表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/42

王都攻撃開始

今月の投稿となります。

いよいよ首都攻撃です。

 オルファスター王国の王都インカラでは、『日本軍らしき軍が港湾都市ササンテに攻勢をかけている。ワイバーンの上空支援を求める』という連絡の後に竜騎士団を送り出したが、混乱した魔法通信の後に竜騎士団及び港湾防衛司令部との連絡が途絶していたため、『陥落した』という想定でオルファスター王国の王都にできる最大の警戒態勢が敷かれていた。

 王都防衛司令部の将軍であるアンドリューは、現在に至るまで明瞭な情報がほとんどない届いていないということに焦りを覚えている。

「敵はいつこの王都に攻め寄せてくるか分からん。絶対に気を抜くなよ‼」

 こんな調子で、昨日からずっとピリピリしっ放しなのだ。

 こんな調子をずっと続けていれば、防衛司令部の面々や、実際に警戒に当たっている防衛部隊からすればたまったものではない。

 実際、敵の詳細がよくわからないうえに港湾都市が陥落したかもしれないという状態なので、アンドリューの目はかなり血走っており、一睡もしていないことがうかがえる。

 そんなアンドリューの様子を見ていた参謀が、恐る恐る、という雰囲気で意見を述べた。

「司令。せめて司令は一息入れて下さい。司令が満足に指揮を取れない状態である場合、部隊の運用効率が大幅に変化してしまいます。司令が万全となってくれれば、手足たる我々も存分に動けるのです」

「ム……」

 実際、参謀の言う通りである。

 指揮官が満足なパフォーマンスを発揮できない状態である場合、指揮下における軍隊の能力というものは一段も二段も落ちる。

 それは古今東西、それこそ世界が変わろうとも変わらない事実だ。

「……それもそうだな。どれ、果実水でも貰おうか」

「はい。ただいまお持ちしますので少々お待ちください」

 アンドリューが椅子に深く座り込むと、冷却魔法で冷やしていたポットからリンゴの果実水(ジュース)をコップに注いでいく。

 それを見ながら、アンドリューは『ほぅっ』と息を大きく吐いた。

「まぁ、竜騎士団との連絡が途絶したとはいえ、港湾部には防衛のために相応の戦力が結集している。劣勢に陥っていたとしても、まだ落ちてはいまい」

「その通りでございます。さぁ、こちらをお飲みください」

「あぁ、ありがとう」

 参謀が差し出したコップを受け取ると、アンドリューはその冷たさと甘さをゆっくりと味わうように飲み始めた。

 その時、通信員が慌てたように大きな声を上げた。

「南部監視哨より連絡‼『我数千を超える敵兵力を確認。旗印は日本国。距離約10km』とのことです!」

「ブフォーッ!?」

「し、司令!?」

 タイミングというものは、何かしらの運命的なモノがあるらしい。

 まさか港湾都市の防衛司令官も同じように日本軍襲来の際にお茶を噴き出していたことは知る由もない面々だった。

 ゲホゲホと咳込みつつも、アンドリューは急いで指令を飛ばした。

「た、直ちに迎撃態勢に入れ‼敵が我が軍の魔導砲の射程に入り次第、火砲による砲撃を浴びせてやるのだ‼」

「りょ、了解しましたっ‼配置につけーっ‼」

 まさか既に港湾都市が陥落していて、それから1日程度でもう敵が現れるなどという事態を想定していなかったオルファスター王国王都防衛隊は、酷い混乱に陥る羽目になる。



 王都インカラの南部監視哨の報告通り、港湾都市ササンテを出発してから11時間後、日本軍は遂にオルファスター王国の王都インカラまで4kmの地点に迫っていた。

 だが、まだ彼らは時間をかけて展開しつつも攻撃を開始していなかった。

 既に牽引してきた九六式十五糎榴弾砲改の有効射程には入っているものの、いつでも攻撃できるように準備だけはさせておいてまだ攻撃はしていない。

「敵は大分混乱しているようですね」

 双眼鏡で敵陣を覗き込んでいる扶桑の言葉に、旭日も同じように双眼鏡を覗きながら答える。

「あぁ。やっぱりと言うべきか、これほどわずかな時間で攻め上がってくるとは微塵も思っていなかったっていうのが丸わかりだな」

 本来ならば、こんなチャンスを逃す手はない。

 混乱しきっている敵にさらに攻勢をかければ、その混乱を煽って戦況を大きく有利に進めることができるからである。

 にもかかわらず、旭日は考えられる犠牲を少しでも少なくするために、空母艦載機による航空支援を待っていた。

 航空支援(爆撃・機銃掃射)によって敵の戦力を大幅に削った後に、陸上戦力で攻勢をかけるつもりである。

 なお、航空機の中には観測・偵察を得意とする零式水上偵察機(扶桑搭載機)も来るため、陸軍基地と王城の一部に攻撃を加える際、榴弾砲の照準調整に役立ってもらうつもりである。

