そんなに私のことを思ってくださっていたのですか?」
「はっ!」
旭日のまっすぐな姿を見ながら、太陽神は決意したように彼に声をかけた。
「では、もしそう思ってくれているのであれば、大変不躾とは思うのですがお願いを聞いていただけないでしょうか?」
「お願い、ですか?」
「はい」
太陽神……少なくとも、ただの無力な人間からすれば神様と呼ぶべき地位に属する存在が、ただの一人間にそこまで配慮しなければならない事態でも発生したのだろうかと旭日は考えた。
すると、穏やかな光と共に太陽神の背後に別の女神が現れた。
「こちらの方は……」
「彼女は私の……そうですね。相方と呼ぶべき存在で、月光神と言います」
旭日も転生してから大日本皇国でその存在を聞いたことがあった。太陽の女神とは対になる存在で、共に重要な存在としてまつられているのだ。
「初めまして。月光神と申します」
その姿は明るく溌溂とした印象の太陽神と比べると、どこか穏やかというか儚げな印象を受ける。
そんな月光神を横目に見ながら、太陽神が少し申し訳なさそうに話し始めた。
「実は私の元に、あなたのいる世界への転生を望む者が現れまして……その人を受け入れていただきたいのです」
「え、そうなんですか?」
「はい。その者は、あなたの下へ行くことを望んで……いえ、直接会ってもらった方がいいでしょう」
太陽神が月光神の方を向くと、月光神はコクリと頷く。すると、彼女たちの背後に広がっていた光が、まるでカーテンのようにフワフワと開いていく。
その光の幕の向こうには……日本人らしき1人の女性が立っていた。
「……え?」
その女性を見た瞬間、旭日は固まってしまった。
『なぜ、この人がここに……』という考えで一杯になってしまい、それ以上のことを思考できなかったとも言えるのだが。
その女性は、スラリとした体躯ながら、太ももや腰回りなど女性として必要な部分に程よく肉がついていた。
その胸元は非常に豊満で、スレンダーな体形が多めと言える(近年は食生活の変化によってそうでもなくなりつつあるが)日本人としてはかなりの巨乳と言っても過言ではないだろう。
それでいて顔立ちはとても凛々しく、しかしどこか愛らしさも感じられるものである。
黒く艶やかなロングヘアーは、俗に言う『大和撫子』を体現したかのような存在であった。
そして、旭日の記憶にあるそんな容姿を持つ女性は、『前世界では』1人しか思い当たらなかった。
「……撫子姉さん?」
「……そうだよ、ひーくん」
その女性は、大蔵旭日のたった1人の姉、大蔵撫子その人であった。
幼い頃からとても可愛がられていたが、成人後も姉弟でよく出掛けるなど、かなりのブラコンだった女性である。
もっとも、旭日も美人で面倒見のいい姉のことが好きだったので、そんなダダ甘やかしと周囲から言われるほどの姉を大事にしていた。
名前の由来は『大和撫子のような女性になってほしいから』だったという。
名前の由来を聞いて本人があれこれと調べた結果、『大和撫子』とは日本の奥ゆかしく、美しい女性のことであると知って、自分の名前を誇りに思うようになったという過去を持つ。
当然旭日のミリタリー趣味に付き合うことも多く、自衛隊の観艦式や航空祭、さらに駐屯地祭や総火演などに赴いたことは数知れない。
そんな旭日の門前の小僧とも言うべき立場にあったためか、彼女もまた旭日ほどのマニアックではないものの、兵器や戦術にはそれなりに通じている。
ちなみに穏やかな雰囲気に似合わず意外と武闘派で、旭日と一緒にいるところでチャラそうな男に絡まれ、旭日が姉を守ろうとしたらいきなり殴られそうになったのでクロスカウンター気味にパンチを放ち、その男を吹っ飛ばしたという腕力の持ち主でもある。
