帰還
いよいよ勢力拡大に向けて動き始めます。
と言っても、侵略ではなく融和と協力でのことですが。
オルファスター王国を出港してから、旭日は今回の日尾戦争における日本軍の問題点を思い出していた。
「やっぱ、市街地における歩兵支援の車両と対空戦闘可能な装甲車って必要だな」
今回の戦いで少なくない人数が屋根の上から射られた矢で負傷していたが、その中には一式十糎自走砲の乗員が5名も含まれていた。
幸い毒矢でなかったことと、急所を外れていたこともあって死者はいなかったものの、これは大きな課題であった。
対空戦闘に関しては、今回は烈風の圧倒的な制空戦闘能力によってあらかじめ確保できていたからよかったものの、もし同水準の戦力を相手にした場合、撃ち漏らした急降下爆撃機の爆弾や襲撃機の機銃掃射を受ける可能性がある。
幸いなことに発達したレーダーがあるため、それと一緒に運用する車両に搭載できるよう単装の25mm機関砲か、陸軍の20mm単装高射機関砲辺りを流用したなにかを作るべきかと考えていた。
ただし、陸軍の高射機関砲は性能が良くなかったという話もあるので十分注意する必要があるが。
「そう考えると……四式中戦車の車体を参考になにか……榴弾砲と対空用の機関砲を装備した車両だな」
飛鷹は陸戦のことが門外漢なので見守るしかないし、メリアはメリアで旭日がなにを言っているのかほとんど理解できていないのでポカンと見ているしかない。
「待てよ?ドイツで近い水準の車両と言えばⅣ号かパンター……なら……あれをああすれば……」
旭日はそう言いながらメモを取っていく。
戦車大国であるドイツは、様々な戦車及びその派生車両を作っている。
日本も派生車両がないわけではないが、高性能な戦車と派生車両に関しては、やはりドイツと、そのドイツと機甲部隊で凄まじい攻防を繰り広げたことで有名なソ連は別格である。
『ティーガーⅠ』や『パンターV号』、『Tー34』など、傑作も多い。
そう考えつつ、今後どうするべきかも考えてまとめていく。
あとで帰国したら工廠及び技術者たちに渡してまとめてもらうつもりだ。
「明石や夕張にも設計を頼みたいけど、あいつらはどっちかというと海軍向けだからな……陸軍技術者たちに頼まないとな……」
旭日の中で既に大雑把な姿は浮かんでいるが、細かい攻撃力や防御力は専門家に任せた方がいいだろう。
幸い日本在住の転生者の中にはわずかとはいえドイツ人の技術者もいるため、ある程度は分かると願いたい。
「司令、間もなく到着いたします」
「おぉ、もうそんな時間か」
旭日が外を見るが、既にかなり暗くなっているせいで外はほとんど見えない。
「ん?あれは……」
旭日が双眼鏡を使って確認するが、やはり暗いのでよく分からない。
「デカいな……今まであんな船、ウチにあったか?」
「艦長、司令、前方の船より入電‼『我、薩摩型巡洋戦艦1番艦、薩摩ナリ。就役シタタメ、第一任務トシテ貴艦の迎エニ参ッタ次第』とのこと‼」
「おぉ!完成したのか‼」
「旭日様、『薩摩型巡洋戦艦』とは?」
旭日がニヤッと歯を剥き出しにして笑顔を見せた。
「俺が独自の設計を盛り込んだ、大型の……高速航行可能な、しかし高い打撃力を持つ船ですよ」
『薩摩型巡洋戦艦』
重巡洋艦よりも大型で火力を上回り、大和や扶桑ら超弩級戦艦よりも安価かつ巡洋艦以下の船と対峙しやすい、さらに豊富な門数で対地支援や対空戦闘も行えるというコンセプトで旭日が開発させた船である。
イメージ的には『シャルンホルスト級巡洋戦艦』と『ウィットリオ・ヴェネト級戦艦』を足して二で割ったような性能に近い。
安定性を持たせるために艦首にはバルバスバウを採用し、全幅も32.5mまで拡張する、さらに全長を20m以上短い256.4mとすることで小回りを効きやすくしている。
