工場完成と海軍近代化に向けて
今月の投稿となります。
色々動き始めますが、ドンパチパートはもうしばらく先になります
旭日たちが大日本皇国に籍を置いてから、早くも2カ月が経過していた。
昼夜問わぬ作業のおかげで工場の外観は完成しており、あとは機材と発電施設を運び入れることが必要であった。
発電所については、特設輸送船『帝洋丸』の船内に火力発電所の設計図が収納されていたため、それを参考にしている。
ひとまず近代化に向けての指示はいくつか出した旭日だったが、元々明治天皇が指示をしていた部分があるのか、それともアイゼンガイスト帝国が支援してくれたのかはわからないが、上下水道のインフラはかなり整っていたことが幸いして、インフラ関係は流通のための蒸気機関車を『どうにか』するくらいで済みそうだった。
しかし、根本的な科学技術の進歩となるとそうはいかない部分が多々存在する。
この世界は多くを魔法に頼っているため、『転生者がいる』と言っても科学に対する理解が乏しいのだ。
エリナの話によると、明治天皇は転生してから自分の知る限りの科学技術を広めようとしていたようだが、どれも中途半端だったうえに日本人の転生者たちも一部を除いてこれまでは明治時代くらいまで、それ以後の時代の人物も技能を持たない一般人しか現れなかったこともあって、技術の発展は限定的だった。
特に、平成以降の人間でも科学技術や軍事技術に詳しいものはごくわずかで、しかも実戦に使用できるレベルのモノではなかったらしい。
強いて言えば、カルバリン砲にライフリングを施す、砲弾の形状を尖頭形にするなどの工夫はあったらしいが、それでも限定的な進歩しかなかったとのこと。
根本的に平成生まれの転生者たちは『剣と魔法で俺Tueeeeeeeeしたい』がメインだったということもあって、国家の技術や国力の発展に寄与する者は少なかったということらしい。
だが、そんなところに数十年くらいをすっ飛ばす形で昭和の能力を持つ艦隊と、さらに70年以上進んだ知識を持つ平成と令和を生きていた未来の日本人転生者である旭日が突如出現したのだ。
恐らく、明治天皇はこれを好機と捉えているに違いない。
そう考えながら各部から上がってくる書類に目を通している旭日であったが、彼としては早く造船所を完成させてほしいのだ。
島国であるこの大日本皇国は、どうしても海軍による海防及びシーレーン警備が非常に重要になる。
なので、旭日は真っ先に『ブロック工法と電気溶接ができるように準備を進めておいてほしい』と一緒に来ていた技術者たちに依頼しておいたのだ。
一等輸送艦や二等輸送艦を含めた輸送船舶にはそういった設備も一部載せられていたため、工場及び造船所が完成次第、すぐに運用できるように準備を進めさせている。
また、ドックについてはアイゼンガイスト帝国が自国の船をこの国で整備できるようにと考えたのか、明らかに超弩級戦艦や大型航空母艦以上の船舶を収められそうなドックがいくつかあったため、それを当面は使わせてもらうと同時に、新たなドックの建設にも乗り出した。
特に大型船舶を建造できるようにしておけば、軍艦構造と商船構造という違いはあるものの大型軍艦も作りやすくなる。
当然、発電所もそれに対応できる大電力を発電できるだけの設備を整えなければならないが、火山の近くにも地熱発電所を、さらに水力発電所なども建設させる予定なので、完成すれば電化は急速に進められるだろう。
「司令、こちら農村部からの感謝状です。『新しい耕作機械のおかげで収穫がはかどる』とのことでした」
「おぉ、そっか。扶桑、悪いが後で返信するの手伝ってくれ」
「心得ました」
扶桑が書類に判を押し、『要返信』の文字をつける。すると、さらに大鳳が別の書類を持って入ってきた。
「こちら、工場建設の件ですが、排水パイプ及び接続部分の強化について、魔法陣学という魔術で要求を満たすことが可能だそうです」
魔法陣学とは、この世界の人類が得意としている魔法術の1つで、術をかけた物質の強度を数倍以上に上げることが可能なのだ。
