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首都攻撃に向けて

今月の投稿になります。

今回は首都攻撃の前段階になります。

少しだけドンパチもあります。

 港湾攻撃を終えた日本軍はそれからしばらく休憩を取っていたが、3時間後、旭日が全員を招集した。

「諸君。今回の港湾攻撃は『よくやってくれた』の一言に尽きる。なにせ、当方の犠牲者は『1人もいない』というあり得ないと言いつつも大変喜ばしいと言える状態だったからだ」

 いくら日本軍とオルファスター王国の間に100年を超える技術格差があるとはいえ、複雑な市街地戦になった時点で犠牲者の数人から十数人ほどは出てもおかしくはない、と旭日は考えていた。

「そしてなにより、相手の恐慌状態のおかげで我々の弾薬消費量は想像よりはるかに少なかった。そこで‼」

 旭日は一度息を吸い込むと、強い表情で言い放った。

「本当はこの後、本日1日休息をとってから明日に敵の首都へ攻め込もうと考えていた。だが、敵の首都はわずか50km先である!」

 日本軍の兵たちもその話は聞いていた。

「しかし、上がった報告を総合すると、弾薬使用量が想定の半分以下、戦車や自走砲に至ってはわずか数発しか使用していないことが分かった」

 これは、オルファスター王国軍が日本軍を舐めまくっていたことと、それに伴って『まさか自分たちが攻められることはないだろう』と高を括っていたために、圧倒的な戦力が現れて港湾基地、さらに奥の陸軍基地が(彼らの基準からすれば)一瞬で潰されたことで、瞬く間に恐慌状態に陥ってしまったのが原因である。

 しかも錯綜する中で通信もロクにとっていなかったらしく、全く統率が執れていなかったのも幸いであった。

 魔力通信を傍受していた魔導師によれば、『首都への通達はワイバーンの増援要請の時点で止まっている』とのことでもあった。

 つまり、敵の首都にはそれほど情報が伝わっていない可能性が高い。

 そのため、戦車や自走砲も燃料以外はほとんど補給をすることなく進撃が可能という、大変に稀有な状態だったのだ。

 市街地において銃撃などの抵抗は多少あったものの、戦車が必要になるほどの場面がほとんどなかったことが大きい。

 精々街中に設置されたバリケードを壊すのに戦車砲を少し使った程度だ。

「よって、我々は明日までの休憩を短縮し、3時間の休憩を取った後に出発する‼その後、道中で適宜休憩を取りつつ明日の昼までには敵国首都へ展開したいと思う!」

 現在はお昼過ぎなので、今から出発しても全員が自動車に乗れない以上、歩く速度で移動できる距離は決まってしまう。

 迅速な移動のための自動化・機械化。これも今後の日本軍の課題であろう。

 できる限り移動も機械化すること、である。

 というか、これは旧世界時代からの課題でもあった。旧軍は工兵隊の一部を除いてほとんど機械化されていたとは言い難く、アジアの中では最強だっただろうが、米英独ソなどから比較すると、冷静に分析すれば一枚も二枚も劣った軍隊だったと言わざるを得ない。

 そんな歩兵を中心とした舞台では、恐らく今から動き出しても、夜までに半分も進めるかどうか怪しいだろう。

「敵には魔法の通信道具が存在する。我々の存在は、既に敵首都に知られていると見るべきだろう。しかし、敵にできる限り反撃の速度を与えたくない!『兵は神速を貴ぶ』の言葉、そしてかの戦国武将、織田信長公もまた、ひとたび戦が始まるとなれば神速を心掛ける戦術を多用された‼」

 ちなみに旭日が引用した『神速の侵攻』の多い信長だが、有名な長篠・設楽原の合戦は陣地からの射撃による防衛戦が主体で、武田軍が総崩れを起こしてから陣を出ていることからこれはノーカンだ。

