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大艦巨砲と異変

今月の投稿となります。

いよいよ海賊との戦いですが、果たしてどうなるやら……。

 凄まじい爆炎と共に、山城の主砲から放たれた41cm砲弾が目にも止まらぬ速さで小山の上へと飛んでいく。

 そして、砲術員から声が上がる。

『着弾!』

 直後、一斉射で発射された砲弾の内、4発が砦内部に着弾した。1tを超える砲弾、しかも広範囲に爆発をまき散らす三式弾が着弾したことにより、猛烈な爆炎と土煙が上がる。それと同時に、上空を旋回している観測機がさらに報告を続ける。

『4発直撃弾‼残弾全て至近弾‼微調整されたし‼』

 一斉射と言うが、実際には三連装主砲の内2発しか発射していないため、まだ主砲弾は2発残っている。

「山城!補正して畳みかけろ‼」

「了解!次弾装填急げ‼」

 普段の旭日からは考えられないほどの強烈な声を受けながら、山城は砲術員からの報告を受け取る。

『微調整!微調整‼』

『初弾で4発も命中弾が出たんだ‼船と違って動かない上にデカい的を今度は外すなよ‼』

 艦内の怒号は激しく、伝声管や通信機からは色々な声が聞こえてきている。この状態こそ、現在が『戦闘中』であることを強く感じさせている。

 穏やかで明るいエリナですら、緊張した表情で成り行きを見守っていた。

「司令、三連装中央はすぐ発射できますが……どうします?」

 旭日は鋭い表情を崩さないまま答える。

「よし。発射してさらに調整が必要ならば調整して、そちらも次弾発射できるようにしておけ」

「はっ、了解しました!第二射、撃てぇっ‼」



――ズドォン‼



 指示の直後、またも1tを越える巨大な砲弾が再び爆炎と共に発射され、2発が砦のある山へと飛んでいく。

『着弾!』

 上がった爆炎は砦内部からのモノであり、2発とも命中弾であった。

「よし。山城はこのまま砲撃を続行しろ。あきつ丸!」

『はっ、司令殿』

「揚陸部隊の準備は?」

『既に完了しております。二等輸送艦も上陸の時を今か今かと待ち侘びているところです』

 いつでも行けるという報告を受けた旭日は、ここでようやく笑みを見せた。

「陸軍に伝えろ‼『思いきり、しかし慎重に行け』と!」

『了解であります。陸軍はこれより同島に上陸し、敵本拠地に吶喊。敵を殲滅いたします』

「香取たちは砲撃を一時中断し、様子を確認しろ。もっとも、先ほどのお前たちの派手な『ご挨拶』を受けちゃ、生きている奴がいるかどうかも怪しいがな」

『了解です』

 次に連絡を取ったのは大鳳だった。一応確かめなければならないことがあるためである。

「大鳳、偵察機はまだ大丈夫か?」

『問題ありません。元々飛び立った距離が短かったので、あと1時間以上は飛んでいられます』

「わかった。危なそうなら俺の許可を取らずに帰還させろ。万が一『お客様』になにかあっては元も子もないからな。あと、ここまで来ると一応敵航空戦力は出てこないとは思うんだが……万が一ってこともある。一応『流星』も『烈風』も出せるように待機させておいてくれ」

『了解です……艦載機を、ですか。勘ですか?』

「あぁ。勘だ。外れたらそれで済んだで頼む」

『心得ました。直ちに艦載機の準備を進めます』

 慢心してはいけないという思いからか、旭日の声は先程までよりの余裕あるものとは異なり、少し硬めの声となっていた。

 次に夕張に繋いだ。この瞬間の旭日は正に艦隊司令というに相応しいほどの忙しさであった、と後に山城は語っている。

「夕張、データは取れそうか?」

『任しといてください。今回の戦いを参考に色々ヤリますよぉ~』

 若干危険なニオイがしないでもないが、そんなことを言っている場合ではない。

「よし、そっちは任せた!」

 後はそれぞれに任せるほかない。

 


