港湾都市ササンテ攻略・空中戦
今月の投稿です。
今回は航空機の視点が中心ですね。
水鳥と波しぶきの白い色以外になにもない海の上に響くのは、大蔵艦隊の船が放つタービンやディーゼルの機関の音だけとなっていた。
砲撃が始まってから観測をするべく敵艦隊の上空を飛行していた偵察機部隊から、次々と報告が旭日の元に入っていた。
『こちら扶桑偵察機より旗艦へ。敵亀甲船団は全滅した。繰り返す。敵亀甲船団は全滅した』
『こちら矢矧偵察隊。敵戦列艦隊及び輸送船団も全滅した。繰り返す。敵戦列艦隊及び輸送船団も全滅した』
旭日は通信機を取ると、『被害状況は?』と各艦に確認した。
『扶桑、人的・装備的な被害、一切ありません』
『矢矧、被害なしであります』
『同じく酒匂、被害なしでぇす』
『北上、被害ゼロです』
『大井も同じく被害なし』
後方を航行していた空母や輸送艦はもちろん、戦艦を含めた最前列を航行していた艦も被害はなかったらしい。
そしてなにより旭日をホッとさせたのは、彼らと共に戦っていた新生大日本皇国海軍の駆逐艦『松』、『竹』、『秋月』の3隻が無事であったことだった。
こちらも人的・装備的な被害は全くなかったとのことである。
旭日としては『まだ練度が足りない部分が多々ある』と教官と言える立場の香取たちから聞いていたので、あまりに接近されると亀甲船の突撃で被害を受けるかもしれない、と考えていたからだ。
だが、実際には巡航速度に近いとはいえ、相手より高速と言える20ノット近くの速度で航行していたのが幸いして、敵に追いつかれることはなくアウトレンジから余裕をもって攻撃することができた、とのことだった。
後に『秋月』の艦長であるクキ・ヨシヨリは『演習の香取殿たちの方が遥かに厳しゅうございましたなぁ』と言って豪快に笑っていた。
自分が事前に想定していたよりも、遥かに『容易く』と言っていいほどに敵艦隊を殲滅することができたという事実に、旭日は内心でホッとしていた。
だが、それだけに以後も同じようにできるように、と用心を心掛ける必要があると心に強く誓った。
「どうやら、異世界の人も思ったより早く近代艦艇の扱いに慣れてくれたみたいだな。ま、よかったなぁ」
「次は飛行機ですね。搭乗員も多数を育成しないと……」
「まぁ、今は勝てるだろうからいいけど……とりあえず現状の優秀なパイロットに教官を頼むしかないな……こればっかりは扶桑たちに頼むわけにゃいかない」
相手の装備文明水準その他諸々を正しく推測した上でこんな未来のことを考えていられるという時点でかなり余裕があるのだが、誰も気づいていない。
だが、オルファスター王国に対して現在の大日本皇国が余裕で勝てると思っても、無理からぬことである。
大蔵艦隊の技術水準が一部太平洋戦争初期、一部太平洋戦争末期と1900年代前半の能力を有しているのに対して、相手は航空戦力があると言っても基本的には至近距離での砲撃を見舞うことを想定している戦列艦と突撃戦法主体の亀甲船という木造船を主体とした艦隊である。
主砲の有効射程、連射速度、そして艦の航行速度及び航空戦力の戦闘性能などの全ての点において、大蔵艦隊は完全に相手を凌駕していたのだから、勝てたのは当然と言えば当然である。
そうは思いつつも旭日が『なんとかなったか……』と感慨に耽っていると、『司令。扶桑、意見具申』と扶桑からの通信が入った。
「扶桑、どうした?」
『海上の漂流者はいかがいたしますか?私としては、国のためにと忠義を尽くして戦った彼らに罪はないと考えておりますので、可能なのであれば救助するべきだと思うのですが……』
「……」
地球人である旭日としては扶桑の言うことも分かる。
むしろ船に乗り、海の世界に生きる人間はそうするべき、という『シーマンシップ』とも言うべき不文律が地球にはあった。
太平洋戦争の際は捕虜への扱いが酷かったということで問題になったが、日露戦争の頃はむしろ捕虜を厚遇し、国際的に高い評価を得ていたこともあったのだ。
