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飛竜VSレシプロ機

今月の投稿です。

ハッキリ言うと……『蹂躙』ですね。

 艦隊決戦が佳境に差し掛かっている頃、空の上でも大きな動きがあった。

 上空約3千mの空域で、空母から発艦した烈風隊を指揮する相良義明中佐は、空の彼方にポツポツとゴマ粒のような影を見ていた。

「あれか……」

 航空母艦・天城の対空レーダーによる観測が正しければ、こちらへ向かってくる敵の総数は200機だという。

 烈風の数はわずか72機だが、今はここに輸送船への爆撃を終えた流星117機と、伊401、伊402から発進した特殊搭載機の晴嵐6機が加わっているため、その総数は195機と相手との数の差はほとんどない状態であった。

 であれば、問題は機体の性能差と戦法が重要である。

 相良は旭日からは出撃前に繰り返し注意されていたことを改めて思い出す。



『相手は生物なので、翼を用いた急制動や急旋回、翼を折り畳んでのロール運動及びその場での機首反転のような真似ができる。それらの点に重々注意して、疲労の少ない一撃離脱戦法をできる限り心がけて欲しい』



 要するに、相手のワイバーンという存在は、速度はともかく柔軟な機動力による旋回行動で攻撃をかわしてくる可能性があることから、無駄弾を使わされないように、体力を消耗しないように注意しろ、ということらしい。

 旭日としては異世界の生物が、パイロットたちの常識にあるような航空機とは全く異なる動きで翻弄してくる可能性があると踏んだことから、このような注意喚起をしたわけだ。

 なお、旧日本軍は一部の局地戦闘機を除いて格闘戦を好む設計思想やパイロットが多かった(一撃離脱が理想的な双発機にさえ、零戦並みの格闘性能を持たせようとしていたこともある)ため、より口を酸っぱくして注意する必要があったのである。

 もちろん、岩本徹三のように一撃離脱戦法を得意とするパイロットもいたようだが、イメージが強いのは間違いない。

「司令は随分と心配していたが……まぁ、この烈風なら、ジェット機に一撃離脱戦法を使われない限り基本的に負けはないだろうな」

 元々一八式艦上戦闘機・烈風は、3千m前後の低空・低速度での格闘戦が得意な零式艦上戦闘機の後継機だが、その速度差を活かした攻撃でいいというのであれば、パイロットへの負担は大幅に減る。

 そもそも、格闘戦……現代的に言えばドッグファイトいうものは本来空戦においては取るべきではない下策と言われている。

 何故ならば、そもそも格闘戦に陥る状況というのは『不意をついての一撃離脱が失敗したこと』を意味しているからである。

 一撃離脱が成功すれば、それでよし。

 もし敵への攻撃が失敗しても、急降下によって速度の乗った機体ならばそれを利用して、またも高空へ飛んで行って再度攻撃を仕掛けるという手もあるからだ。

 もっとも、『柳の木の下のドジョウ』という言葉があるように、そうそううまくいくものではないのだが。

 そして、格闘戦を行うことは、当然ながらそれだけのリスクもある。

 第一に、激しい機動・旋回運動によって発生する重力は、操縦するパイロットの肉体に大きな負担をかけてしまう。

 加えてその厳しい状態で、相手の背後を取るための様々な判断を下さなければならないため、パイロットのその時の体調や心理状態にも左右されてしまう。

 つまり、対して能力の違わない人間が操縦しているのだから、機体の持つ本来の優劣が打ち消されてしまうのである。

 もっとも、そんな下策とされる格闘戦を得意とする零式艦上戦闘機のような機体を作った……もとい作らせた上で主力として運用していた旧日本海軍というのは、当時の航空戦闘で一撃離脱戦法がそれほど一般的でなかったとは言っても、色々とアタマのおかしい組織なのである。

 まぁ、そんな大日本帝国海軍の、真珠湾攻撃から始まる初期における大戦果をあげていた時期を支えていたのが、かの赤城・加賀の一航戦であったり、蒼龍・飛龍らの二航戦であったりしたわけだが。

「艦隊司令の言うことも分かるがね……相手の数が若干多い時点で、格闘戦は避けられないっての」

『隊長、だったらこんな作戦はどうでしょうか?』

「ん?ほぅほぅ……なるほどな、それは面白い。やってみる価値はありそうだ」

 通信を聞いていた部下の進言を聞き、相良は『なるほど、それならやりやすいな』と納得したのだった。

 日本軍とて、奇策を用いないというわけではない。

 果たして、彼らの立てた作戦とは一体……



 一方、オルファスター王国所属竜騎士団200騎も、空の彼方に見える敵を発見していた。

 竜騎士団団長のゲルニアは、愛騎を駆りながら相手を見据えている。

「蛮族の分際で、洋上で運用できる飛行戦力を持っていることは驚きだが……王国竜騎士団は負けん‼蛮族如きの飛行戦力に負けるようでは、栄えあるオルファスター王国竜騎士団の名が泣くというものよ‼」

