使節派遣
今月の投稿になります。
いよいよ次回、トールンボ・オルファスターとの面会ですが……嫌な予感しかしません(笑)。
明治天皇からの呼び出し及びそれに伴う勅命の2日後、旭日はキイに停泊している香椎の船上に腰を落ち着けていた。
大日本皇国の周辺は、基本的に海流が穏やかで漁業に向いている温和な海が多いのが特徴である。
ただし、黒潮と親潮は旧世界同様に存在するらしく、その周辺は潮の流れが早い代わりにかなり良い漁場となっている。
そんなこともあって、最大の港湾都市であるキイには、各国からの様々な形状の帆船も多く航行している。
色々とカラフルでバリエーション豊かな旗を掲げた商船を見ているのも、乙と言うべきか中々楽しいものである。
だが旭日はそんなことを考える暇もなく、香椎の艦橋の中でオルファスター王国に関する資料を見ながら唸っていた。
立ちながら資料を読んでいる旭日だが、かなり姿勢はいい。
「オルファスター王国、ねぇ……一応データと魔導写真を見る限りは明朝から清朝初期くらいの中国に似た部分が多いようだが……国土の広さはともかく国力的にはほぼ1年前の我が国と同レベルか……そんな国がなんで急に無茶苦茶でデカい要求をしてきたんだかなぁ……」
旭日の顔色をうかがいながら、向かいに座っている大鳳が問いかける。
「やはり、列強国の威を笠に着ることで、自国の利益を無理矢理増やそう、と考えているというところでしょうか?」
旭日は書類を見て唸りながらも、飛鷹が淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
「陛下の話によると、世界を巻き込んだ『世界大戦』とも言うべき戦いから30年ほど平和が続いていたらしいが……その中で日本が平和ボケして文明圏に属さない蛮族だという立場を忘れた、とでも思ったのかねぇ?正直に言って関税の改正に関する話以外はなにが目的なのかは読めないな……」
「そうですか……」
見れば、目の前に座っている大鳳は若干不安そうな顔をしていた。
「怖いか?大鳳」
声をかけられた大鳳は一度目を瞑ると、旭日の顔を見直した。
「怖い、と申しますか……前世界とはまるで異なる価値観及び国同士の関係の中で、なにをどうするのが正しいのかわからないことと、たった一言で戦争になってしまうかもしれないという不明瞭な現状に若干不安があります」
一見すると弱腰な発言だが、大鳳の言うことももっともである。
旭日も愛読していた異世界モノの小説では、主人公や転移した日本国が旧世界とは全く違う価値観に悩まされる、あるいはそれによってヒドイ目に遭わされることなどしょっちゅうだったからである。
今回もそのようなことになるのではないかと、薄々だが感じていた。
「なるほどな。ま、極が付くほどの短期決戦で済ませればウチの圧勝だろうけど、長期戦、特にゲリラ戦に持ち込まれたら色々面倒だよなぁ……そういう意味でも今回の使節派遣は好都合だ」
「え?それはどういうことですか?」
大鳳はどういう意味なのか分からずポカンとしてしまうが、旭日は鋭い視線のまま書類から目を離していなかった。
「実地で相手国のインフラとか、首都までの最短ルートを確認しておけば、いざって時に作戦を立てやすいだろ?」
旭日のあっさりとした言葉に、大鳳はハッと顔を上げる。
今の一言で、旭日が相手の返答次第では戦争も辞さない覚悟を持っていることを、ひしひしと感じたからであった。
大鳳のつるつるとした頬に、冷や汗が一筋伝う。それは恐怖なのか、それとも覚悟の決まっている旭日に対する畏怖なのか……だが、改めて大鳳も心を決めた。
「……心得ました。なにがあろうとも、司令に付いていきます」
「そんな、大袈裟だって」
旭日は緊張から固まった態度を見せている大鳳に思わず苦笑いしているが、その目は全く笑っていない。
大鳳は旧世界では温厚な性格だったと言われている旭日が、もしも本気で怒ったらどうなるのか、今から恐ろしくて仕方がなかった。
そんなことを考えていると、香椎がひょこっと艦橋に顔を出してきた。
「司令、そろそろお昼ですよ」
「お、もう昼飯か。今日は確か……」
「今日は香椎カレーでぇす」
「おぉし。大鳳、行こうぜ」