「飛鷹、副艦長からはなんて?」

「はい。つい先ほど連絡を受けて発艦可能な機体は全て発艦させたそうですので、あと1時間もなく全部隊が到着するだろうと考えられます」

 港湾沖30kmに停泊していた空母機動部隊から発艦した烈風と流星は全機爆装しており、爆撃を終えた後は艦戦・艦攻共に機銃掃射で可能な限り敵戦力を駆逐してもらうつもりだ。

 特に城壁の上には固定式とはいえ魔導砲らしき兵器が見えるので、できればそれは航空攻撃の時点で全て叩いておきたい。

 事前情報によれば最大射程は2kmほどということなので、3km以上離れた場所ならば届かないだろうと仮定しての布陣だ。

「それで、今回はまた250kg爆弾なのですね」

 ちなみに、烈風が装備することも想定していたので今回のオルファスター王国攻撃に際しては空母の爆弾は5割が250kg爆弾、残りの3割近くは60Kg爆弾である。

「仕方ないだろ。500kg爆弾や800kg爆弾なんて落としたら色々崩れて片付けとか色々面倒だし……」

「60kgでも6発も落とせば、250kgであれば1発でも十分崩れると思うのですが……まぁ、それで王都防衛隊の基地と城の一部に落とすことが主目的のようですから、あまり深くは言いませんが」

 飛鷹の呆れたような言葉に旭日も頭をポリポリと掻くしかない。

「まぁ……城壁の上はできる限り機銃掃射だな。その辺りは烈風に任せたいと思う。港湾都市防衛隊の生き残りによれば、どうやらオルファスター王国は戦闘用のワイバーンは全て使い切ったみたいだから、烈風も爆装しておいて問題ないだろうし」

 この日の攻撃で旭日は全てを決するつもりであった。

 幸いにも、王城であるコウルペ城までは王都南門から一直線に6kmの地点と、かなり近い距離である。

 兵の疲弊に気を付けつつ進めば3時間足らずで城門に到達するだろう。

 そして、その頃城内は爆撃と機銃掃射で大混乱に陥っている、という寸法だ。

 もっとも、そう全てホイホイと上手く行くとは旭日も考えていないので、一応他にも考えていることはあった。

 だが、それでも司令官である旭日にできることはもう僅かだ。

「司令、航空隊が時速500kmで港湾都市を通過しました」

 残るはこの王都までの50km。

 つまり、あと10分で到着するということである。

「よし。航空隊が城壁の魔導砲を片付けたら、こちらも攻撃に入る。戦車を先頭に城門を打ち破らせて、あらかじめ打ち合わせしておいた通りにコウルペ城、防衛司令部、そして陸軍基地へと攻めかかるぞ」

