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戦闘

今月の投稿となります。

いよいよ戦いが始まります……やっとドンパチパートですよぉ……ちょっと前振りと段取り長すぎたかな?

 大日本皇国への宣戦布告から1カ月後、オルファスター王国の港湾都市ササンテでは、大規模な出兵式が行われようとしていた。

 ヴェルモント皇国の供与によって入手できた、前装式80門級戦列艦150隻、前装式100門級戦列艦100隻、そして前装式120門級戦列艦50隻。

 さらにここに亀甲船200隻と、戦列艦の船体を流用した兵士輸送船200隻が加わることで、総勢700隻という大艦隊にまで膨れ上がる。

 戦列艦の船体は、地球史に詳しいものが見ればガレオン船に酷似しているように見えるだろう。

 そして、港湾都市ササンテの竜騎士団駐屯地には200体ものワイバーンと、それを操る精鋭たる竜騎士が集められている。

 内陸部には首都防衛用に50体だけ残っているため、正にオルファスター王国にとっては総力戦ともいえる状態だった。

「うむうむ。我が旗下の艦隊ながら、この圧巻とも言うべき光景は見事なものにゃもねぇ」

 その大船団と、港に居並ぶ兵士たちを見ながら満足そうに頷いているのは、国王であるトールンボ・オルファスターであった。

 その横には、大変良く似た風貌の男が立っている。

 ただし、その男は歴戦の猛者、と言わんばかりの雰囲気を顔に張り付けており、体形も『固太り』というのが正しそうな筋肉質な男であった。

 彼こそトールンボ・オルファスターの弟でありオルファスター王国軍総司令官である、デッコンポ・オルファスターであった。

 兄に似た無能そうな見た目とは裏腹に、これで中々優秀な軍人なのである。

 30年前の大陸間大戦時にはヴェルモント皇国に味方し、亀甲船団と皇国の戦列艦隊の絶妙な連携で同国を勝利に導いた立役者でもあった。

「デッコンポ、この度の征伐は我が国の威信がかかっているにゃも。おみゃーの優秀で、強靭なる精神の下での指揮において、日本という島国のサルどもを完膚なきまでに叩きのめすにゃも‼」

 デッコンポはニヤリと笑うと、頼もしそうな姿で胸を張った。

「もちろんにゃも兄上。相手は所詮無駄に硬いだけの鈍足艦。亀甲船の速度で翻弄し、どてっ腹に穴を空けてやって海の藻屑にしてやるにゃもよ……にゃっぷっぷっぷっぷっ‼」

 だが、彼らは知らない。今や大日本皇国の主力艦隊は自分たちの水準から100年以上離れた能力を発揮するということを……。

 そんなこととは露知らず、トールンボは壇上で大声を張り上げた。

 彼の声を隅々まで響き渡らせるために、拡声魔法を用いている。

『勇敢なる兵士諸君!にゃものため、そして王国のためにとよくぞ集ってくれた!相手は生意気にもにゃもの要求を断った!第3世界大陸最強のヴェルモント皇国の、その保護国として!にゃもは奴らに見せつけてやらねばならない!』

 実際にはプライドが肥大化して危険な方向へ走っている典型的な例なのだが、本人たちは全くそれに気付いていない。

 そんなことは露知らず、トールンボはさらに意気揚々と続ける。

『にゃもたちがいかに強く、賢く、気高い存在であるかを思い知らせてやるにゃも‼暴れてこい兵士たちよ‼ただひたすらに、叩き潰し、殺し尽くせえッ‼』



――オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォッ‼



 トールンボの最後の言葉が終ると同時に、陸海合わせて5万を超える兵士たちは地面を揺るがさんばかりの雄叫びを上げてそれに応えるのだった。

 こうして、オルファスター王国陸海軍は、東方300kmの地点にある島国、大日本皇国を蹂躙するべく、勇壮な音楽と共に出港するのだった……この時、港湾の隅で彼らを水中から見ている影がいることにも気づかずに。