まさかの武闘派な一面から、今でも彼女を知る一部の者からは『あの子は大和撫子というよりも、戦艦大和だ』と言われたこともある。
そんな女性が、涙目になりながら旭日に向かって走ってきた。
「ひーくん!」
撫子は旭日に抱き着くと、その豊満な胸元に旭日の頭を埋め、がっちりとホールドするのだった。
「あぁっ、ひーくん、ひーくん!会いたかったっ!」
「(あぁ、懐かしい。撫子姉さんの匂いだ)」
ふんわりとした女性特有の甘い匂いが、旭日の鼻腔をくすぐる。
その匂いに思わず目を閉じ、姉に身を任せてしまう。
旭日は旭日で、行き過ぎたと言ってもいいほどに深い愛情を注いでくれる姉のことを懐かしく感じていた。
「撫子姉さん……すごく懐かしい……じゃなくて‼なんで撫子姉さんがここ(神界)にいるんだよっ!?」
懐かしい温もりを少し名残惜しく思いつつも、気づいた疑問をぶつける旭日。
というか、気づかなかったらそのままもうしばらくおっぱいホールドをされたままになり、恐らく太陽神が咳払いしてようやく我に返っていたところだろう。
そんな撫子は、旭日が知る限りではあるが、一部上場のかなり優良なホワイト企業に勤めており、自分のような過労死とも無縁で、病気もしないような健康体だったはずであった。
そんな姉が、通り魔かなにかに不意をつかれて殺されでもしない限りそう簡単に死ぬとは思えなかったのだ。
こんなことを言うと世の女性から怒られるかもしれないが、『ゴキブリ並みかそれ以上の生命力』と旭日は考えていたほどであった。
「お姉ちゃん、ずっとひーくんに会いたかったの……ひーくんが死んじゃってから、お姉ちゃんなにもかもやる気がなくなっちゃって……少しでもひーくんに近いところ……あの世の近くに行きたくて、会社を辞めてあちこち旅行してたの。出雲大社とか、高千穂とか」
どうやら、自分がなにも言わず先に死んでしまったことはこのブラコンの姉にとってはとても耐えがたい苦痛だったらしい。
両親に加えて最愛の弟も亡くしたという事実は、想像以上に姉の心を蝕んでいたようだ。
そんな傷心から、日本に存在する『神秘的・霊験あらたかな場所』に赴くことで少しでも旭日に近づきたかったのだろう。
「そっか……ゴメン、先に死んじゃって」
変な謝り方だが、実際にその通りなので仕方がない。
「でね、伊勢神宮にお参りした時、お姉ちゃん倒れちゃって……」
「え!?なんか病気でも!?」
「ううん。空腹で」
「え?」
「そのまま死んじゃったの」
「……えぇ?」
「だって、ひーくんが死んじゃってから、ほとんどご飯が喉を通らなかったんだよ……旅行であちこち巡っている時だって、ひーくんとご飯も一緒に食べられたらって思うと……余計に食べられなくて……」
「そ、そっか……」
旭日も、自分の姉が己に注いでいる愛情が常人のそれとは全く異なるということは重々理解していた。
だが、日常生活に支障が出るレベルほどの重症とは思わなかった。
逆に言えば、それだけ撫子から愛されているということでもあり、どこか照れくささというか、むず痒さを覚えてしまう。
「それでね、ここにいるアマテラス様とツクヨミ様から、ひーくんが異世界へ転生して、別の世界の日本のために頑張っているって聞いて、『ひーくんのところに行きたい』ってお願いしたの」
撫子の認識では、太陽神はアマテラス、月光神はツクヨミということらしい。
確かに間違ってはいないのだが、旭日はあくまでアマテラスやツクヨミという呼び方は人間が勝手にそう呼んでいるだけであるという認識だったため、あえて『太陽神様』と呼んでいたのだ。
そんな旭日たちの両親は、旭日が大学に入学する年に交通事故でこの世を去っているため、親より先に死んだ、というわけではない。
そのため残っている者がいないという意味では、旧世界に未練がそれほどない姉の撫子の方が重症だった。
