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粉砕!万歳!大喝采!

……遂にきましたこの時が。

日本軍を出すなら、これは欠かせません。

それでは……ご唱和ください、あの『セリフ』!


「天皇陛下、バンザアアアアァァイ!」

 旭日は零偵から『敵の混乱は最高潮』という報告を受け、ここでようやく陸軍を突っ込ませることを決めた。

「総員、付け剣‼」

 旭日及び諸隊長の合図と共に、兵士たちが九九式小銃に銃剣をつけていく。

「戦車が城門を吹き飛ばしたら、そのまま突っ込め‼狙うはコウルペ城に座する国王トールンボ・オルファスター‼」

 その言葉を合図とするかのように、四式中戦車や自走砲、車両がエンジンの唸り声を上げながら砲塔を旋回させる。

『距離よし‼……撃てっ‼』



――ダンッ‼……ボガァンッ‼



 四式中戦車の四式七五mm砲から放たれた榴弾は、城門『だけ』を勢いよく吹き飛ばした。

 そして、旭日は最後の言葉を口にする。

「陛下の御為に、突撃ぃ‼」



「天皇陛下、バンザアァァァァァァイッ‼」

「大日本天皇国、バンザアァァァァァァイッ‼」



 日本軍は2万人ほどの部隊だが、彼らのあげた雄叫びは3km以上離れたオルファスター王国の王都の中でもよく響き渡り、オロオロしていた王都民を恐怖のどん底に陥れたのだった。