旭日がゆっくりと香椎について出ていくと、大鳳もそれに続いたのだった。
もっとも、旭日の先ほどの言葉があるせいか、緊張は崩していないが、その背中には強い意志のようなものが見える……そのように思える大鳳だった。
なお、扶桑は先に行って食事の用意を手伝っていた。
「司令、こちらへどうぞ」
「おぉ、悪いな」
元々商船構造で余裕があるとはいえ、日本につくまでの数日はネームシップである香取の会議室に艦長娘全員が集まっていたため、かなり手狭だった。
だが、今回は旭日を含めても4人のため、ゆったり座れる。
卓上には、大きなチキンカツの乗ったカレーと、大日本皇国産の野菜をしっかりと蒸した蒸し野菜、そして牛乳が並んでいるのだった。
カレーの辛みを打ち消すには、牛乳やラッシーのような飲み物がよく合うのである。
そんな旭日はどちらかと言えば牛乳派であった。
また、本来野菜はサラダなのだが、旭日の好みもあって蒸し野菜サラダとなっているのも特徴だ。これはこれで『食べやすい』と評判なのである。
調理に『蒸す』という若干の手間はかかるものの、やはり料理というものは娯楽である以上おいしく食べられることが重要だ。
「おぉ、こりゃうまそうだ」
「司令のお好み通り、程々に辛みを、あとはうま味を重視しました」
「んじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
3人も旭日に続くようにして食べ始めるが、旭日は美味しそうな表情をしつつも全く喋らない。
普段は皆に気を遣うように色々と話しかけてくるだけに、その変化を扶桑、大鳳、香椎の3人は強く感じていた。
「「「(こ、怖い‼司令の沈黙がとても怖い‼)」」」
結局、旭日は食事中一言も喋らなかったのだった。
その翌朝、旭日は香椎からの報告を受けて目覚めると、目の前に大きな陸地が広がっているのを見た。
水平線いっぱいに広がるその陸地は、非常に広大であることを物語っている。
「おぉ、あれがオルファスター王国の港町か」
「港湾都市ササンテ、だそうです」
確かに港湾部はかなり大きく。多数の船舶が出入りしている様子がうかがえる。
中には、明らかに帆船とは思えない船も見えた。
見た感じだが、明治時代前後の蒸気貨客船らしき構造……に見える船も見える。
「なるほどな。日本と、日本の西にある国々との交易が盛んと言うだけあって多くの国家が訪れているようだな」
沖合で見たものとは比べ物にならない数の船が行き来している様子は、正しく港町と言うに相応しいモノであった。
さらに、オルファスター王国の国旗を掲げた軍船らしい構造の船も多数見受けられた。
そこには、舷側に大量の大砲を搭載した木造船が見られた。
ちなみに、形状的にはやはり旧世界の清国の船に似ているように見える。
「大型の船は、見た目こそ中華系のジャンク船に似ているが、設計的にはほぼほぼ戦列艦だな……」
「戦列艦、ですか?」
「ほら、イギリスのヴィクトリー号みたいなヤツだ」
「あぁ、あれのことですね。基本的に『ガレオン戦艦』と呼んでいましたので……」
扶桑は戦列艦と言う単語を知らなかったようで、ヴィクトリー号の名前を聞くまでは大鳳や香椎と共に首を傾げていた。
海軍を志す者であればネルソン提督の『ヴィクトリー号』などを知っていてもおかしくないはずなのだが、扶桑たちはこれでどこか抜けているところがある。
名前が違えば日本人にはピンとこないのはよくある話である。
それはさておき。
「あぁ、戦列艦ってのは大航海時代から幕末くらいに存在していた軍艦だ。簡単に言えば、昔は大砲の命中率が低いうえに射程もべらぼうに短いから『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』の原理でとにかく大砲を乗せて接近して、その数で圧倒しようっていう考え方の船さ」
当時はカルバリン砲や、射程は短いが大威力のカロネード砲などを装備し、特にイギリスの艦隊は猛威を振るったという。
しかし、当然ながらこの船には重大な欠陥がある。
「問題なのは、戦列艦っていう船が『必要以上に大砲を搭載している』ってところなんだよな……」
「どういうことですか?」