「艦長、敵艦隊が出港を開始しました。速力は……現在のところ10ノットから12ノットと推測されます」

「了解。直ちに司令に連絡して」

「はっ‼」

 艦長……伊400ことヨーの命令を受けた通信員が、素早く通信を送る。

 ヨーたち伊400型潜水艦はこの1ヶ月、旭日の命令で交代しながらオルファスター王国がいつ出兵するのかを見張っていたのだ。

 港の隅っこに波の流れで集まった流木や葉っぱの集まりのように見せるという偽装をすることで、艦橋を水上に出して通信することも可能としている。

 これにより、オルファスター王国の行動は筒抜けであった。

 相手に『潜水艦』という兵器の概念がないということは分かっていたので、潜水艦1隻を偵察に使うことでリアルタイムな情報を得ることができるのだった。

 おまけに、相手は薄い装甲板を張っているとは言っても木造船なのでレーダーに映るかどうかも怪しいのもこの作戦の理由だった(一応大蔵艦隊のレーダーならば20cm砲弾であろうとも捉えることができるので映らないということはないはずなのだが)。

 潜水艦が気づかれる可能性は少ないため、旭日は今回偵察用の飛行機は飛ばさないつもりであった。

『敵艦隊出港。敵ノ内訳ハ戦列艦400、亀甲船200、輸送船ラシキ船200以上。速力推定10ノット~12ノット前後ト推測。直チニ対処ノ必要アリ』

 連絡を終えると、自身の船体に被せていた木材や葉っぱなどの偽装をほどく。

「さぁ、我々も彼らについて行きましょう」

「了解です」

そのままゆっくりと航行を開始して、大船団の後をついていったのだった。

残念なことに、港の艦隊が出港する派手さに紛れていたため、彼らの存在に気付いた者は皆無だったという。



 その頃、旭日は西部港湾都市ナゴヤ沖50kmのポイントで、今回の旗艦を務める飛鷹の艦橋に立っていた。

「司令、ヨーから連絡です」

 飛鷹がメイドさんという見た目に違わぬ恭しさで通信の内容を記した紙を渡すと、旭日は素早くそれを読み終える。

 旭日は元々本を読むのが好きだったこともあり、『文字を読みその意味を理解する』ことに関してはかなりの速度であった。

 なお、今回は敵に電波通信およびモールス通信の概念がないと判断して暗号化はさせていない。

「よし。全艦に通達。直ちに抜錨し、敵を迎撃、それが終了した後に、敵国本土に打撃を与える。ではこれより、『鳥羽伏見作戦』を開始する!」

『了解‼』

 旭日の合図と共に、輸送艦を含めた艦隊が機関を始動させ、巡航速度である15ノットの速度で航行を開始する。

「しかし、想定より巡航速度が速いな」

「確か、過去に存在した戦列艦は人の手で漕いでいたため、出せても精々10ノット前後が限界だったと司令は仰っていましたが?」

「あぁ。そのはずなんだが……考えてみれば、俺の知識はあくまで地球における、人力を用いた船舶の常識だからな」

 飛鷹は立ったまま喋っている旭日に紅茶を注ぎながら思いついたことを口にしてみる。

「魔法、でしょうか?」

「恐らくそうだろう。なにかしらの補助を魔法で加えるとすれば、それほどの速度が出せてもおかしくはない」

 旭日はオルファスター王国での馬車という例があったにもかかわらず、この世界の魔法が航行に使用されている可能性を想定に入れることを忘れていた。

 ワイバーンのことはあまりにもポピュラーだったので、逆に考慮に入れていたのだが。

「日本のエルフやダークエルフたちが言っていたことが確かなら、風魔法や水魔法を利用すれば船の速力は大幅に上げることができるはずだ」

「やはりそうでしたか」

 旭日は受け取った紅茶をゆっくりと口に含むと、さらに続けた。

「大日本皇国が1年前まで採用していた鉄甲船ですら、水魔法を利用して10ノット近くまで加速できたことを考えれば、それより軽いであろう戦列艦ならもっと速度が出るだろうな。いや、待てよ……」