「了解。全部隊に通達いたします」

 扶桑が通信を送る中、旭日は『なお』と追伸させた。

「民間人かどうか判断かつかず、もし襲われるようなことがあれば、反撃して構わない、とも伝えるように」

「了解です。降ってきた者はいかがいたしますか?」

「それは無条件で受け入れろ。武装解除した上で後方へ送るんだ」

「心得ました。そのように通達いたします」

 旭日は改めて、その場にいる面々の顔を見渡した。

 皆緊張した表情を見せている。

 いや、それだけではない。

 自分たちの手に、一国の運命が左右されているという途轍もない重責に、耐えているかのような顔だった。

「臆することはない」

 旭日が不意に上げた声に、兵たちは旭日の顔を見た。

「我々はあくまで日本人だ。日本人の軍隊がするべきことは、祖国日本を守ること。それ以外に……何か必要か?」

 すると、最前線にいた若いエルフの男性が手を上げた。

 彼はサコミズ・タクロウ2等兵。

 この1年の間に大蔵艦隊のあきつ丸・熊野丸を中心とする陸軍部隊によって鍛えられた、大日本皇国の人物である。

「我らは、陛下と皇国の御為に敵を討ち、守り抜く……それでいいのですね‼」

 その目をしっかりと見据えながら、旭日もまた言い返す。

「そうだ。我らは我らに牙を向けてきた相手に対して、断固たる対応を見せてやらなければならない。改めて言おう。皇国の興廃この一戦にあり‼各員一層奮励努力せよ‼」

 兵たちはなにも言わず、銃を構える。

「よし。ではあと少し待ってくれ。そうしたら……異世界の阿呆どもに見せてやるんだ。我ら日本軍の勇猛さと……アタマのおかしさをな」

 最後の一言に苦笑いしてみせる一部の指揮官たちだった。



 その頃、オルファスター王国王都防衛隊南門監視哨所属の監視員ミゲルは、日本軍が未だに動きを見せないことに苛立っていた。

「くそっ、じらしやがって……連中はいつ仕掛けてくるんだ?」

 隣では同僚も同じように日本軍を監視している。

「さぁな……だが、あの距離じゃ連中も攻撃は届かないはずだ。接近してきたら砲兵が魔導砲で吹っ飛ばしてくれるさ。もっと近づけば、鉄砲だって火を噴いてくれる。あんな連中じゃ相手にならねぇよ」

 同僚はお気楽そうに言うが、ミゲルは港湾都市と連絡がつかなくなっているという話を聞いていたため、非常に嫌な予感がする。

 特に敵の軍の中に見える大きな魔導砲らしく物体は、明らかに長砲身で自分たちの魔導砲より先進的な形状に見える。

「あんなデカい大砲があるのに、なんで攻撃してこない……?」

 敵の不可解な行動に首を傾げるしかない。

 すると、上空を監視していた別の監視員が報告を上げた。

「上空に多数の騎影を確認‼こちらに高速で接近してきます‼」

「なにぃ!?」

 ミゲルが上の方に目を凝らすと、確かに高速で接近するなにかが見えた。

「速いぞ……我が国のワイバーンとは比較にならない速さだ‼日本の連中、どこからあんなものを入手しやがった!?」

「くそっ……こっちはもうワイバーンがいないからライトニング・ボーガンで迎え撃つしかないってのに‼」

 ミゲルは急いで魔力通信機を手に取った。

『こちら南門監視哨より防衛隊本部へ‼敵のワイバーンを確認した‼総数は100騎以上‼敵ワイバーンの速度は少なく見積もっても400km以上は出ている模様‼直ちに迎撃することを具申します‼』

 彼らには飛行機という概念が存在しないため、自分たちの保有しているワイバーンという感覚で報告するしかなかった。

『こちら王都防衛隊本部。こちらには既にワイバーンがない。直ちに陸軍による迎撃隊を編成しそちらへ向かわせる。それまで持ちこたえるように‼』

 通信はそれで切れたが、ミゲルも同僚も苦い顔をしている。

「あんな化け物相手に、弓と鉄砲しかない状態でどうしろってんだよ‼」

 ミゲルたち監視員はもちろん、砲兵や魔導師たちも悔しそうに空を見上げるしかない。

 魔導師の魔法も精々届くのは70mほどなので、敵が相当低空に降りてこない限りは攻撃もできない。



――ブウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥンン……



 その頃、大蔵艦隊の航空部隊は遂に王都上空に差し掛かっていた。

 その中で烈風隊はというと、先行して城門の方へ急降下を始めた。

 彼らの攻撃により、突破するべき城門からの攻撃は完全に沈黙するだろう。

 流星隊を率いる隊長(この場合は流星全てを率いている総合的な隊長)の武藤恵一少将は、目標としている王都防衛隊司令部の建物を発見した。

『敵軍施設を発見。これより攻撃を開始する』

 これは、大日本皇国が以前から送り込んでいたスパイからの情報である。

 旭日が持ち帰ったのは侵攻距離と王城の正確な位置及び王城施設の位置がメインであった。

 元々数年前に軍船同士がぶつかって以来、大日本皇国とオルファスター王国は一触即発の緊張状態にあったため、情報収集に力を入れていた。

 この世界の国家の多くが多民族国家であることも幸いして、諜報技術(忍びの技とも言う)に長けていた大日本皇国はオルファスター王国より多数の情報を集めていたのだ。

 武藤は1800馬力を誇る誉一二型エンジンの出力を落とすと、緩やかに降下を始めた。

 そして、目標を完全に捉えた時、彼は思わず口走っていた。

『地獄へ……堕ちろーっ‼』



――バカッ……ヒュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ‼



 オルファスター王国王都防衛隊所属の魔導弓兵隊は、彼らの基準ではありえない角度(大体60度から70度前後)で、しかもワイバーンの最高速度を上回る速度で降下してくる敵飛竜に対してライトニング・ボーガンを構えていた。