 その頃、海賊の砦内部ではいきなり発生した大爆発に、砦で敵が上陸してくるのを待ち構えていた海賊たちが右往左往していた。

「チクショウ!チクショウ‼なんだってんだ一体よぉ‼」

 首領のハルヴァン・ヘーレングは、すさまじい爆発によって砦の大部分が崩れてしまったことを知ると、急いで地下へと向かっていた。

「あんな破壊力……強国第1位のアイゼンガイスト帝国に存在する『戦艦』じゃなきゃ不可能だっ‼あんなのとやり合うなら……」

 ハルヴァンは地下の奥深くへ辿り着くと、その奥に座り込んでいる『なにか』に呼び掛けた。

「おい!仕事だ‼俺たちを倒そうとする敵が来た!だが俺たちじゃ勝てねぇ!お前の出番だぞっ‼」

 座り込んでいる『なにか』は、巨大で金色に輝く、しかしどこか濁った瞳を開くと膨大な魔力を放ち始めるのだった。

 そして、その巨体が動き出すと同時に、その辺り一帯の岩盤を崩しながら上へと昇っていくのだった。



 それから20分後、砂浜にあきつ丸から発進した大発動艇が22隻、ずらりと上陸している。

 大発動艇から上陸した陸軍兵が、残兵が隠れていないかどうかを探る。怪しそうなところには銃剣を突き刺すという細やかなところまで見せて、戦車の揚陸ポイントを確保した。

「いいぞぉー!」

 陸軍兵が旗を振ると、二等輸送艦が一気に砂浜へ突っ込んでくる。砂浜に乗り上げた二等輸送艦は正面の扉を降ろす。すると、5隻のうち1隻に載せられていた四式中戦車のディーゼルエンジンが始動し、ゆっくりと進み始めた。



――ブウウウオオオオオオオオオオンッ‼



 ちなみにこの二等輸送艦の門扉は強化されており、30tはある四式中戦車の上陸にも耐えられるようになっていた。

戦車と、残りの二等輸送艦から降ろされた九五式小型乗用車ことくろがね四起や自動貨車が降ろされる。

 そして大発動艇からも迫撃砲やゴムタイヤ化された機動九〇式野砲が次々と降ろされた。

 隊長を任された大日本帝国陸軍所属の楢沢秀昭少佐は、陸揚げされた兵と兵器を見てまずは第一段階が成功したことを確信する。

「よし。我々はここで上陸地点の防衛にあたる。金谷隊、芦原隊、そして遠藤隊は戦車と共に進み、敵城砦を確保せよ‼」

 命じられたのはそれぞれ100人の中隊を率いる金谷幸三中尉、芦原太一中尉、そして遠藤金吾中尉だった。

「よし、全員進むぞぉ‼」

「「「おぉ~‼」」」

 陸軍兵は九九式小銃や一〇〇式機関短銃、八九式重擲弾筒などの携行兵器を持ってゆっくりと移動を開始する。

 誰もが険しい顔を崩さず、敵の攻撃がいつ来るかと用心しながら進んでいた。

 その時だった。いきなり地面が揺れだし、陸軍兵たちが思わずバランスを崩す。



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‼



「なっ、なんだっ!?」

「じ、地震かぁ!?」

 だがそこは火山脈による地震大国として名高い日本の出身者たち。急な地震だからとて驚きはするが怯えの色はない。

 しかし、その余裕も長くは続かなかった。

「おいっ、あれを見ろっ‼」

 陸軍兵の1人が慌てて丘の上の砦を指さすと、砦からどす黒いオーラのようなものが立ち上っていた。

「な、なんだよあれ!」

 その漆黒のオーラは、山城の艦橋からも見えていた。漆黒のオーラを見た旭日は、なんとも言い知れぬ不安に襲われる。

「なんだぁありゃ……?」

「司令、あれは一体……」

 山城も平常通りとはいかないらしく、強気そうな顔が不安げに歪んでいた。

 


