上陸戦闘開始及び戦略爆撃(未満)
今月の投稿となります。
今回も引き続きドンパチパートですが、いよいよ……大日本帝国軍と言えばの『アレ』を披露します。
ご唱和ください‼『アレ』の名を‼
飛行隊によって敵の陸軍基地を集中攻撃することで潰し、兵力の大半を削ったと考えられる状態となったため、大蔵艦隊は揚陸部隊を水揚げすることにした。
水揚げと言っても、今回は基本的に一等輸送艦の大発動艇と二等輸送艦からの直接上陸が主になるのだが、それでもとても大規模な揚陸になる。
今回の作戦では、港湾部の一部に砂浜が残されていたため、そこに大発動艇と二等輸送艦を乗り上げさせて上陸させるつもりだ。
「輸送艦が先だ‼戦車を揚陸しろ‼」
「急げ急げ急げ‼敵は待ってくれないぞ‼」
大発動艇で先に上陸していた陸軍兵が、戦車などの車両揚陸を先導していく。
「オーライ、オーライ!」
二等輸送艦の扉が大きな音を立てて砂浜に倒れると、重量30tはある四式中戦車がディーゼルエンジンの大きな音をあげながら動き出した。
――ブウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥンン‼
四式V型一二気筒空冷ディーゼルエンジンが唸りを上げ、煙を吹きながら進む姿は、なんとも言えず頼もしい。
戦前・戦中の日本戦車では出しえなかった迫力だ。
「行け行け行け‼」
戦車の周囲には九九式小銃や一〇〇式短機関銃を持った歩兵が固めている。
一応不可能だろうとは考えられているものの、敵の奇襲による戦車の行動不能を防ぐためであった。
特に旭日が警戒しているのは、攻撃魔法による対戦車地雷のような効果を発揮されること、あるいは履帯損傷などによる行動の制限が発生することである。
旭日としてはできる限りの早期制圧をしたいため、高い火力を有する戦車や自走砲の存在は必要不可欠なのである。
戦車は全部で6両あるが、1輌で30tと重量がかなりあるため、二等輸送艦を3隻使用しての揚陸だ。
他にも改良型一式十糎自走砲や自動貨車、砲戦力としての機動九〇式野砲や、改良型九六式一五糎榴弾砲などが次々と陸揚げされていく。
一応航空戦力は全て排除したという想定ではあるが、一等輸送艦の大発動艇に搭載されている高射機関砲や高射砲も次々と陸揚げされていく。
場合によっては水平にすることで地上攻撃にも使えるからである(ただし場合によっては。基本的には水平射撃は考慮されていないのであまり勧められてはいない)。
それによる対戦車戦闘で名を馳せたのが、かのドイツ軍の『88mm高射砲』こと、『アハトアハト』だった。
フランスとの電撃戦におけるルノーB1bisや、北アフリカ戦線におけるイギリスのマチルダⅡを相手にして猛威を振るったのは多くのミリタリーファンが知っているだろう。
さらに沖合のあきつ丸・熊野丸のみならず、特設輸送船からも陸軍兵を満載した大発動艇が次々と上陸してきた。
その兵士の総数は、あきつ丸と熊野丸、さらに特設輸送船で合計3万人に及ぶ。
もっとも、1等輸送艦には自動車などを搭載していることもあって今回の『前面に出る』兵士総数は2万人ほどなのだが。
この中には旭日と共に転生してきた兵士に加えて、大日本天皇国で訓練した他種族の兵士を5千人ほど追加という構成だ。
揺られていた兵士たちは船に慣れていない者も多く、船酔いを起こした者も少なくなかったものの、戦地への上陸が近付いた時点でその多くが覚醒していた。
初めての戦争という非日常が、彼らに酔っている時間を与えなかったのだ。