 ついでに言うと、別に信長とて神速の侵攻ばかりでもないのだが、『なにかを決断する』と動きが速いというのは間違いないため、一応そういうことにしておく。

 この点はある意味、アメリカという国家に近い考え方をしていたのではないかと旭日は考えていた。

「我らは1日でも、1時間でも、1分でも早くこの戦争を終結させ、故国に安寧と平和をもたらさなければならない‼皆、大変だと思うが協力してほしい‼」

 日本兵たちは顔を引き締めると、一斉に雄叫びを上げた。

 すると、扶桑が旭日の耳元で囁いた。

「少々無謀ではありませんか?」

「無謀、か。そうかもな。だが、虎穴に入らざれば虎子を得ず、とも言う。これは時間との勝負なんだ」

 確かに、この破竹の勢いのままに敵の首都まで攻め寄せれば、敵が防衛態勢を完全に整える前に攻撃を開始することができるかもしれない。

 だが扶桑からすれば、この無謀振りは今まで慎重に慎重を期していた旭日のやることとも思えなかったのだ。

「不安か?」

「……負ける、とは思いませんが、それでも……」

「そうだよな。今までがちょっと慎重すぎたんだ。相手の能力を正確に把握したうえで、それに合った戦い方をする。そうするべきだったんだ」

 少なくとも、これまでの戦いだけでもオルファスター王国の戦法や技術のみならず、兵の在り方もある程度は把握できた。

 もちろん戦いはノリと勢いだけでどうにかなるものではない。

 だが、それで躊躇してしまったことによって長蛇を逸するようなことになっては、確かに元も子もないと言えよう。

 なにより、敵の君主がそれに乗じて逃げ出すようなことになれば、なし崩し的にこの国の治安維持をしなければならなくなる。

 そんなことをする余力は日本には到底ないのだ。

 そのようなことになれば、旧世界の日中戦争の再来となり、兵力も国力も大きく損なうのは間違いない。それは絶対に避けなければならない大失態である。

 旭日がそこまで考えたうえでの決断だったということを悟った扶桑は『心得ました』と返すのみだった。

 これから3時間の休憩の後、旭日たちは首都インカラへと向かう。



 その頃、ササンテから敗走するほんのわずかなオルファスター王国の兵士たちは、見るも無残な状態だった。

 彼らはなんと驚愕することに、2時間近くも走り続けており、既に都市から10km以上離れた、少し深い森林の中を通る街道を、息を切らしつつも小走り状態で走って進んでいた。

「ち、チクショウ!なんなんだよあいつらはぁ‼」

「強すぎる……あの強さは列強並みか……いやそれ以上だ!」

「日本があんなバケモノじみた力を持ってるなんて聞いてないぞっ‼情報部はなにをしていたんだっ‼」

 走る者たちの手には剣や槍が握られている。

 誰も銃を持っていないのは銃という兵器が『彼らの基準では』1発撃ったら再装填に30秒から1分ほど時間がかかるため、こういった逃避行には向かないと皆が揃って放棄してきていたからなのだ。