 兵士たちは航空機の機銃掃射によって抵抗のなくなった城門をくぐると、王城に向かって突撃を始めた。

 見れば、わずかに残ったオルファスター王国陸軍の兵士が銃や剣、槍を持って阻もうとしているが、その顔には恐怖が張り付いていた。

 当然だろう。このような狂気を顔に張り付けた、死をも恐れぬ軍団が突っ込んでくれば、生半可な人間では到底耐えられない。

「うおおおおおおお‼」

「突っ込めええぇぇぇぇぇぇっ‼」

「陛下に仇名す逆賊を討ち取れえええぇぇぇっ‼」

「バンザアァァァァァァイッ‼」

「(手榴弾が)爆発するぞー‼」

「天誅じゃああぁぁぁぁっ‼」

 飛行機が去った代わりに、街中は一気に歩兵の怒号と彼らの武器が放つ爆発音や発砲音に包まれるのだった。

 それだけではない。

 戦車も自走砲もそれを支援するように先頭を走り、機銃掃射や榴弾の発射によって、敵の戦力を減衰させていくのだ。

 第3世界大陸の技術・文明水準を考えると、戦車はもちろんだがそもそも車自体があるかどうかも怪しい。

 なので、全身を鉄で覆われた車や戦車という異形が進んでくるだけでも、恐怖は底知れない。

「陛下に不遜な要求をした豚を許すなぁ‼」

「豚を捕まえて引っ括れ‼」

「そのまま火にかけて丸焼きにしたれぇ‼」

「そして最後は吊るし切りじゃぁ‼」

「アホゥ‼そりゃ鮟鱇じゃろうがぁ‼」

「天皇陛下、バンザアァァァァァァイッ‼」

 もはやこうなると、日本軍は指揮官を除いて誰にも手が付けられない。

 旭日は最前線の者たちについていくような形で車に乗っていた。

 そんな旭日に飛鷹が『こう言ってはなんですが……』と質問する。

「司令、なにも我々がいく必要はなかったのでは?」

「国王の魔導写真は大日本皇国には存在しない。諜報機関も入手には失敗している。であれば、顔を見た俺と扶桑が顔合わせをするしかないのさ」

「確かに。私だけでは侮られる恐れもありますので、司令が自ら赴くというのもわかりますが……本来これは艦隊司令の仕事ではないのでは?」

「それを言うな。我が国はただでさえ近代戦の指揮ができる指揮官も、文明国及び列強国に対応できる外交官も不足しているんだ。俺ができる限り働かなきゃならないのさ」

 そんなことから、旭日は今回大日本皇国の全権大使の役割も与えられていた。

 いや、与えられていたのではない。実際には明治天皇を含めて閣僚たちから『押し付けられた』のだ。

 だが先ほど旭日が言った通りで、大日本皇国はまだまだ近代に対応できる人材が不足しているため、旭日ができる限り動かなければならないのである。

 旭日としては、近代の事情に詳しい者たちを中心に外交・政治面も鍛えていかなければと強く実感するのだった。

 それはさておき。

 突き進む日本軍は完全にハイな状態となっており、既に2kmを走っているが未だに止まる気配がない。

 敵もなんとか喰い止めようと襲い掛かってくるが、ほとんどはその前に九九式小銃か、列の前方で連射される九二式機関銃などの餌食となるのだった。

 しかし、オルファスター王国軍もタダではやられない。

 物陰からいきなり鉄砲を撃ち込むことで日本軍を負傷、あるいは殺傷することくらいならできたからである。

 中には、建物の屋根の上から弓を放って、オープントップ状態で露出している自走砲の兵員に怪我をさせる猛者もいた。

 それでも、そんなわずかな抵抗が限界だった。

 攻撃をしようものならば、たちまち別の日本軍兵士に見つかってあっさりと殺されてしまう。

「なにすんじゃこのヤロウ‼」

「撃ち落とせぇっ‼」



――ダンダンッ‼ダダンッ‼



「ぐわぁっ!?」

「ごふっ!」

 自走砲に矢を撃ち込んだ兵士数人も、あっという間に日本軍の射撃を受けて沈黙してしまった。

 この地獄を体現したかのような軍団を止めることができたのは、旧世界でもただ2ヵ国、世界最大の工業力と数の暴力(と、一部優秀性)で押してきたアメリカ及びソビエト連邦のみである。

 日本軍は大通りをさらに突き進み、コウルペ城へ向かう。

 旭日は車から顔を出すと、疲れ始めたであろう兵士たちをさらに激励する。

「敵の首はもうすぐだぁ‼最速で最短でまっすぐに一直線に‼突き進めぇ‼」

「うおおおおおおおっ‼」

「そうじゃ、まだまだこれからぁ‼」

「進め進めぇ‼」

「邪魔する奴は誰であろうと踏み潰せぇ‼」

「バンザアァァァァァァイッ‼」

 兵士たちは落ちかけていた速度をまた上げて、コウルペ城の城門に向かって一塊となって進む。

 その勢いは、たまたまオルファスター王国を訪れていた他国の民をして『あれはリントヴルムかはたまたベヒーモスの群れか』と言わしめるほどの迫力であったという。

 ちなみに、多くの民間人は航空攻撃の時点で怯えて家に閉じこもっているため、ほとんど被害は出ていない。

 流星隊も軍事施設を中心に狙っているため、民家への被害は極めて軽微であったと言ってよい。

 これも旭日の狙いだった。

 航空攻撃で甚大な被害を出すと同時に、ワイバーンには出せないプロペラとレシプロエンジンのドップラー効果で民衆を怯えさせることで、屋外へ出る人を極力減らして被害を減らそうという魂胆であった。

 そして周囲の敵兵を排除しつつ、遂にコウルペ城の城門まで1kmを切った。

「戦車に砲撃用意を伝えろ‼そちらの判断で撃ってよし、と‼」

「了解‼」

 旭日の指令を受けた戦車は先行すると、2両で城門を狙った。

『2号車、合わせろよぉ‼』

『馬鹿こくでねえ。おめぇらが合わせるずら‼』

『分かったよ……今‼』

 戦車2両はほぼ同時に砲撃を見舞った。



――ダンッ……バゴォッ‼



 2両の戦車から放たれた榴弾2発はコウルペ城の大きな城門にほぼ同時に着弾し、城門を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

「よぅし、突っ込めえええぇっ‼」

「天皇陛下、バンザアァァァァァァイッ‼」

 城内に雪崩れ込んだ日本軍は、城内に入ったことのある旭日の指示を受けて進んでいく。

 旭日は内心で、明治天皇がこうなることを想定して自分を派遣したのではなかろうかというちょっとした疑念にかられた。

 だが、天皇陛下が最初から戦うつもりだった、あるいは戦うことを想定していたということならば『それもそれ』だということと、今は目の前のことに集中するべきと自分に言い聞かせ、車から降りた。

