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実演販売・海

はい、今月の投稿になります。

実演販売はうまくいくのか……

 黒部少尉の後を受けたのは、海軍所属で練習巡洋艦『香取』の副長を務めている田所宗次少佐であった。

 田所は前世では駆逐艦乗りだった経験を買われて、今回の実演販売に参加している。

 彼は軍港へ集まった各国関係者に笑顔で説明を始めた。

「初めまして、各国の皆さん。私は大日本皇国海軍の田所と申します。本日の兵器に関する実演販売をご案内させていただきます」

 先ほどの黒部とはまた異なるそつのない挨拶に、各国関係者も思わず頭を下げて応じる。

「皆さんに今回お勧めする兵器は、こちらの2種類になります」

 手で指示した先には、長砲身の連装砲を搭載した大型艦(あくまで各国関係者の主観)と、大型艦よりは少し小型でオープントップに近い単装砲を乗せた中型艦(これもあくまで各国関係者の主観)であった。

 実際には、日本国の艦船の基準からするとどちらも小型艦……いわゆる『駆逐艦』なのだが。

「大きい方は『秋月型駆逐艦』と言いまして、対空能力の高いことが売りの駆逐艦と呼ばれる船となっております」

「駆逐艦?どういう意味なのですか?」

「元々は魚雷という水中を自走する爆弾を発射する水雷艇と呼ばれる船を迎撃するための足の速い小型艦のことを、『水雷艇駆逐艦』と呼んでいたのです。それを略して、『駆逐艦』というのですよ。まぁ、時代が進歩していくにつれて駆逐艦が水雷艇の役目を果たすようになったのでもはや役目は一緒なのですが……」

 すると、すぐに思い当たったのはやはりボンパコ共和国とケナシュルム王国の武官であった。

「水中を自走する爆弾……当たれば船が吹き飛ぶだけでなく、不発でも浸水してくるでしょうから面倒ですな」

「仰る通りです。その対応だけでも多くの人員を割かれることになります。さて……武装についての説明をさせていただきましょう」

 まず指さしたのは、『秋月型駆逐艦』の主砲であった。

「この『秋月型駆逐艦』の主砲は対空迎撃を意識しておりまして、連射性と命中率に主眼を置いた結果、65口径10.5cm連装砲となっております。1門辺り1分間に12発から15発の砲弾を発射することができます」

 各国関係者の間からため息が漏れる。

 その発射速度は大砲としては非常に早く、対水上戦闘においても木造船から戦列艦程度ならば1隻で十数隻以上を相手にできるほどの発射速度と威力を誇る。

「凄まじい連射速度ですな……しかし、それでも空の敵に大砲など当たるというのでしょうか?」

「そうですね。少なくとも『ただの砲弾』では1千発撃って1発から数発ほど当たればいい方ですね」

「では……あまり意味がないのではないでしょうか?」

 田所は『まぁまぁ』と手で制した。

「確かにそうです。しかし、ここに『高射装置』と、『近接信管』があれば話は別です」

「高射装置……近接信管?」

「高射装置は空の敵を効率的に狙い撃つために計算するための装置でして、近接信管は『敵の近くに飛ぶと破裂して破片と爆風でダメージを与える』能力を砲弾に与える機構です」

「高射装置は分かりましたが……近接信管はどうやってそのような機構を備えているのですか?」

「簡単に申し上げれば、電波という雷魔法を飛ばして、その反射で敵を索敵する技術があるのです。その機構を砲弾に仕込むことで、砲弾の破裂を促すことができるのです」

「なんと……そのような技術が存在するとは……」

 と言っても、これは太陽神から与えてもらった技術なので、大本は純粋な日本のモノとは言い難いのだが、今では扱うだけの技量も兵士たちは得ているのでさほど問題ではない。

「この近接信管の採用によって、艦対空戦闘における砲弾及び機関砲の命中率は劇的に向上しました。我々の司令官が生きていた時代では、狙った獲物に飛んでいく誘導弾という兵器にも搭載されていたそうです」

 現代の誘導弾も敵を確実に仕留めるために近接信管が仕込まれており、かつての対空砲段以上の命中率と射程を見せつけている。

 もっとも、弾道弾やミサイル自体を迎撃しようと思うとピンポイントに狙う必要があるのでそうではないそうだが。

「では、お隣の船もそう言った能力を持つ船なのですか?」

「えぇ。こちらは『松型駆逐艦』と言いまして、量産しやすい構造になっていることが特徴の駆逐艦なのです」

 『松型駆逐艦』は元々、太平洋戦争で損耗の激しい駆逐艦戦力を補充するために『短期間で建造可能』かつ『対空・対潜能力の高い』駆逐艦を作る必要に駆られた日本海軍が建造した、いわゆる『戦時量産型』の駆逐艦である。