 それに加えて、この国の銃器には『銃剣』が存在していなかった。そのため、簡易的な槍として使うことすらできないのである。

 集団で持って発砲すればその場凌ぎくらいにはなるのだが、そこにすら考えが及ばない辺りにこの国の教育水準がうかがえる。

 あるいは、本能でほとんど役に立たないと考えていたとも言えるが。

 そんな中で、兵の1人が仲間に問いかける。

「おい、魔法通信はどうした‼なんとか本部に連絡を……」

「それが……さっき街から逃げてる間に壊れたみたいだ!」

 兵の腰についているラジオのような物体には、多数の穴が空いている。

 恐らく、日本軍の銃撃が命中したのだろう。

 逃亡中に急いで確認したところ、魔力を伝導させるための魔石と水晶が破損しており、魔力を伝達させることができなくなっていた。

 完全にオシャカになっており、もう使い物にならないだろうということはわかる。

「なにぃ!?じゃあ首都に……インカラに着くまで報告もできないってのか!?」

「そういう……ことになります……」

 魔素を体内に練りこめば魔法自体は使えるが、魔法通信をするには専門に調整された道具が必要だ。

 それが使えないということは、原始的な早馬や伝令のようなことをしなければならないということである。

「じゃあ捨てろ‼俺たちは急いで王都にこのことをお伝えしなければならないんだぞ‼1分1秒が惜しい‼」

「は、はいっ‼わかりましたっ‼」

 なので、急いで情報を伝えるためにも、彼らは体力の続く限り走り続けるしかなかったのだ。そのためにはできる限り身を軽くし、進める限りを進むしかない。

 だが、運命の女神はどうやら彼らにここでも試練を与えるようだった。



――ガサガサッ‼



 草むらが揺れるのでなにかと槍を構えると、巨大な生き物らしい影が『のっしのっし』と這い出してきた。

「う、嘘だろ……」

 そこにいたのは、水晶でできた体を持つ巨大な魔物・『ロックゴーレム』だった。

 いや、こいつは魔物と言えるかどうかも怪しい。

 なぜならば、ロックゴーレムはなぜか人間(この場合は亜人を含む)『だけ』を標的として襲い掛かる存在であり、胸のコアを破壊しない限りはどれほどの攻撃を食らおうとも止まらない。

 噂では超古代文明の遺産とも言われており、超古代文明が人間の数を『程々』で保つために自然発生するように世界の各地に発生装置を仕込んだ、という話もあるほどだ。

 それが真実かどうかは世界最強のアイゼンガイスト帝国を含めて、この世界では誰も知らないのだが、それだけに畏怖と恐怖の象徴の一つとして伝わっていた。

 ちなみに、なぜか街には近寄ろうとしない魔物でもあるため、街に居れば基本的に襲われることはない。

 だが、コアに使用されている魔石も体を構成している石自体も非常に希少なお宝(水晶)なので、もし退治できれば、の話だが……冒険者程度であれば『数年から10年ほどは遊んで暮らせる』レベルの金が手に入る。

 また、軍隊が討伐に成功すれば、文明国レベルであれば『我が国はゴーレムを討伐できるほどに精強な軍隊を持っている』と世界中に喧伝できるほどの大戦果となる、と言えばその討伐までの道のりが困難だということがわかるだろう。

 だが、この弱点であるコアを破壊するということが非常に難しく、生半可な攻撃はもちろん、魔法攻撃でもあまり通じない。

 オルファスター王国基準では、魔導砲を何発も直撃させて足を破壊することでようやく動きを封じることができるという存在であった。

 倒そうと思うならば、ヴェルモント皇国の最新鋭後装式魔導砲を2、3発以上は連続で撃ち込む必要がある。

 剣や槍を中心とした装備を持つ軍隊で相手どろうと思えば、どれほど苦戦するか分からないほどのとんでもない存在なのである。

 え、ボディが水晶でできているのなら『鉄の砲弾』が当たれば爆発はともかくひびが入って砕けるだろうって?

 そこはそれ。この世界の水晶は魔力伝導体としてはとても優秀で、魔力を全体に通せば下手な合金より硬くなるのだ。

 かのアイゼンガイスト精霊帝国も戦車のボディと装甲にこの鉱物を混ぜた合金を採用しているほど、と言えばその堅牢さが窺える話だった。

 しかも、今回オルファスター王国の残党兵士に降りかかった『災難』は、それだけではなかったのだ。

「あ、あいつ……金色に輝いてる……まさか……幻のオリハルコンゴーレムだってのかぁ!?」

 ただのゴーレムでさえ尋常でなく手間取るというのに、さらに硬い魔法鉱物・オリハルコンで全身を覆っている、超が付くほどに希少種のゴーレムである。

 しかも、オリハルコンは水晶と比較して物質としての密度が低いために軽量であるにもかかわらず、非常に頑強である。

 つまりオリハルコンゴーレムともなると、個人で倒すのは、ほとんど不可能に近いほどの危険な存在だ。

 冒険者ギルドでは特一級標的として扱われており、ギルドが討伐しようと思った場合、最強のオリハルコン級冒険者を総動員する必要がある。

 また、国として対処する場合はオルファスター王国の魔導砲はもちろん、ヴェルモント皇国の威力が向上した魔導砲ですら効果が薄いという化け物だ。

 つまり、下位列強の能力では倒すのが難しい化け物なのである。

 もし倒せれば、その国は列強国並み、それも中位以上の上位列強と同じ能力を有していると言われるほどである。

 そして、このオリハルコンゴーレムもまた、他のゴーレム同様に人間『のみ』を標的として襲い掛かってくる。

 しかも、ロックゴーレムより遥かに軽量なため、その移動速度はなんと時速30kmにも達する。

 つまり、生身の人間が出会ったら『死亡フラグ不可避』という奴なのである。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 兵の1人がヤケクソじみた声を上げてハルバードを振り上げて斬りかかるが、オリハルコンゴーレムは避けることもなくそのままその一撃を、コアを覆う分厚い胸部分の装甲で受け止めた。

