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鳴りやまぬ爆音

今月の投稿となります。

いよいよ本格的なドンパチパートだイェイ!

 デッコンポが引き続き覗き込んでいる望遠鏡の先で、まだ10kmほど離れているはずの敵艦が突然大きな煙を吐き出したのを見た。

「敵艦発砲‼」

 デッコンポは傍らのナミロウを見ながら呆れた表情を隠さない。

「奴ら……なにをやってるにゃも?威嚇でもするつもりにゃもか?」

「確かに。世界最強のアイゼンガイスト帝国の『魔導戦艦』ならばともかく、日本如きの砲撃がこんなところまで届くとは思えませんがね……」

「うぅむ……念のため、回避行動を……」



――ヒュルルルルルルルルルルルルルル……



 笛のような音が響き渡ると、最前列を航行していた戦列艦2隻が、突然大爆発を起こして吹き飛んでしまった。

「せ、戦列艦ブッパコ、タトコリ、轟沈!」

「……はぁ!?」

 まだ敵艦との距離は10km近く離れているはずだった。

 そんな場所まで砲撃が届くなど……しかも、初弾から命中して戦列艦が一撃で轟沈するなど、文明圏に所属していない蛮族のできる所業ではない。

 それが、世界の『常識』である。

 ただし、日本艦隊には高い性能を発揮するレーダーが装備されており、船同士が接近したことでレーダーによる照準射撃が可能となっている。

 当然のことながらそれによって高い命中率を叩き出すことが可能になっているのだが、そんなことは露知らぬオルファスター艦隊である。

「ば、バカな‼砲撃が10km以上飛んで、しかも一撃で命中するなんて‼」

「や、奴らはどんな魔法を使っているというのだっ‼」

 オルファスター王国の戦列艦に搭載されている大砲は、射程2kmで前装式カルバリン砲に近い水準の性能・威力を発揮する。

 ただし、王国における総合的な製鉄技術の低さから、砲身の強度は同年代の地球水準の大砲と比べるとそれほど高くないため、その低い部分を魔法で補強しているという難点がある。

 しかし、発射機構に火薬ではなく爆裂魔法を刻印術式として砲尾部分に刻み込んでいるため、砲身の掃除の後に砲弾を装填したら魔力を流すことで、すぐに発射できるという点はカルバリン砲より速射力に優れるという部分もあるので、一概に悪い部分ばかりというわけではないのだが。

 そして、カルバリン砲水準というだけあって、2kmの最大射程というのみならず、フランキ砲レベル(後装砲)であった日本の大砲に比べて暴発率が少ないのも特徴であった。

 もっとも、物理学的知識がこの世界の人類は一部の転生者を除いて基本的に薄いため、同時代の地球以上に『なにをどうすれば飛距離や命中率が向上する』ということに関しては、それほど考えが及んでいないのだが。

 旧世界の日本の場合、大砲はさておき火縄銃に関しては鉄砲鍛冶たちがあれこれと工夫を凝らした結果、同水準の銃器類の中では高い命中率を叩きだしていたという話もある。

 もっとも、既存兵器の改良・改造にばかり終始した結果、鎖国と200年を超える平和もあったのだろうが、新兵器をあまり生み出せなかったのは残念な点であろう。

 そもそも、兵器の進化及び技術の進歩と言うのは戦争を含めた争いの中で起こるモノなので、仕方がないと言えば仕方ないのだが。

 それはさておき、オルファスター王国海軍が混乱している間にも、さらに上空から脅威が迫ってきていた。

 高速で急降下してくる『それ』を見たデッコンポが、敵の狙いに気づく。

「奴ら、輸送船を狙うつもりにゃもか‼輸送船に対空戦闘を指示するにゃも‼輸送船をやられたら、日本侵攻計画は全部おじゃんになるにゃもよぉ‼」

 果たして、彼らは輸送船を守り切ることができるのか……。



――ウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ‼



 異世界の大空に、地球人が聞けばまるで空襲警報のサイレンかと思うような音が響き渡る。

 その中で、揚陸部隊を乗せた輸送船の1隻、アシムロのマストの上では、見張り員が向かってくる飛行物体を目にしていた。

「敵飛竜、急降下中!当船に向かってきます‼」

 輸送船の船長はその異様なまでの速さと降下の勢いに歯噛みしながらも、迎撃の戦意は失っていなかった。

「おのれ、蛮族の分際で我らを舐めよって……甲板乗員はライトニング・ボーガンを構えろ‼奴を撃ち落としてしまえ‼」

「了解‼ライトニング・ボーガン準備!」

 ライトニング・ボーガンとは、オルファスター王国がこれまたヴェルモント皇国から提供された魔術刻印技術を用いて完成させた、風属性の力が宿った魔導ボーガンとでも言うべき兵器である。