 旭日は亀甲船のことを思い出すと、亀甲船の予想設計図を取り出した。

「もしそうだとすると……もっと小型の亀甲船が水魔法でウォータージェットみたいなことができるとすると……さらに魔法で船首を強化することができれば……場合によっては、鋼鉄艦ですら貫ける破壊力があるかもしれないな……迂闊だった。優先目標を、亀甲船にするべきだな。輸送艦をやられたら元も子もない」

 元々亀甲船は史実においてはトップヘビーでバランスも悪く、浮かぶのがやっとという代物だったらしいが、この世界には魔法がある。

 それをうまく用いれば、ちゃんとした能力を発揮することもできるのだろう。

 飛鷹は旭日の言葉を受けてそれをメモしていく。

「では、輸送艦の防衛を第一としつつの迎撃としますか?」

「そうだな。できる限りは航空隊で減らしたいところだけど……それよりは扶桑の副砲や、高速航行できる北上たちに任せるべきかな。だとすると……やっぱり航空隊の対艦向け爆装は500kg爆弾がいいところか……800kg爆弾じゃオーバーキルだ」

「相手が木造の玩具ではでは正直に言いまして『やり過ぎ』な気がしますが」

 こんな感じで飛鷹がところどころで話にフォローを入れてくれるので、旭日も話しやすい。

「ま、基本的に輸送艦にも自衛用の高角砲があるからな……連装高角砲の有効射程は10kmを超える。2kmくらいまで十分に引き付けてからでもどうにかなるだろうが……あんまり引きつけ過ぎると、今度は数に押される可能性もあるか……」

「その点は各艦で連携させるしかないのではないかと」

 輸送艦とはいえ、数が少ないことから今回の戦闘に加わるであろうことを想定していた旭日は、宣戦布告が通達されたあとから輸送艦同士の防衛に関する連携訓練も行わせていた。

 幸い、一等輸送艦の主砲は連装砲なので、『1発外してもすぐに修正が効く』という点に加えて、相手の速力を考慮すれば、引き付けることで十分に当てられるだろうと旭日は考えて訓練をさせていた。

「ま、そうだな。あとはなるようにしかならない。一応ヨーに背後から追撃を加えさせるつもりでそのまま追尾させよう」

「『晴嵐』は出撃させますか?」

「そうだな……ヨーイ及びヨーツは『晴嵐』を出撃させろ。爆撃よりは機銃掃射だな。戦列艦の数を少しでも減らしてもらった方がいいだろう」

 飛鷹はそこで一番気になったことを聞くことにした。

「潜水艦は秘匿しておいた方が後々いいかと思いますが……その点はいかに?」

「あぁ。だから攻撃をさせるのは、いざという時にヨーによる後方からだけだ。基本的にはヨーイとヨーツには『晴嵐』を出撃させたら海中に潜んでいてもらおうかな」

 旭日は後方からの攻撃によって攪乱を試みようということらしい。

「では、そのように」

 飛鷹が素早く通信士にメモを手渡した。今の内容を僚艦に伝えさせるのだろう。

「さて。細工は流々その後は、仕上げをじっくり御覧じろ、って感じにしたいねぇ」

 旭日は目の前の青い海を見つめながら、いずれ会敵するであろう敵の姿を想像するのだった。

 


 それから半日後、オルファスター王国軍船団は既に港湾都市ササンテから東へ約120kmのポイントを通過していた。

 旗艦である120門級戦列艦『ホウホロ』の船尾楼では、デッコンポが魔法で出現させた水を飲みながら地図を睨んでいた。

 余談だが、この世界での船旅は魔法が使える者がいれば、長期間でもそれほど苦ではなくなる。

 なぜかと言えば、魔法を使える者が魔法で水を出現させ、その水を沸かしてお湯にすれば様々な料理ができるからである。

 干し肉を水で戻して茹でることも、旅の途中で捕まえた魚や鳥などを調理するのも問題ないのだ。

 要するに、魔力さえ枯渇しなければ水はほぼ無尽蔵に出せるのだ。

 ここに関しては、魔法が地球より優れている点であろう。

 流石に新鮮な野菜はそうもいかないが。

「まずは奴らの船を見つけ次第ワイバーンの上空支援を要請するにゃも。ロクな対空手段を持たない日本の船は……上部構造物が薄いとはいえ鉄板で覆われているからそれほど打撃にはならないはずにゃもが……」