 誰ともない独り言を呟いてから、魔力通信機を手に取った。

『諸君に通達する。相手は文明圏に属さぬ蛮族であるにもかかわらず、我らが国王の要求を断った!我らは王の代弁者として、蛮族共に痛烈なる鉄槌を下してやらねばならない!諸君らの奮闘を期待する。以上だ』

 聞けば聞くほど強者の驕りがこれでもかと詰まっているが、自分たちを圧倒的な強者と疑わないゲルニアは、相手の能力など歯牙にもかけない。

 すると、次々と部下たちから通信が入ってきた。

『任せてください団長。俺たちが全部叩き落してやりますよ』

『待て待て。賭けをしよう。俺は全部墜とせるほうに賭けるぜ?』

『なに言ってんだハイドーラー。そんなの当たり前じゃないか』

『賭けにならねぇっつうの、このバクチ頭』

 他の魔法通信機からも次々と笑いが漏れる。

 本来こんな通信をするなど現代軍隊では考えられないが、傍受のような可能性を考慮していないため、こんなことも士気高揚のためと許されているのだ。

 だが、ゲルニアは内心では不安を隠せなかった。

 どうやら、今見る限りではあるが敵の速度はこちらのワイバーンよりかなり速いように見えたからだ。

 誠にもって信じがたいが、ワイバーンの速度を活かした一撃離脱戦法が使えるかどうかも怪しい。

 いざとなれば、ワイバーンの体力を犠牲にしてでも格闘戦に持ち込む必要があるだろう。

「それでも、すれ違いざまにファイヤーブラストを叩きこんでやれば、それなりに多くは墜とせるだろう……」

 どこか自分に言い聞かせるような言い方だったのは、そうしないと不安だったからである。

 だが、相手の数は『100ちょっと』と、こちらの半分に近い。

これならば、格闘戦に持ち込むことで、多数による囲み撃ちを用いれば数で押すことも可能なのではないか、と淡い希望を抱いていた。

 あと20kmもなく、すれ違うことになる。

 時速200km以上で飛翔している飛行戦力にとって、そしてそれより早い速度で航行している存在にとって、20kmなどあっという間だ。

 もはや、あれこれと迷っている時間はない。

 ゲルニアは再度通信機を手に取る。

『攻撃の準備をせよ!』

 ゲルニアの合図を受けた竜騎士たちは、自身の乗騎に火炎弾ことファイヤーブラストの発射準備を指示する。

 ワイバーンたちは可燃物質を口腔内に生成し、それを風属性魔法でまとめながら火属性魔法で着火し、火炎弾の形にする。

 粘性の強い可燃性物質を使用しているだけあって、この火炎弾は着弾した場合の粘性も強く、強力な水魔法を使わないと中々消えないのが特徴だ。

 木造船、特に小型のガレー型帆船程度が相手ならば、数発以上命中させることで内部構造物まで炎上の末に撃沈することもある。

「さぁ、もう少しだぞ……」

 自分たちの射程に入り次第、強烈な一撃を叩きこんでやる、とゲルニアは発射の時をじっと待っていた。

 だがその時、ゲルニアは斜め後方から殺気を感じた気がした。

 ハッと斜め後ろを振り返ると、そこにはギラギラと輝く眩しい太陽があった。

 殺気が気のせいとは思えず、太陽の眩しさに目を細めつつ目を凝らすと、なにか黒い点のようなものが多数見えた。

 黒い点は段々と大きくなっているように見えることから、その物体がこちらに近づいていることを今更ながらに悟った。

「太陽を背にしたかっ!全騎散開しろっ‼」

『は!?ははっ‼』

 指示を受けた竜騎士たちが急いでワイバーンに攻撃中止の命令を出す。

 だが、攻撃準備をしているワイバーンは体を伸ばしての水平飛行しかできない上に、攻撃態勢を解除するのにも時間がかかる。

 なぜなら、可燃物質を口に蓄えている上にそれを風魔法で『強制的に』まとめているため、下手なことをするとワイバーン自身がその燃えている可燃物質を浴びて炎上・墜落しかねない危険性を孕んでいるのだ。

 実はワイバーンの武器である火炎魔法、意外と危ない戦法なのである。

 なので、列強国にはワイバーンよりも有効な航空戦力があるのだが……あいにくオルファスター王国にそんなものは存在しない。

 他の竜騎士が『なにが起きたのか』とゲルニアのように斜め後ろを見ようとした……その時だった。



――タタタタタタタッ‼

――グギャオオオォォォォンッ!?



