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オルファスターの王女

今月の投稿になります。

今回はいわゆる戦後処理ですね。

 旭日たちはトールンボに命じて、魔法通信で城内に残っている王族関係者を全員集めさせた。

 ちなみにオルファスターの王族を1人、人質として大日本皇国に連れて行くという話は、元々は旭日の提案であった。

 人質として連れて行くことでオルファスター王国が大日本皇国に手を出しにくくすると同時に、その王族に日本のことを学んでもらえば、後に王国に帰還した際にオルファスター王国をより良い方向へ改革してもらう力となってもらおうと考えているのだ。

 また、旭日の考えていることにはさらに裏があった。

 だが、『一族』という意味で30人を超えるその顔触れを見た旭日は思わずげんなりしていた。

「……まともそうなツラが1人もいねぇ……」

 旭日の隣では扶桑も、後ろでは飛鷹とあきつ丸も『うわぁ……』と言わんばかりの顔をしていた。

 そのほとんどがオークだというオルファスター王家の人間たちだが、皆一様に肥満体で愚鈍そうな感じなのだ。

 正直言って、その肥満ぶりと悪そうな、そして愚鈍そうな様相は、正しくオークという雰囲気の連中ばかりなのだ。

 それでいて悪知恵だけは働きそうな面構えをしているので、尚のこと質が悪いのである。

「これは……なんとも言えませんね。弛みが顔色だけでなく、体全体から溢れているように見受けられます」

「どいつもこいつも一から性根を鍛え直すべきかと。存在そのものがあまりにも緩みきっておりますな。全く、見ているのもイライラするほどです」

 飛鷹とあきつ丸も、曲がりなりにも一国の重鎮である筈のオルファスターの王族をズバズバと容赦なく酷評する。

 旭日もその言葉に対してなにも言い返すことなく『ハハハ……』と乾いた笑いを浮かべるしかなく、『どーしようかな……』という様子だ。

「本当にどの人も……」

 扶桑ですら苦笑を隠しておらず、旭日たち4人は悩んでしまうのだった。

「こりゃどいつを連れて行っても同じかなぁ……ん?」

 旭日が目を止めたのは、王族たちの中でも奥の方にひっそりとした様子で座っている女性だった。

 そもそも種族からしてオーク族である他の王族とは異なり、なんと銀髪褐色肌のダークエルフである。

「陛下、あの方は?」

 トールンボはその女性に目を止めたことが意外だったらしく、細めな目を大きく開いていた。

「あぁ。あいつはにゃもの最初の娘でメリアという。にゃもの血ではなく母親の血を色濃く継いでいてな。ダークエルフとして生まれてきたにゃも」

 つまり、奥に座っているダークエルフはオルファスター王国の第一王女ということらしい。

「へぇ……」

「あいつが気に入ったにゃもか?」

「気に入ったと言いますか……正直に申し上げまして、一族の中では一番利発そうですな」

 トールンボは自分が愚鈍と言われているようなものにもかかわらず『それは言えてるにゃもな……』となぜか納得していた。

「あ奴は昔から頭は良かった。じゃが、残念なことに体が弱くてな。ロクに外へ出ることもできなかったにゃも」

「なるほど。病弱な方でしたか」

 だが、旭日の目はそのメリアから離れない。

 扶桑や飛鷹らが疑問符を浮かべている中で、旭日は『よっし』と小さく声を発した。

「……陛下。連れて行くのはメリア様にいたします」

「にゃも?ほ、本当にそれでいいにゃもか?」

「はい」

 トールンボは内心で『助かった』と喝采を上げていた。

 何故ならば、トールンボにとって既に18歳という適齢期真っただ中の年齢であるにもかかわらず、病弱で引っ込み思案なこともあってお嫁にいけないメリアは、どうしたらいいのかと悩まされる存在であった。

 他の子供は皆10歳から12歳前後と、まだ未来がある上に健康的、尚且つメリアだけが一族の中で種族が違うということもあって、どうしても他の一族と比較されてしまうことが多々あったのだ。

