ヴェルモント皇国へ
今月の投稿になります。
今回からいよいよ本格的にヴェルモント皇国編ですね。
文明圏外国家諸国に衝撃を与えた東洋国家間会議からはや1ヶ月が過ぎ、日本(と、さりげなく真っ先に日本の恩恵を受けて進化していたアルモンド王国)の各業界がてんやわんやの状態になっている頃、旭日はまたも明治天皇から呼び出しを受けていた。
今となってはお馴染みとなりつつある扶桑に搭載されている零式水上偵察機でアヅチ城へ向かうと、桟橋でこれまたすっかり馴染みになった宮仕えの従者たちが素早く桟橋に繋留していく。
まだ数回しかやっていないにもかかわらず彼らも慣れたもので、テキパキとロープを縛っていくのだった。
『適応力すげぇな』と考えながら城内に入ると、かつてオルファスター王国から無茶な要求が来た時に味わったイヤな緊張感が空気に満ちていた。
「……これ、絶対なにかヤバいネタが来たってことだよなぁ……明らかに空気がヤバいぞぉ……」
「そうですね。その可能性が高いと考えられます。まぁ、なにかしらの無茶が起きていることは間違いないかと」
「そんなぁ……まだ日尾戦争から1年も経ってないんだぞぉ……休ませてくれよぉ……」
「ある意味この状況も、司令が望んだ世界で起こったことなのですから、そこは少し我慢して下さいな」
「ぐぅっ……それを言われるとなんとも言えねぇ……まぁ、しゃぁねぇなぁ。もうひと頑張りしますかぁ」
他愛もない会話を交わす扶桑と共に従者に案内されて扶桑と共に帝の間へ入ると、既に閣僚たちと明治天皇が緊張の面持ちで座っていた。
どうやら、会議出席者たちは旭日の到着を待っていたらしい。
「陛下。大蔵旭日、ただいま参上仕りました」
「同じく扶桑、参りましてございます」
「うむ。よく来てくれた旭日、扶桑。さて……単刀直入に言おう」
旭日はゴクリと生唾を呑む。
「ヴェルモント皇国が、お主の考えていた通りにオルファスター王国に侵攻を開始した。編成は陸軍が中心になっておるが、海軍もいつでも出撃できるような状態になるように準備を進めているらしい」
オルファスター王国の南にはそれまで属国だったケナシュルム王国とボンパコ共和国が壁のように存在するため、海軍よりも陸軍を中心にするのではないかと旭日は想像していたのだが、予想通りであった。
それでなお海軍の準備を進めている、というのは、オルファスター王国を制した後に日本に攻め込むつもりなのか、それとも元属国の2ヵ国に攻め込むつもりなのか、その辺りは流石に判断がつかない。
ただ、弱小国とはいえ自分たちの意に沿わない存在を背後に抱える形で放置しておくことはしないだろうと考えられるため、十中八九の確率でオルファスター王国を攻略した後はケナシュルム王国とボンパコ共和国も攻略するために海軍を動かすだろうとは考えていた。
「ヴェルモント皇国陸軍は5万を超える陸軍兵を動員しているらしい。内訳は以下のように……」
日本の諜報組織が掴んできた内訳はこうだ。
○銃兵 1万人
○砲兵 8千人(補助兵も含めて)
○近接兵(槍や剣で戦う兵士) 2万人
○輸送兵 1万人(輸送部隊の護衛の兵士を含む)
○竜騎士 300人(補佐の魔導師部隊を含めると2千人)
白兵戦を行う兵士が2万人もいるのは、皇国が日本で言う幕末に近い戦法を取っているせいで、戦い方次第だが至近距離での斬り合いも発生するからである。
そもそもを言うならば、まだ敵全てを飛び道具で片付けられるほどの『数』を揃えられていない上に、銃が元込め式とはいえスナイドル銃相当なので、投射力が現代銃や第二次世界大戦時の銃器類と比べるとどうしても劣る。
唯一の連続投射兵器であるガトリングガンも、残念なことに据え付け型なのでどちらかと言えば防衛兵器的な役割が強い。