『ぐわぁっ!?』

『な、なんだぁっ!?なにが起きたぁっ!?』

『お、落ちる!助けてくれ!助けてくれぇっ‼……』

 一瞬で空に光の線のようなものが多数走ると、たちまち50を超えるワイバーンと竜騎士が海へと落下していった。

 どのワイバーンも大きな穴だらけになっており、中には竜騎士ごとその体を砕かれてミンチのようになった者もいた。

 そして、ワイバーンにのみ当たった者も、意識があるまま海へと落下していく。

 2千mという高空から生身で海に叩きつけられれば、どのような形にせよ死は免れまい。

 風魔法を使える者であれば着水の際の衝撃を和らげることも可能だろうが、多くはワイバーンとの相性や飛行への適性を求められた者たちなので、魔法を使えない竜騎士もいるのだ。

「なっ‼」

 ゲルニアが落ちてゆく者たちを気遣う間もなく驚いている間に、ワイバーンより大きな、しかしワイバーンよりはるかに速い飛行物体が、自分たちの斜め前方へとすり抜けていったのだった。

 たったの一撃で50騎以上が墜とされたことに驚愕と怒りを覚えるものの、そんなことで呆けている暇はない。

「おのれえぇぇっ‼よくも我が部下たちを墜としたな‼全騎、急降下せよ!奴らの背後から仕留めろっ‼」

『了解‼団長に続けーッ‼』

 指示を受けたワイバーンたちがなんとか攻撃態勢を崩して急降下を始める。

 ワイバーンの全速力、時速250kmに下降の重力加速度まで加わっているという状態だ。

 竜騎士たちは、吹き寄せる合成風になんとか耐えている。

 この生物としては圧倒的な速度をもってすれば、大概の存在には追い付くことができる……はずだった。

だが、それほどの厳しい思いをしても、全く敵との距離が詰められないのだ。

「そ、そんな!速すぎる‼あんなものに追いつけるかっ‼」

 まるで、人類の限界にでも挑戦するかのようなその速度に追いつこうと必死になっていると、またも後方から殺気を感じた。

 そして同時に、強烈な『音』を耳が拾った。




――ゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ‼



「はっ!しまった!フンッ‼」

 今度は後ろを振り返ることもなくその場から素早くロールして離れると、先ほどまで自分がいた場所に、光の線が連続して走った。

 一拍遅れて『タタタタタタ……』と連続的な乾いた音が響く。

 一瞬逃げるのが遅かったら、自分は先ほど撃墜された部下たちのように穴だらけになっていたに違いない。

 そう思うと、ゲルニアは背中からドッと冷や汗が噴き出てきた。

 見れば、今の攻撃でまた30機以上があっという間に墜とされている。

 まるで、逃れられない死の網に囚われているような感覚を覚えていた。

 ワイバーンをこんな短時間で、しかも損害を負わせることもできずに連続して墜とすなどいうのは、文明圏に属さない、飛行戦力と言えるものを持っていないはずの蛮族が相手ならば信じられないことだった。

 そもそもワイバーンは広い国土がなければ定着できない(居住地と言うよりはエサの問題で)ということもあり、大陸でないと生息できない生物なのだ。

 上位の国家である列強国が相手ならばともかく、文明圏に属していない弱小国を相手と想定した場合、ワイバーンに損害が出るかどうか怪しいほどだった。

 その、はずだったのだ。

「我々は……一体なにと戦っているのだ……」

 直後、またも敵が急降下して飛び去って行った。

 今度の敵は変わった形状をしていた。

 先ほどの敵と同じところと言えば、羽ばたいていないことと、鼻先で風車の羽のようなものがかなりの高速でグルグルと回っていることだったが、先ほどの敵の翼がまっすぐに近いレベルで突き出ていた(烈風も逆ガル翼を採用しているが、流星に比べると緩やか)のに対して、今度の敵の翼は根元近くで強く折れ曲がっていたのが特徴だった。

