新(珍)兵器誕生
今月の投稿になります。
エロ爆弾と新たな兵器、それらの行方はいかに……
それと少し前に『がぶくろ』さんが指摘してくださった『イカトンボ』が『カトンボ』では?という誤字の指摘ですが、あれには実は元ネタがありまして……一応活動報告に書かせていただきましたが、こちらにも書いておきます。
あれは幼い頃に見ていたトランスフォーマーマイクロン伝説に登場する戦闘機型トランスフォーマー、スラストのあだ名なのです。
敵味方双方にそう呼ばれていたので記憶にありまして……
旭日の屋敷の露天風呂に夕張がエロ爆弾を突っ込ませた翌日、旭日は夕張や明石、さらに空母娘たちと共に飛行試験場に立っていた。
「おぉ、もう形にするとはな。この国に根を下ろしてから1年半近く……随分早くねぇか?」
「まー明石や輸送船に設計図だけはしこたま突っ込まれてましたからねー。ちゃんとした技術者さえいれば形にすることはそれほど難しくはないっすよ。なにより、『一度作られたことのあるモノ』なら猶更っす」
「それにしたってさ。よくやったって感じだよ」
実際、明石にはそれらを含めた第二次世界大戦~1970年代ごろまでの様々な兵器の設計図が詰め込まれていた。
中には現代日本でも運用が『難しい』を通り越して『無理』であろうロマン兵器もいくつか存在した。
ドイツの『超重戦車マウス』や、アメリカの『モンタナ級戦艦』など、現代人からしてもロマンの塊と言えるそれらが必要になるような状態が、来ないことを祈るしかないと思う旭日である。
目の前に鎮座している『それ』も、元を辿ればドイツが源流だ。
「ドイツのMe262を参考にした日本初のジェット機か……こうして直面すると感慨深いものがあるなぁ」
「特殊攻撃機・『橘花』。日本がジェット機を自己開発したという意味では非常に重要な意味を持つ機体ですよね」
特殊攻撃機・『橘花』。
日本がドイツの開発したジェット戦闘機『Me262』を参考にしつつ、日本独自の設計を盛り込んで開発した、軸流ターボジェットエンジンを搭載した航空機である。
元々は伊29潜水艦にエンジンの実物と関連詳細図一式を積み込んで日本に持ち帰る予定だったが、南シナ海で米潜水艦によって撃沈されてしまったのである。
この時、ドイツに派遣されていた技術士官が先に帰国していたため、そのうろ覚えの話を頼りに完成させたのが『橘花』であった。
ジェットエンジン、それも初期のタイプを搭載した航空機なので、低速・低空における加減速や運動性能には大きな難がある。
ただし、Me262の最大速度は大戦で用いられたレシプロ機の大半を置き去りにする最高速度(ただし、橘花そのものはそうでもない)であった……一部これらに匹敵するレシプロ機の最終型と呼ばれるようなモノも存在していたが、それは特別だ。
大元となったMe262と異なり固定武装はないものの、500~800kgの爆弾を1発胴体下に懸吊できる能力がある。
また、離陸補助用の固体ロケット2基を主翼下面に取り付けることも可能となっている。
そんな重武装・大重量でも飛べるだけのパワーがあるという意味では、確かに爆撃機には使えそうである。
とはいえ、当時の日本の末期的状況から質の悪い燃料でも飛行できる特攻機として開発されたという意味合いからあまりいいイメージはない。
ついでに言うと、大蔵艦隊には800kg爆弾及び魚雷を懸吊できる『流星』が存在するため、一見するとあまり意味がないように思える。
もっとも、今回開発した『橘花』には別の意味合いもあるのだが……。
「で、この後ろ足の着艦フックって……まさか?」
「はい。空母艦載機として運用できるように計画したモノっすよ。司令言ってたじゃないですか?『空母運用できるジェット機欲しい』って」
「まぁな。とはいえ、まさか橘花が出てくるとは思わなかった。てっきり元祖の『Me262』か、それに近いタイプが出てくるかと思ったぞ」
「まぁ、それでもよかったんすけど……運用しようと思う兵器の都合上、こっちの方が便利そうだったんで。その代わり、設計図があったからエンジンは『Me262』と同じものにしたっす。翼も少しだけ……18.5度の後退角を付けたっす。ですので、一応名前は『橘花改』って言ったところですかね」