 それを引き取ってくれるというのであれば、その点はありがたいのである。

 もっとも、旭日がなにを考えているのかという点についてを考えていない辺り、この国王の限界が見え隠れしている。

 そんなある意味で呑気な思考にはまっているトールンボを尻目に、旭日はメリアの方へ近づいて行った。

 旭日が目の前に立つと、メリアは見慣れない男にビクリと肩を震わせながら旭日の方を見た。

「第一王女のメリア様、ですね?」

「は、はい……」

 自信のなさそうな声と、どこか弱々しげな態度。

 頭がよく聡明だが、病弱であまり外へも出たことがないというが、それだけではないだろう。

 発している雰囲気から察するに、父や一族の多くに大事にされなかったことも、彼女の自信の無さに拍車をかけているのだろうと旭日は推測していた。

 種族が違い、自分たちと同じ存在扱いされなかったことで大事にされなかったのだとすれば、それはあまりにも不憫である。

「あなたにはオルファスター王国敗戦による我が国からの条項により、我らが大日本皇国へ来ていただきます」

「日本に……そうですか。私は、人質ということですね」

 少なくとも、そのくらいのことはすぐに察することができたようで、複雑そうな顔をしていた。

「(無理もないか。いきなり見知らぬ所へ連れていかれる。しかもその原因が疎遠な自分の親にあるって言うんだからな。理不尽に感じるだろう)」

 だから、旭日は片膝をついてメリアの手を取った。

 メリアはハッと驚いたような表情を見せた。

「そうです。あなたは人質です。ですが、私が天皇陛下に働きかけます。悪いようには致しません」

 自分で言っておいてなんだが、旭日はかなり明治天皇に気に入られている。

 特に、敗戦から平成に至るまでの複雑な時代の話を色々と聞かせたことは明治天皇も衝撃だったらしく、日本が事実上アメリカの半属国になりながらも70年以上平和で居続けたことに関してはわずかに喜んでいた。

 別に旭日がなにかをしたわけでもないのに、だ。

「なので、我々と共に来ていただきます。よろしいですね?」

 旭日の語調はメリアに対して有無を言わせなかったが、しかし……どこか優しげな声色だった。

 


 オルファスター王国第1王女のメリア・オルファスターにとって、18年の人生は色褪せたものだった。

 オーク族の父親と同じ種族で生まれればこういうこともなかったのかもしれないが、母親の種族であるダークエルフとして生まれたために、その後から生まれた弟や妹を含めて、一族からは異端扱いされていた。

 彼女の母は側室筆頭だったが、元々体が丈夫でなかったこともあってか、メリアを出産してすぐに体を悪くしてこの世を去ってしまった。

 このことも、彼女に対する他の王族が取る態度の冷たさに拍車をかけていたのかもしれない。

 側室筆頭ということで他の側室はもちろん、正室である王妃からもかなり妬まれていたからだ。

 おまけに彼女は病弱で、中々外へ出ることも叶わなかった。そのため、父であるトールンボに頼んで色々な書物を読みふける日々を送っていたのだ。

 オーク族である一族はそのほとんどが脳筋志向であったため、書物を読んでばかりの彼女はあまり快く思われなかったのだ。

 幼いころから父が世界の各国から取り寄せてくれた書物をたくさん読んでいたことで頭はよかったものの、このオルファスター王国ではあまりに知恵の回る者は逆に快く思われない。