 旭日の右隣は扶桑が、左隣は飛鷹が、後方はあきつ丸が固めている。

 どうでもいいが、九九式小銃を持ち、腰に銃剣と拳銃を挿している武装メイド状態の飛鷹は、中々シュールな姿である。

 あきつ丸も九九式小銃と興亜一心刀を携えている。

 城内の近衛兵も通常のボーガンや剣などで応戦しようとしてするものの、多くはその前に日本軍のアウトレンジ攻撃によって倒されてしまう。

 乾いた破裂音が響くたびに倒れるのは、そのほとんどがオルファスター王国兵だった。

「な、なんなんだよあいつらはっ‼」

「日本軍があんなに強いなんて聞いてないぞぉっ‼」

「こちら近衛第3小隊、既に壊滅状態。繰り返す、こちら近衛第3小隊、既に壊滅状態……ぐぎゃっ!?」

 すると壁の隠し仕掛けから、軍を分断しようと真ん中を狙ってきた兵がたまたま旭日に躍りかかった。

「陛下の下に行かせるなぁぁぁっ‼」

「我らこそ陛下の矛であり盾であるっ‼」

「オルファスター王国万歳‼」

 だが、旭日に最も近づいた1人を目の前に飛び出した扶桑が鋭い横薙ぎの一閃で斬り捨てると、飛鷹とあきつ丸もボルトアクション小銃とは思えない連射速度で瞬く間に3人を撃ち殺した。

 残りも一瞬固まったところで他の日本兵から次々と攻撃を受けて沈黙する。

「司令、ご無事ですか?」

「あぁ。俺はなんともない。お前たちは大丈夫か?」

「ご安心を。鍛えてますから」

 扶桑が独特の指の振り方をすると、旭日は『なんでそのネタ知ってんだよ……』と呆れ笑いを浮かべつつ再び走り出すのだった。

 そのまま彼らは王の間へと突き進んでいく。



 その頃、トールンボ・オルファスターは自室の布団でガタガタと震えていた。

 彼の脳裏には、支援物資と兵器を融通してくれたヴェルモント皇国の使者の言葉が蘇っていた。

『これほどの兵器を支援したのだ。日本がどれほど奮闘しようが鎧袖一触。蹴散らすことができるであろう』

『日本を蹴散らした暁には、我らへの上納を忘れるなよ?』

 実際、今までの自国よりもはるかに強大な兵器と魔導師、そして貸与された資金によってワイバーンも多数を確保できていた。

 これならば圧倒的な力で日本を蹂躙し、その権益の大半を受け取りつつ宗主国にもいい顔ができる……そう、思っていた。

「なぜにゃも……なぜ負けているにゃも……そんなことはあり得ないにゃも……我が国は第3世界大陸の、ヴェルモント皇国に次ぐ準列強文明国にゃもよ!?それが……文明圏外の野猿共に……なぜ……どこで読み間違えたにゃもか……」

 港湾都市から援軍を要請する通信が入った時も、被害はそれほど大したことはないだろうと考えていた。

 その時は、『恐らくわずかな部隊による奇襲であり、ワイバーンを支援すれば十分に勝てる』と考えていたのだ。

 しかし、そう思っていた矢先に敵はもう王都インカラにまで迫っていた。

 逃げたくとも既に敵の兵は城内の奥深くにまで入り込んでいる。

 今も、激しい戦闘の音が扉の外で……



――バタン!



 扉をけ破る音と共に、人間種の兵を中心とした兵隊たちが飛び込んできた。

「ぷっ……ぷひぃぃぃっ!?お、お、お、おみゃーらは……おみゃーらは自分がなにをしているか、わかっているにゃもかぁ‼」

 だが、自分を睨む兵士たちの顔色は一切変わらない。

「にゃもは……にゃもは、列強の保護国であるオルファスター王国の国王なるぞぉ‼我が国を攻め滅ぼすということは、我が宗主国であるヴェルモント皇国の怒りを買うということにゃもぉ‼」

 すると、兵隊たちが道を開けると、4人の男女が歩いてきた。

 そのうち2人には見覚えがあった。

 日本が送り込んできた使者として、自分に謁見した若い男と女だ。

「あっ、お、おみゃーらは……」

「お久しぶりでございます。オルファスター国王陛下。改めまして、私は大日本天皇国軍第0艦隊司令官の大蔵旭日と申します」

「か、艦隊司令?」

 一艦隊司令如きが、準列強とも言うべき国家の国王に拝謁する使者に選ばれていたというのもよくわからないが、船の上にいるはずの艦隊司令がなぜ陸戦の指揮を執っているのかも分からない。