 アメリカで言うならば『フレッチャー級』のようなものだが、工業力と国力に大きな差があるため、そのケタが違う。

 アメリカが本気を出すと恐ろしいのだ。

 とはいえ、そんな状態で建造するために『松型駆逐艦』では直線を多用し、電気溶接やブロック工法を用いることによる量産しやすい設計を用いているのが大きな特徴である。

 艦首は高速性を実現するためにクリッパー型となっており、鋭く尖っているのが見た目の特徴だ。

 大日本皇国でも秋月型に並ぶ主力駆逐艦として建造する船となる。

 なぜこれらの駆逐艦を主体にするのかと言えば、『安上がりだから』である。

 対地・対空・対艦全てをこなせる近代的な大型軍艦としては『薩摩型巡洋戦艦』が存在するが、これとてどちらかと言えば『高速戦艦』というコンセプトである。

 ついでに言うと、日本以外に使える国があるとは思えない。

 旭日としては、あまり金をかけずにそれなりの戦力を多数そろえたいと考えていた。

「松型駆逐艦……艦首の主砲は秋月型と違って鉄で覆われていないのですね?」

「ははは。これはとある理由から戦時量産型の駆逐艦でして、あまり大きくなる砲塔を設置することができなかったんですよ」

 ついでに言うと、元々旧海軍が高角砲として多用していた40口径12.7cm連装高角砲は、元々砲塔にはなっておらず、大和型戦艦に搭載されていたもののように爆風・爆圧避けのシールドが付いていることを除けば、基本的にシールドはない。

「それはさておき……それではこれより皆さんにはこの『秋月』と『松』に乗り込んでいただき、それぞれの能力を見ていただくことにいたしましょう」

 各国関係者の中でも、大きな国は『秋月』に、小国は『松』へと乗り込んでいく。

 わかりやすいほどに差があるな、と苦笑する田所であった。

 要するに、『購入できそうな方』を選んでいるのだ。

「それでは、これより沖合へ出て対空・対水上戦闘訓練をご覧いただきます。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」

 田所は『香取』の副長なので、ここで一度お別れである。

 『秋月』と『松』は機関を始動させると、瞬く間に加速して沖へと走り出す。

「は、速いぞっ‼」

「この速度……既に15ノットを超えている!」

「か、艦長殿、この『アキヅキ』という船はいったいどれほどの最高速度を出せるのですか?」

 問われた筋骨隆々なホブゴブリン族の艦長、ムラカミ・タケアキ大佐は『そうですなぁ』と表現を考えた。

 ちなみに、以前はクキ・ヨシヨリが館長を務めていたが、ヨシヨリはその実戦経験を新型艦で活かすべく『照月』の艦長へ異動となった。

 そんなタケアキは大蔵艦隊が現れるまでは鉄甲船の一船長でしかなかったのだが、大蔵艦隊の練習巡洋艦3隻による、月月火水木金金の猛烈なしごきを受けて、ようやく日尾戦争までに戦力として認められるまでになった。

 その頃の厳しい訓練を思い出しながら、彼は各国関係者に説明をする。

「秋月型駆逐艦は最大速度という意味では33ノットまで速度を出すことができますが……まぁ、普段は安定した航行という意味でも18ノットくらいがいいところですね」

「なっ……18ノットが巡航速度……」

 この世界の文明圏外の国々では魔法を使える者を用意するのも一苦労で、多くは大日本皇国の精霊の力を借りて風を起こしてもらうことで、帆船でも10ノット以上の速度での航行を維持していたが、この『秋月』はなんと燃費のいい巡行状態でも18ノットという快足を出すことが可能であった。