一応車輪で運用することも可能なはずなのだが、ヴェルモント皇国ではその思想が育っていないようである。
日露戦争頃までは騎兵が存在していた、と言えばその投射力の『差』がよく分かるというものである(第一次世界大戦の時に剣と弓を携えて暴れたという大英帝国が生んだリアルチートは別格である)。
閑話休題。
もっとも、そんなヴェルモント皇国の総力からすると、派遣される陸軍兵士が5万人という数はそれほど多くもないのだが、問題は控えている海軍だった。
皇国海軍の主力である蒸気フリゲートに酷似した戦列艦には推進力を生み出す魔導機関が搭載されていることと、主砲は強力なアームストロング砲レベルの大砲が搭載されているとのことなので、戦列艦に近い船としては終末期レベルの能力があるのではないかと考えられている。
そして、そんな戦列艦に加えて、エアロ・ホークなる飛行生物と対艦攻撃用のワイバーンを搭載した『エアロ・キャリアー』という戦列艦より大きな木造の空母モドキによる機動部隊が存在するらしい。
戦列艦は対外派兵できるものだけでも300隻、さらにエアロ・キャリアーが50隻、揚陸艦150隻によって500隻という大艦隊となる。
これでもただの『数』だけならばオルファスター王国よりははるかに少ないが、その分『質』は戦国時代レベルの能力しかなかったオルファスター王国とは比較にならないほどに向上している。
そんな、この世界でも列強国と言われる国家が、かつて自分たちが支援していた保護国に攻め込んだ。
技術格差は圧倒的で、さらに兵力の総数も大幅に列強国側が勝っている。
そもそもオルファスター王国は日本との戦い……もとい大蔵艦隊との戦いで海軍と竜騎士団は全滅し、陸軍も港湾部と首都防衛隊が全滅している。
現在は各地の部隊を少しずつ捻出してササンテとインカラの防衛をしているそうだが、背後から襲われるようなもので、まず勝てないだろう。
明治天皇のみならず、閣僚たちも緊張の面持ちに包まれている。
「陛下、オルファスター王国はこのことを……」
「宣戦布告するまで官民ともに全く気付いていなかったようでな……現在国内は大混乱だそうだ。列強国の脅威から逃れようと北方へ逃げる者が多いらしいぞ」
北方にはまだヴェルモント皇国の影響力が及んでいない文明圏外国家がいくつかあるため、そちらに難民として逃亡するつもりなのだろう。
もっとも、今まで列強の保護国という立場から好き勝手をやってきたオルファスター王国民が各国に受け入れられるかどうかと言われれば話は別だが。
ちなみに、その中には今回の東洋国家間会議に参加した国も存在するが、今回の東洋国家間会議においてオルファスター王国が攻められた場合に難民をどうするかという話については議題に載せていなかったので、なにも考えられていない。
「恐らく、オルファスター王国を陥落させた次の標的は……我が国であろうな」
「その可能性は高いと考えられます。我が国に侵攻するべく、港湾都市ササンテの港湾部を修繕・改造し、そこを拠点にすると思われます。もちろん、その前にケナシュルム王国とボンパコ共和国に攻め込むことも考慮しなければなりませんが……それでも、直ちに全軍に通達し、本日より警戒態勢を一段引き揚げます」
「うむ。で、ここからが本題なのだが……お主に頼みがある」
「なんでございましょうか?」
「お主に、ヴェルモント皇国の潜入調査を頼みたい」
今の時点でも諜報組織のお陰でかなりの情報が明らかになっているはずだが、明治天皇としてはできる限り正確かつ信頼できる情報が欲しいらしい。
「それは構いませんが……私がいない間のこと……特に、艦隊に関してははいかがいたしましょうか」
「お主の留守の間はできれば扶桑に任せたい。其方ならば旭日の艦隊を手足のように動かせるであろう」