「大砲をたくさん搭載しているってことは、砲弾ももちろんだけど、それを飛ばすための『火薬も』大量に搭載しているってことだ。そんなところに現代レベルの砲弾が1発でも飛び込んだら、どうなる?」
その言葉に香椎が『ハッ』と言いながら可愛らしい口元を抑えた。
「マッチ1本火事の元……」
「そういうこった」
「では、我が国の採用している艦砲弾が1発でも命中すれば……」
「大誘爆を起こして真っ二つ、そのまま轟沈だろうな。ここの船は砲弾の爆風除け鉄板も貼り付けてないみたいだからな……下手したら二等輸送艦の8cm高角砲でも1発でドカン、だぞ。そんなことになったら目も当てられない」
だが、軍船はそれだけではなかった。
背の低い、衝角の鋭そうな船があった。船首は竜を模した形状になっており、その船には大砲の類は乗っていないように見える。
さらに言うならば、その船には屋根が付いており、屋根には薄めだが鉄板も貼ってあった。
少なくとも、弓矢から火縄銃くらいは防げそうに見える。
「あれは……もしかして亀甲船か!?」
「亀甲船というのは?」
旭日の驚いた表情に扶桑が質問すると、旭日が『それはな』と船から目を離さずに説明をする。
「まだ日本が戦国時代の頃、豊臣秀吉による朝鮮出兵があった。だがな、豊臣軍は水軍戦で補給線を絶たれて負けた。その時の水軍の一部に、亀甲船という船が存在したんだ」
李瞬臣の率いた亀甲船団により補給線を絶たれた豊臣軍は徐々に弱っていき、秀吉の死後になってから這う這うの体で引き上げることになるのだ……と、言われているが、近年それは否定されつつあるという。
そもそも、亀甲船事態が存在したかどうかすら怪しいと言われているのだ。
実際のところは確かに日本の輸送は細々としたものだったそうだが、現地の調査不足など他にも様々な要因が重なった結果だと言われている。
復元された亀甲船に関しても、浮くのがやっとでロクに進めなかったという話もあるくらい、と言えばその様子がうかがえる。
だが、そんなものが普通に浮いて航行しているところを見ると、なんらかの魔法で強化しているのかもしれないと旭日は考えていた。
歴史好きの旭日からすれば、教科書でしか見たことのない、それも架空に近い存在だったものを間近で見れて楽しさ半分、面倒なことになりそうというのが半分という複雑な気持であった。
「なるほどな。だいたい戦術は読めた」
「と言いますと?」
「航空戦力がいるかどうかである程度想定は変わるが、水上戦闘だけで言うならもう考えはまとまったな」
旭日は悠然と浮かんでいる戦列艦を指差す。
「戦列艦の砲撃で相手の艦隊を乱しているところに亀甲船が高速で突っ込んでいって船の横っ腹……できることなら喫水線下に穴をあけるんだろうな。強いて言うならば、文明水準が明朝から清朝レベルであることを考慮すると、大砲の砲弾もカルバリン砲(前装式大砲)やカロネード砲で、破裂しない可能性があるな」
「球形砲弾、という奴ですか?」
扶桑の言葉に『多分な』と言いながらカメラを取り出して写真を撮り始めた。
「でなけりゃ逆に亀甲船が突っ込めないだろうと思うんだがな……もしかしたら、炸裂砲弾だったとしても、流石に亀甲船が突っ込む時には砲撃をやめるのかな……いずれにしても数の多さは面倒くさいな」
正確に言うとそもそも信管が登場する以前にも尖頭弾自体はあったのだが、炸裂しないとなるとどうしても威力の点で劣る部分がある。
ただし、喫水線下に穴でもあけられれば別かもしれないが。
「1年前の日本の大砲はフランキ砲(後装砲・ただし砲尾の構造がまだ未熟)レベルで最大射程1km。そして炸裂しない可能性が高い。オルファスターは衝角でとどめを刺すことを主力にしているように見えるとすると、よくても長射程のカルバリン砲レベルで最大射程2kmってところかな。ただ、もしカルバリン砲レベルの能力があれば。砲弾次第では炸裂もすると思うけど……こればかりは実戦を経験しないと分からないな」
つまり、扶桑を始めとした大蔵艦隊はもちろんのこと、今日本に配備が始まっている『松』型駆逐艦や『秋月』型駆逐艦でも1隻で数十隻以上は相手にできるだろう。