 コップの水を飲み干すと、『げぇぷっ』と汚い息を吐き出す。

「それで混乱しているところに戦列艦と亀甲船で一気に畳みかけるにゃも……まぁ、奴らは足も遅い上に基本的に数が少ない。砲門数も圧倒的に我が方が上にゃも……まずにゃもの勝ちは間違いない……」

 彼の思考は、見張り員の『敵艦隊発見‼』という報告によって中断せざるを得なくなった。

 デッコンポは太い見た目に合わない素早さで船尾楼を飛び出すと、マストの上に立つ見張り員に声を張り上げた。

「ば、馬鹿な‼まだ奴らの哨戒網までかなり離れているはずにゃも‼島かなにかの見間違いじゃないにゃもか‼」

 一方、間違いでないかと問われた見張り員も自分の意地にかけてと返答する。

「いいえ!船の舳先に、日本の国旗である太陽を象った旗がかかっております‼あれは大日本皇国の旗印です‼間違いありません‼」

 デッコンポは自身に風魔法をかけ、見張り員のいるマストの上まで上昇した。

 デッコンポの優秀な能力1つとして、体内に練り込める魔素の量が常人よりも多いというものがある。

 これにより、彼は他人より迅速に魔法を発動することができるため、味方の支援に大きく役立つのだ。

 大日本皇国とアイゼンガイスト帝国以外では精霊の加護が消えて久しいため、多くの人間はこのようにして魔法を発動するという特徴がある。

「そこのお前、望遠鏡を貸すにゃも‼」

「はっ‼」

 見張り員から望遠鏡を受け取ったデッコンポは、水平線の彼方を見つめる。

 この世界(惑星)は地球より大きく、水平線がよりなだらかになっているため、遠くを目視でも見やすい。

 そのため、遠くの敵を目視で発見する比率が高くなっており、航空索敵などと合わせて重要視されている。

「あれにゃもか……」

 見れば、やたらと目立つ巨大な船がこちらに向かって航行していた。

「なんで奴らがもう迎撃態勢を整えているにゃも。まさか、魔法通信のできるスパイでもいたにゃもか?」

「しかし、我が国の魔法防諜態勢は大陸国家群の中でもヴェルモント皇国に次ぐものです。島国の……魔法とよくわからないものを合わせているような蛮族如きにそれを突破できるとは思えないのですが……」

「ムムム……じゃあなにか?魔法以外の手段で通信できて、それをずっと伝えることができるような技術があるとでも?そんなはずないにゃも」

 しかし、デッコンポにとって残念なことにこれは半分正解だ。

 彼らは水の中に潜って戦うという概念がないため、潜水艦である『伊400』が追跡してきていることに全く気付いていなかった。

 そして、その『伊400』は追跡しながらオルファスター艦隊の状態を電波無線で逐一報告し続けていた。

 相手に電波無線の概念がないであろうことは旭日が予測していたため、敵艦隊につかず離れずの距離を維持させながらシュノーケル状態で常に通信を送らせていたのだ。

「いずれにしても、もう40kmは切っているにゃもね……よし、総員に通達‼第一種戦闘配置‼戦列艦隊を前に押し出し、奴らの正面から単縦陣で突っ込ませるにゃも‼亀甲船団は砲撃で相手が混乱しているところに突入し、一気に攻撃する‼また、直ちに本部に連絡してワイバーンの支援を要請するにゃも‼」