「扶桑、できるか?」
「はい。問題ございません」
確かに、扶桑は艦隊の中でも一番先に建造された船ということもあってか、艦長娘の面々も一目置いているのだ。
彼女であれば、旭日の代わりに艦隊を指揮することもできるだろう。
「では……今回は民間人に扮します。なので……そうですね、雲龍を連れて行くとしましょう。雲龍は『最後に作られた』タイプの空母ですからね。技術的・思想的な意見を聞くにはちょうどいいです」
「おぉ、そうなのか」
もちろんその後には天城、葛城も存在するものの、『出撃して外洋での実戦を経験したことがある』空母は雲龍で最後である。
もっとも、その実戦と言うのは特攻兵器『桜花』を運ぶという仕事で、その唯一の仕事の最中に米軍の潜水艦によって撃沈されてしまったのだが。
そんな彼女の意見を聞こうと思ったのである。
見た目の年齢も高校生くらいなので、今の旭日と並んでもそれほど違和感はないため、適任だと言える。
「うむ。ではこの度も其方の分析を当てにしておるぞ」
「ははーっ。心得ましてございます!」
アヅチ城を後にした旭日は自宅へ戻ると、艦長娘たちを招集した。
「と、いうわけで雲龍は今回俺と一緒にオルファスター王国の北部を経由してヴェルモント皇国へ向かうことにする。海路じゃないのは、陸路以上に安全が確保できないからと、スパイだとすぐバレて面倒なことになるのは間違いないからだ」
「そりゃそうか」
難しい顔をする北上の言葉に『なので』と続ける。
「津軽。また忙しくなって悪いが、駆逐艦たちに加えて1等輸送艦と一緒に近海の警備を頼むぞ」
「はっ。不審な船は1隻たりとも通しません」
「了解~」
「頑張ります」
津軽と1等輸送艦の主砲には『秋月型駆逐艦』と同じ65口径10.5cm連装砲が搭載されているため、ちょっとした対艦戦闘が可能になっている。
流石に高射装置は搭載していないので対空戦闘は厳しいかもしれないが、速射力と命中率は12.7cm砲より上昇しているため、近海警備の装備としては十分すぎるだろう。
「香取、鹿島、香椎。お前たちは松、竹、梅、秋月、照月、それに薩摩の乗員をビシバシしごいて欲しい。彼らがいずれ教官になれるくらいにな」
いずれ共栄圏に加盟した諸国に砲雷撃戦、さらに対空戦闘などの全てを教導できるまでになってもらわなければならないからである。
「海軍からは既に『教えて欲しい』という人物が殺到しておりますので、できることから順に教えて行こうと思います」
「よし、それでいい。人材の早期育成を目指して、諸国に教官として派遣できるくらいまでには育てないといけないからな。頼んだぞ」
すると、いつの間にか目の下のクマがさらにひどくなった夕張が手を上げた。
「アタシは工廠に籠りっきりになるんであまり手伝えませんけど、副長に頼んでアタシも訓練に付き合いましょうかぁ?」
「お前の船体ははそろそろ入渠だ。船体も、お前の体も、きちんと整備しておいて有事に備えておいてくれ」
「あいっす~」
「明石は夕張があまり無茶しないように手綱を握っていてくれ」
「はいっ」
「えぇ~、どうせなら手綱じゃなくて緊縛……」
またぞろ余計なことを言いそうだったので、ツッコみ代わりに手元のクッションを顔面に投げ付ける旭日であった。
「それと、もう間もなく薩摩型巡洋戦艦2番艦の『筑前』が就役する。そちらに乗艦する乗員の訓練も並行して行ってくれ」
「うふふ。厳しいですね」
薩摩型巡洋戦艦は長砲身の38.1cm三連装砲を搭載しているので、砲撃戦を主体とする戦いでは大きな力になってくれるだろう。
場合によっては、敵首都への艦砲射撃なども考えなければならない、と旭日は想定していたからである。
また、首都かどうかはさておき、地上に対する艦砲射撃が必要になる場面が出てくるのではないか、というのが旭日の考えであった。