そんな中、旭日は自身も扶桑や飛鷹らと共に艦載されている内火艇で上陸すると、なぜか『うぅん』と唸り声を上げていた。
「どうされました、司令?なにかご不満でも?」
「いや。戦車や車両に関してもっとスピーディー、しかも一気に揚陸できないもんかと思ってなぁ……やっぱり戦車揚陸艦……というか、車両揚陸艦は建造しないといけないかなぁ……」
「お気持ちは分かりますが……今は目の前の戦に集中いたしましょう」
「ま、そうだな」
旭日は今後の車両揚陸のために新たな揚陸艦を開発することを心に決めつつ、自分はくろがね四起に乗り込んだ。
扶桑は浜田一式自動拳銃と海軍刀を携えて旭日の隣に座り、飛鷹は九九式小銃と銃剣を持って車に乗り込んだ。
また、運転手はあきつ丸であり、熊野丸は残って上陸用舟艇に不埒なことをする輩がいないかどうかを見張る役目である。
旭日は拡声器を手に取ると、大きな声を張り上げた。
『総員に通達する‼これより我々は祖国の平和のために理不尽なる敵を打ち倒さなければならない‼飛行隊が大半を駆逐してくれたとは言え、まだ市街地には多数の敵兵が残っているはずだ‼物影からの奇襲攻撃に十分注意した上で進軍して欲しい‼』
――オォッ‼
「よし。戦車を先頭に市街地へ進軍開始‼」
旭日の声と共に、兵たちは持っていた銃を掲げる。
そこに、旭日はさらに追い込みをかけることにした。
『諸君らに問う。我らの主は誰だ!?』
「「「天皇陛下‼」」」
『我らを慮って下さるのは誰だ!?』
「「「天皇陛下‼」」」
『我らが守るべきはなんだ‼』
「「「陛下が愛する民と国‼」」」
そして、旭日は根性論の塊と言える大日本帝国の命脈を受け継ぐ大日本皇国の士気を最大に高める呪文を口にした。
『陛下の御為にいざ、突撃ぃ‼』
「「「天皇陛下、バンザァァァイ‼」」」
「「「大日本皇国、バンザァァァイ‼」」」
「進めぇー!」
銃剣付きボルトアクション式小銃で武装した大日本皇国軍は、ボロボロになった港湾部の奥へと進んでいく。
先頭には四式中戦車が煙を吐きながら進んでおり、実に頼もしい。
そんな戦車を守りながら、歩兵たちは小走りで進んでいく。
そんな彼らは、戦車の発するエンジン音に負けじと言わんばかりに大声を張り上げている。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼」
「突っ込めぇぇぇぇぇっ‼」
「歯向かう奴は潰せえええぇぇっ‼」
「大和魂を見せてやるんじゃああああああぁっ‼」
「バンザァァァイ‼」
もっとも、旭日はあまりに暴走するのはまずいと思ったのか、一応『無抵抗の奴、及び投降してきた者は丁重に扱えよぉ‼』と釘を刺しておいた。
よく見れば、武装した者が向かってくる際には倒し、震えている者やけがをしている者、幼い子供などがいればきちんと保護しているようだったので一応大丈夫そうだったが。
市街地の奥へ少し進むと、早速火縄銃らしき道具を持った兵が物陰から飛び出してきてこちらに発砲してきた。
「喰らえ、猿め‼」
――バァンッ‼
音の大きさと発射煙の多さから、見た目に関してだけは現代の銃よりも威力が高そうに見える(事実、至近距離で命中した場合は重量のある鉛弾に肉体を抉られるので現代の銃より威力の高いという一面がある)。
だが、ライフリングもない銃身から放たれた球形の弾は、50mという至近距離で放たれたにもかかわらず、あらぬ方向へと飛んで行ってしまう。
実際、朝倉義景を攻めようとして浅井長政に裏切られたことで大敗し、岐阜へ戻ろうとした織田信長を狙撃しようとした杉谷善住坊という男は、20mほどの距離から火縄銃で狙撃したらしいが、これも失敗している。