 これは、列強国の戦列艦の最大速度を遥かに超えている。

「では、沖合に出ましたら演習を行いますので、あと20分ほどかかります。その間、どうぞ艦内をご覧ください」

 艦長の許可が出たので、武官も技官も主砲や魚雷発射管などを物珍しそうに見ている。

「失礼、この長太いのは……?」

 側にいた水雷員が『これが魚雷発射管です』と答えると、技官たちがしげしげと眺め始めた。

「見ろ。尻に風車のような羽根が付いている。きっとこれを回転させて水の中を進むのだな」

「しかし……だとすると砲弾ほどの速度は出ないと思うのだが、命中率はどうなのだ?」

 水雷員は苦笑しながら答えた。

「そうですね……こればかりは『運』と言わざるを得ません。当たることもありますが、全弾外れることも珍しくはありません。しかし、その威力は絶大です。皆さんは『戦艦』はご存じですか?」

「え、ええ。上位列強国が採用している巨大な大砲を搭載した鋼鉄の船のことですよね。アイゼンガイスト帝国では魔導合金なる物質を使っているとか」

「そんな戦艦を撃破しようと思うと、皆さんならどうされますか?」

「「「いや、列強の兵器を撃破とか無理に決まってるじゃないですか」」」

 その場にいた各国関係者全員の心がピッタリと一致した姿に『おぉ』と驚きつつも、説明を続ける。

「いいですか?戦艦という兵器は『撃たれても撃ち返せる』だけの分厚い装甲を持っているのが特徴ですが……それはあくまで『水の上』に出ている部分の話なんです」

「……え?」

「なので、水の下……用語として喫水線下と呼びますが、その下は航行性能を維持する都合上、装甲を厚くすることはできません。しかも、水中では爆圧が逃げにくいので、その威力は水上砲撃より高まるんですよ。この意味が分かりますか?」

 すると、ケナシュルム王国の技官が『あっ!』と声を上げた。

「小型の船であろうとも……魚雷を積んで当てることができれば戦艦を撃沈しえる可能性がある……?」

「その通りです。いわゆる『ジャイアントキリング』ということを実際に可能とさせる可能性を持つのが、魚雷という兵器なのですよ。船から発射するのももちろんですが、飛行機から投下して船に撃ち込むという手段もあります」

 その代わりに射程は艦砲に比べると絶望的に短いため、敵の砲弾が雨霰と飛んでくるような至近距離まで近づいてから発射しなければならないのだが。

 各国関係者は顔を見合わせた。

 つまり、大日本皇国のこの軍艦は、うまく近づくことさえできれば列強国の主力兵器すら沈められる可能性を秘めている、ということである。

「では、早速対空戦闘という概念を見てもらいましょうか」

 すると、それを見計らったかのようにレーダー員が声を上げた。

「対空電探に感あり‼本艦に接近する航空機確認!数は10‼」

 ムラカミは伝声管に顔を近づけると、声を張り上げた。

「対空戦闘用意‼総員配置につけっ‼」

 兵たちは素早く動いて主砲と機銃に取りつく。

 今回の演習は演習と言ってもお客様に対するデモンストレーションみたいなものなので、想定もへったくれもなく、『こんなことができる』ということを見せるだけである。

 各国関係者はというと、『本当に船で航空戦力を迎撃できるのか』と固唾を飲んで見守っている。

「目標速度は流星相当。時速500kmで接近中」

「なっ、ご、500km!?」

「列強の航空戦力でさえそこまで出るかどうか……日本の飛行機械はバケモノかっ‼」

 日本は船のみならず飛行戦力も強力なのかもしれないという想定をする各国関係者だが、今は演習中なので無用な声掛けはしない。

「目標、主砲射程圏内(約7km~6km)に入りましたっ‼」

「対空戦闘開始っ‼」

 


――ドンドンッ‼ドンドンッ‼ドンドンッ‼

 


 レーダー照準によって大雑把な狙い(あくまで現代艦と比較すると、だが)を定めつつ、『秋月』から発射された10.5cm砲弾は、飛び込んできた『流星』に突っ込んでいった。