 どちらかと言えば『長い物には巻かれろ』に近いような、宗主国であり列強国であるヴェルモント皇国に対していかに媚び諂うかが重要視されていた。

 唯一他の者が認めてくれたこととして、魔素を練るのは上手だったのだが、ここでも病弱が災いして魔導師になる訓練を受けることすらできなかった。

 さらに病弱であることから、結婚の適齢期になってもその弱さ故にどこの国からも縁談の申し込みがなかったため、オルファスター王国内でははっきり言ってお荷物扱いだった。

 このまま自分は日々を無為に、無味無臭の心で過ごすのか、と1人寂しく考えたのも、一夜限りのことではない。

 そんな時、トールンボが近くにある大型島国の大日本皇国に戦争を仕掛けるという話を聞き、またも不幸な国が増えるのかと日本のことを哀れんだ。

 自国がいかに繁栄していようとも、その繁栄が様々な国にもたらされず、自分のような弱い者が笑えないような世界では、どうしようもないのかもしれない、とさえ思っていた。

 しかし、ここで彼女はもちろん、オルファスター王国の全員が想定していなかった事態が発生する。

 日本はそれまでにはなかった技術や兵器を手に入れたらしく、破竹の勢いで派遣艦隊を殲滅するどころか、落雷の勢いで港湾都市を陥落させ、余勢を駆って一気に王都まで攻め込むという離れ業を見せた。

 このようなことは、この世界の5大強国にもできるかどうか怪しい話である。

 そんなメリアは、自分に差し出されていた手を凝視していた。

 人質とするには病弱なため、長生きはできないかもしれない。

 にもかかわらず、目の前に跪いているこの若い男は他の健康そうな弟妹や叔父一家などではなく、メリアを選んだ。

 そう思うと、メリアは日本という国に強い興味を抱いていた。

「(……日本……この1年ほどで大きく変わったと聞いていましたが……日本に行けば、それらについて少しは学べるのでしょうか……)」

 そして、気づけばその手を強く握っていた。

「至らぬところも多い病人ですが、どうかよろしくお願いいたします」

「はい。もちろんです」

 この時旭日の見せた温かい笑顔に、愛も恋もほとんど知らなかったメリアの心は大きく震えた。

 まるで、全身の血が沸騰するかのような感覚を覚えていたのだ。

 しかし、怒りの感情ではない。

 知識としては様々な本を読み知っているメリアだが、この感情が何なのか、すぐには答えを導きだせないほどにその心が沸々と沸いていたのだ。

 だが、そんな彼女の様子に気づくこともない旭日は、ゆっくりと手を引いて立たせた。

 ちなみにあらかじめ言っておくが、旭日に対する恋心ではない。

「あっ……」

 メリアが小さく声を上げるものの、旭日は優しく微笑むだけであった。

「あきつ丸、車の準備は?」

「はっ。いつでも行けます」

「それは重畳……では陛下」

 旭日が不意にトールンボの方を見ると、トールンボはあからさまにギョッとした顔をする。

「メリア様に身柄は、我ら大日本皇国が責任を持ってお預かりいたします。なお、もし万が一ですが……この国に非常事態が発生し、メリア様以外に国の実権を握るに相応しいお方がいなくなった場合には、メリア様をお返ししてこのオルファスター王国を継承していただきますので、どうぞご安心ください」

 確かに、条項を見ればそう言った旨が書き記されている。

 だが、子供だけでも15人を超える数がいるトールンボにとっては、よほどのことがなければ『王家全員が死に絶える』ということはあり得ないだろうとも考えられた。

 そのため、日本が今この場で王族全員を処刑すると言わないのであれば、この条件もそれほど問題ではなかった。

「わ、わかったにゃも」

 すると、トールンボはハッとなにかを思い出したように立ち上がった。

「す、すまぬ。ちょっと部屋に取りに行きたいものがあるにゃも」

「それは、陛下でなければなりませんか?」

「にゃもが練りこんだ魔素でなければ反応しない金庫に入れてあるにゃも。頼む。行かせてほしいにゃも」

 どうやら、よほど緊急のことのようだ。

「わかりました。ではあきつ丸。陛下がなにか不穏なことをしないかどうかを監視していてほしい。頼めるか?」

「ははっ。心得ましてございます」

 トールンボは部屋を飛び出すと、ドタドタと不格好な走りを見せながら自分の部屋へ向かった。

 数分後、トールンボは自室の金庫の前に立っていた。

 見た目は漆黒に輝く石のようなものでできた金庫である。

 あきつ丸が見たこともない素材に目を丸くしていると、トールンボが少しだけ得意げな顔を見せた。

「この金庫は世界最強の鉱物であるアダマンタイトでできているにゃも。本来ならば一文明国が小石ほどの欠片でも手に入れようと思っても大変にお金がかかるにゃも。我が国はヴェルモント皇国の支援を受けたことで、なんとか重要書類や大事な宝物を入れておくことができるくらいのサイズの金庫を入手することができたにゃも」