しかも、防腐・防錆能力に加えて物質の疲労による寿命まで伸ばすことができるという、現代日本から見てもチートじみた能力である。
また、属性を変更することで様々な応用も効くという優れものである。
「よし。じゃあそっちはそのまま続けてさせてくれ。もし可能なら、同じ要領で溶鉱炉も強化してほしいな。できれば現代日本並みの4千度くらいまで熱を高められれば御の字だ……建設に関する進捗状況は?」
「予定より10%以上早く進んでいるとのことです」
「おぉ、皆仕事熱心だこと……くれぐれも過労死だけはしないように十分に気を付けるように現場監督及びその周辺の人々に徹底周知させてくれ」
「かしこまりました」
「過労死なんていうヤバすぎる文化が地球から輸出されたらえらいことだからな。しっかり頼むぞ」
――コンコン
「開いてるぞ~」
ノックの音と共に入ってきたのは、飛鷹と隼鷹であった。
相変わらずのハイカラメイドさんの恰好(ちなみにどうでもいいことかもしれないがミニスカートのフレンチ系ではなくて、本格派の英国系列のロングスカートだ。ここは結構大事)なので、旭日は自分が艦隊司令という地位以上に偉くなったような錯覚を覚えてしまいそうになる。
「司令、お茶が入りました」
「お菓子もお持ちしました」
飛鷹の手には湯気の立っているポットが、隼鷹の手には美味しそうなスコーンとクッキーが乗っていた。
ちなみに白砂糖に関しては、間宮の艦内に生成方法の図面があり、生成のための機械も特設輸送船に載せられていたため、それで問題なく生成できている。
旭日たちが来るまでは黒糖が中心だった日本人には大層喜ばれると同時に、重要な輸出品となるのだった。
それまでの和菓子や洋菓子などのスイーツ系も、大幅な進歩を遂げることになる。
やはり白砂糖は偉大である。白砂糖万歳。
もう一度言う。白砂糖万歳。
「もうこんな時間か……よし、ちょっと休憩するか。2人も作ってくれてご苦労だったな。一緒に食おうぜ」
「では」
「お言葉に甘えまして」
飛鷹と隼鷹は、間宮と共に艦長クラスの食事を作ってくれている大事な存在である。
適宜休憩を取ってもらうことは、とても大事なことであった。
飛鷹が優雅な所作で旭日のカップに紅茶を淹れていく。
「うぅん、いい香りだ。今日のは……アッサムか?」
「はい。艦内に残っていたアッサムになります」
「あと残ってるのは?」
「ダージリンが2回分、オレンジペコが3回分、ルクリリが4回分、ローズヒップが12回分など、合計すると30回分くらいは残っています」
「ちょっと待て。なぜそんなにローズヒップの人気が薄い。そしてなぜダージリンはそんなに人気なんだ」
某戦車道アニメの影響じゃないでしょうかね、と夕張辺りなら言いそうである。
ローズヒップを飲むとアホの子になるんじゃないかと心配なのでしょう。
『なぜか』旭日たちの艦には大量の紅茶の茶葉も完備されていたため、ティータイムを楽しむことは十分にできていた。
もっとも旭日は当初、紅茶がたくさんあるということを聞いて、『キメなければいいけどな』と呟いたりしている。
異世界でも暗黒面……否、英国面に堕ちる可能性は十分にあり得るから、しっかり注意しなければならないだろうとその時心に決めたとか。
「幸い、紅茶の『種』も船にありましたので、それを現在農家に持ち込んで栽培できるかどうかも検討させています」
恐らく、これも太陽神からの贈り物だろう。
旭日自身は砂糖もたっぷり入れた甘いミルクティーが好きなので、嬉しい限りである。
「俺は、コーヒーは飲めないからなぁ。扶桑もダメだっけ?」
扶桑は少し頬を赤く染めると、恥ずかしそうに言った。
「はい……緑茶の苦みは好きなのですが、珈琲や紅茶はどうにも……」
言い方が古いのはご愛敬。
「まぁ仕方ないさ。人にはそれぞれ好みってもんがあるんだし」
扶桑が人じゃないとかいうことはツッコんじゃいけないお約束。
「それと、陸軍による肉体鍛錬についてはどうだ?」
これに答えたのは、陸軍の輸送船である熊野丸であった。なお、あきつ丸は現在兵器工場で試作された銃弾の具合を確かめるために席を外している。