 簡単に言えば、雷の落下速度を見た魔導師が『風魔法のライトニング系列の魔法を、なにかに応用できないだろうか』と考えた結果、ボーガンの本体そのものにライトニングの術式刻印を施すことによって、矢を放つという機構になった。

 雷の推進速度には遠く及ばないものの、王国水準ではすさまじいまでの高速(地球人にわかりやすく言えば音速に近い)で矢を射出することができるようになっていた。

 そこで、これまた火属性の『エクスプロージョン』系列の魔術刻印を埋め込んだ魔木(魔力を宿した、魔法の影響を強く受ける木材)を矢柄に用いた『マジック・アロー』を新規開発することにより、命中率と破壊力が大幅に向上した。

 上空への最大射程は2kmを超え、有効射程だけでも1kmに及ぶ。その威力はワイバーンの体を一撃で爆散させるほどであった。

 そして、この魔木は何気に豊富に伐採される大日本皇国から輸入しているものであるので、王国にとっては関税を引き下げた方が色々便利な部分もあるのだ。

 もっとも、それがあろうとなかろうと関税を引き上げ・引き下げを勝手にされる日本側としてはたまったものではないのだが。

 そんなライトニング・ボーガンは水平方向なら射程も4kmを超え、威力も炸裂砲弾に匹敵するのだが、歩兵の攻撃には普通に大砲や鉄砲の一斉射撃を用いた方がローコストなので、歩兵には配備されていない兵器でもある。

 ちなみにこれ、水準も能力も著しく低いが、いわゆる超原始的な超電磁砲(レールガン)に近い武器だったりする。

 どういうことかと言えば、『刻印の施したボーガンの弦部分の間にある投射物(この場合は魔木の矢だが)』を、『魔法による電力の力で投射する』という兵器であるためである。

 地球国家(主にアメリカ)の想定している超電磁砲に必要な電力がこの世界水準からすると、天文学的に天文学的を掛け合わせたような数値であり、そんなものを叩きだそうとするとこの世界の現有魔導機関では全く不可能なのだが、それはさておき。