いかに当時の火縄銃の命中率が低かったかをうかがわせる話であろう。
戦車を守っていた陸軍兵の大畑雄三軍曹は銃弾が明後日の方向に飛んで行ってしまって唖然としている敵兵に向かって高笑いする。
「ハッハッハァ‼下手糞ォ‼鉄砲はこうやって撃つんじゃぁ‼」
――ズドォンッ‼ バシッ‼
九九式小銃から放たれた7.7mm弾は寸分違わずに相手の脳天を撃ち抜いた。
「なっ、お、おのれええええええぇぇっ‼」
隣に立って槍を持っていた兵は初弾で命中させてきたことに驚いているようだが、それでも槍で叩こうと向かってくる。
彼らの常識では火縄銃は連射が効かないため、一瞬で距離を詰めることができれば勝機は十分にあった。
それは、単発発射で次弾装填に時間のかかる火縄銃やマスケット銃が相手ならば、の話であるが。
「甘いわぁ‼」
大畑は素早くボルト・ハンドルを引くと、今度は槍兵の心臓を狙った。
――ガチャッ、ズドォンッ‼ バシッ‼
弾丸を食らった男は一瞬胸元を見て、驚愕と絶望の表情を浮かべる。
「……な、なんで……」
ちなみに、人間を始めとする生き物という奴は意外としぶとい。
少なくとも、ヘッドショットの一撃を食らったならともかく、心臓付近に食らったくらいならば数秒くらいは持ち堪えることもあると言われている。
アドレナリンが大量に分泌されている状況では、生物は意外と死なないのだ。
映画や物語では銃を食らって一撃で即死しているような描写もあるが、それは刺されたとき、あるいは銃弾を食らったことによる『ショック死』が多いからだ。
槍兵はその表情のまま、膝から地面に崩れ落ちたのだった。
「全く、油断も隙もあったもんじゃないのぉ‼新兵ども‼重々注意しろよぉ‼」
「はっ‼」
当然というべきか、他の所でも、似たようなことが起こっていた。
戦車の後方から随伴していた篠原賢吾二等兵は、火薬を詰めた陶器を握って吶喊してくる敵兵の姿を見た。
なぜそう判別できたのかと言えば、陶器から紐が突き出ており、その紐に火がついて火縄状態になっていたからである。
恐らく火薬を詰めた『炮烙』のような兵器で、目標はどうやら、旭日の乗るくろがね四起のようだ。
物陰から飛び出してきたが、その距離は既に10mを切っている。
「させるかぁ‼」
篠原は腰の銃剣を素早く引き抜くと、向かってくる男を見た。
男はまだ10代半ばと、篠原とそれほど変わらないように見える。
その幼げな表情には、強い恐怖と絶望が張り付いていた。
しかし、青年はそれでも攻めてきた者たちに対して屈しないという強い意思が垣間見えた。
それでも、篠原はそれでも迷わずに男の頸動脈を切り裂いた。
――ザシュッ‼ ブシュウウウウウゥゥゥゥゥゥッ‼
「がっ……ば、蛮族、め……」
「恨むなら、阿呆なお前らの王様を恨みな‼」
篠原は更にもう一撃、回し蹴りを叩き込んでやった。
転がった男はしばらくのたうち回っていたが、遂に動かなくなった。
「……生まれ変わったら、今度は酒でも飲みかわそうや」
篠原はそのまま前を向いてまた走り出したのだった。
さらに進むと、どこかの詰め所から出てきたらしい10人以上の兵たちがバリケードを築いて、その後ろ側で銃や槍、剣などを構えている。
「突破するなら戦車だな。強烈なのを一撃ぶちかまさんと」
すると、陸軍兵の言葉に呼応するかのように四式中戦車が主砲をゆっくりと、少しずつ旋回させる。
「主砲を撃つぞっ‼前にいる連中は退避せよっ‼」
主砲を撃った場合、戦車の周囲は衝撃波と発射音に留意する必要がある。