「おぉ、そりゃありがたい。ありがたいが……そうなると、運用できる空母がウチじゃ限られないか?」
「はい。できればカタパルトのある空母が望ましいっすね。ウチで言うと雲龍型の3隻だけっすよ」
「雲龍型は神界でその手の改装ができたからな……飛鷹たちもあるにはあるが難しいよな」
「その代わり、我々は甲板を多少延伸することで烈風や流星の運用能力を得たわけですが」
飛鷹の言葉に『まぁな』と頷く旭日だが、さすがに3隻だけではちょっと厳しいものである。
いずれ、現代的なスーパーキャリアータイプの大型航空母艦も考案しなければならないと考えておく旭日だった。
「で、夕張。こいつに搭載しようっていうのが……」
「はい。昨夜お風呂に突っ込ませたエロ爆弾っす。橘花改の操縦席も、誘導弾を運用できるように電子機器を含めて改良済みっす。無線を飛ばしながらきちんと誘導できるはずっすよ」
そう、旭日は操縦席の改良に余裕のない流星では難しいであろうエロ爆弾……イ号乙無線誘導弾の運用をこれで行おうというのだ。
確かに、ジェット機に加えて初歩的な誘導弾の運用経験を積むという意味ではこの機体でも十分すぎる。
しかも、夕張曰く昨夜のアレは『失敗じゃないっすよ。ちゃんとお風呂を狙うように仕向けたっす』と言っていたので、ちょっぴりシメられたあとでちゃんとした誘導性能を持っているということを理解した旭日から『よくやった』とお褒めの言葉となでなでをもらったのだった。
イ号乙無線誘導弾の全重量は680kgで、弾頭重量300kg……つまり、単純計算で30.5cm砲レベルの砲弾並みの重量があるのだ。
終戦までに開発できなかったということから、詳細なデータはほとんど残されていない。
しかし、ロケットの噴射時間が20秒(18秒とも)に満たないという記録を見る限りでは、航空機を利用して空中から発射することができれば射程を大幅に延長することができるだろうと考えられる。
ただし、最大速度が500km~600kmしか出ないので、誘導のための無線を飛ばせるだけの機体で実験しなければならないのが難点だが。
だが、このエロ爆弾はさらに改良が施してあった。それは……
「それと、司令に言われた通りに精霊魔導師を通じて精霊にお願いしてみたんすよ。そしたら、『風の加護』で射程は伸びるそうで、『炎の加護』で爆発の威力が、『鉄の加護』で貫徹力が上昇するそうっす。司令の言っていた『ノイマン効果』のことを精霊に説明したら、『鉄の加護』でそれに近い能力を発揮できるそうですから、エロ爆弾で戦艦の装甲も抜ける可能性があるっす」
そう。大日本皇国がアイゼンガイスト帝国と並んで信仰している精霊信仰のお陰で、様々な精霊の力を借りれば技術革新を一足跳びにして起こすことも可能であった。
「おぉ、そりゃ有難いな。んで、橘花改のエンジンや機体そのものも精霊の加護があるんだっけ?」
「はいっす。これまた『風の加護』で流れ込む空気の量を増やして、ついでに揚力も得てるんで燃費も向上してるっす。んで、『炎の加護』で燃焼温度を上げることで空気の燃焼効率を大幅に向上させてるっす」
「エンジンの耐久性は大丈夫か?」
「問題ないっす。魔導師の方に頼んで強化用の魔法陣学を施してもらったっすよ。これで理論上はさらに出力が上がってるはずっす」
本来なら部材が燃焼温度に耐えられなければ燃焼効率の上昇は夢の話なのだが、それもまた魔法が可能にしていた。
「ついでに言いますと、さっき『Me262のエンジンを流用した』って言いましたけど、そのお陰で推力も上昇してますから、航続距離は現在の想定で1千kmくらい、離陸重量も上がって胴体下に1.5tくらいまでなら兵器を吊り下げることもできるっす」
単純計算で2倍近くだ。いくら精霊の加護があると言っても、かなり能力が上昇していると言えるだろう。
というか、初期的第一世代ジェット機のレベルを超えているような気さえしていた。
「エロ爆弾なら2発くらいは十分にイケそうか」
「流石に2発も搭載するとかなり重いんで元のMe262くらいまで航続距離は落ちるっすけどね。それは勘弁して下さいっす」