 そして、攻撃をしてきた兵がそのままの態勢で、絶望的な表情でハーハーと荒い息を漏らしているところに、迷わず拳を振り下ろした。



――グチャッ‼

 


 オリハルコンゴーレムの振り下ろした拳は寸分違わずにハルバードを持った兵士を叩き潰した。

 地面が僅かに陥没するほどの衝撃と共に勢いよく血飛沫が飛び散り、近くにいた他の兵たちを勢いよく濡らす。

 人間という生き物は水分が体の70%近くを占めているため、こんなことをしてしまえば大量の体液が飛び散るのである。

 さながら、ちょっと肉の詰まった水袋を勢いよく潰したような感じだろうか。

 そのため、中には血液『以外の』体液を浴びた者もいた。

「あ、あぁ……」

 そして先ほども言った通り、人間がオリハルコンゴーレムに出会うことは、ほぼ確実に死を意味する。

 彼らの生存本能は『早く逃げろ』と叫ぶが、相手が悪すぎて逃げることすら許されないと理解してしまう。

「嫌だ……死にたくない……」

 そんな極限状況だったため、兵たちは座り込みつつも、ずりずりとゆっくり後ずさりすることしかできなかった。

 しかし、オリハルコンゴーレムは容赦なく迫ってくる。



――ブンッ!……グチャッ‼……バキャッ‼……グチャッ‼



 その後もオリハルコンゴーレムの無慈悲な鉄拳(オリハルコン拳?)により、残った兵士は次々と哀れなミンチへと変えられていった。

 最後に残った男は、もはや恐怖から動くこともできず、全ての筋肉が弛緩してしまったからか、大も小もビチャビチャに漏らしまくっていた。

「来るな……来るなよぉ……」

 だが、無情にもオリハルコンゴーレムはそんな言葉には全く耳を貸さない。

 その輝く金色の拳は真っ赤な血に塗れており、血液以外にも色々な肉片などが大量に付着している。

 最後の相手が動かないことを悟ったのか、ゴーレムは両腕をゆっくりと、大きく振り上げた。

「あ、あぁ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」



――グチャッ‼



 最後の1人がミンチになった。

 こうして、オリハルコンゴーレムはその目標を達成した。

 オリハルコンゴーレムは『これで終わった』と言わんばかりに踵を返すと、出てきた草むらの奥へと消えていったのだった。

 こうして、オルファスター王国の港湾都市ササンテ守備隊の僅かな生き残りは、首都インカラに重大な報告をすることもできずに全滅したのだった。



 その頃、旭日たちは出発の準備を終えていた。

「総員、しゅっぱーつ‼」

「オオオオォォォォォォオォォッ‼」

 車両部隊を中心とした日本軍3万人のうち、2万5千人が動き出す。

 だが、残念なことに『全員が』乗れるだけの車両と荷台がなかったため、徒歩の行軍兵を含めた時速5km程度の鈍足行軍となる。

 旭日が本土に造らせた車両工場で戦車や装甲車の研究と共に自動車の研究もさせているため、もう少しすればくろがね四起と同レベルくらいの車両は作れるだろうと考えていた。

 ところが、転生者の中になぜかドイツのポルシェ博士に師事していた技術者がいたため、今はフォルクスワーゲンの研究も始めている。

 このおかげで、場合によってはドイツ戦車、あるいはそれに類似した車両が誕生するかも、というのが旭日の推測であった。

 まぁ、それまでに操縦できる人物や整備のできる人物を育て上げなければいけないのが頭の痛いところなのだが。

「そもそも、艦隊司令自ら陸戦の指揮を取らなきゃいけないとはな……人手不足も甚だしいぜ」

 一応あきつ丸を副指揮官として連れてきているため、基本的な陸上における戦闘の指揮は任せるつもりだ。

 そんな彼らは港湾都市ササンテを出発し、一路王都インカラへと向かう。



 そんな彼らも2時間ほど歩いたところで、街道の『異変』に気づいたことで、行軍を停止していた。

「艦隊司令、ご報告申し上げます‼」

 先頭を走っていた兵が旭日の下に報告に来る。

「どうした?」

「はっ。街道やその付近のあちこちに、多量の血だまりが残っておりました。なお、その血だまりの中にはなにか圧倒的な『力』で押し潰されたと思しき鎧や槍などが見つかりました‼」

「なにかあったのか……押し潰されたってことは、野盗ってわけじゃなさそうだな。圧倒的な力を持つ魔獣みたいなものが出てきたのかもしれない。戦車に周辺警戒を十分にするように通達しておいてくれ」

「ははっ!」

 兵が走り去った後で、旭日は前の席に座っている飛鷹に呼び掛けた。

「飛鷹、どう思う?」

「この世界のことがあまりわかっていないこともありますので一概には言えませんが……もし司令の仰る通り強大な力を持つ魔獣が出てくるのでしたら、確かに戦車が必要になるかもしれませんね」