 トールンボが自分の手を金庫の扉にかざすと、扉に複雑な魔法陣が浮かび上がった。

「ここに練りこまれている魔法陣学はにゃもの練りこんだ魔素しか受け付けないにゃも。そしてにゃもの父上がそうしたように、政権交代の時にその魔法陣学の変更を行い、新たなオルファスター王が継続することになっているにゃも」

「では、不慮の事態でその継承者が継承の儀を行わないままに亡くなった場合はどうなるのでありますか?」

「その時は残っている王族で最も優先的に王位を継承する者が開けられる魔術がかかっているにゃも。故に……これは世界最高のアイゼンガイスト帝国の傑作金庫にゃも」

 確かに、これほどの高度な技術を一介の中規模国家が持てるとは思えないので、世界最高の魔導技術を持つ国の産物であると言われればそれは納得できる。

 『ガチャン』という音と共に扉がゆっくりを開いていく。

 トールンボは中に手を入れると、キラリと光る輪のようなものを取り出した。

「指輪、でありますか……?」

「あぁ。こいつはメリアの母、アリアがにゃものところに輿入れしてくる時に実家から持たされたというヒヒイロカネ製の指輪にゃも」

 見れば、この指輪にも魔法陣学が練りこんであるようだ。複雑な魔法紋様が多数描かれているのが見える。

「アリアは元々大陸中部の森林国家、ミルヒシュトラーセ共和国の第3王女だったにゃも。メリアを産んですぐ亡くなったにゃもが……亡くなる前に、『メリアがこの国を離れるようなことがあれば、この指輪を渡してやってほしい』と頼まれていたのを先ほど思い出したにゃも」

 すると、トールンボは少し俯きながら独白を始めた。

「にゃもは……にゃもは愚かな王にゃも。おみゃーらとの力の差もまるで理解せずに攻めかかり、情けないまでの惨敗を喫したにゃも」

 どうやら、ことここに至ってようやく自分の置かれている状況をしっかりと認識したらしい。

「にゃもがもっと賢く、おみゃーらを大陸文明に属していない蛮族などと頭ごなしに決めつけなければ……こんなことには、なってなかったはずにゃも」

 あきつ丸はなにも言わなかった。

 敗軍の将でも、愚痴をこぼすことくらいは許されて然るべきだろう、という彼女の中の武士道がそうさせたのだ。

「陛下、そういうお心があるのでしたら、心を入れ替えた……いいえ、生まれ変わったおつもりで国務にお励みくださいませ。我らが司令も……きっとそのように望みだろうと思います」

 トールンボは力なく肩を落としたまま、あきつ丸の方を向いて弱々しげな微笑を浮かべた。

 その顔は、トールンボがこれまでに見せた顔の中では、最も国王らしいように見えるのだった。

「そうにゃもね」

 トールンボとあきつ丸は急いで広間に戻り、彼の手からメリアに指輪が手渡された。

「これは、おみゃーの母アリアの形見にゃも。おみゃーがこの国を出ていくようなことがあった場合、渡してほしいと頼まれたにゃも」

「お母様の……」

 メリアが恐る恐る指輪を受け取ると、トールンボがゆっくりとメリアの頭を撫で始めた。

「お、お父様……?」

「おみゃーはぐんぐん背が伸びていったから、撫でてやるのも一苦労だったにゃも……息災でな」

 トールンボにも親の情愛がなかったわけではない。

 子供が多すぎただけでなく、他の子どもたちの手前、あまり彼女ばかりに構うわけにはいかなかったのだ。

 それを今この場で感じ取ることができたメリアは、思わず大粒の涙をポロポロとこぼしていた。

「ありがとうございます。お世話に……なりましたっ……」

 感動的な親子の別れに、思わず涙ぐむ日本軍関係者たちであった。

 こうして、大日本皇国とオルファスター王国の戦いであった『日尾戦争』は、これにて幕を閉じることとなったのである。

 その後、メリアは自身を乗せた自動車の速度や、港湾都市から乗り込んだ軍艦の大きさに目を丸くし、到着した大日本皇国の首都、アシタカノウミの発展にも驚くことになるのだった。