そう、可能ならばイ号乙無線誘導弾を同時に2発運用するための『橘花改』というわけであった。
同時運用のための電子機器の問題など、まだ解決しなければならないことは多々あるものの、もし実現すれば、大きな抑止力となることは間違いない。
「或いはレーダーを搭載した夜間戦闘型というのもアリかもな……レーダーを装備することによる全天候能力も早く欲しいもんだ」
「あー、それはそうっすね。今電子技術部の方で、小型で高性能のレーダーについて研究させてるっす」
「なぜかそれらの設計図って1970年代くらいまでしか存在しなかったからな……そこからは自分でどうにかせいってことなのかな?」
「それはあるかもしれないっすね」
なにもかもつけてくれるようなら、そもそも現代兵器を付けてくれたって良かったからだ。
そこまで都合よく行かないのは、旭日の願いもあったのだろうが、お約束という奴である。
「で、夕張。あのエロ爆弾、実際昨夜はどのくらい飛んだんだ?」
「昨夜は山の上の発射試験場からぶっ放しましたんで、わずかに射程が伸びましたけど……上昇した分も含めて大体10kmってところですかね。速度は時速500~700kmくらいまでは出たと思うっす。ロケットの噴射時間の都合上、空中から発射すればもうちょっと伸びるとは思うんすけど……」
街の裏手に大きな山があるので、恐らくそこから発射したのだろう。
「現代の空中発射型の対艦誘導弾もそうだからな……加速用のブースター無しで最大射程200kmに到達しているし」
地上や船から発射するタイプの対艦誘導弾は、エネルギーの噴射時間が短い都合上、どうしても加速用のロケットブースターが必要になる。
その点、空中から発射できる誘導弾はその空中における加速度を加えることができるため、射程が延伸されるのだ。
日本の『90式艦隊艦誘導弾(SSMー1B)』と、そのファミリー誘導弾である『93式空対艦誘導弾(ASMー2)』は正にそのいい例だ。
「そうか……できれば、その点も実験して欲しいな」
「もちろんっすよ。分かんないことをそのままにしておくほど、夕張さんは甘くないっす」
夕張のやせぎすで目の下にクマを作っている姿からは想像もつかないが、とにかくアグレッシブで元気な、やる気溢れる子なのだ。
「分かった。技術者共々実験は任せるよ。ただ、くれぐれも無理はするなよ?」
「分かってるっす。無理をしていいのは戦争中と司令の股間の単装砲がファイヤーする熱い夜の時だけふぎゃん!?」
最後に変な叫びになったのは、下ネタぶちかまそうとして旭日の脳天直撃司令チョップを受けたからである。
その場にいた面々は『口は禍の元』と『自業自得』という言葉を頭に浮かべながら苦笑して夕張を見るのだった。
「まぁいいさ。ジェットエンジンに関しては引き続き研究を重ねてくれ。軸流ターボジェットエンジンよりはターボファンエンジンの方が燃費はいい。ついでにいうと遠心分離タイプじゃない胴体収納型……できれば『Fー86 セイバー』並みの能力を持った奴が早く欲しいところだからな」
ちなみに、胴体収納型で成功した初めてのジェット戦闘機は『ロッキードPー80 シューティングスター』である。
もっとも、制空機としては早々にセイバーにその座を譲り対地攻撃機になっていたので、活躍の期間はそれほど長くなかったのだが。
なので、旭日としては『サイドワインダー』のような赤外線誘導型対空誘導弾も運用可能なタイプを早々に作って欲しいのである。
「あい……了解しましたっす……」
旭日の容赦ないチョップを受けて涙目の夕張だが、任務はちゃんと請け負うしっかりした一面もある。
それ以上にマッドサイエンティスト的な顔の方が多いのだが。
そんな彼女と技術者たちが次になにを作り出すのか……それは当人たちにしかわからない。
旭日はそんな彼女たちを残して港湾部を後にすると、最近生産され始めた『フォルクスワーゲン』モドキで駅へと向かった。こちらの方がくろがね4起より性能がいいのである。
流石は自動車大国ドイツの設計、それもあのアドルフ・ヒトラーがフェルディナント・ポルシェ博士に『大衆が買える安くて性能のいい車を作れ』と言っただけのことはあるというところか。