 旭日たちがその場を通り過ぎた1分後、先ほどオルファスター王国の兵士たちを襲ったオリハルコンゴーレムが再び姿を見せた。

「な、なんだぁ!?」

「巨人だ‼輝く石の巨人だぁ‼」

 旭日も後方の喧騒を聞き、車を降りて急いでその場へ向かうと、黄金に輝いているのに透き通っているゴーレムを見た。

 ワイバーンやファンタジーな種族に続いてまたも地球では『ありえない』存在との邂逅に、オタクの旭日は思わず胸を高鳴らせる。

「ありゃぁ……ゴーレムだ‼ということは……あの胸元の赤いコアが弱点だ‼戦車に伝えろ‼胸元を徹甲弾で狙え、と‼」

「りょ、了解‼」

 いきなり現れた化け物に全く動じていない旭日を『さすがだ』と心中で評しつつ、陸軍兵はすぐに四式中戦車にそのことを伝えた。

 もっとも、旭日が知っていたのは前世で読み漁ったライトノベルからのオタク知識だったのだが、そんなことは知る由もない日本軍である。

 戦車に乗る棟方信三軍曹は旭日に言われた通り胸元をよく見た。

「あのボール状の奴……あれが核か」

『けっ、俺のキ○タマの方が立派ですぜ、軍曹殿』

「アホ言ってんじゃねぇ。よぅし……弾種徹甲弾、装填!」

「装填良し!」

「よく狙えよぉ……撃てぇ‼」



――ダンッ‼……バゴォッ‼



 核のある部分に命中した砲弾は小さく(榴弾と比較して)破裂した。

 オリハルコンゴーレムは元々ロックゴーレムなどより軽いため、わずか50mという至近距離で75mm砲弾を撃ちこまれたことで、後方へ吹っ飛ばされていた。

「効いてるぞ‼」

 だがよく見てみれば、起き上がったゴーレムは今の一撃で表面装甲が砕けてコアは露出していたが、それでも『完全には』砕けていなかった。

 それどころか、周囲の魔力を取り込んでいるのか既に再生が始まっている。地球生物ではありえないほどに早すぎる再生能力に、思わず戦車兵たちは舌を巻いていた。

「チッ‼奴は想像以上に固いぞ‼」

『こちら2号車、こちらが撃ちこむ!』

 今撃ち込んだ1号車の後ろにいた2号車が、既に砲身を調整して狙っていた。

「距離良し……撃てっ‼」



――ダンッ‼……バキャッ‼



 またも至近距離で放たれた砲撃が命中すると、胸の中にあった丸い真っ赤なバスケットボール大の物体が粉々に砕け散った。

 核を砕かれたことによりオリハルコンゴーレムは動きを止めると、そのままボロボロと瓦礫のような形となって崩れ落ちたのだった。

「やったぞぉ‼」

 兵士たちが喜ぶ中、前方からそれを見ていた扶桑が顎に手を当てていた。

「なんとか倒せましたか……しかし、かなり硬い装甲でしたね。75mm徹甲弾2発でようやく沈黙とは……しかも、50m前後というこの至近距離で、です」

 この時の戦車がもし、九七式中戦車(旧・新砲塔含む)や、九五式軽戦車であった場合、50mという至近距離であったとしても、恐らく徹甲弾でも貫通できなかっただろう(そもそも日本の技術的レベルから、当時使用されていた徹甲弾の弾頭が脆かったという話を筆者は耳にしたことがある)と考えられる。

 そういう意味では、大戦当時の標準的な威力を発揮すると言える75mm砲を装備した四式中戦車だったことは、非常に幸いだった。