 メリアはこの後、港湾都市キイの旭日預かりとなって彼の下でしばらく過ごすことになる。



 その頃、第3世界大陸より遥か西にある先進世界こと、第1大陸でも今この時リアルタイムの情報を入手している国家がいた。

 それが、アイゼンガイスト帝国であった。

 そんなアイゼンガイスト帝国は先進世界と呼ばれる、北アメリカ大陸とほぼ同じ面積を持つ大陸の3分の1近くを支配している国家で、五大強国の序列1位という、世界最強の存在と言われている。

 元々は先史文明の時代、エルドラード神帝国という超文明を持つ国が存在した。

 その国は現代では想像上と言われる様々な技術を保有していた。



○音の速さを超える魔導飛空機

○生物や物体が練りこんだ魔素を目標にして放たれる魔素認識追尾式噴射槍

○上空を飛ぶ物体を落とせる魔導砲を搭載した対空魔導艦

○音に近い速さで巡航し、500km以上の射程を持っていたと言われる、不可視の破壊弩弓

○地上の攻撃を全て跳ね返し、100mmを超える口径の砲弾を放つことができた魔導装甲戦闘車こと、『魔導戦車』

○風魔法の向かい風と雷の力を活かした飛空機発射機構で航空機を撃ち出し、80を超える飛空機を収容することができた飛空魔導母艦



 等々の技術や遺産を解析しながら発展してきた国である。

 エルドラード神帝国がある要因で滅びた後、現皇帝に連なる一族が立ち上がって新たな帝国を建国した。

 それがアイゼンガイスト帝国である。

 皇帝一族はエルドラード神帝国の兵器や技術を研究・解析させ、それに用いられている理論を理解しようとした。

 その結果、世界でも類を見ない魔導文明大国として発展し、現在では魔法文明の頂点に立っている。

 そんな国の国立情報収集分析庁では、大日本皇国が一等文明国であるオルファスター王国を打ち破ったことが既に情報として入ってきていた。

 国立情報収集分析庁は職員を招集して緊急会議を開き、なにがあったのかを整理することにした。

 円卓に座った12人のうち、もっとも細身で背の高いエルフの男性が紅茶を飲みながら発言する。

「まさか、第3世界大陸では文明一等国の実力を持つオルファスター王国が、文明圏に属していない大日本皇国に負けるとはな……」

 彼は情報庁長官のザイル・ゲハイムコーデという。

 世界最高の技術と考え方を持つアイゼンガイスト帝国は他国の情報収集にも力を入れており、『文明国だから』、あるいは『文明圏外の国だから』と言って差別をすることなく情報を収集していた。

 彼に同調するように、東方部担当のズーヘン・ラントカルテも頷いている。

「全くです。私も先ほど派遣職員から情報が入った時は『そんなバカな‼』と思わず叫んでしまいましたよ」

 アイゼンガイスト帝国は第二次大戦基準の戦艦(見る人が見れば、イギリスの『ネルソン級戦艦』に酷似)の他にも、空母やその艦載機、さらに陸上戦力として戦車なども保有しているため、この世界(当のアイゼンガイスト帝国が把握している限り)基準では、最強の能力を持つ。

 だが、そんな彼らを以てしても驚愕の話ばかりであったのだ。

「『大日本皇国に空母及び戦車保有の可能性あり』か……これは、戦艦も手に入れていると考えるべきであろうな」

「かの国がなぜいきなりそのような物を手に入れたのか……1年前に流れ着いた『鋼鉄の艦隊』とやらが原因でしょうか?」

「可能性は高いな」

 アイゼンガイスト帝国は元々大日本皇国とは深い付き合いがあるため、大蔵艦隊がやってきて日本に居を構えていることもちゃんと知っていた。

 だが、彼らの正確な『技術力』や『戦闘能力』については、日本からもほとんど聞かされていない。

 正確にわかっていることと言えば、怪我をして弱体化していたとはいえ、列強3番手に属するクレルモンド帝国の神龍に匹敵する魔龍種、メルフィット・ザンドラを討ち取ったという話だけである。