もっとも、現代の『M1エイブラムス』でさえ留意すべき距離は50m、イヤープロテクターを必要とするのに504mだそうだが、四式中戦車の主砲である四式七五mm砲は口径としては50mm近く小さい大砲であるため、威力の差を考えれば危険性は遥かに低い。
『砲撃の威力は口径の三乗に比例する』という言葉の通りなので、口径が小さくなればなるほどその威力は大きく低下するのだ。
それでもさすがに真正面は危険なので兵たちを退避させるのだ。
「目標正面障害物。弾種、榴弾!」
装填手は素早く持ち上げた75mm榴弾を装填すると、『ガチャン』と音を立てて閉鎖機が閉じる。
「装填完了!」
「撃てっ!」
――ドォンッ‼……ボガァンッ‼
四式七五mm戦車砲から放たれた榴弾はバリケードに着弾すると大爆発を起こし、バリケードごと後方の兵たちを吹き飛ばした。
「よぉし、障害排除‼進めぇ‼」
「バンザアアアアアァァァイッ‼」
「やれー‼叩き潰せぇー‼」
もはや秩序だった軍隊とは思えないほどの奇声と気勢を上げながら進む日本軍だが、実はこの万歳突撃、以外と効果があった。
どういうことかと言えば……
自分たちの常識外の攻撃で各所が壊滅的被害を受ける
↓
そこへ自分たちよりはるかに優れた装備を持った兵隊が、鬼神の如き雄たけびを上げながら迫ってくる。
↓
勝ち目はない。もうダメだ、逃げよう。
そんなもの、文明水準の低い相手にかませば恐慌状態になるに決まっている。
実際、日中戦争の際にはこれを中国軍に対する追撃戦でキメてさらなる戦果を稼いだこともあったと言われているが、末期にはただのやけっぱちのカミカゼアタック、バンザイチャージと化していた。
もっとも、末期のみならず、それ以前の島嶼戦においてもどこからともなく現れて幽鬼の如き形相で襲い掛かってくる日本兵の狂気に、アメリカ兵(ただし、前線の)もかなり悩まされたようだ。
そんな状態になっていたのは本土からの補給が途絶えてしまったことが原因なので、ある意味追い込んだのは米軍自身なのだが。
人、これを『窮鼠猫を嚙む』と言う。
もっとも、当の米軍上層部は『バンザイチャージしてくれればあっという間に片が付くうえに捕虜取る必要ないからありがたい』などと思っていたらしい。
閑話休題。
そんなキチガイじみた突撃を受けた残存オルファスター王国軍は、完全に恐慌状態に陥って多くが逃げ出し始めていた。
「えぇい、怯むな‼戦え!戦え‼」
「無理だぁ‼あんなバケモノ共に敵うわけがない‼逃げろぉーっ‼」
一部の指揮官は声を張り上げて兵たちを奮起させようとしているが、一度恐慌状態に陥ってしまった兵たちは、もはや誰にも止められない有様だ。
一部の指揮官クラスですら、雪崩を打つ兵に乗じてこっそりと逃げ出そうとする有様であった。
そんなところに鋼鉄の怪物(戦車のこと)を含めた狂気の軍団が押し寄せてくるのだから、まともな反撃など望むべくもない。
徹底抗戦を叫んでいた指揮官数名もついに、『撤退だ‼撤退しろーっ‼』と叫んで逃げ出し始めた。
一応旭日からは『街にいる間は追撃しろ。街から出たら手を出すな』と言い含められているため、兵士たちは『街中に』いる間に関しては鬼の形相で追い掛け回すが、一歩街から出たとみるや否や、別の標的を探して走り回る、という状態になるのだった。
「……戦争の狂気、って言うのが垣間見える一瞬だな」
「はい。その点海戦はまだ紳士的ですね」
確かに、中世から近世まではともかく、明治以降の海戦において戦いが終わった後は敵国兵士を救助する、というのは基本と言えなくもない。
扶桑にはなにかこだわりがあるらしく、そこは譲れないらしい。