 鹵獲して参考にしたボフォース製の高射砲に感謝である。

「正確には1発で装甲そのものは砕けていたから、これが対戦車戦闘だったら中の乗員にも十分な打撃を与えられている。そういう意味じゃ1発で十分破壊できたと言えるさ。あくまで相手が人間及び人間の常識で行動している存在じゃないから、苦戦したように感じられるだけだよ」

 旭日の言葉に『そういうものでしょうか……』と不安げに返した扶桑だった。

 扶桑としては、今後もこう言った不慮の存在に遭遇したときに従来の戦い方で大丈夫なのだろうかという不安があるのだ。

 急いでいるとはいえ、未知の存在と出くわしたことから旭日はオリハルコンゴーレムの分析をしてみることにした。

「こいつは……地球の鉱物にはなさそうな感じだな」

 鉱物資源に詳しい陸軍兵と、同じくそれなりに詳しい旭日の分析を聞いて、飛鷹が疑問を呈する。

「そうですね……少なくとも私は見たことのない物質ですが……司令も見たことはありませんか?」

「あぁ。魔法のある世界、ということを考えると……ミスリルとかオリハルコンかな……?水晶や他の鉱物には、こんな風に金色に輝く物質は存在しないはずだ」

 金自体が封じ込まれている結晶体や、金色の構造物が入った黄鉄鉱などの物質と異なり、『水晶のように透き通っているのに全体が金色に見える』という地球ではよく分からない物質なのだ。

 また、この世界の似たような物質として先ほど旭日が口にしたミスリル、そしてヒヒイロカネなどが存在する。

「ま、本土に持ち帰って魔導師に分析を頼めばなんだかわかるだろ。残念だが急いでいるし、それまでは保留だな」

「こいつはどうしましょうか?」

「急いでいるから今回収する訳には行かないが……かと言ってほっぽらかしておくのもなぁ……誰かに取られでもしたら面倒になりそうな臭いがプンプンするが……しょうがない。この残骸と核を地面に埋めておけ」

「地面に、ですか?」

「そうだ。そうすりゃ簡単には盗まれないだろう。帰りに回収するのさ。こいつはレアモノの気がする」

「なるほど、そうですね」

 すぐに工兵隊が深さ5mほどの穴を掘り、そこにオリハルコンゴーレムの残骸を放り込んだ。

 なお、この残骸は後に回収された上で日本にある冒険者ギルドに報告したところ、驚愕と畏敬の念をもって全世界のギルド支部に報告され、しばらくの間秘密とされることになるのだった。

「よし、埋めたら出発するぞ。思わぬ時間を食った」

「はっ‼」

 30分ほどで作業を終えると、日本軍は再び王都インカラを目指して歩き始めたのだった。

 日本軍は一路、王都インカラへ向かう。

次回は3月の23日に投稿しようと思います。


余談ですが、来週から艦これで『竜巻作戦』がスタートします。

調べたところ潜水艦と特四式内火艇を用いた米軍機動部隊に対する奇襲を狙った作戦のようでしたが……果たしてどのようなキャラが実装され、ボスが出てくるのか、今から楽しみです。

今回はできれば丙作戦をクリアしたいですね。

牛歩気味ながらなんとか続きも書いていますので、引き続き本作をよろしくお願いいたします。

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