船体の短縮化は、近いコンセプトの『アラスカ級大型巡洋艦』の船体が細い上に長すぎて現場から機動力に関しては『空母並みの運動性能の悪さ』と言わしめていたほどの劣悪さを知っていたための工夫である。
主機関は大和型のモノに近い16万馬力と、船体の余裕を活かした大馬力で、これらは一緒に転生してきた技術者たちで作ることができた。
主砲はこの世界独特の技術である魔法陣学を練りこんで強度と精度が上げられている50口径38.1cm三連装砲を4基、さらに65口径10.5cm連装高角砲を8基、ボフォース40mm四連装機関砲8基、25mm三連装機銃を12基、そして極めつけの対空火器として『雲龍型航空母艦』にも搭載されている12cm28連装噴進砲2基を搭載している。
また、主砲はウィットリオ・ヴェネト級戦艦の50口径38.1cm砲を参考にしており、射程は大和型戦艦に匹敵する40km、威力も40.5cm砲弾に匹敵するものとなっている。
イタリアの最高傑作と言われるほどの大砲と同水準を実現するのには苦労したが、魔法陣学による強度アップの効果もあり、なんとか実現にこぎつけていた。
対空用の近接信管搭載型三式弾も炸薬の使用量の増加によって、威力と有効範囲が大幅に引き揚げられている。
強いて言うならば散布界による命中率が問題だったが、それも魔法陣学によるガス噴射を利用した回転推進力の強化である程度狭めることができた。
そして高角砲である副砲、機銃、さらに極めつけの噴進砲による高い対空戦闘能力を誇りながら、ある程度ならば40cm越えの主砲を持つ超弩級戦艦とも渡り合える砲撃力を有しているというのが大きな特徴である。
日本の技術では『最上型軽巡洋艦』に搭載されていた60口径15.5cm三連装砲を除くと、対空・対水上両用砲というのは製造したことがほとんどなかったため、口径を延長した長十糎砲で代用するしかなかった。
同型艦に『筑前』、『筑後』、『豊前』、『豊後』、『肥前』、『肥後』、『大隅』を建造する予定。
これは、8隻のうち2隻は常にドック入りして整備をし、残り6隻で大蔵艦隊及び大日本皇国海軍で運用するためであり、『大口径砲を搭載しているにもかかわらず高速航行可能な艦』を多数配備できるだけの国力があると誇示する意味合いもある。
大蔵艦隊には基本的に2隻が配備され、残り4隻が大日本皇国の本土防衛及び有事の通商破壊及び訓練に就くことになっている。
ちなみにもう一つ大きな特徴として、電気溶接とブロック工法を用いたことによって建造期間の大幅短縮と鋼材の大幅な節約につながっている。
このため、ヴィットリオ・ヴェネト級より長い船体であるにもかかわらず、それほど重量が増していないのも特徴の1つであった。
基礎データ
○排水量約46800t
○全長256.4m
○全幅32.5m
○機関・ボイラー12、タービン×4/4軸の16万馬力
○最大速力31ノット
○航続距離12000海里(15ノット)
○兵装 50口径38.1cm三連装砲4基
65口径10.5cm連装高角砲6基
25mm三連装機銃12基
12cm28連装噴進砲2基
○艦載機・零式水上観測機2機
巡洋戦艦に比べれば装甲やバルジを大幅に増加し、対砲弾・対水雷防御が大幅に高まっているにもかかわらず、バルバスバウの採用によって航行能力は保たれているため、燃費の向上に寄与しているのも特徴だ。
これを当面の主力戦艦とする気なのだ。何隻も建造しようというあたり、今の大日本皇国の財力的余裕がうかがえる……と思われるだろうが、その実、明治天皇以下宮内庁関係者が俸給を1割5分、閣僚たちも俸給の2割を自主返納することでなんとか予算を捻出するという状態である。
「なんとか1隻目が就役したか……これで近代化がまた一歩進むな」