「状況はどうだ?」
旭日が問いかけたのは、傍らに立っている陸軍の小野山次郎中将だ。
「ははっ。既に市街地の8割近くを制圧しております。まだ抵抗を続けている勢力もおりますのでもうしばらくはかかるでしょうが……この分ならば、あと2時間もあれば大方は制圧できるかと」
「油断はするな。崩れ落ちた陸軍基地にもまだ敵が残っているかもしれない。降伏してくるようならば受け入れていいが、歯向かってくるようなら容赦するな」
「ははっ。徹底させましょう」
小野山が走り去ると、旭日は車の背もたれに寄り掛かった。
隣に座っている扶桑は、旭日が難しい顔をしているのに気付いた。
「どうされました、司令?」
「いや。想像以上に弾薬の消費量が少ないと思ってな……まさか、ここまで敵がだらしないとは思わなかったんだ」
旭日としてはもっと激しい抵抗を予測していたのだが、いくら技術水準が離れているとは言っても、これほどに抵抗が薄いのは驚きなのである。
「技術格差ももちろんですが、上空支援のワイバーンを潰された上に海軍も瞬殺され、さらに陸軍基地も出撃準備中に崩されたとあっては、その戦力のほとんどを失っているのですから恐慌状態になっても仕方がないのではないかと」
扶桑のセリフに対しても『そういうもんか……』と言いつつも、奇襲やなにかしらの作戦を警戒する旭日であった。
そんな仏頂面をする旭日をバックミラーで見た飛鷹は『慎重な方ですね』と少し微笑んでいた。
「まぁいい。とにかく一片の油断なく、確実に掃討してほしいな」
だが、旭日はここで計画の変更を考えていた。
「これなら、あるいは……」
その後、陸軍基地へ到着した日本軍は瓦礫の中の生存者探しを始めた。
「誰かいるか‼いるなら返事をしろ!」
すると、瓦礫の側でうずくまっている若い男を見つけた。
日本軍の丸山一一等兵は銃を手にしたままではあったが、そのうずくまる若い男に駆け寄った。
「お前は軍属か?降伏するなら受け入れるぞ?」
だが、男は真っ青な顔のまま、目の前の瓦礫の山をじっと見つめたまま微動だにしなかった。
よく見れば、その下の地面には血だまりが広がっていた。
そして、瓦礫の下からは小さな、スベスベとした女性らしい手が突き出ていた。
「……そうか。我が軍の爆撃で亡くなったのだな」
丸山は『せめてもの』と思ったのか、瓦礫を撤去し始めた。すると、上司の石崎監物少尉が声をかけてきた。
「丸山、どうした?」
「あぁ、石崎少尉。この若者の関係者が埋もれているようで……」
「おぉ、ならばせめて日の当たるところに出してやれ。死せば皆仏だからな。成仏できるように、供養してやらにゃならん」
「ははっ!」
丸山はその後も瓦礫を撤去し続けて10分ほど経った。
そして、瓦礫の中から出てきた人物を見て目を見張った。
それは、獣人族の十代半ばと思しき女の子だったのだ。
頭から大量の血を流しており、一目でもう死んでいるということが理解できてしまった。
「この子は……」
すると、先ほどまでピクリとも動かなかった青年が動き出した。
「アルマ……アルマ、お兄ちゃんだぞ……アルマ……返事、してくれ……」
どうやら、彼はこのアルマという少女の兄だったようだ。
だが、丸山が見る限り、頭蓋骨骨折を起こしているようで、恐らく命はない。
「……坊主、残念だが妹さんはもう天へ召されてしまったようだ」
「嘘だ……アルマ、なんで……」
「坊主」
丸山は青年の顔を自分の方へ向けさせた。
「肉親を失った悲しみ、苦しみを認めたくないのはわかる。俺もそうだった」