 そんな疑問から、トールンボはそれまで感じていた恐怖が薄れてしまった。

「はい。あなた方に宣戦布告を受けたので、逆に戦争を終わらせるべくそちらへ攻め込ませていただきました」

「にゃ、にゃんと!?」

「あなたとて一国の国王であれば、宣戦布告した相手から攻められる可能性も考慮していた筈でしょう」

「そ、それは……」

 正直、トールンボは列強国の支援を受ければ日本は格下の存在だろうと高を括っていたため、こちらが攻め込まれることなど全く想定していなかった。

 なので、艦隊との連絡途絶、さらにそこから僅かな時間での港湾都市ササンテへの攻撃など、どれも信じ難い話ばかりであった。

 『もしかしたら、敵が奇襲をかけてきたのかもしれない』くらいには思っていたが、ロクに連絡が入ってこなかったこともあって大したことはなかったのだろうと高を括っていたのも事実だ。

「もし想定していなかったというのであれば、我が国に対する調査不足があまりにもひどすぎると言わざるを得ませんね」

「ぐぅっ……」

 言い返したいところだが、実際にこの男の言う通りであった。

 その結果が、今のこの状態なのだから。

「さて。それでは只今より、陛下に一仕事していただくとしましょう」

「し、仕事?なにをさせるつもりにゃも?」

 男は……旭日は少々意地の悪い笑みを浮かべると、『大したことではありませんよ』と言ってトールンボを立たせた。

 彼が連れて行かれたのは、魔導通信指令室だった。

「国王陛下の名前で、王都における戦闘行為の停止を命じて下さい。さもないと、我が国の兵士たちに貴国の兵が蹂躙されるままですので」

「そ、そんなことは……」

「無い、と言い切れますでしょうか?」

 またも返答に詰まってしまうトールンボ。

 トールンボとてここまでくれば、今の日本軍に今のオルファスター王国の力では及ばないことに分かっていた。

 だが、自分たちが列強の保護国という最後の薄っぺらいプライドが、それを認めたがらなかったのだ。

 しかし、このままでは兵たちの多くが殺されてしまうだろう。

 民衆にも多くの被害が出るに違いない。

 それだけは、一国の王としてなんとしてでも避けなければならない。

「……通信士。魔法通信を街中に流すようセットするにゃも」

「は、ははっ」

 通信士は言われた通りに魔法通信の受信放送スピーカーに魔力の周波数を合わせる。

「陛下、どうぞ」

 通信士は恐る恐る、という風に送話器を差し出した。

『勇敢なるオルファスター王国兵士諸君。よく頑張ってくれたにゃも。だが、にゃもは既に日本軍に降伏を決意したにゃも。直ちに戦闘行為を停止し、武装解除に応じるにゃも』

 響き渡る魔法の放送は街中に流れている。

そんな街中で日本軍に抵抗していた兵士たちは最初信じられなかったが、声と特徴的な語尾もあって、すぐに国王の声だと判別がついた。

「そ、そんな……陛下が……」

「早すぎる‼どうやって王城をこんな短時間で陥落させたのだ‼」

「こんなの……反則ではないか……」

 多くの兵がその場に崩れ落ち、武器を放り出し始めた。

 日本軍に促された彼らは一か所に集められ、さらに武装解除の点検をされることになる。

 トールンボは送話器を置くと、旭日の方を睨みつけた。

「これで……いいにゃもか」

「そうですね。第一段階はこれで結構です。次に……この国の『今後』について話させていただきます」

「ま、まだなにかあるにゃもか‼」

「まだ、と申しますか……これからが本番です」

 旭日は明治天皇及び閣僚たちと会議した上で決めた『勝者としての要求内容』を伝えることにした。

 その会議のために、旭日たちは城内にある会議室へと移った。

「それでは陛下。これが勝者たる我が国が付きつける要求になります」

 旭日が差し出した紙を見たトールンボは『え?』と意外な内容に目を丸くしていた。

 それは、以下の通りとなる。




○オルファスター王国は大日本皇国と講和条約を結ぶこと。

○オルファスター王国は大日本皇国に対する賠償金として、今後発生する国家間の貿易における年間利益から、5%を20年間に渡って支払うこと。

○オルファスター王国は大日本皇国との間に相互不可侵条条約を交わすこと。

○オルファスター王国の王家・王政支配の存続は認めるものとする。

○大日本皇国は、要求する一部の職種にある人物を連れて行くこととする。