「はっ。昭和における帝国陸軍方式の肉体強化術は彼らにとっては目から鱗の話だったようで、皆メキメキと実力を伸ばしております」
元々身体能力に優れているエルフやダークエルフ、ドワーフ族や獣人族などの様々な種族がいるため、彼らをうまく鍛えればかなりの戦力となることは間違いなかった。
もっとも、戦後や平成を生きていた人々からすると『なにこの地獄怖い』と言わんばかりの状態らしいが。
「種族ごとに向いているであろう部隊もあります。例えば、エルフ族は非常に目がいいので、狙撃班や偵察部隊に向いているかと」
エルフ族は元々森に暮らす民族で、弓と魔法を得意としていた。目がいいのは種族的特徴もあるため、納得できる話である。
大日本帝国軍は現代の自衛隊にまで受け継がれている狙撃バカっぷりを披露しているので、しごかれれば立派な狙撃手が産まれるに違いない。
「ダークエルフやホブゴブリン族は亜人族の中でも夜目が効くため、夜間奇襲の狙撃部隊や工作隊などが向いているかと」
「おぉ、そういう方向もアリか。じゃあ、ドワーフ族は間違いなく工兵隊だな」
熊野丸は『正にその通り』と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。
「はい。ドワーフ族は武骨そうに見える種族ながら非常に手先が器用でありますので、繊細な作業をさせれば天下一品であります」
元々ドワーフは宝飾品の加工や武器の製造をする鍛冶屋が多かったため、石や鉄の加工はお手の物である。
現代加工技術を覚えれば、間違いなく優秀な職人になってくれるだろう。
電子機器の加工技術まで覚えれば正に鬼に金棒……いや、ドワーフにバトルアックスであろう。
「また、獣人族……オオカミ・トラ・クマなどの耳を持つ、獣のような耳を持つ種族はドワーフ族並みの優れた腕力に加えて、極めて高い持久力を持っております。そのため、重い砲弾などを素早く装填できるという点から、砲兵及び海軍の装填手などに向いていると考えられます」
日本人は体格が小さく、重い砲弾などはどうしても装填に時間がかかってしまう。だからこそ現代では自動装填装置が発達しているわけだが。
ちなみに、そんな日本人を表す話として有名なのだが、日本人は軽巡洋艦の主砲に14cm砲を多用していたという話である。
これは、当時の海軍条約で軽巡洋艦の基準として『15.2cm砲までは認める』と言われたのに対して、15cm砲弾が40kg以上あって日本人が持て余したのに比べて、14cm砲弾は40kgを下回ったことによって人力の装填速度が大幅に早まったという実例があったためである。
そのため、日本の阿賀野型・大淀型を除いた軽巡洋艦は基本的に14cm単装砲、連装砲を採用しているという特徴がある。
なお、この14cm砲は当時のアメリカ海軍も自国の『マハン級軽巡洋艦と対抗しうる』と危険視するくらいには能力の高い方だったという話もある。
え、古鷹型に最上型?元は軽巡だけど重巡に改装されたから……(普通に軽巡の方が活躍できたかもというのは言ってはいけない話)。
閑話休題。
「しかも、獣人族の中でもケンタウロス族は非常に力強く、騎兵型野砲なども運べるほどであります」
「ほぉ、騎兵型野砲を牽引できるのか。そりゃすごいな」
旭日も初めてアシタカノウミに到着したときにケンタウロスの人力車に乗ったことは、2カ月が経過した今でも覚えている。
「他にも車両が入れないところ(この場合は森や山など)でも人の知性を活かして機動力を確保できますので、ケンタウロスはエルフとはまた違う意味で、機動偵察隊として導入できるかと思われます」
「うぅむ……人間の可能性は無限大、ということか。他にはなにかあるか?」
「はっ。ハルピュイアやフェアリー族は、飛行速度こそ最大でも60km弱と鈍足ですが、手榴弾を2,3個持たせての威力偵察隊などが向いているかもしれません。発見されにくい、というのはそれだけでも重要ですので」
小柄なので見つかりにくいということは重要である。
