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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第4章
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君の匂いの誘惑

「洗濯おねが〜い」

「はいよ」

 浴室に入った林檎から声がかかり、私はよいしょと立ち上がって脱衣所に向かった。脱衣籠の中の洗濯物を洗濯機に放り込みながら、私は小さく鼻唄を奏でる。

 ここ最近は林檎の仕事が忙しくて帰りが遅く、帰りを待ってる間に先に風呂を頂いて、林檎が入ったら洗濯機を回す流れになっていた。

 しかし、林檎の話ではやっと今日で仕事がひと段落着いたらしい。

 達成感と空腹から全速力で帰ってきたらしく、帰宅した林檎は汗だくで息切れすら起こしていた。私はその姿につい笑ってしまいながらも、労って風呂まで連れて行ってあげたのだ。

 仕事が落ち着いたってことは、最近ご無沙汰だった夜の方も、相手してもらえるだろうか……。

 そんなことを考えてたら、つい浮かれた気分になってしまう。


 淡々と洗濯物を洗濯機に放り込んでいたら、私はとあるものを手にして思わず動きを止めてしまった。

 先ほどまで林檎が着ていたブラウス。いつもよりも汗を吸っていて、じっとりとした感触が手に伝わってくる。随分急いで帰ってきたんだな……と冷静な思考が浮かぶ反面、邪な感情が胸の奥からムクムクと湧いてきた。

 いやいや、そんな、ダメだろう。

 私の頭の中の天使がそう囁く。が、すぐさま横から悪魔がそそのかしてきた。

 汗をたっぷり吸収したブラウスからは、いつもよりも濃い林檎の匂いがむわっと漂ってきている。顔を(うず)めたら、トぶくらいの興奮が待っているはずだ。

 逡巡の末、悪魔に背中を押されるようにして、私はブラウスに顔を埋める。

 すぅと、鼻から息を吸い込んだ。


 脳の奥まで突き抜ける、汗と柔軟剤の芳醇な香り。そして、林檎自身の濃い匂い。この世で、一番大好きな匂い。


 その匂いに思考を支配されて無我夢中で嗅いでいると、不意に声が聞こえてきた。

「あ、の〜……」

 思わずビクッと肩を振るわせ、恐る恐る振り返る。そこには、すりガラスの扉を少し開けてこちらを覗き込んでいる林檎の姿が。

「えっと、洗顔フォーム新しいやつ、出そうかなって」

 林檎の言葉が耳に入るが、動揺から右から左に流れていく。顔が熱く、真っ赤になっているのが自分でも分かった。

 口をぱくぱくとさせて狼狽えている私の横をすり抜け、林檎が濡れた体のまま脱衣所の戸棚から新品の洗顔フォームを取り出して浴室へ戻っていく。そのすれ違いざまに、頭だけぐいと引き寄せられてキスをされた。

 そして、


「あとで、いっぱい可愛がってあげるからね」


 まるで獲物を狙う捕食者かのように目を細めて、舌なめずりをしながら微笑みを浮かべる林檎。

 浴室の扉がガラリと閉まると同時に、私は足の力が抜けてその場にへたり込んでしまう。心臓の音がうるさい。ぎゅうとブラウスを抱きしめ、匂いに包まれながら先ほどの林檎の顔を思い出す。

 それだけで、興奮で背筋がぞくりと震えてしまう。

 私は今日、抱き潰されてしまうかもしれない……。

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