ヴェルモント皇国とグラディオン王国
今月の投稿になります。
今回はいわゆる考察回ですね。戦争の跡周辺国や次の敵が良くやる奴です。
一方、時間は数時間ほど戻るが、場所を移そう。
オルファスター王国の王都から西に300km離れた国境線の、さらに西に800km進んだところには、東京都並みの広さを誇る都市が存在していた。
こここそが、旭日たちの話題に上っていた列強第3位の位階にある国家・ヴェルモント皇国の首都、ヴェルモニアである。
中でもひときわ目立つのが、超が付くほどの大きな樹木である。
恐らく、沖合10kmからでも見えるであろうその巨大な木は、ハイエルフの拠り所となっている世界樹という樹木であった。
世界樹は直径だけで5kmを優に超えており、長さに至っては下手な雲や山より高い8千mだ。
そんな世界樹の根元に、地球基準で言えばヴェルサイユ宮殿によく似た建造物が存在する。
これこそ、ヴェルモント皇国の皇族が住まうユグドリア宮殿である。
その宮殿を取り囲むように、ヴェルモント皇国の行政施設が集結している。
一番近いのが宮殿内部に存在する強国担当外務局と、軍務局(日本で言うところの防衛省)及び先進魔導技術開発局(日本で言うところの防衛装備庁)が存在し、宮殿の敷地の外に出れば、文明国担当外務局と蛮国担当外務局が存在する。
さらに他にも交通開発局や農務局、文部局など、現代日本にも通じるような組織も存在する。
だが、ハイエルフの列強国という立場の割には国として成立している期間はまだ1千年ちょっとと短いのである。
ここでヴェルモント皇国と、そのかつての姿について説明せねばなるまい。
かつて先史文明が存在していた時代、エルドラード神帝国に並ぶ国力を誇った、ユグドラシル皇国という国があった。
かつての人類がそうであったように、精霊と共存していた時代は温和なハイエルフによる統治もあって、とても豊かな生活ができていた。
しかし、ある時を境に皇族の一部がそのぬるま湯の如き温和な現状に不満を持ち、クーデターを起こした。
それに対して当時の政権側も負けじと全力で戦った結果、ユグドラシル皇国は泥沼の内戦状態となった。
結局、内戦は1千年に渡って続いた。
長生きする者では3千年を超えるというハイエルフの長い寿命からすれば1人が死ぬにもまるで満たない時間だったが、元々出生率も低く、人口が頭打ちになっていた状態での内戦により、その人口は大幅に減少した。
加えて内戦の最中、当時の皇帝が『エクスプロージョン・コア』と呼ばれる、ハイエルフ1000人の魔力を用いて発動する禁忌魔法の使用に踏み切った。
結果は……なんと失敗してしまった。
しかしその理由は蓋を開けてみればなんのことはない。
『エクスプロージョン・コア』を発動するために集められていた1000人の大魔導師の中に裏切り者がいて、術が上手く発動しなかったのだ。
それで失敗して術が消えればよかったのだが、裏切り者が加減を間違えたせいで術式は暴走し、当時の首都ユグドリア中心部は、穏健派もクーデター派も問わずに完全に吹き飛んでしまった。
犠牲者は100万人を超え、皇族はクーデター派を含めて8割が死亡するという大惨事になった。
おまけに、首都に恵みを与える技術や精霊への感謝を述べる施設が集中していたこともあり、神の加護が宿っていると言われた『世界樹』を除けば、彼らの保有していた高度な技術はほぼ完全に失われてしまったのだった。
これにより内戦は有耶無耶のままに終了し、生き残っていた皇族とハイエルフが集って新たに立ち上げたのが、ヴェルジア共和国という国だった。
あまりにも長く、そして過激であった内戦時代の反省から、生き残っていた穏健派とクーデター派はお互い話をすり合わせて仲直りし『今度こそ平和に生きて行こう』という考え方に落ち着いた。
その結果、内戦と爆発によって極端に減った人口を取り戻すために、多くの他種族を受け入れることによって国を立て直すことになった。
当然のことながらこれにより混血も進み、ハイエルフの数は皇族を除けば大幅に減少するという事態となった。
それでも人々は1千年続いた内戦がようやく終了したことそのものを祝っていたため、当時はそれほど気にしなかったという。