この世界は旧世界と比べても未熟な部分が多いため、艦砲射撃で一般庶民を含めた人々に圧倒的な威力を見せつける必要もあるだろう。
例え、あとから無差別攻撃であると非難されるようなことになろうとも。
「すまないな。次に飛鷹、隼鷹、大鳳、天城、葛城は西部、南部の警備を十分に固めておいてくれ。乗員と艦載機パイロットの育成も忘れずに頼むぞ」
「「「「「はっ‼」」」」」
空母のみならず、レーダーの範囲外(艦載レーダー的には距離200km以上)を探索するのは偵察機と哨戒機の仕事である。
旭日はターボとは言えジェットエンジンの完成にこぎつけたことから、『YSー11』レベルと言えるターボプロップの中型輸送機を製造しようと考えていた。
これを改良し、輸送機や哨戒機として運用するつもりである。
空母の乗組員のみならず、地上配備の飛行機についてもなんとか推し進めたいところだが、現在は空母の艦載機で手一杯であった。
地上型の戦闘機は今のところ迫る航空戦力と不審船舶に対する要撃を中心に考えているため、航続距離は短いものの重武装と高威力の武装を持つ戦闘機を作っている。
ただし、既にレシプロ機ではなくジェット機を研究させている。
旭日としてはレシプロの要撃機としては最高峰と言われた『震電』のような制空特化型ではない、対艦・対地攻撃もこなせるマルチロールタイプにしようと考えていた。
場合によっては、旧式化した場合に諸国に輸出して使ってもらうことも考えたからである。
「阿賀野たちも2隻ずつに分かれて、1隻ずつローテーションを組んで第2種警戒態勢だ。頼むぞ」
「はい!全力で頑張ります‼」
「威勢がいいな。ま、お前たちはそれでいい」
阿賀野たち軽巡洋艦は水上砲撃も海上偵察もこなすことを想定しているため、長期の航海になりがちである。
その点を含めてケアをきちんとしてやらなければと考えてもいる。
休むべき時は休ませなければ、人間は十全なパフォーマンスを発揮することができないからだ。
「北上と大井は西部で第2種警戒態勢だ。扶桑と山城もいるから、2人の指示に従うようにしてくれ」
「はい……」
「はい」
旭日としては、やはり距離が最も近い西部に襲来する可能性が一番高いと見て警戒を強めていた。
そのため、貴重な戦艦2隻と、大火力を有する重雷装艦は西部に配備しておこうということである。
本音を言えば、一撃被弾するだけで撃沈の危険性がある重雷装艦は超弩級戦艦などが出てくるような時まで温存しておきたいのだが、そうも言っていられなくなるかもしれない。
相手はそこそこの技術と、圧倒的な物量を有している。
打てる手は打っておかなければならないのだ。
油断して突破されて『本土に被害が出ました』では、遅いのである。
「ヨーたちは引き続き近海で警備兼訓練を続けてくれ。できれば近海における海底の地形データは早めに入手したい。それと……ヨーに関しては以前話しておいたことも実行しておいてくれ」
「分かりました。お任せ下さい」
旭日はヨーこと伊400になにか秘密の任務を与えているようであった。
それがなになのかは、今の時点では扶桑さえも知らないことである。
「よし……残りの面々はいつも通りの仕事をすること。頼んだぞ‼」
『はいっ‼』
残りは間宮や塩屋など、直接戦闘に向かない艦ばかりである。
なので、『それぞれの仕事』をするしかないのだ。
「また、陸軍については、あきつ丸と熊野丸に引き続き訓練をしてもらう。ただ、常にレーダー監視を怠らないように注意してくれ」
「心得ました」
「特に、ウチの最新鋭地上配備型レーダーは空の目標を300km先までは見ることができる高出力だからな。なにか不審なものが近付いてきても対応速度はかつてのお前たちのいた頃とはとは段違いのはずだ。頼むぞ」