そんな『余裕のある状態』であれば、一番良かった。
だが、大蔵艦隊にはそうできない理由があった。
「すまない、扶桑。できるならお前の考えを尊重したいところなんだが……俺たちはこの迎撃を成功させたこのタイミングを逃さず港湾都市ササンテ、ひいては首都インカラに攻撃を仕掛けるつもりだ」
確かに輸送艦やあきつ丸・熊野丸らと言った揚陸船を引き連れてはいるが、救助したとしてもこれで一度本国へ帰るつもりでなければ、何千人もの人間を助けることは不可能である。
もちろん、旭日としても助かるかもしれない人命を見捨てたくはない。
だが、急いで敵を制圧することでより犠牲を少なくしたいという思いも理解できるだけに、扶桑にこう命じることは旭日自身にとっても酷であった。
それもこれも、敵国の首都である首都インカラが、旭日たちの当初想定していた距離以上に『近すぎる』ことが原因である。
ある意味、地球で起きた大きな国同士の戦争と技術水準を考えれば、本来は地続きでもない限りあまりないレベルの近さである。
オルファスター王国軍……戦国時代水準の文明からすれば『それなりの』距離なのだが、第二次大戦水準の技術を持つ大日本皇国及び大蔵艦隊からすれば、車両を用いた機械化部隊であればそれほどの距離ではないのだ。
そんな事情があったことで、旭日は地球を基準とすればこんなとんでもない作戦を立てたのである。
「そんなギリギリと言うべき綱渡りのような状態で、他国の捕虜の面倒なんていう負担を皆にかけたくはない。残念だが、漂流者は見捨てていくつもりだ」
旭日の判断は傍目には非情に思えるだろう。
だが、実のところ大蔵艦隊そのものはもちろんだが、大日本皇国そのものも捕虜の受け入れができるかと言われると微妙な部分があった。
もちろん、他国と戦争になった時のことを想定して捕虜収容所は建設してあるものの、まだ収容所におけるルールや、やらせる作業もあまり決まっていない状態であった。
そんな状態で捕虜をとっても、はっきり言ってタダ飯喰らいにしかならないので結局国の負担になるのだ。
しかも、今回は早期決着を狙うためにも本土へ引き返すことはできない。
引き返して態勢を整えることは、その分オルファスター王国側にも態勢を整える猶予を与えてしまうからだ。
もしも全力で抵抗されれば、自分たちの側の死者はもちろん、オルファスター王国の市民にも要らぬ犠牲を払わせることになるだろう。
そうすれば、後々に日本が要らぬ恨みを深く買うことになる。
それだけは避けなければならない、と旭日は強く考えていた。
「皆もよく聞いてくれ。この『捕虜を助けなかった』という責任は、全て艦隊司令であるこの俺にある。いずれそれが原因で罰せられるとすれば、それは俺だけだ。皆はただ、国のために頑張って欲しい」
旭日の覚悟を込めた発言に、通信を聞いていた全員が思わず黙り込んでしまっていた。
旭日がそれで総意を得た、ということにして進撃させようとしたその時、またも通信が入った。
『こちらあきつ丸。なにやら後方から船が……あれは、我が国の鉄甲船です‼』
旭日が振り向くと、大きな安宅船に鉄板を張りつけた、1年前までの大日本皇国の主力艦が何隻か、こちらに向かってきていた。
『こちら隼鷹。司令、私の所にいる魔導師の方に、魔力通信が入りました。〈我々鉄甲船団はこれより漂流者の救助に入る。貴殿らは貴殿らの任務を遂行して欲しい〉とのことです』
通信によると、元々は加勢になるかもしれないということで補給艦を兼ねて派遣したそうだが、空母に乗っていたエルフの魔導師から漂流者に関する連絡を受けた結果、むしろ敵国漂流者の救助に使えそうだという結論に至ったため、急行してきたとのことだった。
「マジか……いや、確かにそうしてもらえればとても助かるが……いいのか?」
『はい。構わないとのことです。食料も大量に積んでいるため、詰込みになるとはいえ、2千人くらいまでならば本国まで面倒を見れるとか』