これで終われば『めでたしめでたし』なのだが、そうはいかないのが知恵ある種族というものであった。
当然と言えば当然だが、渋々和平を結んだことから、やはり不満を燻ぶらせていたクーデター派の一部がいた。
彼らは武力を用いてしまったために内戦に陥ってしまったことから教訓を得て、数百年以上をかけて準備を進めた。
長生きするドワーフやラミア族などの一部の長命な種族を除く大半の人間・亜人種からすると『なんと気の長いことか』という話になるが、ハイエルフにとっては『ちょっとの時間をかけて綿密に準備を進める』程度に過ぎなかった。
そして、彼らは国民の不満を上手く煽り穏健派を『平和的・民主的』に失墜させ、軟禁することに成功した。
なぜ穏健派を殺さなかったのかと言えば、単純にハイエルフの数が減り過ぎていたことで子供を産める、あるいは産ませる能力を持つハイエルフはその存在だけで貴重だったからだ。
その後穏健派のハイエルフたちはハイエルフの数を増やすためだけに利用され、その多くが激し過ぎる子作りによって衰弱してその後数百年ほどで死に絶えた。
しかし、その頃にはクーデター派のハイエルフの数は、一部の特権階級として成立するくらいには回復していた。
旭日たちが転生してきた時代から1千年ほど前には国名を『ヴェルモント皇国』と改めると、圧倒的な魔力を背景に再び技術開発を行い、軍事力を高め始めた。
精霊信仰は長い内戦の中で消えてしまっていたため、自分たちで魔素を練り上げて用いるようになった。
そのため、皮肉なことにそれまで精霊に頼りきりだった魔法の発動をコントロールする勉強になったという利点ができた。
難点としては逆に精霊の媒介を得られなくなったために、栄華を誇ったハイエルフと言えどもかつてのような大魔法を発動するのに、大規模な魔導機械を用いる必要が出てしまっていた。
しかしその結果、近年先進魔導技術開発局によって発明されたのが魔導式回転動力機で、これとハイエルフが集める膨大な魔力を用いてスクリューを回すことによって、それまでの風に頼りきりだった帆船とは比較にならない速度を得ることに成功した。
その頃には既に世界最強のエルドラード神帝国が滅びていたこともあり、世界中が戦国時代のようになっていた。
当然ヴェルモント皇国も周辺国家に戦争を仕掛けて、領土拡大に乗り出した。
それを治めるべくエルドラード神帝国の後釜として名乗りを上げたのが、現在のアイゼンガイスト帝国であった。
これが、大陸間戦争と呼ばれる30年にわたる戦争の幕開けであった。
ちなみに大陸間戦争とは言うが、別に大国同士でぶつかり合った訳ではなく、大国が周囲の小国を取り込むことに躍起になった戦争、ということである。
500年の内戦を経験したヴェルモント皇国のハイエルフたちからすれば遥かに短い戦争だったが、アイゼンガイスト帝国が『もうやめにしよう』と発言し、当時から列強2位の実力を持つグラディオン王国もそれに準じたため、渋々ながら他の列強国も止めざるを得なくなった。
ちなみに、グラディオン王国とは第2世界大陸をクレルモンド帝国と二分する世界第2位の列強国で、この世界では珍しい純科学文明国家であった。
しかし、『弱肉強食』の気風と、大々的な戦争がなくなったわけではなく、小国同士の戦争や、今回のオルファスター王国と日本のやり取りのように『○○を受け入れなかったから戦争だー』というような事例もあった。
そしてなにより、その裏で列強国による支援での代理戦争はいくつも発生していたため、大国同士は平和だが、中小国家はそれなりに戦争が起きているという、地球の紛争地帯とそれほど変わらない状態であった。
ヴェルモント皇国はそんな状態を利用して、裏で手を回すことによって技術開発を推し進め、大陸間戦争からわずか数十年の間に属領・属国を多く抱えることに成功した。
その結果、第3世界大陸の南半分近くは、ほぼヴェルモント皇国の領土と言ってもよい。
特に、首都ヴェルモニアの沖合20kmのポイントに残っているユグドラシル皇国の頃の遺産である洋上基地は、かつては魔導飛空機を運用していたそうだが、現在はヴェルモント皇国の主力航空戦力である魔導生物『エアロ・ホーク』と、対艦攻撃を主とするワイバーンを運用する基地となっている。