ついでに言うならば、魔法で加速することを想定しても木造船では20ノット前後が限界だろうということを考えると、速力もほぼ間違いなくそれほど速くない扶桑や香取たちでも勝てるだろう。
輸送艦も主機関を変更しているため、軒並み20ノット以上は出せる。
「あとはさっきも言った通り、航空戦力かな。対空レーダーに反応はあるか?」
レーダー員に聞くと、レーダー員がこちらを向く。
「港湾都市の上空を飛行する反応が10見えますね。少なくとも、編隊を組んでいるように見えますので、それが航空戦力ではないかと考えられます」
「方角は?」
「2時の方角です」
艦橋から顔を突き出しながら、その方向に向けて双眼鏡を覗き込んだ。
「あれは……ワイバーンか」
「ワイバーン……エリナ様にお会いする前に撃ち落として美味しくいただいた『空飛ぶトカゲ』でしたね」
仕官した後で日本において情報を収集したところ、ワイバーンは最大で時速250kmは出せるという。
ただ、恐ろしい点が1つあった。
「巡航速度である120kmから150km前後の速度で、西から流れてくる気流に乗っていれば、半永久的に飛び続けていられるっていうのは中々反則だぜ」
「それは思いました」
だが、実際に軍で運用する場合は、会敵した時に最大速度を出さなければならないことと、激しい戦闘で魔力を消耗してしまうことによって、一気に疲弊してしまう。
なので、半永久的に飛んでいられるのは野生の、南の方へ渡りに出る飛竜か、大陸間で旅行をする者の乗る旅行用ワイバーンくらいである。
ちなみに、そんなワイバーンを含めた飛行生物による基本的な戦法は『一撃離脱』とされている。
使用する攻撃方法は射程50mの魔導火炎放射と、風魔法と炎魔法を収束させて放つファイヤーブラストという火炎弾だ。
また、あまりに接近した場合には、尻尾による一撃や爪、牙による文字通りの格闘戦も行うという。
ただし、これをやるとワイバーンの体力を著しく奪うため滅多にやらないそうだが。
「まぁ、速度は最大でも250km……大戦間期の複葉機と同じか、それより少し遅いくらいかな」
英国面を代表する複葉戦闘機・『フェアリー ソードフィッシュ』の最大速度が220kmと言われているので、最高速度だけで見れば、確かにそれより速い。
「まぁ、ソードフィッシュはどちらかと言うと第二次大戦時には爆撃機及び雷撃機、そして後はUボート狩りに使われたからな。用法が違うと言えば違うんだが」
速度が遅すぎるがゆえに軍艦の対空砲火に引っかかり辛く、戦闘機も遅すぎて失速してしまうが故に下手に格闘戦も挑めなかったという伝説がある空飛ぶネタの塊である。
しかし気になるのは、列強国がワイバーンを強化して運用しているのか、それとも別の存在を運用しているのか、というところである。
だが、とにかく今は目の前のことに集中するしかない。
様々な国籍の、様々な形状の船を横目に、それより若干大きめな香椎は港の桟橋にゆっくりと近づく。
だが、桟橋はそれほど頑丈そうに見えない木製なので、数千tを超える香椎が下手なことをすると桟橋そのものを壊しかねないため、とにかく慎重に慎重を期した。
タグボートもない以上、水測員の判断がモノを言う。彼らも慎重に水深と距離を測りつつ、停泊体制のために頑張ってくれた。
結局停泊態勢を取ってから、約1時間でなんとか接岸することに成功した。
「文明水準が低いって、色々考えさせられますね……すごく疲れました……」
乗員がミスしないようにと指示を飛ばし続けていた香椎は、明らかに疲弊した顔で座り込んでいた。
旭日はそんな香椎の頭を『ご苦労さん』と言わんばかりにワシワシと撫でてやると、船を降りる準備をした。
香椎は『こ、子供扱いしないでください』と頭を押さえながら顔を赤くしているが、どことなく嬉しそうに見える。
「香椎、一応数日中には戻って来れると思うけど、もし不審な輩が船に近づくようだったらひっ捕らえて構わない」
いくら練習巡洋艦とはいえ、対空機関砲やレーダーなど、相手に分析されて対策を取られたら面倒なことはいくらでもある。
外交官の乗ってきた船、ということを考えれば普通は手を出してこないだろうと考えられるのだが、油断は禁物だ。