「はい。守られる立場の空母としては頼もしい限りですね」
薩摩は飛鷹の隣について航行する。
飛鷹が探照灯を点灯させると、その雄姿が少しずつ露わになる。
もちろんよく見てみれば、まだ艦の動きには無駄も多く、どこかフラフラとした航行である。
大蔵艦隊の練度とは比べ物にならない状態だが、近代艦艇を扱ったことのない大日本皇国からすれば仕方のないことであろう。
とてもではないが近代戦に投入できる練度ではないのだろうが、それでも船同士の距離が近い中での、しかも本来ならば危険と言われる夜の航行を経験させようということらしい。
探照灯に照らされる姿は雄々しく、扶桑とはまた違った意味での洗練されたデザインとなっている。
「この暗さで見えづらいが、50口径38.1cm三連装砲に副砲の65口径10.5cm連装高角砲……今まで作ったことのないはずのモノをちゃんと作れるとはな……見事なもんだ」
大砲に関して、旭日は早い段階から物体の強度を上げてくれる魔法陣学を取り入れることを検討していた。
魔法陣学は一度書き込んで発動してしまえばあとは陣学が空気中の魔素を取り込んで術を発動し続けてくれるので、術者にはそれほど負担がかからない。
精霊との交信を基本とする大日本皇国では、精霊の力を借りた『より能力の高い魔法陣学』が存在しており、この国独自の魔法陣学が織り込まれた織物や製品は、その美しさもあって各国で高く取引されるほどであった。
さらに溶鉱炉の温度を目標として現代日本と同レベルの4千度まで上げることを提案していたが、これも魔法陣学と旭日たちが持ち込んだ金属加工技術及び溶鉱炉製造技術によって成立した。
50口径という長砲身かつ純度の高い金属でできた主砲は、これまた能力の高い装薬で砲弾を撃ちだすことにより、射程と威力が大幅に増強している。
対地・対空・対艦の全てに使えるマルチロールな大口径主砲として、これから役に立ってくれるだろう。
「あとは……ここから航行・戦闘などの完熟訓練だな。香取たちにみっちりしごいてもらわないと」
厳しい言葉をかけているようだが、旭日は満面の笑みを見せている。
旭日としては、自分の思い描いたオリジナルの兵器がこうして目の前に存在していることが嬉しくて仕方がない。
戦艦が近代戦では無用の長物に近いことも知ってはいる。だが、前時代的なこの世界ならば十分に活躍してくれるはずだ。
それから3時間後、旭日たちは西部港湾都市ナゴヤに入港し、船から降りる。
すると、割れんばかりの歓声が港中に響き渡った。
「お帰りなさーい!」
「ありがとう!」
「大蔵艦隊バンザーイ‼」
「大日本皇国バンザーイ‼」
「天皇陛下バンザーイ‼」
それ以外にも、様々な声があちこちから響いてくる。
旭日は、自分たちの力で『自分たちの居場所』を守れたのだ、ということを強く実感していた。
「……やったんだな、俺たち」
歓迎ムードはそれからさらにしばらく続いたが、名残惜しいと思いつつ旭日たちは汽車に乗って首都アシタカノウミへと向かうのだった。
彼らはこの翌日、天皇陛下に拝謁してから閣僚たちの前で戦争に関する全てを報告することになっている。
そして翌朝、旭日は5時半に起き上がるとシャワーを浴びてさっぱりさせてからから衣服を整えた。
服を整えているところで、扶桑が部屋へ入ってきた。
「司令、間もなく朝食です」
「おぉ、メリア様は?」
「既に席に着かれておいでです。あの方もかなり早起きのようですね」
「そうか、少し待っててくれ」
旭日はネクタイをきっちり締めると、皆が集まる食堂へと向かった。
「皆、待たせたな」
旭日が入室すると、艦長娘全員が素早く立って彼を出迎える。
そして、艦長娘を代表して秘書役の扶桑が旭日の前に立つ。