「了解であります」
「陸軍の高射砲や海軍の高角砲の訓練も引き続き頼むぞ。さて、あとは……」
このような感じで、会議はさらに1時間ほど続いたのだった。
会議の後、旭日は入浴を終えて自室のソファーに深く腰掛けながら一息入れていた。
港湾都市キイのある南部区画は、精霊の加護もあって真夏の夜でも湿度の低い(平均約55%)うえに、気温も20度前後ととても涼しく、旧世界の夏と比べてはるかに過ごしやすくなっている。
そんなほんのりと涼しく、気持ちのいい夜風に当たりながら、旭日は今後のことを考えていた。
「……遂に、大国との戦闘も間近か」
思わず言葉が喉をついて出る。
つい先だってのオルファスター王国との戦いでは、圧倒的な数の差はあったものの、200年を超える技術格差であっさり覆せた。
海上戦力のみならず、陸上戦力においても質の差は歴然だった。
戦艦や戦車と渡り合えるような兵器がそもそもこの世界にどれほど存在しているかは分からないものの、列強国と言われるヴェルモント皇国でさえようやくスナイドル銃にアームストロング砲レベルということを考えれば、第二次世界大戦レベルの兵器をある程度の『数』さえこちらも揃えておけば、まず負けはしないだろうと言える。
今度のヴェルモント皇国についても、オルファスター王国の時と同様に『数の差』はあるが、『技術格差』はまだまだ圧倒的なので、それほど問題は無いように思える。
しかし、一番の問題は、戦争をしたのちの国際的な『立場』であった。
「もしヴェルモント皇国に戦争を吹っかけられた上で勝てたとすれば、間違いなく日本は列強国並みの国力を持つ国であると世界に認識されるよな……果たしてついて行けるのか?今の日本で」
旭日はこれまで当たり前のように技術を強化してきたが、外交能力については素人なこともあって口を出してこなかった。
その結果、オルファスター王国の無茶苦茶の際には外交官でないにもかかわらず、外交官紛いのことをさせられた挙句に要求を断る羽目になった。
もっとも、日本の天皇一族を敬愛している旭日としてはオルファスター王国のした要求は無礼千万極まりないと考えていたため、それに拒否を突き付けることは問題なかったと言えばそこまでなのだが。
だが、戦争が終わった『後』は軍人でも英雄でもなく、国政を委ねられた政治家と外交官たちの仕事である。
つけあがらぬよう、しかし卑屈にならないような、大国相手でも堂々とした対応ができるような、そんな人物が必要だと旭日は考えていた。
「外務省じゃ頑張って新時代の教育を施そうとしているらしいけど……果たして大丈夫かねえ」
エンドウ・ナオツネなどの転生者を中心に、旧世界の様々な物事を参考にしようという動きがあるのだが、中々うまくいっていないらしい。
そんなことを考えていると、誰かが入ってきた音がする。
旭日の部屋は艦長娘たちには好きに出入りしていいと言ってあるため、誰か艦長娘が来たのだろうと当たりを付ける。
「誰だ?」
暗闇の中に立っていたのは、雲龍だった。
「おぉ、雲龍じゃないか。どうしたんだ?」
暗闇で少し見え辛いが、不安げな表情をしているように見える。
「寝れないのか?こっち来いよ」
旭日が自分の座っているソファーの隣をポンポンと叩く。
「は、はい……」
隣に座り込んだ雲龍は、やはりどこか元気のない顔をしている。
黒髪で知的な顔立ちをしている雲龍は、高校ならばクラスに1人はいるだろう美人さんだ。
ただし、空母という排水量を太陽神が考慮してなのか、胸元は日本人高校生とは思えないほどに豊満だ。
今、彼女はかなり薄手のネグリジェを着ており、中々に扇情的である。
しかも、風呂上りなのかほんのりと湯気がのぼっており、女性らしい香りもまた、鼻腔をくすぐっている。