水に関しては以前記載した通り、魔導師がいれば基本的には問題ない。
また、水魔法を使えば10ノットまでは加速できるため、旧態然とした鉄甲船でも、救助した捕虜を輸送するだけならば十分に可能だ。
「そっか……助かった。なら後顧の憂いは絶ったも同然だ。全艦に通達!我々はこれより補給の後に増速し、敵国港湾都市ササンテへ乗り込み、これを占領する‼占領後、1日休憩を取りさらに本国からの補給を受ける。その後敵国首都、インカラへと侵攻する‼この旨を直ちに全艦に通達せよ‼」
こうして、本国の鉄甲船に救助を任せた旭日たち大蔵艦隊は、一路オルファスター王国の港湾都市ササンテを目指すのだった。
その2時間後、港湾都市ササンテの軍司令部でも混乱が起きていた。
「一体どうなっている!なぜ艦隊と連絡が付かない!総司令官のデッコンポ様はどうなったのだ‼」
「『敵艦隊と交戦中』、『敵の大砲は我が方を上回る射程を持つ』の報告以降……魔力通信が酷く混乱していたこともありまして……正直に申し上げまして……ま、全くもって不明のままであります……」
ササンテの防衛を預かるはずの基地司令は怯えながら返答する通信士を、ただ理不尽に怒鳴りつけることしかできなかった。
「このたわけがぁ‼言い訳はいいのだ‼とにかくなんとかしろぉ‼」
半狂乱と言うべきか、ヒステリックと言うべきか悩むが、そんな状態で叫ぶ基地司令に、通信士はもはや持ち場を放棄して逃げたくなっていた。
すると、通信士の傍らで哨戒を行っている竜騎士団からの魔力通信を知らせるブザーが鳴った。
通信士は急いで報告を受けるが、イヤホンのような道具で聞いているため、基地司令はなにも分からない。
それがより基地司令の不安を煽った。
「何事だ‼」
「ほ、報告します‼『50を超える鉄で覆われた船で構成された船団がササンテへ接近してきている』とのことです‼」
「な、なんだとっ!相手の特徴は‼」
だが、通信士は首を横に振った。
「不明です……哨戒騎が詳細を報告する前に撃墜されてしまったようでして……相手の詳細は一切……」
「だ、だらしのない奴めぇ……それでも誇りある王国軍人かぁ‼自分に課せられた使命も果たせないような奴なんか大っ嫌いだこのヤロウ‼」
基地司令は得体の知れない事態の連続にとうとう頭にきたらしく、やけっぱちのようなセリフを叫んでいた。
「し、司令!ひとまずこれで落ち着いて下さい‼ただいま残存の海防艦隊を出撃させますので、なにかしら情報も分かるでしょう‼」
基地司令の秘書がお茶(ジャスミン茶に酷似)を素早く差し出した。
「お、おぉ、すまんな……そうだ。焦ったところでなにも事態は好転しないのだからな……海防艦隊には重々注意するように言っておけよ……」
そう言うと、おいしそうにお茶を飲み始めた。
だが、その束の間の安寧は通信士の新たな報告によって破られることとなるのだった。
「沖合の見張り所より報告‼『羽ばたかない飛竜のような何かが、多数ササンテに侵攻中』とのことですっ‼」
「なお、その飛竜の攻撃により、残存の海防艦隊は全滅した模様‼」
「ブフォーッ!?」
「せっかく淹れたお茶がーっ!?」
せっかく落ち着きかけたところへの報告で、お茶を噴き出してしまった基地司令だった。
そんなコントのようなやり取りの中、破滅は確実に迫って来ていた。
港湾都市ササンテの沖合80kmを切ったところで大蔵艦隊から発艦した流星隊50機は、烈風20機の護衛を受けながら進んでいた。
先ほど敵の哨戒らしいワイバーン数騎と遭遇したが、どれもすれ違いざまに烈風が瞬殺してしまったので、特になにもなかったと言える。
ただ、撃墜した烈風のパイロット曰く、『通信を送られた可能性が高い』とのことなので、もしも『残っていれば』の話ではあるが、迎撃機が多数向かってくる可能性は高かった。
そう思っていたら、出港を始めていた帆船の艦隊を発見したため、編隊の一部を割いて攻撃を加えて撃沈させた。