「司令、この度の戦いは陣頭指揮を含めてお疲れ様でした」
彼女が頭を下げると同時に、他の艦長娘たちも『お疲れ様でした!』と一斉に頭を下げた。
「ありがとう、と言いたいところだが、このあと天皇陛下に戦争及び今後についてを報告しなくちゃいけない。扶桑、悪いがまた飛んで行くぞ」
今や旭日のタクシー状態となっている、零式水上偵察機のことである。
「はっ。心得ております」
「んじゃ、食事にするか」
メリアは旭日の直属の部下が女性ばかりということに驚きつつも、全員が旭日のためにと動いている姿に思わず見とれてしまった。
旭日が座ると、間宮と飛鷹と隼鷹が素早く料理を配り始める。
「お、今朝はサバの味噌煮か」
旭日の目の前に並べられたのは、サバの味噌煮とちくわとネギのお吸い物、そしてお新香と里芋の煮っ転がしであった。
味噌汁でなかったのは、サバの味噌煮を出したからだろうと考えられる。
「はい。今朝はいいサバが入りましたもので」
「おぉ、朝獲れか‼」
「嬉しいことに、この世界の日本も『いい海流』に恵まれているようでして、魚介類は旧世界と同じ種類のものを含めて豊富に獲れます。司令が冷凍庫及び冷蔵庫の技術を提供したのも大きかったですね」
間宮内部には巨大な冷凍庫及び冷蔵庫が存在するが、その製造技術を旭日は惜しげなく提供した。
家庭サイズの冷蔵庫も既に製造されており、各家庭ではこれらによる保存方法も確立し、生魚が食べやすくなったということで大いに評判であった。
また、火力でもガスが広まった(流石に旭日が生きていた時代のオール電化時代にはまだほど遠いが……)ことで、調理がしやすくなったと同時に間宮からもたらされた多数の料理レシピが一般家庭にも広まり、次々とカレーライスやハンバーグなどの洋食が作られるようになった。
大日本皇国の環境は、日々刻々と変化しているのである。
「それじゃ……いただきます‼」
『いただきます‼』
旭日たちは談笑しながらサバを食べ、お吸い物を飲み、そして飯を食べる。
だが、のんびりするわけにもいかない。
朝食を終えた旭日は歯磨きなどの支度を素早く済ませると、扶桑と共に自宅近くの桟橋に係留してある零式水上偵察機に飛び乗った。
「全く……俺のタクシー用になんか作っとくかな?」
旭日としては、やはり瑞雲か大型の二式飛行艇(二式大艇)でも配備するべきかもしれないと考えていた。
なにせ、仕方がないと言えば仕方がないのだが天皇陛下が座するアヅチ城が水の上にあるために、どうしても交通手段が上空か水上かに限られるのがネックなのである。
「まぁ、本来は偵察員に操縦させるところを、私がやっている時点でどうかと思います……個人的には楽しいですが」
扶桑はそう言いながらエンジンを始動させると、ゆっくりと機体を操り桟橋から滑るように出港する。
そして速度が乗ってくると、向かい風に向かって操縦桿を切った。機体は水の上を滑らかに滑り、さらに速度を上げていく。
やがて上昇舵が風を掴み、フワリと水から浮き上がる。
「では、参りましょう」
――ブルルルルルルルルルルルルッ‼
それからわずか30分後、旭日と扶桑はアヅチ城の桟橋に到着していた。
2人は飛行機から降りると、城の使用人に偵察機を係留しておくように伝えながら城の本丸へと向かった。
城内へ入ると、多くの人が旭日の方を見て色々と噂している。
「やれやれ、人気者はつらいぜ」
「皆好意的な視線ですが?」
「それで済めばいいんだけどな、ってことさ」
旭日としては、なにかイヤな予感があるらしい。
閣僚たちと天皇陛下の集まる帝の間へ着くと、ノックして様子を窺った。
「第0艦隊司令官大蔵旭日、招集の儀に付き参上仕りました」
『うむ。入るがよい』
旭日が『失礼いたします』と言って中に入ると、閣僚たちが勢揃いであった。