現在のヴェルモント皇国ではこの基地の機能を半分も発揮し切れていないのだが、『洋上航空基地がある』というだけでもこの世界では大きなアドバンテージとなっている。
この洋上基地という巨大な防衛施設が存在するため、皇国は海から攻められることがほとんどないという特徴があった。
さて、説明はこのくらいにしておこう。
ヴェルモント皇国のユグドリア宮殿から少し離れたところにある情報収集局で、エミール・ラファール第3大陸担当課長が大日本天皇国とオルファスター王国の戦いについて精査していた。
「……この報告書、本当なの?」
彼女はハイエルフでありながら200代後半という若さにもかかわらず、その分析能力の高さを買われて課長という職にある。
それは、彼女の合理的思考と分け隔てなくものを見ることができる冷静さがあってのものである。
だが、そんな彼女を以てしても、今回の報告書はなにかの間違いではないかと思っていた。
「海戦では、100mを優に超える鋼鉄艦が、5km以上先から連続で精度の高い砲撃を見舞った……しかもその砲撃は、一撃で戦列艦を吹き飛ばすほどの威力……船の速度も20ノット以上?今までの日本の技術力ではあり得ないわ」
ヴェルモント皇国が現在制式採用している戦列艦は、砲門数こそかつての100門級戦列艦や120門級戦列艦と言ったモノに比べれば大幅に減少しているものの、先進魔導技術開発局がつい20年前に開発した最新鋭の後装式魔導砲・『アルムスロト・カノン』を搭載したことにより、それまでは最大2kmだった射程が1.5倍の3kmまで上昇していた。
尾栓と後装式という最新式の機構に加えて新形状の炸裂砲弾を用いており、装填速度は前装式とは比にならないほどに上昇した。
後装式の大砲自体は昔から存在していたが、尾栓などの構造物の強度不足及び素材の精錬不足であまり好まれなかったのだ。
また、魔法陣を砲身に描くことによりその強度も大幅に上昇させることに成功したため、現在では更に長射程かつ高威力の魔導砲を作れないかと試行錯誤しているところであった。
現有兵器でもこの第3世界大陸では有数の戦力を誇るヴェルモント皇国だが、この日尾戦争の報告書が正しければ、大日本皇国はそれを上回る兵器を保有している可能性が高い。
だが、頭の固い特権階級や皇族、軍部がそれを認めるとは到底思えなかった。
しかも、これだけではない。
「彼らは時速300kmを超える航空戦力を保有……港湾都市においてはそれが爆裂魔法を投射した……?陸軍は唸り声と共に走り抜ける鉄の地竜を使役している……?もはや御伽噺とでも言った方が納得できそうな内容ね……」
これらの情報は、オルファスター王国に在住していた皇国人たちから集まった情報であったが、正直『なにかの間違いだった』と言ってほしいような内容ばかりだった。
なお、その中にはちゃんと万歳突撃に関する報告も入っているのだが、これに関しては『アタマのおかしな攻撃方法』としか書かれていなかった。
「……これ、報告したくないなぁ……」
エミールは優秀であり、それは上層部も太鼓判を押すほどに認めてくれている。だが当然のことながら、優秀『過ぎる』ということが災いして、なにかあれば彼女を蹴落とそうという人物も少なくない。
そんな中でこのような荒唐無稽な内容の報告書を提出しようものならば、どんなことになるか……考えたくも無かった。
というか、今の時点で胃が痛くなってきている。
「……どーしよ」
祖国のためを思えば、『脅威度重大』として上層部に『適切に』報告するべきなのだろう。
しかし荒唐無稽が過ぎるため、そのためにいきなり自分の人生を今棒に振ることはできなかった。
ハイエルフは基本的に長生きなので、『たった』200年ちょっとの人生で路頭に迷いたくはなかった。
「どうした?ラファール」
声を掛けてきたのは彼女の同僚で、北方にある第2世界大陸の分析を担当するロンダー・フランカーであった。
齢1千歳を超える『それなり』のベテランで、温和ながら確実に仕事をこなす人柄もあって上層部からの信頼も厚い男であった。