 流星はバンクしてかわそうとするが、こちらも空気抵抗は少ない爆弾倉を採用しているとはいえ、800kg爆弾を抱えているため、どうしても動きは鈍重になる。

 その結果、秋月の主砲からの弾幕と言っていいような連続した砲撃によって、10機中2機の流星が被弾した。

 爆弾倉付近と翼にそれぞれ模擬弾のペイントが『ビシャッ‼』と飛び散る。

『流星4機被弾。撃墜判定とする。当該空域より退避せよ』

『ちえっ、やられちまったぜ』

『しゃぁないっつぅの』

 秋月の艦内に通信が響くと、被弾した流星4機は反転して飛び去って行った。

 どうやら、『松』の主砲でもさらに接近した2機に撃墜判定を食らわせたらしい。

「な、なんと……」

「あっという間に半分近くが墜とされるとは……」

 各国関係者は自分たちの常識を超える光景に、思わず驚きが声となって喉から飛び出してくる。

「まだまだこれからですよ……次弾装填急げ‼」

 本当ならば膨大な数による艦隊を組むことによって、さらに濃密な、『嵐のような』と言われるほどの対空砲火を打ち上げることでより高い撃墜率を叩きだすことができるのだが、残念なことに大蔵艦隊の空母を含めた戦闘艦を合わせてようやく猛烈な対空砲火を打ち上げることができる、と言った次第であり、大日本皇国は未だに『数』が足りない。

 なので、旭日はできるだけ急いで防空駆逐艦を量産してほしいのだ。

 幸い大日本皇国は旧世界の日本列島よりもはるかに面積が広く、沿岸部にも使用可能な土地が多数存在しているため、ドックを増やしてさらに造船能力を高めるつもりであった。

 もう1つ幸いだったのは、明治時代レベルまでしか転生者がいないと思われていた大日本皇国だったが、実は昭和を生きた工業・造船関係者も転生していたことが判明し、そんな人々が求めている職の内容から就職を求めてきたため、今の日本は未曽有の建設ラッシュとなっている。

「次弾装填完了!」

「撃てっ!」

 再び連装主砲から砲弾が発射され、航空機に向かって飛んでいく。

 今度は2艦合わせても2機しか撃墜できなかった。

 相手の数は既に4機と半分以下に減ったものの、相手は至近距離まで迫りつつある。

 すると、今度は2艦に備え付けられている25mm三連装機銃が火を噴いた。



――ドンドンドンドンッ‼ドンドンドンドンッ‼



 2艦合わせて11基、合わせて33丁もの機銃が火を噴くと、先ほどまでの主砲の対空砲火とは比べ物にならないほどの光の線が空に走った。

 各国関係者はその幻想的と言っていいほどの光景に思わず見入っている。

 2艦だけでこれほどの盛大さならば、艦隊を組んで迎撃した場合はどうなるのだろう……彼らの胸中を支配するのはそんな思いであった。

 そして、永遠にも思えた時間が終わった。

『流星4機撃墜を確認。対空戦闘演習終了』

「な、なんということだ……」

「2隻だけで飛行戦力を被害も出さずに迎撃できるとは……」

「今回ははっきり言いましてかなり運がよかったと言わざるを得ませんね。主砲の調子もよかったですし、砲術員たちもうまく当ててくれましたから」

「これ、大蔵艦隊のパイロットが本気だったなら……我々は撃沈判定を出されていてもおかしくありませんでしたよ」

 本来であれば、精密に命中させられる誘導弾や、敵の未来位置に向かって砲撃できるような演算システムでもない限りは、もっと命中率は低いものだ。

 今回は数が少なかった上に、流星が単純な挙動をしていたことが命中率を上げる大きな要因となっていた。

 これは大日本皇国の兵士たちがまだまだ練度不足なのが全ての原因なのだが、それでも鍛え始めてから1年ちょっとでこれだけの能力を発揮していること自体は見事なものである。

 重い砲弾も獣人族などの腕力に優れた種族が素早く装填し(半自動装填装置なので多少は人力も必要になる)、高射装置を運用するのも判断力の速いエルフ族やダークエルフ族などの人々であるため、『ただの人間』が扱っていた頃よりも高い性能を発揮しているのだ。