駅で機関車に乗り込むと首都のアシタカノウミへと向かう。
そこから馬車と船を乗り継いでアヅチ城へ登城すると、外務大臣のエンドウ・ナオツネと財務大臣のクロダ・カズシゲに面会した。
「旭日殿の計画された実演販売は大成功です」
「既に各国から歩兵携行兵器と野砲、それにアルモンド王国からは『秋月型駆逐艦』を4隻、『松型駆逐艦』を6隻も注文を貰いました」
2種類合わせてまさかの二ケタ注文であった。
「おぉ、大規模な注文ですね。アルモンド王国……領土の大きさ以外は私が来るまでの日本に匹敵する国でしたね。中々の経済的規模を持っているようですな」
「旭日殿が来てからも、労働者の派遣などで素早く技術を吸収していたからな。今我が国に一番近い技術を持った文明圏外国家といっても過言ではない。それに、発展に伴って経済規模も少しずつ拡大していたからな」
「他の国々からも、合計で『秋月型駆逐艦』が8隻、『松型駆逐艦』が15隻と大繁盛です。あと……アルモンド王国は物資運搬のための輸送艦が欲しいと言っていました。それなりの武装もありますし……せめて、『一等輸送艦』の量産は可能でしょうか?」
アルモンド王国は旧世界の朝鮮半島並みの広さを持った島国なので、こちらも文明圏外国家としては造船技術の高い国であった。
昭和の技術を取り入れることができれば、日本と並んで有力国の仲間入りをすることも難しくはないだろう。
「そうですね。軽砲艦代わりにもなるでしょうから、あって困るとは言えませんね。できればそれも作るように指示したいですが……残念なことに、我が国のドックは戦闘艦と空母、現在建造中の輸送艦で手一杯ですね。ブロック工法と溶接技術で期間を短縮できると言っても、やはりモノには限度がありますよ」
「例の、各国のためのノックダウン施設の件は?」
「既に各製造業界に頼んで『製造設備』の量産をしてもらってます。また、アルモンド王国など国土に余裕のある国を中心に大型船舶用ドックの建造も行わせていますので、いずれは船に関しても他国でノックダウン生産や整備ができるようになるでしょうな」
「というか、アルモンド王国に一部でも技術を渡して一等輸送艦を建造してもらう方が手っ取り早いかもしれませんな」
「お、それいただきです。計画を練っておきますよ」
「でしたら、いっそのこと今存在する一等輸送艦を貸与して運用訓練をしてもらうついでに、整備も教えることで今の内に慣れ親しんでもらうというのもアリかもしれませんな」
重要だと思われる言葉は、後ろに控えている大鳳が素早くメモを取っていく。
旭日としては1年も経たない内に列強国と言われているヴェルモント皇国との戦争が始まる可能性があると見ているため、できる限りの準備を進めていきたいのである。
だが、もう1つ問題があった。
弱小国の中には、『松型駆逐艦』すら買えないというような貧乏国すらある。
なので、旭日はあることを決めていた。
「沿岸警備艇も兼ねる……『占守型海防艦・改』の生産をしましょう」
「以前から考えていた奴ですな。武装は……主砲を1基減らしたうえで全てを『65口径10.5cm単装高角砲』に換装し、本来なら3番主砲となる部分を『25mm三連装機関砲』に変更すると言っていたものでしたな?」
「はい。一等輸送艦と合わせて格安で販売すれば、トンボロ共和国でも数隻くらいは配備できるでしょう。それに、どちらにも『近接信管砲弾』を配備しておきますから、対空・対艦・対地の全てに用いることができるマルチロール砲となります」
近接信管砲弾は航空戦力を配備できない国にとっては天の恵みとも言える装備であり、艦隊を組んで輪形陣からの対空砲火を見舞えばかなりの効果が期待できそうであった。
だが、他にも注意するべき点はいくつかある。
○寒冷海域で使用することを想定されているタンブルフォーム構造を廃止し、量産を意識した直線を主体とした船体構造にすること。
○電探は搭載しつつ上部構造物を簡略化し、工作点数を減らすこと。
○建造工期短縮のために電気溶接とブロック工法を主に用いることで量産体制を整えること。