流星隊の羽村芳郎少佐は、半日前に空の上で出くわした『空飛ぶトカゲ』のことを思い出していた。
事前情報の通り、速度そのものは大したことはなかったものの、旋回力などは一次大戦時の複葉機並みの狭さと、その機動力は意外に侮ることはできなかった。
それだけに、艦隊司令(旭日)の言っていた大火力と高速を生かした一撃離脱戦法が正しかったことはよく分かった。
ただし、零戦時代からの装備である20mm機関砲は弾道が安定しにくい上に装弾数がかなり少ないので、飛んでいる間は常に残弾を気にしなければならないのがネックと言えばネックだが。
と、そこに空母天城からの通信が入った。
『こちら天城より航空隊へ。対空電探に反応あり。内陸部60km地点より飛行物体確認。数は50』
どうやら、本土防衛用に残していたワイバーンらしい。
そこはそれ、流石に本土の防衛まで疎かにするほどの愚かな相手ではなかったということのようだ。
むしろそんな間抜けと言えるような相手でなくて『ホッ』としてしまっている自分がいるほどである。
とはいえ、この港湾都市攻略の時点で航空戦力を全て片付けられるならば、それに越したことはないため、慢心せずに全て撃墜する必要があるが。
すると、護衛の烈風隊が速度を上げて先行し始めた。
『こちら烈風隊。先行して敵の航空戦力を叩く。爆撃隊は周囲に警戒しつつ、飛行を続行してくれ』
『了解』
烈風は一気に600km近くまで加速していくため、巡航速度に近い時速500kmほどで飛行している流星は完全に置いて行かれる。
「まぁ大丈夫だとは思うけどな」
羽村はそう呟きつつ傍らから水筒を取り出し、お茶を飲む。
余談だが、実は意外にも航空機のパイロットは機内に軽い糧食を持ち込むことができたと言われている。
もちろんかさばるモノや弁当箱のような本格的なモノではないが、いなり寿司やおにぎり、羊羹やバナナ、飲み物も水筒のお茶を持ち込むことができたという。
なお、そんなパイロットたちに人気だったのはサイダーであったという。
日本の撃墜王として有名なかの坂井三郎も、自著の中で『ケガをした戦いの前にサイダーを持ち込んでいたのだが、高高度で一気に開けてしまったので、気圧の問題からサイダーが噴き出して、視界を確保するために窓についたサイダーを拭き取るのに体力と精神力を奪われた』という話を残しているという。
逆に、内臓にガスが発生しやすくなる麦飯やトウモロコシの類(食物繊維類はガスを発生させやすくする)はあまり好まれなかったようだ。
オナラとして放出できればどうということはないのだが、高高度になるにつれて気圧が下がりガスがどんどん膨張すると、腹痛を起こして場合によっては気絶、そのまま墜落することもあったというのだから馬鹿にはできない。
これらは全て、対Gスーツと与圧が必須の現代ジェット戦闘機では、全くもって考えられない話である。
それはさておき。
そんな少しばかりのんびりとした爆撃隊を残して先行した制空隊は、一気に敵の港湾都市上空へ到達していた。
間もなく彼らはオルファスター王国に残った竜騎士団と衝突する。
それから20分後、港湾都市ササンテ防衛司令部では魔力探知システムの表示されている水晶盤と睨めっこしている監視員のヴェルムという男がいた。
これもまたヴェルモント皇国から供与されたシステムで、魔力を発する生物や存在を対水上・対空と分けて探知できるレーダーのようなものだ。
ただし、ヴェルモント皇国の物が半径300kmの空を見渡せるのに対して、こちらは120kmしか探知できない。
それでも他の大陸文明国はこのような探知系の道具を持っていないので、オルファスター王国は常に他国より先んじた存在とされていたのだ。
そんな先進的な器具には、味方のワイバーンが向かっていく様子が映っていた。
だが、ヴェルムはその画面を見ながら驚いていた。
「味方のワイバーン以外が映っていない……?」