 あとは練度をもっと高めることさえできれば、この駆逐艦が大きな力となるであろう。

「続きまして、対水上戦闘をご覧いただきましょう。まずは砲撃です」

 ムラカミの言葉に関係者たちは艦首部分の主砲を見る。

 65口径10.5cm連装砲の最大射程は18km、毎分15発撃てれば『いい』と言われているため、今回は10km先の目標を狙い撃つ予定だ。

 神界で得た技術を活かした生産により、量産されている駆逐艦にもレーダーによる照準射撃が導入されている。

 これにより、命中率はかなり高いはずであった。

「対水上戦闘!右砲戦!砲雷長指示の目標!」

「目標、敵駆逐艦!弾種、榴弾‼」

 見れば、高速で航行する船が1隻いて、その船がそれほど大きくない標的を曳航していたのだ。

 曳航しているのは、大蔵艦隊の駆逐艦『朝潮』だった。

 彼女は旭日から『訓練に協力してあげてほしい』と頼まれていたため、大日本皇国の現地人による軍艦の訓練に付き合っていた。



 弾種の榴弾はどちらかと言えば対地攻撃に用いられる砲弾だが、対艦攻撃に用いた場合も艦上構造物に火災を発生させ、経戦能力を奪う効果がある。

 実際、第三次ソロモン海戦において戦艦『霧島』は基地攻撃のための三式榴弾しかもっていなかったため、アメリカの戦艦『サウスダコタ』にそのまま攻撃を仕掛けざるを得なかったが、上部構造物に火災が発生したために戦闘能力を奪うことに成功したという話もある。

 まして、装甲などほとんどないに等しい駆逐艦であれば、弾薬庫や魚雷への誘爆などにより、それだけで撃沈も夢ではない。

「測的よし、主砲発射準備よし」

「撃ちぃ方始めぇ‼」

「撃ちぃ方始めぇ‼」



――ドンドンッ‼ドンドンッ‼ドンドンッ‼



 65口径という長砲身の主砲から発射された砲弾は、10kmという距離を一気に飛翔すると着弾する。



――ドバババババババァッ‼



 着弾と同時に砲弾が破裂して派手な水飛沫を上げるが、目標としていた標的からは50mも離れていない。

 しかし、ムラカミは苦い顔で呟いた。

「狭叉に至らず、か」

「先ほどの対空戦闘は近接信管の能力に救われましたが、やはり対水上戦闘はそうもいきませんな」

『秋月、全弾至近弾。松、同じく至近弾3、遠弾1!』

 判定役を務める朝潮の観測員から厳しい報告が飛ぶ。

 もっとも、各国関係者はこの威力だけで震えあがっていた。

「な、なんという射程と威力だ‼」

「これは……確かに下位列強は屁でもないですな」

「とはいえ……船は高そうですな……」

 すると、それを聞いていたムラカミがダメ押しの一言を追加した。

「実は、この秋月の主砲は地上に配置した対空・対艦迎撃砲としても用いておりましてね。あまりお金がないようなところでも、『大砲と砲弾だけ』ならばある程度購入できるのでは?」

 実際、日本が敗戦した後に台湾に引き渡された陽炎型駆逐艦『雪風』は主砲をこの10.5cm連装砲に換装しているのだが、その砲塔は地上に配備されていたものを持ってきて搭載したものである。