 敵の何機かは王都防衛隊司令部を狙ってきたようだ。

「くっ……想定より速いし角度が急すぎて狙いにくい‼」

 ワイバーンであればこれほどの角度をつけての降下は、まして速度の乗った急降下はできない。

 相手の角度が急であればあるほど、被弾面積が小さくなるためにどうしても被弾しにくくなってしまう。

 魔導弓兵隊の隊長であるワンブルは震える手を制御しつつ、敵を吹き飛ばしてやろうとその時を待っていた。

 レシプロ機のエンジンが急降下によって放つエンジン音は、ドップラー効果によって高音に聞こえるため、それが余計に地上の兵たちの恐怖を煽る。

 そして、一瞬敵騎がピタリと照準に収まった。

「放てーっ‼」



――バチバチ……バシュバシュバシュッ‼



 敵に向かって光り輝きながら矢が飛んでいく。

 だが、それと同時に敵の腹が開くと、真っ黒な『何か』が多数落ちてきた。

「敵が何か落としたぞ‼退避っ‼退避―っ‼」

 部下を急いで建物の中に避難させると、自分は空を見上げた。

 落ちてくる『それ』は、まるで黒い太陽のように見える。

「あぁ……オルファスター王国に栄光あれええええええええぇぇぇぇぇぇっ‼」

 この直後、ワンブルは250kg爆弾の爆発によってこの世を去り、残りの爆弾多数によって王都防衛司令部も崩れ落ちたのだった。



 他の場所でも、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

 地上から放たれるオルファスター王国軍のライトニング・ボーガンは全く当たることがないにもかかわらず、空を舞う敵の落としてくる強大過ぎる爆裂魔法はおかしなほどに自分たちの軍施設や兵の詰所を次々と吹き飛ばしていく。

 あまりにも理不尽すぎる戦況に、開戦からあっという間にオルファスター王国兵の士気は最低レベルにまで下がっていた。

 当然、烈風隊の攻撃を受けた城門もただではすんでいなかった。



 時間は数分ほど前に遡る。

「畜生‼あの飛竜速すぎるっ‼がっ‼」

「こちら南城門!至急応援を……あぐっ‼」

 王都南門の兵たちは魔導砲や鉄砲を放つこともできずに、ただただ烈風の放つ20mm機関砲の前に蹂躙されることしかできなかった。

 監視員のミゲルは自分の周囲の人々が倒れていくのに、呆然としてなにもすることができなかった。

 彼の目の前には、先ほどまで自分に軽口を叩いていた同僚が横たわっていた。

 同僚の体は胸から下が吹き飛んでいた。

 烈風の20mm機関砲を、運悪く2発も体で受けてしまったのだ。

 しかも悪いことに1発は炸裂する榴弾だったため、その爆発によって下半身が完全に吹き飛んでしまっていたのだ。

 つい先ほどまでは『蛮族共など恐れるに足らず』と強気な言葉を発していたはずの口元は恐怖で歪んでおり、既に魂もなく濁ったその目にも、最後に焼き付いたのは恐怖の色だった。

「あ……あぁ……」

 同僚はつい先日『彼女ができた。この戦いが終わったら、軍を辞めて結婚して、そして小さな店を始めるんだ』と言っていた。

 その時の幸せそうな顔ときたら、独り身のミゲルとしてはやっかみ交じりに『ぶっ飛んじまえコノヤロー』と返すしかなかった。

 その彼が、本当に吹き飛ばされて物言わぬ亡骸となって目の前に転がっているという現実を、ミゲルはまだ受け入れ切れていなかったのだ。



――ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……



 かすかに聞こえてきた音に反応してそちらの方へ向くと、先ほど同僚の体を吹き飛ばした敵の飛竜が、再びこちらを狙って急降下してきていた。

 その姿は、獲物を狙う猛禽類のようにも見える。

「あぁ……あぁ……ああああああああっ‼」

 ミゲルは狂乱したように側に落ちていた発射されていない火縄銃を手に取ると、向かってくる敵飛竜に狙いを定めていた。

「仲間の仇だ……喰らえっ‼」



――バァンッ‼

――タタタタタタタタッ‼



 だが、発砲と同時に敵の飛竜が翼をチカチカと光らせると、そのままミゲルは一瞬の鈍痛と共に意識を永遠に失った。



 オルファスター王国王都防衛隊は、港湾都市の壊滅が伝わっていなかったこともあって奇襲を受けたような形となり、空からの猛攻撃によってその戦力の大半が沈黙していた。

 特に、敵が攻撃をかけてこないのを『敵が準備中であり、こちらがその間に防衛態勢を整えてしまえば有利に守れる』と判断してゆっくりと準備を始めたため、王都防衛隊司令部及び兵舎に人が一杯の状態で攻撃を食らってしまった。