先ほど、港湾部沖合の監視塔からも『20の飛行物体がワイバーン以上の速度で内陸へ向かっていくのを確認した』という報告が来ていた。
だが、内陸部へ侵入したはずの敵騎が、この水晶盤には映っていなかったのだ。
「どうした、なにがあった?」
怪訝に思った上司が近寄ってくるので、ヴェルムは『これを見てください』と水晶盤の画面を見せた。
「こちらが我が方のワイバーンです。ですが……港湾の方を見てください」
「……ん?他にはなにも映っていないじゃないか?」
「はい。沖合の方に微弱な魔力がわずかに見えますので、そちらが敵の艦隊だろうと考えられます。『わずかに』しか見えないのが気にはなりますが……そちらには間違いなく反応がありますので」
これは、飛鷹と隼鷹に乗っている魔導師の反応である。
だが、魔力と呼べるものがほとんど存在していない地球からの転生者である旭日や、平行世界の住人だったとはいえ同じ魔力のほとんど存在していない地球の大日本帝国軍人、そして神界からの使者と言ってもいい扶桑たち艦長娘は、誰も魔力を『全く』有していなかった。
このせいで、魔力を探知することによる索敵システムは、全く役に立っていなかったのだ。
「あ、これは……」
「どうした、なにがあった!?」
「味方騎の反応が……次々と消失しています……」
ヴェルムの上司も水晶盤を覗き込むと、味方のワイバーンと思しき反応が次々と輝いては消えていったのだ。
これが意味することは、『撃墜』しかない。
「な!げ、撃墜されたというのか‼敵の損害も分からぬと言うのに‼」
「少なくとも……敵には我らの飛竜を撃墜するだけの能力がある、ということです……今までの日本であれば、そのようなことはできなかったはず……」
「ど、どうするというのだ‼なにか打つ手はないのか!?」
だが、ただの監視員であるヴェルムには首を横に振るしかない。
「我々にはどうすることもできません。ワイバーンが撃墜された以上……残るのは地上からのライトニング・ボーガンでの迎撃くらいです」
ライトニング・ボーガンはワイバーンやそれに準ずる飛行生物に対しては十分な『牽制』になるものの、高機動力を持つ相手に対して『撃墜』は難しい。
身も蓋もないことを言ってしまえば、まぐれ当たりを期待するしかないのだ。
「くっ、それもそうか……」
「監視塔より報告‼東の空から迫る飛行物体多数‼先ほどのモノとは全く別の模様‼」
「こっちが港湾攻撃の本命か……なにもしないよりははるかにいい‼魔導弓兵に通達‼港湾部に攻撃してくるであろう敵飛行物体を全力で迎撃せよ‼」
「りょ、了解‼」
司令部は喧々囂々と言わんばかりに、蜂の巣をつついたような状態となった。
総司令は椅子に座り、不安そうな顔でお茶を啜ることしかできなかった。
その頃、大蔵艦隊所属爆撃隊は港湾部上空に入り込んでいた。
大蔵艦隊は昨日の艦隊戦の状況から、港湾部でも魔導師による対空迎撃が来るだろうと推測していた。
まさか木造帆船から魔法の弓矢による対空迎撃が来るとは思っていなかったが、幸いに速度はそれほどでていなかったため、発射の瞬間さえ見逃さなければ避けることはそれほど難しくはないとパイロットたちは考えていた。
しかし、艦隊戦のあとで旭日からは『魔法を馬鹿にしない方がいい。恐らく当たれば損傷は確実。悪ければ撃墜される』と厳重な注意を受けた。
そのため、羽村を始めとする爆撃隊は地面の動きを注視していた。
「あの時は甲板上で火花のような光が派手に散っていたからな……まぁ、お陰で発射の瞬間が分かりやすいからありがたいけどな」
すると、早速地上の建物の近くの広場で火花の発光が見えた。
広場は見た感じだが、練兵場のように見える。
「各機散開っ‼」
指示を受けた流星は素早くバンクして散らばった。
その直後、彼らのいた場所を光の線のような『なにか』が通り過ぎていく。
「よし。各機次弾が来るまでに爆撃せよ‼」