 先ほどすれ違った機体に比べると心なしか遅い気もしなくはない。

だが、その相手ですら自分たちの駆るワイバーンと比較してしまうと、遥かに速いため、なんの気休めにもならなかった。

『こちらハイドーラー!くそっ!敵を振り切れない!誰か助けてくれ‼』

『無理だ!こっちも手一杯なんだよぉ‼』

『ハイドーラー!後方に敵騎!避けろっ‼』

『俺は、俺が生き残るほうに賭けているんだ……ガピーッ‼』

 魔法通信が強制的に途切れたことで、今まで通信していた相手が最悪の事態になったことをゲルニアは悟った。

『おい、また誰か墜ちたぞ。誰が墜ちた!?』

『ハイドーラーだ!ハイドーラーが墜とされた‼あぁっ‼スコルドロンも‼』

「ハイドーラー……スコルドロン……くそっ‼」

 ハイドーラーは三度の飯よりバクチが大好きで、負けも多いことから常に財布の中身が素寒貧なのは当たり前、ピーピー言っているしょうがない奴だった。

 だが根はいい奴で、バクチに勝つといつも仲間を集めて酒や食事をおごってやるという、陽気で優しい皆の兄貴分と言うべき男だった。

 スコルドロンは逆に無口だが、自分の仕事を着実にこなすタイプでまだ20歳になったばかりだが優秀な竜騎士であった。

 出発前に彼が『俺……帰ったら結婚するんです』と言って、可愛らしい幼馴染と一緒に映っている魔導写真を見せてくれた時には、思わず我がことのようにゲルニアは喜んだものだった。

 そんな優秀な、前途ある仲間たちが成す術もなく次々と墜とされていく。

 ゲルニアは必死に乗騎を操りつつも、なんとか反撃の手段がないかと探る。

 しかし、相手の攻撃は苛烈かつ正確で、避けるのが精一杯である。

 まるで、武芸の達人に間合いを詰められているような、そんな感覚を覚えていた。

 それに対して、敵の後ろについたと思っても敵は圧倒的な加速力でこちらを引き離してしまうので、全く射程に入ることができない有様だった。

「日本は……神か悪魔を味方につけたとでも言うのかっ!?くそっ‼このっ‼」

 こんな圧倒的な力を発揮することができる存在など、聞いたことがない。

 気づけば、飛んでいるのはゲルニアだけとなってしまっていた。

「ツルバンド……ジャンプ……タグロイド……皆墜とされてしまったのかっ‼我々は……我々は一体なにと戦っているんだぁっ‼」

 最後、またも太陽を背に突っ込んでくる敵の姿が、どこか太陽の神の御使いに見えてしまったゲルニアだった。

「オルファスター王国に栄光あれええええええええええっ‼」



 ゲルニアは、烈風の放った20mm機関砲弾を食らい、乗騎もろともバラバラにされて海の藻屑と化したのだった。

 こうして、オルファスター王国所属竜騎士団200騎は、大蔵艦隊の飛行隊と接敵するものの、燃料を浪費させる以外はなにもできずに全騎撃墜されたのだった。



 烈風隊隊長の相良は、相手の動きが想定していたよりもはるかに単調だったため、思ったよりも楽に敵が片付いたことにホッとしていた。

 彼は通信機を取ると、空母に連絡する。

『敵航空戦力全滅を確認した。これより空母へ帰投する』

『了解。十分注意せよ』

 艦隊司令の旭日に言わせれば、『着艦して格納庫に入るまでが空戦だ‼』とのことらしい。

 旭日本人は飛行機を飛ばしたこともないクセに、と最初は思ったが、それだけ自分たちのことを心配してくれているのだと思うと、不思議と悪い気分はしないのだった。

 烈風に加えて流星、晴嵐の加わった航空隊は一撃離脱戦法を用いて瞬く間にオルファスター王国竜騎士団200騎を撃墜して見せたのだった。

 しかも、1回目は高空、しかも背後から烈風が仕掛け、さらにそれを相手が追いかけてきたところで今度はすれ違いざまに攻撃をすると思われた流星も急降下して相手を追撃する、という作戦だった。

 このおかげで4分の3ほどの敵を一気に撃墜できたのはよかった。

 これもあって、彼らは余裕を持って空母へと帰還する。



 そんな余裕綽々の航空隊がいる一方で、海の上を行くオルファスター王国海軍は大混乱に陥っていた。

「チクショウ!なんでワイバーンの上空支援がないんだよぉ‼」

「まさか……俺たちのワイバーンが蛮族ごときに負けたって言うのかぁ!?」

「お、俺たちは蛮族に被害も特になく勝てるんじゃなかったのかよぉ‼」

 もはや各戦列艦の上ではこのような会話とも言えない怒号ばかりが飛び交っており、まともな状態とは言い難かった。

 魔導師たちも魔法を集中してかけていることができず、戦列艦隊の平均速度は7ノットまで低下していた。

 当然、兵たちの士気も最低までダダ下がり状態となっている。

 そんな彼らの船は、最前列からただ事務的に削られる状態となっており、全く射程に入れていない。

 亀甲船も左翼から突撃を敢行しようとしているが、相手のあまりのアウトレンジ攻撃に成す術がないようだ。

 速力で優っていれば接近することも逃走することも可能なのだが、如何せん速力はもちろん、旋回性能などの機動力も向こうの方が上手なのである。

 もはや自殺としか言えない、特別攻撃状態と化している。

 そんなオルファスター王国海軍の旗艦ホウホロの甲板上では、総大将のデッコンポが『グヌヌ……』と唸っているが、彼も彼とて唸っているだけでなにも打開策が思いつかないのである。