「フランカーさん……これ、見て下さいよ」
エミールからまとめられたレポートを受け取ったロンダーは、目を通しながらその視線を点にしていた。
「……欺瞞情報にしても盛り過ぎじゃないか、これ?」
「だと思いませんか?でも、現地の情報員や武官たちが見間違えたとも思えないし……」
その通りである。『実際に見た連中の言葉』なのだから、それを信じないでなにを信じろと言うのか。
まして、写真までつけて送ってきているので尚のことである。
「ふぅむ……そういやラファール。お前、有給ってどうした?」
このヴェルモント皇国、かつてのユグドラシル皇国のやり方をまねている部分があるため、文明水準は幕末から明治時代初期レベルにもかかわらず、『有給休暇』や『早引け』、『振替休日』などの概念があるのだ。
「え?……あぁ、そう言えば取るの忘れてたような……」
「最近はコンプライアンスとか厳しいんだから、取るべきものは取っとけって」
「えぇ?でもぉ、日尾戦役のこともっと分析を……あ」
「気付いたか?」
先輩であるフランカーの言いたいことにようやく気付いたエミールだった。
「……分かりました。2週間……いいえ、1ヶ月の有休を取ります」
「そうしろそうしろ。ただでさえお前はここ10年ほど働き過ぎなんだからな。上層部も文句言わんよ」
実際、情報局は仕事内容の都合もあって普段から『忙しいと言えば忙しい』が、『暇と言えば暇』だ。
なので、1ヶ月近く課長級の人間がいなくなっても問題は無いのだ。
「……じゃあ、私申請してきます」
「あぁ、行っといで」
エミールが書類を手に走り去っていくのを見送ってから、ロンダーは日尾戦役のレポートを見直す。
「……100mを超える鋼鉄の船……グラディオン王国が旧式の『戦艦』や『戦車』でも輸出したのか?いや、あの科学バカで開発好きだけど機密情報はきちんと守っているあの国がそんなことをするとは思えないしな……そもそもあの国、今のところは大日本皇国と国交はないはずだし」
ロンダーはそう言いながら自分の手元にあるグラディオン王国が配備している『戦車』と呼ばれる戦闘兵器の念動写真(魔力を集中して映し出す写真のようなモノ)を見比べた。
グラディオン王国の方の写真を見ると、見る人が見れば『八九式中戦車甲型』によく似た『トリケン型戦車』が映っている。
だが、ロンダーは写真を見比べて気付いた。
「……あれ?日本の方が強そうに見えるぞ?」
砲塔は日本の戦車の方が大きく、装甲が厚そうに見える。
ヴェルモント皇国で採用されている小銃『シュナイドル銃(日本人からするとスナイドル銃に酷似)』はもちろんだが、主力魔導砲のアルムスロト・カノンも効くのかどうかわからない。
そもそもトリケン型戦車にすら最大射程での陸上型アルムスロト・カノン(艦載型に比べると口径が大幅に小さい)の爆発が効かないことを考えると、もし日本の戦車がそれより強いのであれば、間違いなくヴェルモント皇国の魔導砲は通じない。
主砲である魔導砲らしき筒も、日本の方が長砲身で威力が高そうに見える。
ロンダーは写真を見ながら冷や汗を流す。
軍艦の写真こそ写っていないが、先ほど聞いた『100mを超える大きさ』ということと、航空戦力を敵地上空で運用していることも考えると、飛空母艦(この場合はエアロ・ホークやワイバーンを洋上で運用できる木造コルベットのこと)に近いものも運用している可能性がある。
いや、グラディオン王国に近い能力ならば、全長が150m超える『航空母艦』こと空母を保有している可能性すらある。
「……こりゃ、まさかのまさか、かもな……」
エミールが面倒に巻き込まれるだろうと推測したロンダーは、彼女の今後を案じるのだった。
だが、残念なことにヴェルモント皇国は法令遵守に関する姿勢も強かったことと、この後重要な式典などが目白押しだったという理由、さらに後に明らかになる皇国の恐ろしい『理由』から、有給の取得はこの日から1年後になるのだった。
この1年が、ヴェルモント皇国の運命を大きく左右することになるとは、この時は誰も知らないのだった。
さて、日尾戦争から1ヶ月後には先ほど話に上がったグラディオン王国でも情報が入っており、1人の男が頭を抱えていた。