「了解‼」

 デッコンポの指示を受け、兵たちが各自の持ち場に動き出す。

「それにしても、この距離であれほどの大きさに見えるとは……随分と縦にデカい船にゃもねぇ……一体なにをどうやればあんな船ができあがるにゃもか?」

 彼が望遠鏡を見張り員に返し、甲板に降り立つと同時に通信士が『報告!』と言って駆け寄ってきた。

「ただいま本土竜騎士団詰所より『上空支援のワイバーン200騎を発進させた』との返答がありました‼」

「ご苦労‼では竜騎士団が到着次第、同時攻撃を仕掛けるにゃも。さて……海と空からの同時攻撃に、奴らはどれほど耐えられるにゃもかねぇ……ぷっぷっぷっ‼」



 一方、大蔵艦隊でも敵を目視で捕捉していた。

「敵艦隊増速‼相対速度から、あと1時間半ほどで敵の射程圏内に入ると思われます‼」

「対空電探に感あり!数は200‼」

 敵本土から出撃したワイバーンが対空レーダーに引っかかった。

「かつての先輩たちもこうやって行動を先読みされながらミッドウェー海戦やマリアナ沖海戦を戦ったのかな……直ちに航空隊を迎撃に上げろ。烈風の性能なら最大時速250kmの相手でキルレシオ5対0くらいはいけるはずだ……本来撃墜王級の腕が必要になるけどな」

「流星の爆装種別はいかがしましょうか?」

「そうだな……雷装は不要。全機爆装で」

「その心は?」

 わかっているはずではあるが、最後の確認という意味も込めて聞いてくる飛鷹に対して旭日は『ニヤリ』と笑った。

「敵の戦列艦は装甲化もされていない木造船だ。ぶっちゃけ脆い」

「仰る通りだと思います」

「さっきも言ったとおり、そんな相手に800kg爆弾や800kg魚雷はオーバーキルすぎてもったいない」

 しかも、大蔵艦隊の魚雷は九三式魚雷こと、有名な『酸素魚雷』だったため、かなりお値段も張る。

 本来航空魚雷は製造の簡易な空気魚雷にしているのだが、大蔵艦隊では強敵に備えて酸素魚雷の航空魚雷バージョンを配備しているのだ。

 魚雷は訓練には最適(発射装置は圧縮空気で押し出すだけのモノなので、大砲と違って消耗が少ない)なのだが、弾体そのものはタービン機関などの複雑な機構が多くて結構高価な兵器なのだ。

 一説によれば、『魚雷1本、家1軒』とまで言われたほどのお値段らしい。

 もっともそれだけに、命中性能(この場合は大戦末期に実用化された音響誘導魚雷を比較対象に)以外の『威力』、『射程』、『隠密性』などの要目に関しては、当時の地球に存在した魚雷兵器の中でも最強クラスの存在だったという。

飛鷹はそんな事情を知っているからか、ここで苦笑を見せた。

「まぁ、そうでしょうね」

「ついでに言うと、60kg爆弾でも戦列艦には十分な打撃になるだろうが……そんな爆弾を流星は6発積めるとは言うが、その投下タイミングは『同時』だ」

 つまり、1隻に投下するのが関の山なのだ。

「それで今回は確実に撃破することを想定して500kg爆弾(対艦用)を艦船用に、それに続くように都市攻撃用の800kgと60kg爆弾を搭載しているわけですね」

 要するに、空母への爆弾搭載量を割り振ることで増やしたかったのだ。

「まぁ……ウチの艦隊は烈風の数が多いのが救いだな……できれば流星も制空戦闘に加わらせたいところだが……万が一抜けられたら艦隊の防空網でなんとかするしかないな。その場合は空母も参加しての全力対空戦闘になるだろうな」

 空母を当てにしているのは、空母の対空火器がかなり充実しているからである。

 特に、『雲龍型』には12cm28連装噴進砲が搭載されている。

 しかも、神様特典でこの噴進砲の弾体には近接信管が搭載されている(もちろん設計図もあるため、工場と工廠を立ち上げた現在なら量産も可能)ため、時限信管だった前世と比較するとかなり命中率が上がっている。