 すると、通信兵が真っ青な顔をデッコンポに向けた。

「ほ、報告します‼」

「今度はどうしたにゃも‼」

「き、亀甲船団が……全滅しました!最後の亀甲船、クロムルがたった今通信途絶しましたぁ‼」

「なっ……き、切り札の亀甲船団まで全滅したにゃもか!?」

「恐らく、そうではないかと思われます……」

「それでは……どうやってあの馬鹿でかい鋼鉄艦に穴を開けてやるにゃもかぁ‼」

 オルファスター王国海軍が独自に保有している亀甲船団は、彼らの水準での海戦における切り札と言っても過言ではない。

 戦列艦より速度を出すことが可能で、魔法陣で強化された船首による衝角突撃の威力は、『凄まじい』の一言に尽きる。

 そんな亀甲船団が、敵への被害を出したという報告もなく敗れ去ってしまったのだ。

 狼狽えるな、慌てるな、という方に無理があるだろう。

「そ、総司令官!どういたしましょう‼」

 ホウホロの艦長であるナミロウが問い詰めてくるが、全ての想定が覆されてしまった今、デッコンポの中では『どうしようもない』、『勝てっこない』という言葉だけが渦巻いていた。

 そして、そんな迷いに満ちた彼らを、敵は見逃さなかった。

「敵艦主砲、こちらを指向‼」

 ハッとしながらデッコンポが望遠鏡を覗くと、やたらと高い艦上構造物を乗せた船の巨大すぎる大砲が、重厚な動きでこちらを向いているではないか。

「にゃ、にゃも……」

「敵艦発砲‼」

 その一言を聞いた瞬間、デッコンポはもはやそれまでの恥も外聞もぶん投げて全力で指示を出していた。

「取舵一杯!なんとしても避けるにゃもぉ‼万が一のこともある‼総員、衝撃に備えるにゃもぉ‼」

「取舵一杯アーイ!」

「総員なにかに掴まれぇ‼衝撃に備えろぉ‼砲撃が来るにゃもぉ‼」

 合図と共に舵輪が素早く回るが、その早さに反するように船体は非常にゆっくりと旋回を始める。

 それは砲弾が飛んでくるという状態を考えると、あまりにもどかしい時間だった。

 そして甲板乗員は素早く手近なものにしがみついた。

 あまりにゆっくりなのでもどかしいが、元々素早く動けないのが船という存在である。

 そして。



――バガァンッ‼



「うわああぁぁぁぁぁっ‼」

 甲板乗員のみならず、艦内部の砲術士や魔導師たちもあまりの衝撃に船内を大きく転がってしまう。

 ホウホロを襲った振動はすさまじく、デッコンポも踏ん張りとしがみつきが効かずにその場に倒れて頭を強く打って、『にゃぶぅ!?』と情けない悲鳴を上げてしまったほどだった。

 しかしそれでも歴戦の軍人というプライドからすぐにその巨体を起こすと、周囲の状況を確認しようとした。

「ひ、被害報告‼」

「さ、左舷喫水線下に破孔発生‼」

 その言葉通り、船内に大量の水が一気に流れ込み、船が傾き始めていた。

 内部に居た魔導師や砲術士はわけもわからないまま水流に次々と呑まれて地獄へと引きずり込まれていく。

 デッコンポは『もはやこれまで』と言わんばかりに慌てて指示を飛ばした。

「い、いかん‼総員退艦‼総員退艦……」

 だが、3度目を言う前に弾薬庫内部で、戦艦扶桑の放った41cm主砲弾の遅延信管が炸裂し、他の砲弾や魔石を誘爆させながら大爆発を起こした。

 その威力はあまりにも強く、赤を通り越して白に近い爆炎を上げて船体を真っ二つにしたのだった。

 こうして、日尾海峡海戦は大日本皇国の大蔵艦隊に軍配が上がったのだった。

今回の作中にあったあるネタ……分かった人いるかなぁ(笑)

次回は12月の23日に投稿しようと思います。

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