――バキバキバキバキ‼



 地面が派手な音を立てて崩れ落ちる音と共に、砦のあった場所の中から体長30mを超える『なにか』が姿を現した。

 その細長い姿と頭を見た山城が『ヘビ、か?』と呟くが、こういう時の『お約束』を理解しているオタクであった旭日は顔を真っ青にしていた。

「いや、違うぞ山城。ヘビなんて生易しいものじゃねぇ」

「え?じゃあ一体……」

「あれは……龍だ」

 巨大な体を地中から現した龍は、穴だらけでボロボロになっている翼を広げると目をカッと見開き、その大きな口を開いた。



――ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ‼



 その凄まじい声量は15km以上離れたところに居る旭日たちの耳にも、強烈な衝撃波を伴って届いていた。

 生物界の圧倒的強者と言うべき龍の雄叫びは、それまで圧倒的に優勢だったはずの旭日たちに死の予感を抱かせるには十分すぎた。

 だが、旭日は一瞬で我に返ると素早く通信機を手に取っていた。

「大鳳!大鳳!急いで艦載機を発艦させろ‼」

『は?え?』

 どうやら大鳳も今の雄叫びで思考がマヒしていたらしい。旭日の声を聴いてようやく我に返っていたようだ。

 というか、沖合30kmポイントに居るはずの大鳳の思考がマヒするほどの雄叫びという時点で旭日は上陸した陸軍が心配になった。

 今の雄叫びで、意識を正常に保って居られているかどうかも怪しい。

 もしかしたら、なんらかの魔法的な力を宿した咆哮だったのかもしれないと考えた。

「急げ‼奴の頭に流星の800kg爆弾をお見舞いするんだ‼早くしないと上陸した陸軍がやられるぞ‼」

『は、はい‼あ、烈風を先頭にしてしまっていますが……』

「なら烈風の機銃掃射で奴の気を引け!その隙に流星を発艦させて接近するんだ‼早くしないと、本当に揚陸部隊がやられるぞ‼」

『りょ、了解しました‼艦載機、発艦急げ‼』

 次に通信を送ったのは軽巡洋艦4隻だった。

「総員、対空戦闘用意‼主砲、弾種対空弾‼あ、山城は徹甲弾を装備しとけよ‼」

「え、アタシは徹甲弾?」

 山城が疑問を投げかけるが、旭日は双眼鏡から目を離さない。

「あのボロボロの翼じゃ飛べないだろうとは思うが……万が一飛びそうになったら軽巡4隻に一斉にぶっ放してもらう。山城、お前の砲弾はとどめだ。お前が確実に仕留めるんだ。いいな?」

「りょ、了解‼」

「お前たちは直ちに沿岸域を離れろ‼軽巡はタダでさえ装甲が薄いんだ!どんな攻撃をしてくるか全く想像がつかないが、万が一強烈なのを一撃でも食らえば轟沈までいかなくとも確実に中破以上、大破並みの被害が出るぞ‼」

『りょ、了解‼』

 旭日の指令を受けた軽巡4隻は機関を急いで始動させ、沖に居る大鳳の近くへと避難を始めた。

「あきつ丸。お前には悪いが、対空戦闘用意状態で待機だ。万が一の時にはできる限り陸軍を収容してもらうぞ」

『了解です。できれば、攻撃を食らう前に早めの航空支援をお願いします』

「善処するよ」

 どうしようもない時に政治家などが『善処する』と言わざるを得ない状態とはこういうものか、と嫌な気分を理解してしまった旭日だった。

 双眼鏡を通して見れば、龍が上陸した陸軍の方を見据えている。

 陸軍はというと、恐慌状態に陥っているわけではなさそうだが、全く動いていない。

 恐らく、雄叫びで生命維持に必要な感覚以外はマヒしてしまったのだろうと旭日は推測した。

「くそっ‼こんな状態じゃ陸軍を動かそうにも動かせない‼どうすれば……」

 その時、冷たい感触が旭日の頬に当たった。旭日は『おわぁ!?』と言いながら横を見ると、水筒を突き出している山城の姿があった。

「まずはアンタが落ち着け」

 一瞬ポカンとしてしまったが、気を遣ってくれたのであろう山城の言葉に従い、旭日は受け取った水筒の水をゴクゴクと飲んだ。胃の腑に物を入れたことで、若干だが落ち着きを取り戻す。

「……すまねぇ、山城」

「なぁに。テッペンが慌てちゃその焦りは下にも伝播するからな」

 山城の艦橋を見渡すと、艦橋要員が皆頷いていた。どうやら、山城は旭日が焦っている姿を見てむしろ落ち着いたらしい。

「なんとかして見せましょう、司令」

「俺たちも全力を尽くします‼」

「司令の時代じゃこう言うそうじゃないですか。『諦めたら、そこで試合終了だ』って」

「いつの時代だよ」

 旭日の世代からすると若干古いワードのチョイスに思わず苦笑した旭日だったが、おかげで緊張もほぐれた。

 そこへ、大鳳から連絡が入る。通信機からはエレベーターの音らしい機械音が響いてきた。

『司令、ただいま甲板上で待機していた烈風6機が発艦しました。引き続き流星を発艦させます』

「よし。それでいい。烈風先遣隊諸君に次ぐ。敵はワイバーンなんかとは比べ物にならない、怪獣映画に登場するようなドラゴンだ。炎だけじゃなく、レーザー……怪力光線のような攻撃もしてくるかもしれない。攻撃の動作がなにかしら目に入り次第、散開して攻撃を避けることに専念してほしい」