低速でも観測には十分役に立つだろう。
元々保有している魔法も用いれば、さらに活躍できるだろうと考えられる。
「同じ要素で言えば、ゴブリン族やケット・シーなどもそうですね」
「ん?ケット・シーは猫耳の獣人族じゃないのか?」
旭日のイメージでは猫耳を持った獣人族もいたはずであった。
「それが、猫耳を持つ獣人族とはまた異なる種族として、直立歩行できる猫のようなケット・シーという種族が存在するのだそうです」
「ややこしや~……」
旭日は苦笑いするものの、面白そうに肩を揺らしていた。
「なるほど。小柄な種族は物陰に隠れて偵察ができる、ってわけか」
「はい。仰るとおりであります。また、彼らも手先が非常に器用ですので、罠を仕掛けたりするのも得意だとか」
「だとすると、市街地などにおけるゲリラ戦にも使えそうだな。本土決戦に陥った場合にはそういった思考回路が役に立つはずだ。そういう連中には拳銃、手榴弾を多めに配備するのもアリだな」
旭日の横では、大鳳が素早くメモを取っている。
元々現代のOLさんのような見た目も相まって、今や扶桑と並んですっかり旭日の秘書状態だ。
もっとも、本人はそれでいいと思っている節があるようなので特に問題はないのだが。
「水棲系の種族はどうなんだ?」
「はい。人魚族は水を用いた振動魔法による音波探知(現代のソナーのような魔法)ができるとのことですので、旭日様の仰る『対潜哨戒』の役に立つかと。また、フロッグマン族は水の中でも呼吸ができる上に力も強いので、港湾開発などに大きく役立っています」
人魚族の得意な魔法はソナー、エコーロケーションということらしい。
対潜哨戒能力が大戦時の米英独と比較すると尋常ではないレベルで低く、相当な割合でアメリカの潜水艦に軍民問わずに船を沈められていた旧日本軍の末裔としては、ありがたい話である。
それもこれも、当時の大日本帝国の電子技術が(以下略)。
「結構便利な能力も多いよなぁ……種族の特徴を活かせば、現代技術とはまた違った形で効率化を進めることができるわけだな。大したもんだ」
旭日のカップが空になったとみるや、素早く飛鷹が紅茶を足してくれた。
旭日はそんな飛鷹に『あんがとさん』と礼を言いながらスコーンとクッキーをつまみつつ、今後の計画を練っている。
「司令は恐らく海軍に供与する軍艦を考えておられるのでしょうが、なにを提供されるのですか?」
そんな旭日の意図を見透かしたわけではないだろうが、扶桑がいいタイミングで質問してきた。
「そうだな……明石の艦内に色々な設計図があったから、それを参考に、ってところだな。日本の軍艦だけじゃなくて、海外の艦まであったのはびっくりだったが……」
旭日の机の上には『秋月型駆逐艦』と、アメリカの『アラスカ級大型巡洋艦』、ドイツの『シャルンホルスト級戦艦』の設計図が置かれていた。
旭日は異世界で真っ先にワイバーンに出くわした経験から、艦対空戦闘能力を高めておくべきだという結論に達しており、生産する艦はできる限り対空戦闘能力の高い船にしておこうと考えたのだ。
また、沿岸警備用の船も必要になるため、対空・対潜能力の高い沿岸警備艇兼フリゲートとして松型駆逐艦の改良型も製造させるつもりであった。
え、フレッチャー級?悪くはないのだが……そんなバリバリ作れるほどの工業設備を作るのに時間がかかるうえ、アメリカのような戦時体制にはなりたくないというのが旭日の考えだった。
しかし『日本らしく量産しやすい船をそれなりに建造したい』というところもあり、松型駆逐艦で手を打つことにしたのだ。
ちなみに、潜水艦に関しては海底の地形図があまり明らかになっていないこともあって、今のところ大量建造の計画はしていない。
大日本皇国に来るまでも、ヨーたち伊400型3隻はほぼ水上航行しかしていなかったほどだ。
一応大日本皇国に来るまでは香取たちのソナーを用いて安全なところでは潜る練習などもしていたが、戦闘中ともなるとそうもいかないため、できれば詳細な航路図及び地形図が欲しい旭日であった。