その奥では、アケノオサメノキミこと明治天皇、そして娘のエリナ・タカマガハラが座っている。
「おぉ旭日。待ちわびたぞ」
明治天皇の言葉に、旭日と扶桑は末席に着く。
作戦立案からその実行に至るまで、全てをこなしたのは旭日と大蔵艦隊なので、居並ぶ閣僚たちも『おぉ』とか『やったのぅ』とかいう声を上げていた。
「陛下、お待たせして申し訳ありません。これよりオルファスター王国との戦、『日尾戦争』の戦後処理における日尾講和条約の成果について説明させていただきます」
「うむ、それを待っておった」
旭日はトールンボに突き付けたこちら側の条件が受け入れられたこと、人質として第1王女のメリアを連れてきたことなどを話した。
すると、文部科学大臣(この1年で現代日本風に名称を変えていた)のミズノ・タダクニが手を挙げた。
「失礼ながら、『あの』愚王と評判のトールンボ国王の娘御なのでしょう?その……うつけすぎて困るのでは?」
「それに関しましては、私が確認した限りでございますが、病弱な代わりに非常に勤勉で諸国の情勢にも詳しく、列強国の装備に関する情報も一部保有していることが判明しております。彼女をこちらに引き入れたることは、我が国の能力向上に大きく寄与してくれるものと考えられます」
これには他の大臣たちも『おぉ』と感嘆の息を漏らした。
「そもそもメリア様は種族からしてトールンボ国王一族の標準と言われる脳筋揃いのオーク族ではなく、ダークエルフ族でございます」
以前にも述べた通り、オーク族は種族的特徴として超が付くほどのスケベかつ脳筋気味なのに対して、ダークエルフは頭脳戦や謀略を得意とする種族的特徴があり、それだけでも分かりやすい。
「なるほど、よく分かった。では旭日よ、質問なのだが……本当にヴェルモント皇国はオルファスター王国になにかしら仕掛けると思うか?」
明治天皇の言葉に、旭日は『十中八九間違いないかと』と即答した。
「オルファスター王国は我が国を打倒するべくヴェルモント皇国からの支援も受けた上で軍事行動を起こしておりました。しかし、それが完全に失敗に終わったことで、支援をしたヴェルモント皇国も『列強国の顔を潰された』と考えていると思われます」
その言葉に、多くの閣僚が『確かに』という苦めの表情を見せる。
「しかし、逆に申し上げればヴェルモント皇国もオルファスター王国にかかりきりになっている間は……具体的な時間を申し上げれば半年から1年近くは我が国の本土に手を出すことはないだろうと考えられます。そこで、我が国はその間に少しでも『味方』を作るべきであると考えております」
「味方……東の島嶼国家群を味方に付けようということか?」
「それに加えまして、オルファスター王国が支配していたケナシュルム王国と、ボンパコ共和国の2国も同国から解放されました。陛下がお許しくださるならば、この2国も同盟に誘うべきかと」
「ふむ……お主が以前から申していた、『大東亜共栄圏構想』ならぬ『大海洋共栄圏』のことか?」
大海洋共栄圏。
それは、旭日が文明圏に属さない弱小の島国たちで大同盟を結成することで大国とも渡り合えるようにしていこうという考え方だ。
昭和の大日本帝国が掲げていた大東亜共栄圏よりは、平成・令和世代で言うEU(ヨーロッパ連合)に近い構造体だ。
EUでは国同士の行き来は自由で、通貨も共通のものにすることで商売をやりやすくするなどの案があるが、旭日としては通貨までは考えていない。
通貨が独自のものであることは、国の独自性を残しておく上でも重要だからである……というのは建前で、それらをすり合あわせるのが面倒くさいからだ。
大日本皇国と一番離れた国では、なんと平安時代レベルの国家がある。
その差は今や、1000年を超える。