男の名前はレイモンド・チーフテン中尉。
グラディオン王国軍において情報分析を担当する若手の技術将校であった。
「なんだこれ……こんなバカなことってあるか……」
彼は、若干25歳という若さながらその頭脳明晰ぶりとこれまでにあげた『成果』もあって、今回の日尾戦争における日本の兵器の評価を頼まれたのだが、そんな彼が頭を掻きむしっているのは、目の前の写真が原因である。
「どうしたんだよ、レイモンド」
同僚がひょいと写真を覗き込むと、そこには信じられないものが写っていた。
「……なんじゃこりゃ」
「こんな高層建築を艦の上におったてるなんて正気の沙汰じゃないだろう……」
それは、『違法建築物ばり』だの『九龍城』だのといった不名誉な仇名ばかりを頂戴してきた超弩級戦艦『扶桑』の写真だった。
元々はそんなものではなかったのだが、改装の結果このようになってしまったのである。
ちなみに扶桑は港湾都市ササンテの沖合5km地点に停泊していたのだが、どうやら写真を撮ることに成功したらしい。
だが、問題はそこではなかった。
「これだけでも問題だけどさぁ……これ見ろよ。砲門数が格段に多いぞ」
同僚が自国の『ダイタオン級戦艦』の雄姿を思い出す。
元々は大陸間戦争の際にグラディオン王国が第3位の強国、クレルモンド帝国との戦争の際に機雷に触れたことで戦艦2隻を失ったことから建造が決定された最新鋭戦艦である。
その見た目は、大日本帝国好きな人間ならば『金剛型戦艦(初期状態)』に酷似していると見るだろう。
主砲の口径は前級の『グラディウス級戦艦』より延長されたうえに直径も5cm近く大きくなった45口径35.6cm連装砲を4基8門、副砲として50口径15.2cm単装砲を8基8門、さらに8cm単装砲に加えて、つい2年前に開発され、今回新たに戦艦や巡洋艦などに搭載されることが決定した最新兵器・『魚雷』の発射管を2門備えるという重武装の船であった。
しかし、この写真に写っている戦艦は、寸法からして『ダイタオン級戦艦』の全長より少しだけ長いように見受けられる。
恐らく全長は、200m以上とほぼ同じだろう。
加えて、その大きな幅を持つ船体に連装砲4基と三連装砲を2基、計14門という重武装を備えている。
「この戦艦……もしかして35cm以上の砲を積んでるんじゃないのか?」
「あぁ。恐らく最低で見積もっても35cm砲。最も大きい推定だと40cmに迫る可能性だってあるんだ……」
「40cm‼アイゼンガイスト帝国でも最新鋭戦艦の主砲口径が40.5cmだろう‼もしこの戦艦の主砲がそれに匹敵するくらいだって言うなら……」
「あぁ。我が国の戦艦はなにもできずに射程外の攻撃で沈むだろう」
戦艦という存在は自分の放つ砲弾に耐えられるだけの防御力を有している。
扶桑も改装でバルジや装甲を増していることで集中防御方式に近い状態となったため、重要区画装甲は45口径41cm砲弾に耐える、日本人にわかりやすく言えば『長門型戦艦』の主砲に耐えるだけの能力を有することになるのだ。
「で、でも……魚雷なら?魚雷なら比較的装甲の薄い喫水線下を狙えるぞ?」
「確かにそうなんだが……射程が絶望的に足りない」
レイモンドの言葉にうっ、と詰まった同僚だった。
グラディオン王国が開発に成功した『ガー魚雷』は、射程が2kmちょっとしかない、まだ開発から間もない『発展の余地がある』兵器なのだ。
それでも地球で最初に開発された『ホワイトヘッド魚雷』などよりははるかに射程が長いうえ、まっすぐ走らせることができるのだが。
「それに、他の写真も見てみろよ……」
レイモンドが示した写真を見ると、自分たちの兵器より遥かに強大で、先進的な雰囲気を放っている兵器が多々見受けられる。
「こ、こいつは……」
グラディオン王国には『ダイタオン級戦艦』の他にも『龍驤型航空母艦』に似た『ドラグン型航空母艦』、『天龍型軽巡洋艦』に似た『ケルベン型軽巡洋艦』、『長良型軽巡洋艦』に似た『オルトン級軽巡洋艦』、『峯風型駆逐艦』に似た『ペガシン型水雷艦』、『神風型駆逐艦』に似た『ライガン型水雷艦』が存在する。
特に、水雷艦は魚雷を搭載して接近し、雷撃を撃ち込むことを想定して開発された高速航行可能な最新鋭の船舶である。