『了解です!』

「頼んだぞ……」



 先行発艦した烈風6機は、3機で編隊を組んで島へと向かっていた。大鳳が島の沖合30kmという比較的至近距離(あくまで航空機の移動速度を基準にすると)にいたため、到着までの時間はそれほどかからないだろうと推測されるが、生物としては規格外に大きなドラゴンという化け物に睨まれているであろう友軍のことを思うと、心配で仕方がない。

 艦長である大鳳の指示を受けて真っ先に飛び出した烈風隊隊長の黒岩健一少佐は、『空飛ぶトカゲ』程度だったワイバーンの時とは全く比較にならないほどに艦隊司令である旭日が焦っていたことを思い出していた。

「(体長は30mを超えるって言うじゃないか……そんな相手に、20mmでどれほど気を引けるか……いや、弱気になるな。友軍が俺たちを待っているんだ‼)」

 隠せない不安はあるものの、自分を鼓舞して進むしかなかった。

 やがて、10分もしない内に島がぐんぐんと大きくなってくる。

『隊長!見えましたぁ‼』

 黒岩にも見えた。漆黒の体を持つ、すさまじい迫力を放っている龍だ。日本や中国的なイメージの細長い『竜』とはかなり雰囲気の異なる、どちらかと言えば西洋的なドラゴンである。