異世界において地球の常識など、あっさりと覆ってしまう。それは旭日が呼んでいた小説での考え方だが、何事も『最悪』を想定しておくべきだと旭日の本能が告げていた。
「はい。いってらっしゃいませ」
最後は優雅に、ふんわりと挨拶をして見せる香椎であった。
船を降りた旭日たちは港へと上がり、在オルファスター日本大使館が用意してくれている馬車を探す。
「司令、あれでは?」
扶桑の指さした先には、幌の付いた西洋的な馬車が停車していたのだが、その御者の傍らに旭日旗が上がっていたのだ。
「おぉ、間違いない。あれだな」
旭日たちは御者に身分証明書を見せると、御者が恭しくお辞儀をしてくれた。
「お待ちしておりました。皆様、どうぞお乗りください。これから皆様を連れて、王都インカラへと参ります」
なんというか、想像以上に穏やかな物言いの御者で、旭日たちも逆に毒気が抜かれてしまった。
「あ、どうも。よろしくお願いします……」
「さぁ、どうぞお乗りください」
旭日たちは御者に促されるままに馬車に乗り込んだ。
馬車はガタゴトと音を立てながらゆっくりと走り出し、港湾都市ササンテから50km離れた王都インカラへ走り出す。
道中はこれといってなにも起こらず、その日の午後には王都インカラに到着した旭日たちだった。
馬車が魔法具によって重量を軽減しているからなのか、かなり速い時速15kmくらいを維持できているのが幸いであった。
「魔法具にこういう使い方もあるのか……飛行機とかに搭載できれば、離陸滑走距離を大幅に短くできないかな?」
「レシプロ機をさらに短くしたら確かに強そうですが……どちらかというと、司令の時代に飛んでいるというジェット戦闘機に役立ちそうですね」
「あとで要研究だな」
そんな考察を述べながら、王都を囲む城壁からその防御能力を判断する。
「少なくとも、城壁の上には大量の大砲があるな……それと、城壁自体は煉瓦造り……やっぱり能力的には1600年代ってところか」
「では、我が軍の戦車や自走砲であれば……」
「城門を含めてあっさり突破できるな。ただ、城壁の上から弓と鉄砲で撃たれる可能性があるから、事前に航空機の機銃掃射で城壁上を掃討しておきたいな。陸軍が奇襲などで撃たれる可能性を排除しておきたい」
一式十糎自走砲や四式中戦車であれば、相手の射程外から城門を破壊することも十分に可能だろう。
強いて言うならば、一式十糎自走砲は前面こそ装甲化されているが、上と背後はオープントップで無防備である。
そのため、できる限りアウトレンジで攻撃をする必要があるだろうが、それさえ気をつければ基本的にはダメージはないはずである。
「いっそ、こんな相手じゃチハの方が役に立ったかもなぁ……歩兵支援向けに作っとくべきだったか?」
「チハは歩兵支援を目的とした戦車でしたからね。ですが、チト車であれば榴弾もちゃんと撃てますから、問題ないのでは?」
「それもそうか」
よく言われる話だが、イギリスの戦車、特に歩兵戦車と巡航戦車はその運用思想の都合から徹甲弾しか撃てず、歩兵支援用の榴弾が撃てないことでかなり難儀していたという。
ちなみに、そんなイギリスにとって歩兵支援をしやすいと評判が良かった戦車がウサ○さんチームでお馴染みの『M3中戦車』だったという。
なぜなら、『自国の戦車より故障が少ない』、『榴弾が撃てる』、『扱いやすい』という点から喜ばれたのだ。
まぁ、英国面に堕ちた歩兵戦車や巡航戦車たちに比べれば、割と堅実な設計(ただし大味)なアメリカ戦車の方が使いやすいのかもしれないが……それでいいのか戦車の生みの親。
それはさておき。
「まぁ、そうかもしれないな。研究者たちには負担をかけるが、新しい戦車に装甲車の開発も進めてもらわなきゃいけない。飛行機、新型軍艦と色々負担ばっかりだよなぁ……」
「今はだいぶん難しい機構を研究させているそうですね。えぇと……油気圧サスペンション、でしたっけ?」
「あぁ。あれが完成すれば……我が国の車両開発は大いに発達するだろうな。将来的なことも考えると、防衛面では必須だ」
そんな未来について語り合いながら城壁の中に入ると、賑やかな中で一際大きな建物が街の最奥に見えた。
「あれが、オルファスター王国のコウルペ城だな」