なので、現在ヨーたち3隻はこの大日本皇国周辺の海底地形をきちんと把握するべく訓練を兼ねて航行している。
本来それは測量艦を用いる測量部の役目なのだが、それがないので仕方がない。
飛行機に関しても将来的に大型航空機が離発着できるようにということを考慮した結果、明治天皇が『港湾都市キイの東側に開発されていない場所がある』と教えてくれたので、そちらに超大型飛行場を建設する予定だ。
ここで陸軍機や輸送機、場合によっては爆撃機を運用するつもりである。
ちなみに旭日としては数十年後に大型ジェット機を運用することも想定してかなり頑丈に作らせるつもりであった。
ついでに言うと、列強国のような国力ある国家と戦争した場合に備えて、『Bー29』に近い能力を持つ重爆撃機を作らせることも既に計画の中に入れてある。
排気タービンの構造など、昭和前半レベルの日本が持っていた技術では苦戦しそうな部分も多いが、それでもやるしかないと思っている。
また、軍艦における砲の運用や魚雷の発射方法は香取たち練習巡洋艦とその乗組員に頼むことにしている。
彼らはそれぞれの教官的立場でもあるので、乗組員も含めれば1千人以上の教官がいるようなものである。
航空機に関しては当面雲龍たち3姉妹に任せるつもりだ。
大鳳は扶桑と共に旭日の秘書としていてもらうと助かり、飛鷹と隼鷹は基本的に出撃と訓練する時以外はメイドさんだからだ。
「あとは……次期主力戦車開発も進めないとな……」
「?四式では不満でありますか?」
陸軍船として陸戦兵器の知識も持っている熊野丸の不満げな声に『いや、そうじゃなくてな』と一言置いてから話し始める。
「四式中戦車の能力は確かに『日本戦車としては』間違いなく高い。こいつは、アメリカのM4シャーマンの後期型に近い……バランスの取れた戦車に近い能力なんだ」
もっとも、そんなものを終戦間際になって作り出したという時点で日本の戦車開発事情の寒さが窺えるのだが。
「だけど、地球では独ソ戦の影響もあって、第二次大戦後になってから一気に戦車開発も加速して、90mm砲、105mm砲、そして平成から令和に至った現代では120mmの滑腔砲と装弾筒翼安定徹甲弾と呼ばれる特殊な砲弾を使用しているんだ。大戦中でさえ、ドイツが128mm砲を装備した駆逐戦車『ヤークトティーガー』なんて化け物を実用化していたし、ソ連だって榴弾砲とはいえ回転砲塔の152mm砲を搭載したかーべーたん……じゃなかった、『KVー2』なんていうバケモンがいたんだ。『できる備えはしておいて損はない』はずだ」
熊野丸の昭和前期の知識では追いつけなくなったのか、目の中がグルグルしているように見える。
まぁこれに関しては、陸軍国であるドイツやソ連の戦車技術の発展の仕方が色々と頭おかしいのである。
特にドイツは、末期には超重戦車マウスや、臼砲とはいえ380mmの砲を備えたシュトルムティーガーなどという尋常ならざる怪物を作り出したのだから。
シュトルムティーガーの主砲の一撃に至っては、なんとびっくりシャーマン2輌を至近弾『だけ』で行動不能に陥らせたという伝説もあるのだ。
ドイツの技術は、世界一ィィッ‼などと叫ぶ輩がいてもおかしくない。
「まぁついてこれないなら後で俺が知っている限りのことを教えるからさ……あとは、基本的に今の装備じゃ戦車の輸送が効率悪いんだよな。今の状態だと二等輸送艦1隻で2両しか運べないからな……」
二等輸送艦は九七式中戦車レベルであれば4台は搭載することができたので、素材が大戦時末期水準の物に比べると艦首扉が頑丈になっている今ならば十分揚陸に耐えうるのだ。
本来ならばそれだけでも十分すぎる話である。
「そうですね。司令にはなにか案がありますか?」
「そうだな……古いものだと旧世界で大戦中にアメリカが採用していて、終戦してから日本も復員船として貸与された『LSTー1級戦車揚陸艦』だとか、イギリスの『ボクサー級戦車揚陸艦』なんかがあれば大規模な車両部隊を一気に揚陸することも可能なんだ。あ、兵員輸送はあきつ丸や熊野丸のままでしばらく問題ないぞ」