 そんな、地球史の同水準からすると能力の高い対空兵器が、猛烈な速度で急降下してくる敵の飛竜を狙う。

 魔導弓兵のマッチランは、今こそ厳しい訓練の成果を発揮する時だと上空の敵を睨んでいた。

「見てろよ、東方の野蛮人共め……オレが大海原に叩き落して、お前らを魚のエサにしてやる!」

「おぉ、その意気だぞ、後輩!」

 マッチランの隣で、彼と同じようにライトニング・ボーガンを構える先輩魔導弓兵のアルメイが彼を激励する。

 魔導弓兵は、ワイバーンなどの上空からの攻撃に弱い戦列艦や輸送船を守るための矛であり盾だ。

 そのため、魔術刻印を多く用いることからコストも高い武器ではあるものの、防空は重要とみなされている。

 結果、戦列艦は1隻につき20人、輸送船でさえ合計10人もの魔導弓兵が配備されているほどに重要視されている兵器でもある。

 これも、ヴェルモント皇国から魔法の才能がある人材の効率の良い発掘方法を教えてもらったためである。



――ウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼



 そんな彼らにとって上空から聞こえてくる甲高い音は、まるで死神が自分たちを地獄へ引きずり込もうという誘い声のような不気味な音だった。

しかし、その湧き上がる恐怖心に負けず、マッチランは急降下してくる敵の飛竜を狙い続ける。

 敵の飛竜は変わった形をしており、なぜか羽ばたいていない。

 そして、胴体から突き出た翼は途中で上向きに折れ曲がっている。

 鼻先では風車の羽のようなものが超高速でグルグルと回転しており、見る限りは『異界のバケモノ』とでも評したくなるような異形であった。

 そんな妙な、しかしやたらと足の速い奴が相手ではあるが、だからと言って誇りある王国兵がこんなことで怯んではいられない。

「放てーッ‼」



――バチバチ……バシュン‼



 隊長の合図を受けて弓兵たちが引き金を引き、一瞬火花が走ったと思うと、ボーガンの本体から矢が高速で放たれる。

「続いて第2射用意急げ‼」

 魔導弓兵小隊長の指示を受けた魔導弓兵たちが、素早く腰の矢筈から次の矢を取り出そう……とした時だった。

 敵飛竜は想定よりも素早く体をねじり、斜め上方へ移動することであっさりと矢を避けてしまった。

 さらに、なにがしたいのかわからないが翼をチカチカと光らせ始めた。

「なんだ?」

 一拍遅れて、『タタタタタタ!』と乾いた音が大海原に響き渡った。

 その直後、マッチランの隣に立っていた先輩兵アルメイの頭が、地面に叩きつけて弾けたザクロのように吹き飛んだ。

 アルメイはそのまま足から崩れ落ち、一瞬にして物言わぬ亡骸となる。

 そんなアルメイの血と脳漿は、まるで高いところから地面に落とした水袋の中身のようにマッチランの顔や首に飛び散っていた。

「……え?」

 マッチランが、一瞬と言う先輩の呆気ない死にざまに対応できていない間に、敵飛竜が腹を開いて『なにか』を投下する。

すると、『なにか』が落ちてくる間に、今度は甲高い笛のような音がした。



――ヒュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼



「敵がなにかを落としたぞ‼退避‼退避ーッ‼」

「急げーっ‼退避しろーっ‼」

 他の弓兵たちが我先にと退避し始める中、マッチランは物言わぬ先輩の亡骸を前に、血も拭わずに呆然としたまま動けなかった。

「先輩……どうして……」

 アルメイは今回の召集の1年前に、幼馴染だという年下の女性と結婚したばかりであった。

出港する時に見せてくれた魔道写真には当のアルメイと、隣で手をつないでニッコリとした笑顔を見せているお腹の大きな奥さんが映っていた。

 『戦争が終わって帰った頃には産まれているだろうな。とても楽しみだよ』と、嬉しそうに微笑んでいた顔が今でもはっきりと思い出せる。

 そんな彼が、蛮族と思っていた相手の素早く射程の長い攻撃であっさりと死んでしまった。

 『相手は極東のサルどもで、多少の被害は出るだろうが、基本的には恐れることはない』と上司たちからは聞いていた。

 であれば『自分たちも無事に帰ってきて、家族に自慢できるだろう』と、兵たちの多くは高を括っていた。

 その、はずだったのだ……。

「なんで……相手は蛮族じゃ……なかったのかよ……なんでだよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼」

 その直後、マッチランの直上から流星の投下した500kg爆弾がアシムロの上部甲板を突き破り、内部で爆発した。

 輸送船には上陸した際に使用する大量の銃砲火器と、それを作動させるための魔法術式を組み込んだ魔道具や炸裂する砲弾を大量に搭載していたため、それらに誘爆して大爆発を起こしたのだった。



 4隻の空母から発艦した117機の流星による攻撃隊は、その目標を戦列艦や亀甲船ではなく兵士輸送船に定めていた。

 攻撃隊隊長の早坂浩二少尉は誰にも聞こえないはずの機内で呟いていた。

「呆気ないな……木造船だから仕方ないと言えば仕方ないが、脆すぎる」

 敵からやたらと速い、射程の長いボーガンの攻撃を受けたものの、発射の瞬間に火花の光が多数見えたため、自機を少し捻らせて斜め上に上昇するだけですぐにかわせてしまった。

 横を見れば、僚機の誰も被弾した様子はない。

「ま、当然かな。いくら速くたって、発射される瞬間は見えるわけだしな。当たらなければどうということはない」

 かつて地球で経験したことのある、米英軍の放つ猛烈な対空砲火に比べてしまえば、これはちゃちな花火みたいなものであった。

 もっとも、そんなことを後に口にした若い兵が旭日に『あの水準で対空兵器を持っていること自体がすごいんだ!慢心、ダメ、絶対!』と怒られたため、より一層の情報収集と分析を重要視することになるのだが。