旭日がチラリと太陽神の方を見ると、太陽神は『致し方ありません』とため息とともに言葉を吐き出した。
「確かに、旭日さんの死因には我々神の責任がありますので、それに関わることは関係ない、というわけにはいかないのです。しかし……」
太陽神は改めて旭日の方を見る。
「旭日さんを転生させるのに、私の力は大きく消耗してしまいました。少なくとも、私の力では大和さんを『単身で』転生させることしかできません」
『ついでに言うと』と太陽神は続ける。
「旭日さんは今、戦力が不足していてその拡充が急務と聞いていましたので、その一助となればと思い、撫子さんをあなたの旗下となる船の艦長として、さらに何隻かの船をつけてあげようかと思い、彼女にお願いしました」
そういって振り向いたのが、月光神であった。
「はい。私も力を使ってしまうと、人間時間で100年以上は人を転生させられなくなってしまうのですが、ことは神族の責任問題です。それに……」
なぜか月光神は顔を赤らめながら太陽神の手を握った。
恋人繋ぎで。
「太陽神様のサポートができると思えば、私にとっても嬉しいですから」
なんと女神様、まさかの百合であった。
もっとも、各地に残る神話での『神々の世界』なんていうものは近親相姦もあれば同性愛なんて言うのも珍しい話ではないので、『そんなもんか』と納得してしまう旭日であったが。
「そこで、なのですが……船も1隻だけでは心もとないので、月光神の力でこれを配備しました」
それは、以下の船及び兵器となる。
○戦艦大和
○給兵艦『樫野』
○軽巡洋艦『大淀』・『仁淀』
○剣崎型潜水母艦『剣崎』・『高崎』
○にぎつ丸及び搭乗員
〇 特殊攻撃機 火竜
○60式自走106mm無反動砲
旭日からしても『マジで?』と思わされる内容であった。
クセがある、と言えば確かにクセが強いと言ってもいいモノばかりである。
なぜならば、まず『大淀型軽巡洋艦』は、日本が作った軽巡洋艦の中でも夕張と同じく姉妹艦の存在しない船であると同時に、その使われ方も特異であった。
当初は潜水艦隊の旗艦として高速水上偵察機を多数搭載して任務にあたる予定だったが、残念なことにこの偵察機『紫雲』の開発が大失敗してしまったため、格納庫を司令部施設に改装することで連合艦隊旗艦にするという事態になった。
しかしそれも司令部施設を陸上に移すことが決定したことにより、全く意味をなさなくなってしまったため、元の軽巡洋艦に戻ったという紆余曲折を経た船であった。
また、『大和型戦艦』の1番艦である『大和』は、その居住性の良さから『大和ホテル』などというあだ名を頂戴しているが、この大和で明らかになった問題を改良して、長崎の三菱長崎造船所(つまり民間企業)でより上質な内装を持って建造されたのが、姉妹艦の『武蔵』である。
武蔵が入っていないのは、大和の運用によって判明した欠点を改良できた船だったから、『クセがあるかどうか』と言われれば違うからなのかもしれない。
そして驚くべきことは、給兵艦『樫野』が入っていることであった。
これは、大和型戦艦の主砲の砲身を運ぶため『だけ』に建造された船で、1万t越えの船体に5800tまでの貨物を輸送する能力があったと言われている。
砲身だけ、と考えれば約35本を運ぶことが可能である。
もちろん、それ以外にも色々と運ぶことになっただろうからそれだけ、とはいかなかっただろうが。
それにしたって、主砲の砲身を運ぶためにと新しい船を作るあたり、日本が大和型戦艦にどれほどの期待をかけていたかがうかがえる。
「あ、やっぱり改装はできるわけね……これって俺がやっちゃっていいんですか?」
「えぇ。あなたの旗下に加わることになる船ですので、あなたが調整して下さい」
「わかりました」
こうして、改装の結果が以下となる。