 これに加えて、空母には50口径12.7cm連装高角砲及び25mm三連装機銃も大量に搭載されている。

 また、空母の艦載機に関してもかなり充実している。

 『飛鷹型』が基本的に艦戦12機+補用3機、艦攻18機、艦爆18機+補用2機の53機だが、この内艦攻と艦爆に関しては流星で統一しているため、攻撃機はなんと36機+補用2という膨大な数になる。

 艦戦が18機なので烈風1機で5体のワイバーンを落とした場合、1隻の飛行隊で90体は墜とせる計算になる。

 だが、それもあくまで理想である。

 そしてその艦載機の数についてだが、本来の『雲龍型』は艦戦12機+補用3機、艦攻爆45機+補用5機なのだが、大蔵艦隊の雲龍型は流星を6機減らしてそれを烈風に当てている。

 制空戦力の拡充を太陽神が重視したらしい。

 この空母が2隻という計4隻の制空隊18×4なので、合計72機となる。

 性能差も考えれば、200機という数はかなり余裕をもって相手できるはずだった。

 推定で1機につき3体墜とせれば十分である。

 しかし、旭日はそれでも安心しなかった。

「とにかく艦戦はできる限り全機あげる。敵ワイバーンを1体たりとも艦隊に近付けさせるな‼攻撃隊は敵航空隊を排除した後に攻撃を開始させる」

 ただ、旭日としては、敵機とのすれ違いざまに攻撃を叩き込むだけでも大幅に減らせるだろうと推測しているため、攻撃隊にも無理のない範囲でワイバーンを落としてほしいと考えていた。

「あと、直掩は各飛行隊から3機ずつ、計12機だ」

「了解しました」

 飛鷹は再び通信士に必要事項を伝達する。

 艦内では男たちが動き回り、航空機の発進準備をする。

 甲板上に駐機していた烈風の『誉』エンジンが点火し、レシプロエンジン独特の音が、広い甲板の上に響き渡る。



――ブルン、ブルン、ブルルルルルルルルルルルルルッ‼



「発艦準備急げーッ‼」

「回せ回せ回せーッ‼」

「オラ邪魔だ邪魔だどけどけーッ‼」

「爆装だ!爆装を急げーッ‼」

「ミッドウェーやマリアナのようになるなよォ‼」

 その様子は、まさに戦場というべき程の目まぐるしさであった。

 飛鷹が風上に向かって加速すると同時に、舳先の方でエルフやダークエルフの魔導師たちが精霊への念を述べる。

『『風の聖霊よ。強大なる向かい風を起こし、勇猛果敢なる戦士たちを大空に導きたまえ‼』』

 彼らが精霊への念を述べると、それまで航行によって発生する合成風だけだったのが、凄まじい向かい風が吹き始めた。



――ゴオオオォォォォォォォォッ‼



 旭日は艦橋からその光景を、飛鷹と共に眺めている。

 旭日旗のはためき具合から、その風が凄まじいことがうかがえる。

「魔導師たちを空母に乗せたのは正解だったな」

「はい。訓練でも彼らの力が大きな成果を発揮しました」

 実際、訓練中は停泊状態からの発艦まで実験したのだが、その強力な魔法の合成風により、停泊状態での発艦に成功したのだ。

 雲龍型には幸いなことに神界での改装によってカタパルトが設置されているため、魔導師の手助けは必要ない。

 しかし、飛鷹型もカタパルトがあるとはいえ、飛行甲板の大きさが結構ギリギリなのでこの魔導師の風魔法による補助があるのとないのとでは、発艦の安定度合いがまるで違うのだ。

「よし、準備のできた機体から発艦開始せよ」

『各機、発艦開始‼』

「帽振れーっ‼」



――ブルルルルルルルルルルルルブウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥンンッ‼



 そして準備が整ったことで信号員が旗を振ると、甲板上に並んでいた機体がゆっくりと動き出した。

 大日本帝国があの零式艦上戦闘機の後継機として開発をしたものの、用兵側の無茶苦茶な要求や難癖(設計者側が進めるエンジンを採用しなかったなど)終戦までに実用化の間に合わなかった一八式艦上戦闘機・烈風が、遂に異世界の空で、国と国との戦いのために飛び立つのだった。