 これにより、王都防衛の兵士の半数近くである5千人以上があっという間に鬼籍に入ってしまった。

 その様子を零式水上偵察機に乗っていた森川軍曹は苦々しげに見ている。

「やれやれ。こういうのを見ちまうとなぁ……これより激しい攻撃が本土にぶち込まれたのかと思うと、酸っぱいモンがこみ上げてきやがる」

「それを言っても仕方ありませんって……軍曹、間もなく観測地点に到達します」

「よし。やってやるか」

 零偵はコウルペ城の上に張り付くと、早速位置を観測して報告を開始する。

 弾着観測は偵察機・観測機の十八番である。

『こちら零偵より砲兵隊へ。敵王城の監視塔の位置を確認した。距離そちらより9km……』

偵察機から報告された諸元を元に、砲兵隊は九六式十五糎榴弾砲改の発射用意を進めていく。

「装填用意‼」

「装填完了‼」

「仰角調整急げ‼」

「これと、これで……隊長!発射準備完了しましたっ‼」

「よぅし……撃てぇ‼」



――ダンッ‼……ヒュウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ……



 40kg近い重量を持つ15cm砲弾は、放物線を描きながらコウルペ城の王城監視塔に向かって飛翔していく。



 一方、コウルペ城の監視塔でも立って状況を報告し続けている2人の兵士が聞こえてくる異音に気づいていた。

「おい、なんの音だ?」

「音?音なんて街のあちこちから……あり?笛みたいな音がするな」

「だろう?でも一体何の音……」

 言い終わるか終わらないかというタイミングで、彼らの立っている監視塔の根本が大爆発を起こした。

 石造りの監視塔は、九六式十五糎榴弾砲改から放たれた15cm砲弾の爆発によってガラガラと大きな音を立てて根元から崩れ始めた。

「ワアアアアアァァァァァァァァァァァッ‼……」

「た、助けてくれえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼……」

 監視塔に立っていた2人の兵士はもちろんのこと、爆発の余波によってその監視塔周辺の城壁が一撃で崩れたことにより、その場にいた兵士たちも巻き込まれて多くが命を落としたのだった。



 それを見ていた森川は『おぉ』と驚きの声を上げた。

「一発で命中させやがるとは、陸の連中もやるじゃねぇか」

「船や飛行機からすればこんな距離は屁でもないですが……地上での10km近くというのは結構な距離ですからね」

「ハッハッハ……さて、もう1つもぶち壊すぞ」

「了解です」

 零偵は一回りすると反対側の塔の諸元について報告し、砲撃を待つのだった。

 そんな中で放たれた今度の砲撃は1発が城内に着弾し、オロオロしていた兵士数人を吹き飛ばした。

「ま、そういつもうまくいくわけじゃねぇわな」

「仕方ないですよ。今すごい追い風吹きましたし」

 そう。砲撃という奴は風や湿度、気温にもかなり左右されてしまうのだ。

 なので、現代の艦砲及び戦車砲はそういった自然環境課も考慮したうえで、目標物の未来位置に向かって砲弾を発射することができるという超技術を得ているわけだが。

 それもこれも、超高性能な集積回路の開発が成功したことが大きい。

 もっとも、この時代の日本軍では初歩的な真空管……より少し発展したレベルが精々なので、開発にはかなりの手間暇がかかりそうだが。

 それはさておき。

「これで敵を十分混乱させることはできたな……となると、あとは陸軍の突撃か」

「俺、初めて見ますよ。港湾の時は扶桑で待機していたんで見なかったんです」

「俺は前世で何度か見たことがあるぞ。有利な時はこれ以上ないほどに頼もしく見えるが……敗北が確定している玉砕の突撃ほど惨めなものはないな」

「そ、そうですか……」

「ま、この戦いなら間違いなく有利に進められるだろうから……問題ないとは思うけどな」

 こうして、日本軍はオルファスター王国軍を混乱に陥れたうえで最後の攻撃をかけようとしているのだった。


次回、旧日本軍が得意としていた『あの技』を披露します。

旧日本軍色を不愉快に思う方もいるかもしれませんが……あれもある意味、日本軍の『味』だと思ってください。

次回は4月27日に投稿しようと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