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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第3章
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君の歌声に聴き惚れる

 一つのデンモクを二人で覗き込む。肩と肩がピッタリくっついた。

「ミカン、次これ歌お!」

「ん、いいぞ」

 二人で身を寄せ合いながら、マイクを握りしめる。

 微笑みあいながら歌声を重ねる楽しさに、私達は夢中になっていた。


 ◆


 休日の昼過ぎ。私とミカンは、並んで目の前の建物を見上げていた。

「ここがカラオケか……」

「うん……私も初めて来た」

 存在はもちろん知っていたが、実際に訪れるのは初めてだ。

 ミカンは初めてでもなんらおかしくはないが、私に関しては、学生時代に放課後や休日に友達から遊びに誘われても断っていたため、カラオケと縁がなかった。

 しかし、先日ミカンと一緒に動画サイトで音楽を聴いていて、カラオケ行ってみたいという話になり、二人で初カラオケへと赴いたのだ。

 ちなみに、ボーリングとかも行ったことがない。いつかミカンと行ってみたいなぁ。

 そんなことを考えるとミカンが肘で突いてきた。

「こんなとこで突っ立っててもあれだから、早く入ろう」

「あ、そうだね」

 ミカンに促され、私達は自動扉をくぐって受付へと近寄った。



 ドリンクを片手に指定された番号の部屋に入ると、私達はキョロキョロと室内を見渡しながら腰を下ろした。

 大きなモニター、薄暗い照明、革張りのソファに、メニューが置かれたテーブル。初めての空間に、ほぅと息が漏れる。意外と落ち着く。個室だからだろうか。

「これがデンモクってやつだね」

 棚に置かれていたデンモクとマイクを手元に持ってくると、二人でデンモクを覗き込む。

「……ミカン、どうすればいいか分かる?」

「……分からん」

 初めて触る機械に四苦八苦していると、受付で頼んだフライドポテトが届いた。ついでに店員さんに最低限の操作を教えて貰った。ひとまず届いたポテトをつまむ。


 うまっ!! ちょっとつまんだら歌おうと思ってたのに、手が止まらない。

「たまにはこういうのもいいな」

 ミカンもポテトを食べながら、感心したように頷いている。

「ね、美味しい! ミカン、今度家で作ってよ」

 私がそうねだると、ミカンは少し考える素振りを見せた後、分かった。と微笑んでくれた。

「油分も塩分もすごいから、たまーになら作ってやるよ」

「やった!」

 ミカンのお手製フライドポテトを食べながら、キンキンに冷えたビール……考えただけでよだれが。

 おっといけない。本来の目的を見失ってしまっていた。

 私達は手を拭いて、改めてデンモクに向き直った。


 じゃんけんで決めた結果、私が先に歌うことになった。

「うわー、緊張するなぁ」

 マイクを握ってモニターの方を向く。

 流れ出した前奏に、自然と体が揺れる。普段も家で音楽を聴いていると、無意識のうちに体を揺らしたり、手足でリズムを取っていると、ミカンに指摘されたことがある。

「ん、この曲聴いたことあるな」

「あぁ、よく私が聴いてるからね」

 前奏が終わり、表示された音程バーと歌詞に合わせて歌っていく。

 初めは中々難しかったが、サビに入る頃には既に私はノリノリになっていた。


 あっという間に歌い終わってしまい、私は大きく息を吐きながら、ぼすんとソファに腰を下ろした。

「はー! 楽しい!!」

 ジュースを一口飲んでから私がそう言うと、ミカンは柔らかく微笑んで

「林檎、歌上手いな。歌ってる林檎可愛かったぞ」

 と、べた褒めしてきた。私は恥ずかしくなって、ぐいぐいとデンモクとマイクをミカンに押し付ける。急にストレートに褒めてこないで欲しい。心臓に悪いことこの上ない……。

 心臓に手を当てて深呼吸を繰り返していると、聞き覚えのある曲が流れて、顔を上げる。

 ミカンが入れたのは、私が以前おすすめしたガールズバンドの曲だった。

「ミカン、そんなにこの曲好きだったっけ」

 前奏中に私がそう尋ねると、

「この曲っていうか……」

 ミカンはモニターに視線を向けたまま、少し照れたように答えた。

「林檎がおすすめしてくれたから……」

 横顔からでも分かるくらい赤くなったその頬に、静まりかけてた私の鼓動が再び早くなってしまう。

 今日はなんだか、いつもよりもミカンが素直というか、可愛いというか……。これも、カラオケという初めての空間のせいなのだろうか。

 ミカンの歌声に耳を澄ませながら、ぼぅっとその横顔を眺めた。


「ふぅ……」

 歌い終えたミカンがマイクをそっとテーブルに置く。そして、私の隣に腰を下ろした。

 私はそんな彼女を見つめながら、ありのままの感想を伝える。

「ミカン……歌へたっぴだねぇ」

「ううううるさい!!」

 歌唱中も音程バーがあっちこっち行っていたし、それに焦ってさらに音程を外していた。

 私の指摘にむすっと顔をしかめて、スマホで音程の合わせ方やらを検索しだすミカン。なんだかその様子がとてつもなく可愛らしく思えて、私は思わずミカンに抱き着いた。

「ぐっ、なんだ林檎。今私は真面目なんだ!」

「気にしすぎ、楽しめればいいよ! ほら、一緒にこれ歌お!」

「下手くそだと言ったのは林檎だろ!」

「下手だけど、ミカンは超可愛いし声が死ぬほど格好いいからいいの!」

「んなっ……!」

 茹でダコみたいに顔を赤くするミカンにマイクを押し付けて、デンモクでデュエット曲をリクエストする。

 嫌々歌っていたミカンも歌っていくうちに段々と表情が和らいで、二人して顔を見合わせたりなんかして、ノリノリになっていった。想像以上の楽しさに、私達は夢中で歌い続けた。

 また来ようね、なんてカップルみたいな会話をしながら、手を繋いで夕暮れの道を帰路に就く。


 カラオケ、最高に楽しかった!


 ◆


「お"は"よ"う"り"ん"ご……」

「うっわ声やば」

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