○武装の整備性を高めることで稼働率を高めること。
○魔法陣額を施して強化できたディーゼルエンジン(1基3千馬力と、本来の『占守型』の倍近い出力を発揮できるようになっている)を搭載することで速力と航続距離の向上に努めること。
などである。
一応改占守型と言ってはいるが、実際には鵜来型海防艦の改良案に近い。
「陸上についても、本土防衛用に65口径10.5cm連装高角砲と、つい先日開発されました『五式十五糎高射砲』を配備すれば盤石と言っても過言ではありません」
「水平射撃ならば対艦攻撃にも使えるというが……」
「長十糎砲はともかく、十五糎高射砲はちょっと難しいですね。でも、やってやれないことはないと思います。その辺りも技術者たちに確認しましょう」
ただ、その場合は高射砲というだけあって仰角の都合上真上から砲弾を落とす榴弾砲のような使い方をした方が効率はいいと旭日は考えていた。
実際に使えるかどうかはさておき。
旭日が東奔西走している頃、アシタカノウミの街中にある大ホールでは第3世界大陸の外側に位置する文明圏外国家による東洋国家間会議が開かれていた。
文明圏外国家のみならず、日本のことを警戒する第3世界大陸の文明国の一部も参加しているのだ。
また、今回からはオルファスター王国の属国から解放されたケナシュルム王国とボンパコ共和国も加わっていた。
議題は『オルファスター王国の凋落』と、『ヴェルモント皇国の動向』であった。
「これより、東洋国家間会議を開催いたします」
日本の代表が発言すると同時に、各国の代表たちも顔を引き締める。
まず立ち上がったのは、どこか中東様式に近い服装をしたラファイエット王国の代表を務めるラミア族の女性であった。
「まず日本国に言葉を。オルファスター王国の理不尽を退けられたこと、心よりお祝い申し上げます」
祝辞とも取れる言葉と共に始まったが、ラファイエット王国の代表は厳しい顔を崩していない。
「貴国は『列強の保護国』を圧倒的な戦力で打倒された。それはよろしい。しかし、それは『保護国に支援をしていた列強国の顔を潰した』ことになります」
旭日のみならず、諸国でもこの予想は出ていたためか、各国も当然のように諜報組織を送り込んでいた。
「つまり、ヴェルモント皇国が貴国に攻め込むのみならず、それによって貴国からの技術や兵器供与が途絶える可能性が生じているわけですが……列強国に勝てると思ってらっしゃるのでしょうか?」
各国の懸念はそこであった。
いくら日本が技術や戦力について大幅な強化をしているとはいえ、国力はまだまだ及んでいないのではないかと考えられている。
日本代表を務める外務省のコムラ・ジュタロウは、ゴブリン族という小さな体躯にもかかわらず堂々と立っている。
見る者によっては、ゴブリンのはずの彼が、威風堂々たるオーガのようにすら見えるほどの威圧感であった。
「はい。我が国は例え列強国が相手でも一歩も退かない……いえ、勝てると考えております」
各国の関係者の中にはつい先日に行われた兵器の実演販売について聞いている者も多い。
だが、ラファイエット王国は実演販売に来ていなかった1国であったため、情報が乏しいのだ。
ジュタロウはそれを承知で続けた。
「なぜならば、我が国が建造している軍艦は、ヴェルモント皇国の軍艦よりも数十年以上……ものによっては、100年近く技術が離れているものもあります」
各国関係者からは『おぉ』という声が漏れる。
「また、我が国で現在生産されている『戦車』と呼ばれる装甲戦闘車両に関しましても、ヴェルモント皇国の魔導砲であれば有効射程で喰らったとしても行動に全くと言っていいほど支障はありません。さらに、空母に搭載されている飛行機……空を飛ぶ機械に関しても、最大で速度は600kmほどまで出すことが可能なモノがあります。これは、ヴェルモント皇国の航空戦力である『エアロ・ホーク』ですら置き去りにできる速度を誇ります」
もはや各国関係者は冷や汗を流すばかりである。
「流石に航空機と戦車の販売に関しては難しいですが、対空能力の高い軍艦についてはお勉強させていただきますので、財源に余裕が出たならば是非購入していただきたいですね」