自分たちが早々にお払い箱になるのではないかと心配した熊野丸に睨まれたので、慌ててそんなことはないと安心させてやらなければならない旭日であった。
「そ、それならありがたいのですが」
熊野丸が『ホッ』とため息を吐いて肩を落とすと、軍服に包まれた豊満な胸元が『たゆん』と揺れる。
空母型で大きな船体をしていることからこのような体形になったのだろうが、やはり目の毒である。
ちなみに本人曰く、『改装によって若干排水量が増大したということが反映されているのか、若干体重が増えた』とのことらしい。
元貨物船構造ということもあって、お尻も安産型だ。
「あと大事なのは……やっぱり、食料を含めた各種資源の輸送能力だよな。これも間宮だけじゃ負担が大きすぎる」
「特設輸送船も多数ありますが……やはり、間宮と同じ能力を持つ船を何隻か建造しますか?」
旭日は考えるが、『いや、それだけじゃダメだ』と大鳳の言葉を否定した。
「そうだなぁ……間宮と足摺の能力を併せ持つ大型輸送船を建造したいな。ついでに言うなら、飛鷹と隼鷹の『船体部分』を参考に、大型貨客船タイプの輸送船を建造するべきかな」
旭日のイメージしている姿は、どちらかと言うと海上自衛隊が運用している『おおすみ型輸送艦』に近いものだ。
いずれは開発することになるであろうヘリコプターも運用できるようにしておけば、便利になるであろう。
準病院船として医療機能を持たせることも重要である。
「なるほど。私たちの元となった貨客船であれば、兵員はもちろんのこと、物資を大量に輸送することも問題ありませんね」
ついでに言うと、飛鷹と隼鷹の元となった貨客船『橿原丸』と『出雲丸』は高速客船として建造された存在だったため、最大速力25ノットという、転用空母としては規格外の速度を出せる。
機関も海軍式のタービンエンジンに換装しているため、速度は抜群だ。
巡航速度でも18ノットは余裕で出せるため、十分すぎる速度だ。
もっとも、二次大戦時にイギリスが『クイーン・メリー』という重巡並みの速度と軽巡並みの武装を持つバケモノ客船を兵員輸送船に改造した、というのは言っちゃいけないお約束。
「あとは、軍規の徹底とか、軍法とか、色々決めなきゃいけないことが山積みだな……ふあぁ、しばらく休めそうにないなぁ」
「その辺りは明石にも本がありましたので、必要そうであれば私がまとめておきましょう。戦後の自衛隊についてもいくつか参考になる部分があるかと思います」
「悪いな、大鳳」
ティータイムを終えた旭日はまたも机に向かうと、あれこれと書類にサインを入れ始めるのだった。
その頃、アヅチ城では明治天皇こと、アケノオサメノキミが旭日から提出された『建造予定艦』の設計図と基礎情報を見て唸っていた。
「朕の死後にこのような船や兵器が存在していたとは……転生してみるものであるな。そうは思わぬか?イトウ」
首相のイトウ・シュンスケも手を震わせながら『誠に』と答えるのが精一杯であった。
もうお分かりだろう。彼もまた転生者で、日本の初代内閣総理大臣となった、伊藤博文その人である。
「まさか……この設計図が正しければ、旧世界における『敷島型戦艦』と比較しても主砲の砲口径が大幅に増えるのみならず、三連装砲かつ長砲身で、しかも対空能力が高いという。とんでもない壊れ性能でございますな……」
彼は先ほどから『アラスカ級大型巡洋艦』と『シャルンホルスト級戦艦』の設計図を握りながら、震えっぱなしであった。
彼もまた、韓国併合後に安重根と呼ばれる人物によって暗殺されてしまったので、大正以後の日本及びその世界についてはまるで知らない。
そのため、旭日が率いていた扶桑のような超弩級戦艦や、雲龍などの航空母艦は見たことがなかった。
「しかも、我が国はあれほどの装備を持ちながら、アメリカと戦争をして敗れる未来が待っていようとは……」
明治天皇は項垂れるが、イトウもそれはショックだった。
元々アメリカが油断ならないというのはわかっているつもりだったが、あれこれと策を弄されて自分たちから仕掛けさせられたという話を聞き、涙を流しているのだ。