一見すると設計的には中国のお城に似ており、街を城壁で囲むというスタイルは、三国志などの漫画で見るかなり古い中国のそれに似ているように思えた。
馬車は城にほど近い宿の前で止まる。
「本日はこの宿にお泊りください。オルファスター国王との面会は明日の朝一番となっております」
「了解です。ここまでご苦労様でした」
旭日が御者にチップを握らせると、御者は顔を近づけてきた。
「旦那、どうかお気を付けください。トールンボ国王はその……かなり面倒くさい人物ですので、ただでは済まないと考えられます」
「ご忠告、感謝します」
旭日はゆっくり去っていく御者を見送ると、宿の中へと入った。
「司令、この宿はオルファスター王国の中では最上級の宿だそうです」
「ほぉ。そんじゃ、楽しませてもらおうかな」
既に日も落ちかけているため、すぐに夕飯にしてもらうことにした。
テーブルは中華風の装いだが、回転テーブルが付いていない。
それも当然で、中華のテーブルに回転テーブルをつけるようになったのは、本場中国ではなく日本で、目黒区でも有名な雅叙園が発祥とのこと。
ラーメンもそうだが、日本で発達した中華系のあれこれは結構多いのだ。
「コース料理らしいけど……果たして、どれだけのモノが出てくるやら」
「一応周辺国の評判では、料理に関してはかなり美味しいと。国王がかなりの食いしん坊でこだわりを持っているのだそうです」
日本もそうだが、食いしん坊の多い国というのは自然と料理が発達する。
イタリア然り、フランス然り、ロシア然りである。
え、イギリス?あそこは労働者の国だから……アメリカ?あんな大雑把な国になにを求めろと……(意味深)。
結果として料理はどれも、とてもおいしかった。
前菜、スープ、肉料理、主菜と出てきた料理はどれも味わい深く、旭日が『なにかあった時にこの宿は誤爆させないように気を付けるか』と考えたほどには美味しかった。
特に、最後に出てきたラーメン(の、ような料理)は味わい深く、旭日が思わず『これなんの出汁使ってんの!?』と聞いたところ、『生まれて1年のワイバーンでございます』と言われて唖然としていた。
どうやらこの世界のワイバーンは戦闘用と家畜用の2種類がいるらしく、家畜用ワイバーンを第3世界大陸で最も生産しているのが、このオルファスター王国らしい。
敵になると思う国家の、意外なオイシイ一面であった。
「……油断してた」
「確かに、おいしかったですね」
「見事な味付けでした。ワイバーンの味も殺さず、しかし調味料も活かして……これは文明水準を抜きにして褒めるべき部分ですね」
食いしん坊であり自ら料理もする旭日は、『戦争に勝てたら絶対ここの料理人なにかの理由つけてつれて来よう』と決意したのだった。
それはさておき。
翌日、会談のためにオルファスター王国のコウルペ城の前に立つと、門番が槍を突き出してきた。
「何者だ‼」
「大日本皇国よりの使者でございます。国王陛下にお取次ぎを」
ちなみに、時間はなんと朝の8時(旭日たちの時計では)。
『朝一番』と言われていたため、本当に朝早く起きて身支度を整えてきたのだ。
ただし、向こうが時間を指定していなかったのでこのような面倒くさいことになっているわけだが。
「す、少し待て‼」
衛兵は急いで門の中へ入ると、20分ほど経ってから再び表へ出てきた。
「陛下がお会いになる。武器の類は持っていないな?」
「はい。持っておりません」
旭日は軍服のボタンを外して広げる。ナイフの類もないので、衛兵も『なるほど』と信用した。
さらに扶桑と大鳳も軍服のボタンを外し、下のシャツを見せた。
軍服から余すことなく『ばるるん』と広がるそのたわわな胸部装甲に、思わず衛兵たちは釘付けになっている。
一部の者は、若干前かがみになっているようにすら見えた。
「いかがでございましょうか?」
ジト目で呆れたような声の旭日の言葉にハッとしたような態度を取り、わざとらしい咳払いをする。
「よ、よし。通っていいぞ」
門が『ギギギ……』と重厚な音を立てながら開くと、中には豪華な調度品が広がっていた。
「さて、と。国王との面談か。どんなことになるのやら」
オルファスター王国はちょっとだけ思わぬ『優れた』場面を見せたつもりです。
次回は7月の29日に投稿しようと思います。