『秋月型駆逐艦』も『松型駆逐艦』も共に防空能力の高い(松型は対潜能力も高め)駆逐艦なので、航空戦力の無い弱小国にとっては大きな戦力になるだろう。
それを理解している国は既にこれらの駆逐艦に関して注文をしており、自分たちの国にこれらの船が到着する時を待っている状態だ。
「フレッチャー共和国です。やはり今後は日本を中心に、強固な防衛網を築き上げる必要があります。日本から導入する駆逐艦が引き渡され次第、各国間による合同訓練を実施するべきだと考えます。練度の向上は待ったなしです」
「コルカタ王国です。インフラや建築技術など、日本から導入するべき技術は多数ありますが、今は戦闘能力を向上させ、平和維持能力を高めるべきかと」
「フォーミダブル神国です。私共も両国の意見に賛成であります。ここしばらく、ヴェルモント皇国の横暴は目に余ります。もしも日本を含めた我々島嶼国家群に仕掛けてくるというのであれば、我々も応じる姿勢を見せなければなりません」
日本が文明国随一の強国に打ち勝ったことで、他の弱小国家たちも横暴に対しては相応の対応を取ることの大切さを知ったのだ。
ちなみに、フォーミダブル神国は『神国』という名前から一神教の過激派と思われることも多いが、その実は日本同様に太陽神を中心とした自然信仰国家であるため、むしろかなりの平和主義である。
同時に、日本よりは弱いが精霊の加護があるため、土壌や水源など、自然資源は非常に豊かな、日本の本州並みの面積を誇る島国である。
この国もまた、親日国家であった。
このような親日国家勢の言葉に、ラファイエット王国の代表は『むぅ……』と押し黙ってしまった。
ジュタロウはさらに続ける。
「我が軍の中でもっとも先見の明がある人物……第0艦隊司令官の大蔵旭日殿によれば、あと1年以内には間違いなく皇国側が必ず理由を付けたうえで仕掛けてくるか、我が国が参戦せざるを得ない理由が発生するために戦争になると考えられます。我々はそれまでに徹底して戦力の強化を行うべきです」
オルファスター王国撃破の立役者と言われる『今の日本から見ても100年以上先の世界の知識と感覚を持つ者』がそう見ているということに、多くの者がゴクリと生唾を呑む。
どう足掻いても列強国との戦争が避けられなさそうなことは、覚悟を決めた者が多いとは言っても緊張を孕む。
「現在我が国では、旭日殿が提唱し、天皇陛下もご賛同されている『大海洋共栄圏』構想を既に各国に発布しております。これを受け入れて下さるという国は、できる限り早期にご返事をいただきたい」
もっとも、ボンパコ共和国とケナシュルム王国の2ヵ国や、日本の技術による恩恵を最も受けているアルモンド王国は既に非公式ながら加盟を宣言しており、他にも打診している国は何ヵ国かある。
この分であれば、この会議に参加している国の大半が参加するだろう。
会議が終了すると、日本の代表の元にまだ共栄圏に加盟すると言っていなかった国の多くが集まってきた。
「ジュタロウ殿、やはり我らオリファント王国も共栄圏に加盟する。ぜひ、武器と技術の供与を……」
「我らも労働者の派遣など協力は惜しまない。なので、我々カールグスタフ公国にもどうか恩恵を……」
「はい。できる限り全ての国に技術がいきわたるようにしていこうと考えていますが、やはり我が国一国だけでは限界もありますため、現在技術が進歩しつつあるアルモンド王国とも協力を進めたうえで技術教導と工場の建設を進めて参りますので、少しお待ちいただきたい」
建設するための土地は各国のどこかしらに存在するだろう。あとは、輸送用の車両などもノックダウンで生産できるようになれば、輸送力が大幅に上がることで補給もしやすくなる。
旭日が言っていたことでもあるが、1等輸送艦や2等輸送艦を量産する、あるいは大蔵艦隊で浮いている余剰分を格安で貸与するというのも1つの手であり、ある程度の運用についてはこれで慣れてもらうのがいいのではないかという声が上がっていた。
この後もコムラ・ジュタロウを含めた日本の代表たちは各国関係者に取り囲まれて一苦労することになる。
次回は1月の25日に投稿しようと思います。