敗戦後、日本がどれほど牙を抜かれて腑抜けた国家に成り下がってしまったかも旭日から聞かされた。
明治維新の際に『外国と並びたてる一流の国家たれ』との思いを胸に国を発展させてきたイトウとしては、旧世界の日本がアメリカの半属国のような立場になっていることがあまりに残念でならないのだ。
「泣くなイトウよ。前世のことは前世のこと。今は今を大事にせねばならん」
「はい。そうでしたな」
「それで、旭日はさらに工場を建設するつもりなのか?」
「はい。軍事のみならず民間に転用できる建築技術や民生品の製造技術なども発達させなければならないという考えのようでして、エルフやダークエルフの魔導師たちと共に魔法を応用した製品の開発ができないかということを技術者たちと議論させているそうでございます」
イトウ・シュンスケも転生したときは自分になにが起こったのか全く理解できなかったし、魔法などという空想の存在があることにも驚いた。
だが300年以上は生きるドワーフ族に転生したこともあって、彼はまだ80歳の若齢だ。
その80年でも、魔法という文化に慣れるには十分すぎた。
「しかし、科学と魔法を組み合わせる……その発想はありませんでしたな」
「今までに人力と魔法を組み合わせることはあれこれとやっていたが、旭日の考え方はそのさらに先を行っている。どうやら、旭日の生きていた平成という時代では、そのような物語が当たり前だったらしい」
明治天皇は旭日から渡された『異世界で魔法と現代機器を組み合わせた物語』や、『自衛隊が異世界で無双する物語』についてのレポート及び、自衛隊が使用する現代兵器の性能を見て目を丸くしていた。
「たった100年ちょっとでこれほど我が国が発展するとは……まぁ、その代わりにアメリカの属国同然になっているところが痛いがな」
「情けない限りでございます」
だが、イトウも明治天皇もわかっている。
大陸国家で資源の豊富なアメリカと、島国で資源の乏しい旧世界の日本では、総合的な国力が違いすぎることを。
そもそも論で『戦ってしまえば負ける』ことはよくわかっていたはずだということも。
「せめて、この新たな祖国はなんとしてでも守りたい」
「左様でございます。その点では、旭日殿が強い愛国心の持ち主だったのは幸いでしたな」
旭日とその配下の帝国軍人たちが今の大日本皇国の陸海空三軍を強化するべく、既にあれこれと手を付け始めている。
首都であるアシタカノウミを中心に建築ラッシュとなるため、近隣諸国からも人手を集めての、かなり大々的な事業になるだろう。
この勢いを保持できれば、大日本皇国が江戸時代初期ぐらいの水準からこれまでになく発展することは間違いない。
明治天皇がやりたかった、国全体の近代化も大幅に進められる。
だが、それだけにふと思ってしまった。
「天照大御神様は、何故彼にあれほどの艦隊と兵員、さらに技術者たちまでつけて送り出したのだろうか……」
今までの転生者たちは肉体強化を除けば特に特典も持たせられることなく、そして明治時代くらいまでの存在が多かった。
平成時代の若者も多かったが、その多くは単純に『俺TUEEEEEEしたいっ‼』が中心だったため、技術による国家発展に寄与した者は少ないのだ。
そしてその疑問にはイトウも答えられなかったが、ふと思いついたことを口にする。
「まさか、列強国との戦争になる可能性が……?」
「……ありえないとは言い切れないであろうな。イトウよ、旭日殿に取れる限りの協力体制をとるのだ。この新たな日本の近代化は、待ったなしであるぞ」
「ははーっ‼陛下の御心のままに‼」
2人がさらに裏であれこれとやろうとしていることを、旭日は知らない。
次回は5月の27日に投稿しようと思います。
それはそうと、アーケードではなにやらイベント期間中にもかかわらずアトランタが着任!……まぁ昨年のフレッチャーたち同様に期間限定のようですが、ひとまず昨日に改装前のノーマルは手に入れました。
ここから星付けして、改装したいものです。