○大和(対空・対水上レーダー強化。米国式PPIスコープタイプ装備、リベット留めから全体を溶接へ変更、主砲の光景を45口径から50口径へ延長、40口径12.7cm連装高角砲を長十糎砲に換装、対空機銃にシールド全装備、ボフォース40mm四連装機関砲装備、60口径15.5cm三連装砲の装甲強化)
○給兵艦『樫野』(主砲を65口径10.5cm連装高角砲に換装、バルバスバウ採用による航行能力の増加)
○大淀型軽巡洋艦『大淀』・『仁淀』(バルバスバウ採用・司令部施設の撤去と航空機用油圧式カタパルト装備・搭載機は急降下爆撃と空戦が可能な瑞雲)
○剣崎型潜水母艦『剣崎』・『高崎』(バルバスバウ採用・主砲を65口径10.5cm連装高角砲へ換装・25mm三連装機銃4基・12cm28連装噴進砲2基装備)
○にぎつ丸(バルバスバウ採用、機関を空母『龍驤』と同じものに換装、飛行甲板を装備した空母型に変更)
潜水母艦も主砲に高角砲を搭載していたが、より高性能な長十糎砲に換装した。
さらに対空機銃と噴進砲を取り付けたことで対空能力が劇的に向上している。
にぎつ丸に関してはあきつ丸や熊野丸と同じの姉妹船なので、上部構造物を飛行甲板にする以外の変更点はそれほどない。
彼女たちと同じく、艦首変更や主機関変更だけである。
給兵艦の『樫野』に関しては元々戦闘を目的とした船ではないので、安定した航行を行えるようにするバルバスバウと、自衛戦力の向上ということでこちらも長十糎砲を採用した。
大和に至っては主砲の口径延長により、その破壊力と射程距離が大幅に増大している。
主砲の砲身長も2m以上長くなり、なんと驚異の23mである。
後に魔法陣学を施すことを考えれば、砲身寿命などもかなり引き上げることができるだろうと推測されていた。
本当は後付けよりも製造した時に施す方が魔法の効率がいいのだが、『やらないよりはいい』ので、後で精霊と魔導師に頼むこととする。
さらにリベット留め及び鋲打ちから全体を溶接する船体に変更したことで、対水雷防御が大幅に向上しているのみならず、使用している鋼材がかなり節約され、排水量の減少に貢献している。
相も変わらず重巡洋艦が存在しないが、月光神の力がそれだけ限定的ということであろうと旭日は考えていた。
むしろ、単艦にして最強ともいえる『大和型戦艦』を1隻つけてくれるだけでもかなりのサービスだと言えるだろう。
そして驚くべきは、ジェット機の『特殊攻撃機 火竜』と戦後兵器であるはずの『60式自走106mm無反動砲』が入っていることであった。
今旭日たちが研究を進めている次期主力戦車を開発するのに、この車両を研究することは『多少』意味がある。
なぜならば、日本が敗戦後戦車を復活させる研究の一助として作られたものだからである。
愛称として『マメタン』とも呼ばれるこの車両は、日本が軍事力を回復する際に造られ、重要な防衛火力となった。
8.8tという軽量(なんとチハたんこと九七式中戦車の15tよりはるかに軽い)ボディに、106mm無反動砲を2門も搭載している。
このおかげで歩兵の火力支援もできれば、対戦車戦闘もある程度可能という、非常に汎用性の高い車両だ。
コンセプト的には『対戦車自走砲』に近いともいえる。
流石にイギリスの『アーチャー対戦車自走砲』のように車体の後ろに主砲が突き出ている、というわけではないが。
史実日本ではなんとビックリ、2008年まで現役(年数としては48年間)だったという装備である。
もっとも、『74式戦車』はその年数を越えて退役と相成りそうだが(史実では2024年に退役)。
正直に言えば、戦後日本にも供与されたという『M50 オントス自走無反動砲』に比べれば一度に投射できる火力こそ少ないものの、小柄で待ち伏せで使いやすく、防衛を主体とする日本の自衛隊には合致している。