○勝者の要求として、オルファスター王国から大日本皇国に対して、王家の1人を人質として大日本皇国に送ること。

 また、オルファスター王国王族が人質として連行した人物を除いて死亡・或いは抹消された場合にはその人質を返してオルファスター王国を継承してもらうこととする。

なお、この場合の王族の送迎は大日本皇国が行うものとする。

○オルファスター王国が実行支配している文明圏外国・ケナシュルム王国とボンパコ共和国を解放し、大日本皇国がこの国と国交を締結、さらに通商条約及び安全保障条約などの各条約類を締結することを全てに渡って了承すること。

○オルファスター王国の軍備増減及び技術開発等については、大日本皇国は口を挟まないこととする。

○オルファスター王国は大日本皇国との間にある関税を適性値にすることに同意せよ。




 など、この世界の敗戦国に対する講和における基準からすると、かなり温和と言える内容であった。

 この要求の中にあるケナシュルム王国とボンパコ共和国とは、大日本皇国とオルファスター王国から見て南西にある島国で、30年前まで発生していた大陸間戦争の際にオルファスター王国が理不尽な要求を突き付けた挙句に侵略して実効支配を強いていた島国である。

国土的にはそれぞれ四国地方と九州地方並みの大きさを持つ『島』と言うにはなかなかの大きさを誇っている。

 どちらも1年前の大日本皇国にすら劣る国力であったが、東洋の文明圏外に属する島嶼国家群が大日本皇国とオルファスター王国との間における貿易の中間地点という形で要衝としていたため、それによるそこそこの利益を上げていた。

 しかし、それに目を付けたオルファスター王国によって実効支配されていたのである。

 確かに支配から開放してしまうと、属領から吸い上げている様々な利益は減るが、現状におけるオルファスター王国の輸出入のバランスから言って、国家運営に差し支えるほどではない。

 国家間の貿易における年間利益の5%を20年に渡って支払え、というのも、一括で莫大な金を支払わされることに比べれば一度の負担が大幅に少なくなるので長期的に見れば敗戦国家を存続させやすくなる。

 もっとも、これに関しては旭日が第一次世界大戦の際に勝利したアメリカなどの連合国側がドイツに法外な賠償金を『一括で』請求し、その結果ドイツにハイパーインフレを起こしてしまい、世界的にも経済が混乱した世界恐慌の一因となり(大戦中に作り過ぎたモノがあぶれたという話もあるため、それだけではないのだが)、さらに深く突っ込めばかの悪名高き(もちろんそればかりではないはずだが)ナチス政権が誕生したという教訓からのことである。

 また、相互不可侵条約を結ぶということは、オルファスター王国からも攻め込むことはできなくなるが、大日本皇国『も』オルファスター王国に攻め入ることはできなくなるのである。

 そして、王家・王政支配を存続させてくれるということは、国家運営はこれまで通りで構わないということである。

 しかも、この話からすると監察官を置くということすらしないようだ。

 要求する職種の人間を連れて行くというのがよく分からないところだが、王家に被害が出ないというのならばそれほど大きな問題ではない。

「こ、こんなことでいいにゃもか?」

「えぇ。これに正式に調印をお願いいたします。なお、諸条約に関しては後に専門の者を派遣いたしますので、そちらとご協議の上で締結していただきます」

 見れば、既に大日本皇国側の部分には君主たるアケノオサメノキミの名前と、当事者にして全権大使を預かった旭日の名前が書かれている。

 旭日としては、本当は旧世界のアメリカに倣って扶桑の甲板上で今回の講和条約を交わしたかったのだが、時間がないので城の中でとする。

 もっと贅沢を言えば、この世界に報道機関があるのであればそういった人々も呼んで大々的にしたかったのだが、これも時間がないので事後となる。

 トールンボは、その見た目からは想像もつかない筆捌きでサラサラと名前を書いていく。

 意外に文字は綺麗であった。

「では、今度は王族の方を集めていただきましょう」

「わ、わかったにゃも」


……ふっ、やってしまった。

だが後悔はしていない。


一応戦後処理を含めてあと少しだけオルファスター王国編が続きます。


次回は5月25日に投稿しようと思います。

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