 だが、情報統制でも敷かれているのか戦闘に関する情報はほとんど入ってきていないため、帝国内でもその勝因ははっきりしていない。

 しかし、今回そんな日本が第3世界大陸では2番目の強さを持つと言っても過言ではないオルファスター王国をたった2日で陥落させたというのは、正に晴天の霹靂であった。

「他になにか有力な情報はあるか?」

「そうですね、日本軍は手で持って運べる爆弾や、人が持ち運びできるタイプの機関銃を実用化している可能性があります」

「なに、人が持ち運べる爆弾に機関銃だと?」

 アイゼンガイスト帝国で採用されている機関銃はパッと見は陸上自衛隊の『62式機関銃』に酷似している大型の7.62mm軽機関銃『ナル・ヘンカー』と、『M2ブローニング重機関銃』に酷似した対空・対地に使える12.7mm重機関銃である『ズィーク・ヴァッヘ』だった。

 重機関銃の方は単純な機構なのでそれほど問題なく再現できたのだが、ナル・ヘンカーは機構が難しい上に整備に手間がかかる上に故障しやすいという特徴で、なぜこんなものをエルドラード神帝国は採用していたのかと技術者たちは頭を抱えている。

 そして一番の問題は、どちらも歩兵が持ち歩く機関銃というには重すぎたのだ。

「ふむ……それは興味深いな。機関銃の小型化はまだまだ研究途中だからな。是非資料が手に入るなら見てみたいものだ。他にはあるか?」

「はい。港湾都市ササンテの攻撃の際には、風車のような羽根を鼻先につけた空を飛ぶ物体が登場しました。これはまるで……」

「飛空機か?だが、羽根を回して推力を得るというのはよくわからんな……その点についても引き続き情報を収集しておいてほしいが……肝心の性能は?」

 紙に書かれた数値を読み上げると、ザイムの顔は見る見るうちに真っ青になった。

「ばばば馬鹿な‼こんな小型の機体で、500kg近い重量の爆弾を投下していただと!?しかも、胴体下につけるのではなく、そこに爆弾を収める場所まであったと!?」

 アイゼンガイスト精霊帝国が現在採用している飛空機は『スーパーマリン シミター』に見た目が酷似しているのだが、なぜか『グロスター ミーティア』と同レベルの魔導遠心分離式空気燃焼噴射機構(要するに魔法のターボジェットエンジン)と、レシプロ機のような直線翼(ただしテーパー翼ではない)を装備しており、速度は驚異の(悪い意味で)540km、爆弾も500kg1本を抱えるのが精々である。

 当然ウェポンベイという概念もないようなので、その点にも驚いている。

「なんというか……色々と驚きが多くて胃に穴が開きそうだ……」

「日本のことはまだまだ不明なことも多いですが、できる限り調査を続行したいと思います。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「今回オルファスター王国が敗北したことで、宗主国であるヴェルモント皇国がなにかしでかすのではないかと不安でして……」

 ヴェルモント皇国は保護国のオルファスター王国に輪をかけてプライドが高いため、扱いづらいことこの上ない。

 だが、その危険性と強さは本物であった。

「ふむ……それは一理あるな。日本側から、なにか支援の要請が来るかもしれないな」

「政府にはどう伝えます?」

「できる限り正確に伝えよう……ただ、政府の官僚は頭が固くて、軍人どもは意地っ張りだからな……ちゃんと聞いてくれるかどうか……」

「そういう意味では、もしヴェルモント皇国に勝てる算段がある、ということであればこちらも協力してもいいかもしれませんね」

「あぁ。あの国はこのところ随分と威張っているからな……少しは列強国の自覚を持ってほしいものだ」

 こうして、旭日はもちろん、日本も知らぬところで色々な国が動き出そうとしているのであった。

少しだけ、なにかが救われたような、そんな感じです。

そして、他にも動き始める国が……


次回は6月29日に投稿しようと思います。

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