今回の流星はより多くの戦果をもたらすために60kg爆弾を搭載している。
急降下爆撃ではなく、ある程度の高度から(と言ってもあまり高くはできないが)ばら撒くように投下することが今回の目的である。
旭日の事前の報告から、港湾における施設は基本的に軍及び軍船のためのドックが集中している場所が多いという情報を掴んでいた。
旭日の事前偵察を兼ねたオルファスター王国行きは、無駄ではなかったのだ。
やがて、一際大きな建物を見つけた羽村は、そこを目標にした。
「俺たちの司令を怒らせたこと、後悔させてやる……投下‼」
――バカッ……ヒュウウゥゥゥゥゥゥゥッ‼
流星は日本の急降下爆撃機可能な単発機体としては珍しく、ウェポンベイ(爆弾倉)を持った飛行機だった(それ以外では双発の大型機などが持っていた)。
ウェポンベイがあるということは、胴体内に兵器を収容するという限定される状況ではあるが、その分風の抵抗を受けにくいという利点がある。
そんな流星は60kg爆弾を6発も搭載することができる。
歩兵の集団や建造物を多数狙うには軽い爆弾であろうとも多数をバラ撒く方が、戦略的効果は高い。
ついでに言うと、6発積んでいても360kgなので、800kg爆弾や500kg爆弾に比べても遥かに軽い。
そのため、流星は楽に投下ポイントまで移動することができていた。
――ドガアァァァァァァァァァァァンッ‼
羽村の狙った建造物……オルファスター王国港湾都市ササンテ防衛司令部は6発全ての爆弾を受けて無残に崩れ落ちたのだった。
当然、基地司令や監視員のヴェルムなど、基地に所属する人員は全てそのまま瓦礫の下敷きとなったのだった。
羽村は自分の投下した爆弾が全て命中し、目標が瓦礫と化したことを確認すると、一度母艦へ戻るべく機首を反転させるのだった。
見れば、僚機も1機も欠けずに付いて来ていた。
「各機、よくやった。帰ったらラムネを奢ってやるぞ」
羽村の冗談混じりの言葉に、通信機からは苦笑が漏れるのだった。
戻る途中で、さらに50機もの流星と10機の烈風が通り過ぎて行った。
「2度目の攻撃か。今度は……都市部奥の陸軍基地だな」
旭日は攻撃を2回に分けることで敵に息つく暇を与えないつもりだった。
なにより、これで上陸する際の陸軍の被害を大幅に減らすことができると考えていたのである。
そんな第2爆撃隊は、250kg爆弾2発を搭載して港湾都市奥に存在する陸軍基地へと向かっていた。
旭日の事前情報によると、『空爆を想定していない戦力集中型の陸軍基地』とのことなので、集中して大量の爆弾を落とせばかなりの戦果となるはずだ。
30機もの流星に加えて、今回は烈風も60kg爆弾2発を翼下に搭載しているため、爆撃が可能だ。
500kg×50+120kg×10=26200kg
つまり、26.2tもの爆弾を投射することが可能となる。
分かる人にわかりやすく言えば、日本人にとっては悪名高い『Bー29』3機強分となる。
今はこれが大蔵艦隊にできる最大限の『絨毯爆撃』であった。
やがて編隊は、大きな練兵場を持つ陸軍基地へ緩降下を開始する。
「異界に住まう野蛮人どもに思い知らせてやれ……投下‼」
先ほどは各機で様々な軍事目標に爆撃をしたので、戦果はまちまちだった。
だが、今回は1つの施設に集中して約26tもの爆弾が落とされるのだ。
その威力はかなりのもので、『推して知るべし』と言えるだろう。
そして、敵の陸軍基地に60機の水平爆撃が炸裂し、建造物の各所で強烈な大爆発を起こした。
石造りの要塞は各部から崩れ落ち、要塞内部で武装して出撃の準備を整えていたオルファスター王国陸軍3万人以上を生き埋めにしてしまった。
こうして、大蔵艦隊は脅威となる戦力の大半を、陸戦力で戦うことなく駆逐することに成功したのだった。
いよいよ今年も終わりとなります。
皆様もどうか病気などしないよう注意して過ごしてください。
次回は1月の27日に投稿しようと思います。