「っと、ずいぶん機体が軽くなったな……」

 500kgもの重量を持つ爆弾を勢いよく投下したのだから、当然と言えば当然であろう。

 見れば、他の僚機も、そのほとんどが急降下爆撃を成功させていたらしい。

 多くの敵輸送船から炎が上がり、爆発によって真っ二つになって轟沈していた。

 第一波の攻撃だけで、既に輸送船の半分以上は沈んだはずだ。

 これで、ありえない話に近いとはいえ万が一防衛網を突破されたとしても、攻め込まれる絶対数は大きく減ったことになる。

「さぁて、これからどうするのか……」

『天城より連絡。敵飛行戦力があと10分ほどで到着する。爆撃を終えた流星隊は烈風と共に敵飛行戦力駆逐に当たれ』

「お、まだ飛んでいられるのか」

 早坂は、なにもない広い大空の上を飛ぶことが大好きであった。

 前世ではマリアナ沖海戦の際に艦爆乗りとしてアメリカ艦隊に挑んだが、敵艦隊から放たれた近接信管の砲弾の前に吹き飛ばされ、この世を去っていた。

 だが、この世界は今、自分とその仲間しか空を飛んでいない。

「いいね。どうせならこの大空をもっと楽しむか」――『各機、編隊ごとに集合して敵航空戦力の迎撃に向かうぞ』

『了解』

 一切の被害を出さずに急降下爆撃を成功させた流星部隊は、烈風隊の近くに陣取って彼らと共に戦うことになる。



 一方飛鷹の艦橋では、流星隊の戦果報告を受けた旭日が『ほぉっ』と息を吐いていた。

「輸送船の半数以上が被害なしで撃沈できたか。まずは海戦における第1段階は成功だな」

「既に敵の戦列艦も先頭から順に削り取っています。しかし、左右の側面から15ノット近くの速度で亀甲船が向かってきますね」

「面倒と言えば面倒だが……構わない。扶桑の高角砲、他の艦も高角砲なども用いて全力で迎撃するように命じろ。この分なら……恐らく艦対空戦闘はしなくてよくなるだろうからな」

「了解です。直ちに全艦隊に通達いたします」


 

 一方、扶桑や矢矧、酒匂は最前列で砲撃を続けていた。

 扶桑の放つ45口径41cm砲弾の1tを超える重量と爆発の威力はすさまじく、榴弾の一撃で敵の戦列艦を粉々に粉砕してしまう。

 ちなみに、戦艦の装甲をぶち抜くことを想定している徹甲弾では、木造の戦列艦をすっぽ抜けてしまう。

 旭日が読んでいた日本召喚小説では、巡視船『しきしま』に大和型戦艦とほぼ同じ能力を持つ戦艦の徹甲弾が撃ち込まれたが、装甲が薄すぎて貫通した、という話もあれば、実際の第二次大戦時にもアメリカの護衛空母に大和の徹甲弾が撃ち込まれたそうだが、貫通してしまったという話があるのだ。

 そんな話があるため、扶桑は通常榴弾で攻撃している。

 同じく矢矧と酒匂の60口径15.5cm連装砲と8cm連装高角砲もその手数の多さを活かして、素早く榴弾による砲撃を見舞う。

 命中率もさすがに百発百中とはいかないものの、相手の動きがそれなりに単調なこともあって、2発に1発の割合で砲弾が命中している。

 砲撃が命中した戦列艦はやはり爆発物に引火するのか、扶桑の砲撃に負けない爆発を起こしてあっという間に轟沈していく。

 さらに10kmを切った現在では、扶桑たちの後ろから迫っている北上と大井も砲撃を撃ち込み始めていた。

 彼女たちの主砲は駆逐艦レベルの12.7cm連装高角砲に換装されているため、速射力と命中率は比べ物にならないほどに上昇している。

 ちなみに、一等輸送艦は砲撃を担当する戦艦と巡洋艦のすぐ後ろに陣取っており、こちらもすぐに砲撃が可能な状態となっている。

 そして、そう言っている間にも亀甲船の一部が輸送艦に接近してきた。

「亀甲船が来たぞ‼迎撃用意だ‼」

「了解‼主砲発射準備!」

 改装されたことでその主砲は40口径12.7cm連装高角砲から60口径10.5cm連装砲に換装されたため、射程と命中率は大幅に向上していた。

 流石に輸送艦にまでレーダーは搭載できていないが、5km近くにまで接近してくれば、当てることはかなり容易になる。

「照準よし‼」

「撃てぇ‼1隻も近づけるなぁ‼」



――ダンッ‼ダンッ‼


 

 発射された2発の砲弾の内、1発がこちらに向かってくる亀甲船の屋根を直撃し、内部で大規模な爆発を起こした。

 亀甲船は元々小型なうえ、木造で脆いこともあって、それだけで真っ二つに折れて轟沈してしまう。

 扶桑に横から向かっている亀甲船も、同様の運命を辿っていた。

 5kmくらいまで接近したところで、扶桑の副砲である50口径12.7cm連装高角砲が次々と火を噴き始めたのだ。

 敵の数がとにかく多いため、かなりひきつければほぼ確実に命中させることができるという状態であった。

 相手の速度も15ノット前後とそれほど早くないため、うまく引き付けて撃てば、十分に当てられる。

 もはや射撃演習状態と言っても過言ではないが、誰も油断を見せていない。

 また、新たに建造された『松』、『竹』、及び『秋月』に乗艦する海兵たちも大日本天皇国から召集され、一般人や現代人がドン引きするほどの訓練(月月火水木金金)を受けたことですっかり近代兵器の扱いにも習熟していた。