そして驚くべきことに、これらの船の中でも、余裕のある戦艦や空母、軽巡には電波反射式のレーダーが備わっている。
グラディオン王国では科学的なテレビ放送が放送されており、『電波を飛ばす』という概念が存在した。
その結果、レイモンドはその電波を飛ばすことで、反射を利用して物体を探知することができないかと考えた結果、原始的ながら対水上及び対空電探の開発に成功していた。
その結果、日本でいうところの『八木・宇田アンテナ』から作られた一三号電探に近い性能を発揮するレーダーを装備するという、大正時代レベルの技術が多いグラディオン王国からするとこの技術だけは20年以上先を進んでいた。
当然それに伴って『識別信号』も実用化しており、航空機を含めて自軍の兵器はそういった信号を発することができるようになっている。
この技術は世界で見てもグラディオン王国だけのもののはずだった。
だが、大日本皇国の兵器はそれよりはるかに進歩しているように見える。
「見ただけで敵わないとわかるなんて……技術水準が20年から30年以上離れている気がするよ……」
「ひ、飛行機はどうだったんだ?これ、飛行機だよな?」
同僚が示した写真には、急降下爆撃を行っている流星が奇跡的に写っている写真があった。
「それか……撮影者のメモ曰く、『時速500km近い速度で飛行していた』そうだ」
俯きながら答えたレイモンドに、同僚はあんぐりと口を開ける。
「そ、そんなバカな‼」
グラディオン王国は航空機も実用化しているが、その飛行機は『中島A4N 九五式艦上戦闘機』に酷似した『グリフィオン艦上戦闘機』と、『三菱B1M 一三式艦上攻撃機』に酷似した『ワイバリオン艦上爆撃機』という内容となっている。
さらに低空限定だが、陸上型で最も速度が出せる『八九式艦上攻撃機』に似た『フェニクオン戦闘機』と、『三菱キ2 九三式双発軽爆撃機』に似た『ゴレムン型軽爆撃機』が配備されており、さらに水上機として『九〇式一号水上偵察機』に似た『シャーオン型偵察機』を保有している。
だが、それらの兵器に関しても圧倒的な差があった。
「この機体は爆撃機だ。爆撃機は本来、制空戦闘機に比べれば鈍足のはずだ……だが、この急降下している機体は、『爆弾を抱えた状態で』500km近い速度での『巡行』をしていた……どういう意味か分かるか?」
「……制空戦闘機は、こんなものじゃない?」
「あぁ。とんでもない技術を持っている可能性が高いんだ……それに、陸戦兵器も強そうだぞ」
レイモンドは街中で撮影されたらしい四式中戦車と一式十糎自走砲の写真を見せた。
「……確かにな」
グラディオン王国では回転砲塔を持つ戦車を作ろうと試行錯誤し、『八九式中戦車甲型』に酷似している『トリケン型戦車』と、『クロスレイ装甲車インド仕様』に似た『ジャガン型装甲車』を配備している。
だが、そんな彼らにもよくわからない点があった。
「この車両、なんで露天になってるんだ?戦車、だよなぁ……?」
「そこが分からないんだ」
彼らが指しているのは一式十糎自走砲なのだが、彼らの中で戦車という存在は『歩兵支援用の装甲戦闘車両』という、正に八九式中戦車の時代の考え方そのままなのだ。
なので、やはりというか当然というか、対戦車能力を持つ戦車は開発されていない。
当然速度も時速25km程度と、歩兵に随伴できる速度である。
彼らは悩みつつも、日本が想像以上に高度な技術を持っているかもしれないことに気付いているため、日本に関するさらなる調査を決定した。
これが、後に彼らの運命を大きく変えることになる。
申し訳ありません。この『転生艦隊』の来月分の投稿はちょっとお休みさせていただこうと思います。
今書いているストックの続きが中々進まないのと、今月から艦これのイベント及びアーケードの水着モードが始まってついつい艦これ方面にかまけてしまって……二次創作はそれなりに進んでいるのですが、ちょっとこちらは微妙な感じです。
うまくアイデアがまとまらない感じです。
なので、あえて来月の投稿は申し訳ありませんがちょっとお休みさせてください。
次回は9月28日に投稿しようと思います。