「(なんて迫力だ……‼)」

 まだ10kmは離れているというのに、怖くて仕方がない。操縦桿を握る手も、ガタガタと震えている。

 痛々しいほどにボロボロの羽を広げているが、それすらも恐ろしく感じる。

 自分たちは敵に立ち向かう軍人である、と己を鼓舞し続けていなければ、今にも逃げ出してしまいそうな迫力だった。

「各機散開!攻撃開始‼」



――ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ‼



 烈風6機は3機ずつ左右から挟み込むようにしてドラゴンに向かう。位置的にはドラゴンの頭付近を狙う形で水平飛行だ。

 やがて、20mm機関砲の射程に入る。

「今だ、撃てっ‼」



――ダダダダダッ‼



 各機がタイミングをずらしながら機関砲を撃ち込む。

 幸いなことに何発かは命中したようだが、後方を振り返った時に確認すると、ほとんどダメージは与えられていないように見えた。

「そんなバカな‼大きいとはいえ、生物が20mmに耐えるなんて‼」

『艦隊司令はこのことを予測していたのかもしれませんね』

『だから俺たちは牽制だったってわけか!?クソッタレ!』

 だが、効果がないとはいえそれでもできることをやるしかない。

「各機、反撃に警戒しつつ再度攻撃を開始せよ‼」

『『『了解‼』』』



――ブルルルルルルウウウウウウウンッ‼



 スロットルの回転数を上げながら素早く旋回する。

 黒いドラゴンを見ると、こちらの攻撃は効いていなかったとはいえ、『うるさいイカトンボ』くらいには思ったらしく、こちらに敵意むき出しの視線を見せていた。

「へぇ、なんだか知性を感じる眼だな」

『なに言ってんですか中尉』

『蜥蜴野郎にそんなのあるわけないじゃないっすか』

 だが、恐怖の中で黒岩はなんとなくだが、あの手負いのドラゴンに深い知性があるように感じられたのだ。

「……油断は禁物だ。司令も言っていただろう」

『ッ‼……』

『すみませんっ‼』

 黒岩の重い一言を受け、他のパイロットたちも緊張を取り戻す。

「さぁ、もう一発行くぞ‼」

『『了解‼』』



――ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ‼



「喰らいやがれっ‼」

 引き金を引くと同時に、多数の機関砲弾が放たれる。



――ダダダダダッ‼



 だが、機関砲弾は命中弾を多数出すも、傷らしい傷をつけることなく明後日の方向に弾かれてしまう。

「ちぃっ、本当に硬いヤツだ‼」

 だが、間違いなく気は引けていた。完全に烈風を敵と認識している。

「よぉし、もういっちょ……」

 その時、今までとは比較にならない殺気を感じた。

 ハッと後ろを振り返ってみると、龍が口の中に黒い光を蓄えているように見えたのだ。

「各機散開しろッ‼」

 3機×2の編隊が一気にばらけた瞬間、黒岩のいた場所に黒い線のようなものが走った。

 直後、烈風の防弾ガラス張りのコクピットがビリビリと音を立てて揺れた。

「くっ、なんつぅ衝撃波だ‼」

『直近を通っただけです‼』

「機体の制御を忘れるな‼」

 なんとか衝撃波によるストールを起こすことはなかったが、黒岩は旭日の焦りを今になって思い出す。

「チクショウ!流星はまだか!?」

 すると、大鳳から通信が入った。

『流星が合計6機発艦しました。なんとか持ちこたえてください』

「了解‼聞いたなお前ら‼なんとしてでも持ちこたえるぞ‼」

『『『了解‼』』』

 せめて『もう一度くらい攻撃を叩きこんでやろう』と考えた黒岩は再び機体を敵ドラゴンの方へと向ける。

 黒岩は最も危険な真正面だ。

 見れば、もう1人3機を率いる白波少佐も同じことを考えたらしい。

「全く、白波のド阿呆が。俺と同じことしてどうすんだ」

 だが、不思議とにやけてしまった。自分と同じ立場のパイロットが、同じようなことを考えていたことが、なんとなく嬉しかったのだ。

「そうだよなぁ。危険なところをヒヨッコどもにはやらせらんねぇさ」

 そのまま機体を加速させ、時速600km近くに達する。

「そぅら、もう一発受け取れっ‼」



――ダダダダダッ‼



 3度目の攻撃もほとんど功を奏さなかった。と、思った次の瞬間だった。



――グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ‼



 ドラゴンが苦しげな声を上げたので思わず振り返ってみると、片眼から血を流していたのだ。

 どうやら、黒岩か白波のどちらかの撃った20mm機関砲弾が、ドラゴンの眼を潰したらしい。

 ドラゴンは痛みのあまりか、その場でドタバタとのたうち始めた。これは好機である。

「よっしゃ!今のうちに流星隊が来てくれりゃ……」

 だが、世の中そう甘くはなかった。

 眼を潰されたドラゴンは怒りを爆発させたのか、周囲の被害など顧みずに光線を発射しまくったのだ。

「うおおおおおおおッ‼」

 黒岩も白波も急旋回して攻撃をかわした。だが見れば、僚機が一部翼から火を噴いているではないか。

『隊長!すんません、やられましたぁ‼』

「脱出だ‼脱出しろぉ‼」

 すると、その言葉が届いたかどうかというところでキャノピーが開き、パイロットが飛び出した。

 そのわずか3秒後に燃料に引火したのか、機体は大爆発を起こした。一方、脱出したパイロットはと言えば、ちゃんとパラシュートが開いたらしく、ゆっくりと降下し始めていた。

「よかった!なんとか無事だったか‼」

 だが、ドラゴンの攻撃は激しさを増している。放たれる光線はまるで勢いを衰えさせる様子はなく、もはや無闇に近づけそうになかった。

「くっ、手負いの獣を怒らせてしまったか?」

 だが、幸いなことに片眼を潰された怒りからか陸軍の方には見向きもしなくなったようで、丘の下にいる陸軍は怯えているようではあるがなんとか安全な状態になっていた。

 だが、だからといって安心してばかりはいられない。

 もしこれ以上攻撃が激化するようであれば、時間稼ぎなどと言っていられないからだ。

「流星はまだか……?」

 その時、ドラゴンの残った片眼がこちらをギョロリと向いた。

「ヤベッ‼」

 黒岩は機体をバンクさせて狙いを定めさせないようにするが、ドラゴンは完全に黒岩に狙いを定めていた。

「くそっ!くそっ‼くそぉっ‼」

 急旋回や急上昇、急降下で狙いを外してやろうと試みるが、ドラゴンは執念深く黒岩の機体を狙い続けていた。

「ちぃっ……ここまでか……?」

 ドラゴンが口の中に光を蓄え始めたことで、黒岩は逃れようのない死の予感を覚えていた。

「せっかく転生したってのに……こんな早く、死にたくなかったな……」

 ドラゴンが光線を発射しようとした……その時だった。



――ドッガアアアアアアァァァァンッ‼



 猛烈な爆発とともに、ドラゴンの首の根本が、猛烈な爆炎に包まれた。



――グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!?



 戸惑いの声を上げたドラゴンの真上に近い角度から、逆ガルウイングの特徴的な形状の機体が急降下してすり抜けていった。

『待たせたな‼奇兵隊参上‼』

 黒岩は、『地獄に仏とはこのことか』と、安堵から思わず笑いだしてしまったのだった。

 今、反撃が始まる。

まさかの切り札、という感じを出したかったのですが、いかがでしたか?

次回は1月の28日に投稿しようと思います。

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