 さらに烈風が飛び立った後には、烈風とはまた違う状況ではあったものの、搭載する空母がなく限定的な活躍しかできなかった艦上攻撃機・流星も、爆弾倉に500kg爆弾を1本搭載して発艦を開始した。

 すると、レーダー監視員が『接近する6機の機影を確認‼』と報告した。

「恐らく、僚艦の晴嵐だと思われます」

 すると、今度は通信員が報告する。

「司令、晴嵐隊より通信です。『我コレヨリ航空隊ノ端ニ加ワラン』とのこと」

「よし……皆、頼むぞ」

 こうして、旭日たちも動き始めるのだった。



 一方、オルファスター王国艦隊でも敵の動きは捉えていた。

「敵の大型船舶より、飛翔する物体あり!」

「船から飛翔する物体?まさか、奴らはヴェルモント皇国の……列強国のような飛空母船(エアロ・キャリアー)を実用化しているとでもいうにゃもか?」

 さらに見張り員は続ける。

「敵飛翔体の速度は300kmを遥かに超えている模様‼」

「ば、バカな‼相手は極東のサル共にゃも!そんな奴らが一体どうやってそんな高速で飛翔する技術を身に着けたというにゃもか‼」

 有翼族などが存在していることは知っているものの、彼らは日本に航空母艦という兵器があることを知らなかったため、洋上で航空戦力を展開してくることなど、しかもその飛行物体が自分たちのワイバーンより強いかもしれない可能性を持っているなど、全くの想定外であった。

 戦列艦『ホウホロ』の艦長であるナミロウがデッコンポに近づく。

「司令、どうされますか?このままでは敵の航空戦力がワイバーンより早くこちらに辿り着いてしまいますが……」

「竜騎士団の到着まで、あと20分‼」

 デッコンポは懐から懐中時計を取り出すと、『グヌヌ……』と唸った。

「えぇい、仕方ないにゃもね……対空戦闘用意‼竜騎士団が到着するまで、敵の航空戦力を船団に近付けさせないようにするにゃもよぉ‼」

 


 一方、先頭を行く戦艦扶桑の艦橋でも、敵艦隊の姿を捉えていた。

「艦長、敵艦隊が有効射程内(15km以内)に入りました」

「それでは、10kmを切ったところで主砲による砲撃を開始します。航空隊は後方の輸送船を先に攻撃するそうですので、我々は先頭の戦闘艦艇を叩きます。なお、弾種は通常榴弾で行きましょう」

「航空隊より報告‼『敵船団ヨリ、分離スル一団アリ‼小型の亀甲船ト思ワレル』とのことです‼」

 しばらくして10kmを切ったところで、今度は扶桑の艦内から通信が入る。

『装填良し‼』

『主砲仰角調整良し‼』

「主砲発射、いつでも行けます」

「艦長、ご指示を」

 艦内には外部乗員に退避するよう促すブザーが鳴り続けている。

 扶桑は一瞬瞑目すると、『カッ』と目を見開いた。

 戦うことを定められた軍艦の化身として、戦いの中に身を投じることは本望であった。

 その強い眼差しには、一寸の迷いもない。

「主砲、撃ちぃ方始めぇ‼」

「撃ちぃ方始めぇ‼」

 扶桑の勇壮な声と共に、艦首に備わっている45口径41cm連装砲が同時に火を噴いたのだった。

 これが、後に世界を変える引き金と語り継がれるようになる『日尾戦役』と呼ばれる戦争の発端、『日尾海峡海戦』の始まりを告げる号砲となった。

『航空隊の発艦はもっと早くていいだろう』という声もあると思いますが、海空同時攻撃による敵の混乱を狙ったモノです。

本来薄い鉄板を張り付けた木造船程度ならばそんな配慮も必要ないかとは思ったのですが……

次回は10月28日に投稿しようと思います。

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