 各艦が50口径12.7cm連装高角砲や、65口径10.5cm連装砲を撃ちまくっている。

「おぉ、また敵に当たったぞ‼」

「やりましたね、艦長‼」

「うむ、まさかこれほどの力を発揮するとは思わなかったな」

 駆逐艦『秋月』の艦橋では、艦長のクキ・ヨシヨリが他の乗員と共に『よぅし!』と歓声を上げていた。

 ヨシヨリは元々皇族御召艦『シキシマ』の艦長だったが、新鋭艦が完成すると聞いた時、真っ先に艦長に名乗りを上げたのだ。

 それまでとは比較ならないほど厳しい訓練の毎日だったが、対水上・対空戦闘の概念、水雷戦闘の概念、そして高速航行する軍艦における砲撃のための計算など、彼の想像の範疇外にある様々なことを学んだ。

 そして、それだけではなかった。

 航海中の料理についても、それまでのおにぎりに漬物という単調な食事から、カレーライスや肉じゃがなどの新しい料理を学び、それを実現してきた。

 ちなみに、そんな元々の技術的には劣るはずの彼らが大蔵艦隊より優れていた点が1つあった。

 それは、オルファスター王国海軍と同じく真水の確保であった。

 彼らは精霊に力を借りることで魔法を使うのだが、精霊に祈ればローコストで水は大量に確保できる。

 おかげで、鋼鉄艦になったことで風呂も料理も水だけは使い放題であった。

 それを聞いた時、旭日は羨ましそうに『ウチの艦隊にも精霊の加護をお願いしようかな……』などと言ったほどであった、と言えばその便利さがうかがえる。

 そんな彼らは大蔵艦隊の横を航行しており、既に高角砲の砲撃で10隻以上の艦を沈めている。

「まさか、我々が列強の保護国と同等以上に戦える日が来るとはなぁ……いや、これはもはや下位列強以上かもしれないぞ」

「これほどの能力を持つ彼らが我々に味方して、しかも技術まで供与してくれたこと……今でも奇跡としか思えませんよ」

 既に開戦の号砲から20分以上が経過しているが、未だにオルファスター王国海軍は自分たちの射程に入れていない。

 対して大日本皇国海軍は丁字有利状態に持ち込んで明らかなアウトレンジから余裕をもって、しかも彼らより高い命中率を叩きだす砲撃を見舞い続けている。

 今までの自分たちの戦闘概念からすれば、信じられない話である。

 そんな感慨に耽っていると、後方を監視していた監視員から報告が飛ぶ。

『敵亀甲船、左舷後方より突っ込んできます‼』

 だが、ヨシヨリは慌てずに指示を飛ばす。

「慌てるな。後部主砲で狙い撃て。奴らの速度はどう頑張っても20ノットにすら届かない。こちらの速力、そして主砲の連射力と命中率を考えれば、周囲を囲まれたとしても前方の敵を排除するだけで突破できる」

『は、ははっ!主砲発射準備‼』

 ヨシヨリの指示を受けて、すぐに後部主砲が敵亀甲船の方を向く。

『照準よし‼』

「撃てっ‼」



――ダンッ‼ダンッ‼



 連続で発射された砲弾の内、1発が向かってくる亀甲船に命中した。

 亀甲船は命中した左舷で大爆発を起こし、そのまま傾き始める。

「敵船命中‼大破‼」

「よし。いい具合に敵も減ってきたな。油断するなよ。僚艦の危機あらば助けられるくらいの余裕を持って、敵を撃て‼」

「「「ははっ!」」」

 この時実戦を経験した彼らは、後に日本に帰還してから貴重な実戦経験者として新兵たちの教育に当たることになる。

 その頃、上空を飛行している航空隊はオルファスター王国の竜騎士団と遭遇しているのだった。

次回は11月25日に投稿しようと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっと戦闘が開始された。 オルファスター王国が某小説以上の馬鹿国家であること。 [気になる点] クレルモンド帝国は準列強国または列強国?。 ヴェルモント皇国は最近、空母を導入した流れにする…
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