旭日もその姿が露わになった時は思わずドキリとしていたが、不安げな表情を見てその感覚を押し殺している。
「不安か?今回の任務」
「……はい。正直言って不安です」
雲龍はそう言うと、旭日の肩に『ポン』と頭を乗せた。
旭日にデレている、というよりは不安を和らげたいのだろう。
旭日もそれを理解しているからか、なにも言わずにされるがままにした。
「私は、扶桑先輩や山城先輩のように生身で武芸に自信があるわけではないので……なにかあった際に司令をお守りするのが難しいと思いまして……」
「そっか。オルファスター王国を迂回して陸路を行くから、山賊とかに出くわした時のことを気にしてんのか」
「はい。持って行っていい武器は自衛用の拳銃1丁だけですので……どうしても不安が拭えなくて」
当然だろう。空母はそもそも自分で戦うことを想定されていない船なのだから。
もっとも、黎明期の赤城や加賀、或いはアメリカのレキシントン級のように、建造された頃は偵察が中心で、敵艦と遭遇した場合に備えて重巡洋艦並みの20.3cm連装砲を搭載していた場合もあったが、それはまだ空母の運用方法が定まりきっていなかった頃の例だ。
え、この現代にも大砲やミサイルを搭載した空母型の船があるって?ナ、ナンノコトカナー……。
「まぁ、そうだろうと思うよ。それに、皇国に潜り込んでもバレないようにしないといけないしな」
「……はい」
「まぁ、行きに関してはそんなに問題ないさ」
「え?」
旭日はニヤリと笑って見せた。
「行きはな、オルファスター王国の北を通るって言ったろ?その間はな、オルファスター王国の北にある国……マチルダ共和国を通る。その際に、山賊とかに出くわさないように1500人を超えるキャラバンを組んで進むんだ。しかも、そういった襲撃を警戒するために傭兵団が雇われている」
「そ、そうなのですか?」
「あぁ。ファンタジーじゃお馴染みだぜ」
山賊も数百人以上いるかもしれないが、こちらも同じくらいの数、さらに非戦闘員を含めればかなりの人数になるだろう。
「日本からも冒険者ギルドに依頼をしたらしくてな、かなりの人数が集まったそうだぜ」
日本としても旭日たちを上手く送り込みたかったらしく、国として冒険者ギルドに依頼することで報酬を多く出し、腕の立つ冒険者や傭兵を集めることに成功しそうだ、とのことであった。
ただでさえオルファスター王国が攻め込まれている状況なので、ヴェルモント皇国は物資不足になるだろうと想定されている。
なので、皇国側も途中から護衛を出すという。
「その隊列に旅人のフリをして紛れ込むのさ。皇国は列強国だから、攻め込まれやしないだろうっていう油断を利用する」
「それなら……確かに安全性は高そうですね」
「そういうこと。まぁ、安全万全とは言い難いだろうが、それでも下手な連中じゃ襲えないさ」
一応旅人を装う意味でも旭日は刀……帝国式海軍刀を持って行くつもりだ。
多少のことならば対応してみせるつもりである。
もっとも、できることといえば相手の攻撃をかわしながら隙を見て一撃を叩き込むのが精一杯なので、一対一での勝負くらいしかできないのだが。
「それでも、なんとかするさ」
旭日が肩を抱き寄せると、雲龍はここで顔を赤らめた。
「……はい。ありがとうございます」
それから10分ほど雲龍は旭日に肩を預けていたが、少し名残惜しそうに離れると、自分の部屋に戻っていったのだった。
そして、旭日もまた自分のベッドに入って睡魔に身を任せるのだった。
その夜、新たな奇跡が起きるとも知らずに。
……ツッコミ、お待ちしてます。
『なに自国の重要人物を敵地に送り込んでんだ!?』となるでしょう。
でも、人脈上旭日しかいないということなんですよ……