丸山はかつて、平行世界の地球で太平洋戦争を戦っていた時に負傷し、本土に後送された。
その後は基地で後輩たちの指導に当たっていたのだが、ある時ずっと面倒を見てくれていた妹が基地に弁当を届けに来てくれたことがあった。
だが運悪く、その時『Bー29』による空襲があった。
基地は爆撃によって倒壊する。丸山はなんとか生き延びたものの、彼の目の前で妹は瓦礫に押し潰されて死んだ。
丸山は大いに嘆き悲しんだが、妹は戻ってこなかった。
その後丸山は傷が悪化し、終戦前に還らぬ人となった。
だが、それでも彼は最後まで妹の死から逃げなかった。
「戦争ってのは悲惨なんだ。一部の権力者共が自分の欲望のために国を攻め、人を殺し、そして一部だけが繁栄していく。俺たち下っ端ってのはな、その中でいかに死なないか、そして家族や銃後の人々をいかに死なせないかが大事なんだ」
あくまで丸山の経験したことだったが、青年の目に光が戻ってきた。
「泣きたきゃ泣いてもいい。恨みたければ俺たちを恨んでも構わない。でもな……現実から目を逸らすことだけはするな‼」
すると、青年は大粒の涙を流し始め、そのまま嗚咽と共にうずくまってしまったのだった。
「妹さん……アルマちゃんを、運んでやろう。俺らの上司に頼んで、弔ってもらえるように頼んでみる」
「ほ、本当、ですか……?」
「あぁ。ウチの司令官はとっても人情に篤いお方だ。女の子を弔ってやりたいって言えば、きっと受け入れてくれるさ」
青年はようやく泣き止むと、丸山と一緒にアルマの遺体を運び出したのだった。
この日、オルファスター王国港湾都市ササンテでは、5千人を超える軍属関係者と、民間人数十人が犠牲となった。
だが、旭日は見つかった軍属・非軍属問わずに遺体を集めると、全員に対して鎮魂の祈りを捧げることを決定した。
「本当は戦争の後でもいいのかもしれないが……せめて言葉を贈ることと、火葬だけでもしてやりたい」
旭日の言葉に、その場に立っている全員が頷いた。
そして、旭日は見つかった遺体の前に立つと、深呼吸をした。
「亡くなられた皆さん。皆さんは攻めてきた我々のことを恨んでらっしゃるでしょう。それは当然です。恨むのは構いません。しかし、恨むならばこの軍を指揮していた私にこそその責があります。我が配下の者たちには、どうかその憎しみを向けないでいただきたい。どうか何卒、何卒、お願い申し上げます」
さらに続ける。
「この戦争は元々、皆さまの君主である国王、トールンボ・オルファスター殿の取り決めによって始まったもの。私たちはそれに対して防衛をしているのみでございます。理不尽もありましょう。無念もありましょう。それでもお願い申し上げます。どうか、どうか安らかにお眠りください」
すると、旭日の隣に立っていたエルフとダークエルフの魔導師がなにやら難解な呪文を唱え始めた。
すると、彼らの体から白っぽい何かが抜け出ていく。
それらは人の形をとると、一瞬旭日を睨んだ。
しかし、その後諦観したような穏やかな表情に変わると、そのまま上空へと昇って行ったのだった。
「あ、あれは……」
「日本とアイゼンガイストに伝わるという、精霊の呪法……」
「死者の魂を輪廻の輪に乗せるという言い伝えは本当だったのか……」
旭日が見つかった遺族に頭を下げると、全員泣きながらも死者を弔ってくれた旭日には感謝するのだった。
戦争の悲嘆を垣間見た瞬間である。
……批判はいくらでも結構です。でも、大日本帝国軍ならこれはやらなければと思いました。
なので、反省はしても後悔はしません。
それはさておき、次回は2月24日に投稿しようと思います。