 また、女子高生が教育艦という名前の軍艦を動かして海戦するアニメでも、主人公の乗る架空の陽炎型駆逐艦がこの主砲を搭載していたのは有名な話である。

 閑話休題。

 そんな話を聞いた各国関係者は、ある者は船のみを、ある者は船と砲塔の両方を得られないかと皮算用を始めるのだった。

 なお、魚雷については万が一標的を曳航している朝潮に当たったら模擬弾とはいえ事故になりかねないので今回はナシとなった。

 だが、港に戻ってきた各国関係者たちは興奮しっぱなしであった。

「すごいな、日本の兵器は‼外務局にぜひ日本の『大海洋共栄圏』に参加するように伝えなければ‼」

「我が国も急いで陛下にご報告申し上げよう‼」

 各国関係者はそれぞれの宿舎に戻ると、今回の兵器実演に関するレポートを作成し、自国の首脳部へと提出するのである。

 その夜、旭日はあきつ丸と千鳥、そして上空の偵察機から今回の演習を見守っていた雲龍から報告を受けていた。

「陸軍兵器につきましては、当面歩兵の携行兵器を中心に生産するべきかと存じますお金が少ないなりにも、歩兵銃や野砲は買えると思いますので」

「また、各国は軍艦の購入にもかなり乗り気になっています。今度の会議の際に大海洋共栄圏について正式に提案すれば、乗ってくる国は多いかと思われます」

「あと、艦に搭載されている大砲『だけ』っていう注文もあるかもしれませんよ。量産を指示しておいた方がいいかもしれませんね」

 一応あきつ丸、雲龍、朝潮の順番に話しているが、三人三様で話し方もまるで違う。

 だが、彼らの伝えたいことはよくわかった。

「港湾開発について、水棲系種族の協力が得られれば大幅に効率が上がる。工事業者に港湾調査員という形で雇い入れるように根回ししておいてもらわないとな」

「これで、司令の望むような大同盟ができあがるんでしょうか?」

「……さぁな。ただ、『やれることはやる』。それだけさ」

 旭日としてはこのまま平和でいてくれればそれに越したことはないのだが、ヴェルモント皇国のことを聞く限りは、戦争になるのだろうなと既に想定していた。

 なので、今できる準備を進めるのだ。

 例えば、65口径10.5cm砲の量産。

 元々この大砲は長砲身のために初速が早く、砲身にかかる負担が大きいせいで砲身の寿命がとても短いのである。

 なので、多数の予備砲身を製造しておいていつでも取り換えられるようにしておく必要があると考えていた。

 特に、大蔵艦隊の軍艦は対空砲として多くにこの砲を用いているため、予備砲身は必須である。

 いずれ明石にも搭載しておけるようにしておかなければいけない。

「まぁ、考えるだけ考えて、あとは専門家に任せないとな。幸い資源や燃料は自噴しているから安いのはありがたい」

 旭日は立ち上がると、タンスからタオルと下着を取り出した。

「よし。風呂入るか」

 考えるだけ考えたら、あとはさっぱりさせる。

 それが旭日の主義であった。

 旭日の家は全員とまでは言わないが、30人以上が一度に入れる大浴場が完備されており、露天風呂までついている。

 そんな風呂に行ってみれば、ほとんどの面々が集合していた。

「あれ?夕張は?」

 北上や大井と同じく、ちょっと痩せぎすで危ない目の色をしていた少女の姿が見えなかったことで、旭日は思わずきょろきょろと見渡していた。

 すると、最後まで一緒にいたという明石が手を上げた。

「なんだか、急いでやらなきゃいけない実験があるとかでまだかかるそうです」

「なにやってんだアイツは……睡眠不足はいい仕事と美容の敵だっていうのに」

 どこぞの飛行艇乗りであるブタの如きセリフだが、実際その通りである。

 睡眠不足は脳の良好な働きを阻害し、肌荒れも引き起こす。いいことなど全くないのだ。

「ま、そのあたりは気を付けるように言っておいたし大丈夫か……」

 旭日は体を洗って湯船に浸かると、『ほぅ』と息を吐きだした。

 今日は海で動き回っていた朝潮も疲れていたらしく、『んん~!』と言いながら伸びをしていた。

 


――ウゥゥゥゥゥゥゥ……



「ん?なにか聞こえたか?」

「えぇ」

「なにか……噴射するような音?」

 その直後だった。

 露天風呂の湯船の中になにかが突っ込んで、大きな水飛沫を上げたのだった。

「なんだ!?鳥か!?」

「ワイバーン?」

「いえ……もしかして」

 明石が恐る恐る近づくと、灰色の長い物体がプカプカと浮いていた。

「これ……夕張ちゃんが今作ってたやつですよ‼」

「なに?あいつが今作ってた兵器って言えば……」

「はい。並行して開発している新型航空機に搭載する、無線操作型の誘導爆弾です。時速は600km、射程距離は10km以上です」

「ちょっと待て。それって確か……」

「アッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」

 危ない高笑いが聞こえたので皆で声のした方を見ると、薄めの胸にサラシ一枚を胸に巻いて、下に工員のようなズボンをはいた夕張が立っていた。

「エロ爆弾作ったから女湯にダイブさせなきゃと思ったらうまく行っちゃって……実験だいせいこぉ~‼」

 夕張は大笑いしていたが、旭日の顔を見て次第に顔色が悪くなる。

「夕張ぃ~!とんでもないことをしてくれたなこの大バカ者ぉ‼」

 旭日は思わず怒鳴っていたが、彼女がなにを作ったのかはその一言で理解した。

 イ号乙無線誘導弾。

 かつて大日本帝国が研究し、作り出そうとした初歩的な誘導弾である。

 もっとも、なにを間違ったのか旅館の女湯にダイブしてしまったために『エロ爆弾』なる不名誉な仇名をもらった珍兵器なのだが……。

 だが、曲がりなりにも誘導弾の初歩を作れたというのは大きかった。

 後日、『もう1つの試作品』と共に披露されることで大日本皇国において制式採用され、大蔵艦隊にまず配備されることになる。

……最後は後々に繋がるネタのつもりです。でも、ちょっぴり悪ふざけしました(笑)


だってエロ爆弾だもん……旅館の湯船に突っ込ませないと……(決意)


次回は12月28日に投稿します。

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