文明水準が違うということは、経済構造も違うことで貨幣価値や物価そのものの格差にも繋がる。
現代ヨーロッパほどにまで迫っていれば貨幣のすり合わせもなんとかなるのかもしれないが、この未成熟な世界ではそうもいかない。
なので、貨幣価値は残しつつできることで同盟を結んでいき、共同で防衛や経済活動の活発化を促して行こうという考えである。
さらに旭日としては、日本で生産する武器弾薬の売買に加えて、戦術・価値観の共有、さらに技術水準の向上も行いたいところだ。
例えば、九九式小銃や九〇式野砲などの陸軍兵器はもちろんだが、現在造船所で建造している松型駆逐艦や秋月型駆逐艦に関しても、いずれ海外から発注されることも想定して多くのドックを建設している。
もちろん、共栄圏に加盟した国が購入することを想定しての話なので、共栄圏に加わってくれなければ意味がないのだが。
実際に、今回の日尾戦争が始まることを受けて、島嶼国家群の武官及び外交官に日本に来てもらっていた。
残っていた戦艦山城や、空母である大鳳などを見てもらったことで、各国武官は驚愕の意を示していたという。
彼らは既に帰国しているが、既に何か国かは『ぜひあの武器を売ってもらいたい』と言い、他にも『歩兵用の兵器についてもぜひご教授願いたい』という声も多数上がっていた。
「うむ。朕としても味方は多いに越したことはないと思う。特に、旧世界での我が国は英国と結ぶことで明治の世を乗り切ったが……昭和の時代には列強国との強固な繋がりを失くしたことで孤立し、世界大戦に巻き込まれてあのアメリカに敗戦したというからな……そのようなことを二度と経験させてはならぬ。旭日よ、お主に色々と負担をかけてしまうことにはなりそうだが……」
「なにを仰いますか。ことは護国と平和のため。非才の身ではございますが、私にできることで国を守ろうと思います」
そのために、この1年間色々と準備を進めてきたのだ。
「頼む。そして皆も、旭日のことを色々と思う者も多いだろうが……どうかこの者に協力してやってほしい。頼むぞ」
『ハハーッ‼』
閣僚たちは明治天皇に敬礼すると、三々五々に部屋を出始めた。
旭日は外務大臣のエンドウ・ナオツネを呼び止めた。
「エンドウ大臣。諸外国の反応は良かったとのことですが……『すぐにでも』と述べた国はどれほどで?」
ナオツネは一見強面だが、実はとても頭のめぐりが良い外務大臣である……その実は、戦国時代の浅井家家臣・遠藤直経の生まれ変わりでもあった。
元々敵対関係の六角氏や、同盟関係の朝倉氏に挟まれていた浅井家において文武両道と言われた高い能力の持ち主だったという人物である。
今では近代的外交を学び、各国との橋渡しとなってくれている。
「はい。アルモンド王国、トンボロ共和国、シェフィールド王国であります。その他にもカールグスタフ公国、フォーミダブル神国、フレッチャー共和国、コルカタ王国、バリアックス諸島王国が高い興味を示しておりますな。他の国も興味はあるようですが、理解できない部分もあるようでその点も含めて説明する必要があるのではないかと」
どうやら、島嶼国家群はかなり強い興味を示していることは間違いがなさそうであった。
「であれば、各国の武官と技術者を呼んで、練習がてらの実演でもしましょうかね?実演販売ってことで」
「おぉ、それは良い考えだと思います。彼らもその威力を目の当たりにすれば、大きく考え方が変わるでしょう」
「では、エンドウ大臣。早速近隣国家に書状をお送りいただけますか?」
「心得ました。直ちに外務省に通達いたしましょう」
ナオツネは『忙しくなるぞぉ~』と言いながら足早に廊下を走り去っていった。
さて、旭日たちの実演販売はうまくいくのだろうか。
少しずつ動き始める世界……次回は10月26日に投稿しようと思います。