ついでに言うと、『使いやすい』うえに『安い』。
構造が割と単純なので整備もしやすく、対歩兵・対戦車と多目的に運用できるという点も大きい。
使いやすさとマルチロール性を追求することは、なにも戦闘機や軍艦だけの話ではないのである。
そしてもう1つは、陸軍版橘花とも言えるジェット戦闘機、『火竜』である。
こちらは開発されていた橘花の677kmに比べると想定していた速度がかなり速く、うまくいけば最大で812km出せただろうという推測が出ている。
武装についてはこちらも橘花同様に500kgから800kgの爆弾を搭載できるのと、こちらは橘花との違いとして、固定武装として30mm機関砲を搭載する『予定』だった。
そう、この『火竜』はエンジンの制作がうまくいかず、それによって計画を破棄された機体なのである。
もしも戦列に加わっていれば、高高度での高い戦闘力と迎撃能力によってB―29の迎撃もこなし、大型爆弾による攻撃も既存のレシプロ機に比べて安全にこなせたのではないか、という考えもある。
だがそれは、制式採用が早く、しかもレシプロ機並みに生産・整備の設備が整っている場合に限定されるだろう。
しかし、この機体を量産することができれば旭日の考えていた『ジェット機の入門編にして習熟機』というコンセプトには十分すぎる。
現在大蔵艦隊と大日本皇国で採用している様々な武器と組み合わせれば、これらは大きな力を発揮することだろう。
「本当にこんなものを……いいんですか?」
「えぇ。あなたにはこの世界を……マギカクロイツをなんとしても守ってもらいたいのです」
「……なにかあるようですね」
「詳しくは聞かないのですか?」
旭日は怪訝な表情をしている月光神に対して首を横に振った。
「それができれば神様が自ら手を下しているんでしょう。できない、あるいは制約があるから転生者に任せようとしている……違いますか?」
「……その通りですが」
「やっぱりね」
「ひーくん、どうしてわかったの?」
「簡単だよ姉さん。神様ってのは『全知』であっても、『全能』じゃないんだ」
「?」
「あぁ~、要するに……『この世界における全てを知ってはいるけど、その全てに介入することは許されない』ってところかな?」
神話のみならず、現代のラノベなどでもよくある話である。
「……仰る通りです。あくまで私たちは人間に手助けをして介入することが関の山でして……それ以上は許されていないのです」
「まぁ、そんなところだろうと思いましたよ」
太陽神も月光神も申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ありません……ですが、それでもあなた方に託すしかないのです……」
「どうか、よろしくお願いいたします」
「もちろん。絶対に、なんて言えませんが……それでもできる限りのことをさせていただきますよ」
旭日としても、戦乱渦巻くとは言え自分の望む艦隊を付けてもらって転生し、司令官として艦隊を率いて戦っている。
戦争そのものは望んでいたことではないが、それでも過去の日本が受けた屈辱を再び味あわせないためともなれば、書籍やデータでしか知らなかった『戦争』でも身を投じてみせようと考えていた。
そして実際に、海賊やオルファスター王国とも戦って、旭日自身が人を手にかけた場面も多数存在した。
確かに思うところがない訳ではない。
しかし、大切なものと自分の居場所を守るためならば、自分の手を血に汚すことも厭いはしない。
必要だというのであれば、都市部への艦砲射撃や、無差別爆撃とてやってみせよう、という考えすらある。
そういう『覚悟』を身に着けることはできた。
あとは、世界が平和になるまで戦い抜く。
そして平和でいられるように考えること。それだけのことである。
「神様は神様らしく、ドンと構えて見守っていて下さいよ。撫子姉さんもくれば百人力ですから」
「ひーくん……」
旭日の言葉がよほど嬉しかったのか、感極まってまたも旭日をおっぱいホールドする撫子であった。
そんな2人を見た2人の女神は、ニコリと微笑んだ。
「分かりました。どうか……どうかよろしくお願いいたします」
「私たちは、いつでも見守っていますから……」
段々と意識が遠のく感覚。
そして、旭日が意識を再び手放そうかというその瞬間、月光神から最後の声が聞こえてきた。
「そうそう撫子さん。あなたのお願い通り、あなたの体は……」
残念ながら、そこで途切れてしまったものの、旭日は『またあとで聞けばいいか』と意識を手放すのだった。
旭日が目を覚ますと、既に夜は明けていた。
『むくり』と体を起こすと、誰かの気配を感じる。
「おぉ、扶桑」
「おはようございます、司令。随分と寝言が多いようでしたが……なにか悪夢でもご覧になりましたか?」
「……いや。そうじゃない。扶桑、皆に伝えてくれ。『今日新しい仲間がウチに着任する』ってな」
着任という言い方は某艦隊育成プラウザゲームのような言い回しになってしまっているが、実際その通りだろうと思っている。
旭日の命令を受けた扶桑が通信で全員に声をかけ、旭日と共にキイの港湾へと向かった。
「司令、本当にそんな船が来るのですか?」
疑問を隠せないのは、真面目そうな塩屋であった。委員長タイプのキリリとした顔が怪訝そうなものになっているあたり、よほど信じられないらしい。
『旭日の言うことだから信じているが、そうでなければ信じられない』と言わんばかりの雰囲気である。
「なに言ってんだ塩屋。俺たちだって元は人間の常識からすれば『信じられない』存在だぜ?」
「そ、それはそうですが……」
塩屋はなにか言いたそうであったが、言い返せそうにないと思ったのか口をつぐんだ。
すると、パタパタと走る音がする。
旭日が振り返ると、なんと居城のアヅチ城にいるはずのエリナの姿があった。
「エリィ!?なんで君がここに……」
「さ、昨夜太陽神様よりお告げがありました……『この港に、旭日様の旗下となられる新たな船が来る。その力は、この世界の標準をはるかに上回るものである』と……」
どうやら、国家元首の娘であり巫女のような力を持つエリナには神託が下ったらしい。
なんと、明治天皇とイトウ・シュンスケまでもが護衛を伴ってそこに立っていた。
「へ、陛下までお越しとは……」
「うむ。どのような船が来るのか、非常に興味深くてな」
その時であった。
海軍兵が旭日に近づいてくる。
「司令、失礼いたします‼」
「どうした‼」
「ただいま基地設置型対水上電探に反応が突如現れました‼戦艦1、重巡洋艦2(レーダーに映った輝点が大きかったので勘違いした)、軽巡らしき船が2、空母らしき船1、輸送艦1です!」
「来たか‼」
旭日たちがしばらく待っていると、巨大な、雲龍たち空母を超えるほどの巨大な艦影が姿を見せた。
「な、なっ!?」
「あ、あれは……?」
明治帝やイトウはもちろん、エリナも手で口を覆って驚愕の様子を示している。
その船は、堂々たる威容と共に港に姿を現した。
「あ、旭日様……あの船は……?」
「大和型戦艦1番艦、『大和』。我が国が昭和時代に建造した、世界最強の艦砲を備えた超弩級戦艦です」
大和型戦艦は250mを超えるその船体を、巨体からは想像もつかないほどに滑らかに港に滑り込ませるのであった。
……はい、創作ものによくある、『弟にダダ甘なお姉ちゃんキャラ』です。
やりやがったと思う方もいるでしょう。
反省はしている。しかし、後悔はしていない。
そして来月なのですが、艦これのイベントがあるので申し訳ありませんが来月はお休みします。
次回は4月26日に投稿しようと思います。




