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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第3章
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君の手のひらの温もり

 ミカンの白い肌は、まだ少し熱を帯びていた。

「ん、林檎の手冷たいな。寒いか?」

「ううん。大丈夫だよ」

 私の手を包むように握り、ミカンが心配してくれる。手の甲に伝わるその微熱が心地よかった。

 身をよじって、私の隣に寝転んでいるミカンの身体に密着する。

「んふふ。ミカンの身体あったかいね」

 柔らかなその裸体にぎゅっと抱き着くと、ミカンは優しく両腕で抱きしめてくれた。そして少し恥ずかしそうに

「し、仕方ないだろう。今日も、その、激しかったし……」

 顔を赤らめてそう言った。


 そう、ミカンの言う通り、つい先ほどまで私たちはベッドの上で愛を育んでいた。

 基本的にミカンが下で私が上。普段見せない顔で快感に悶えるミカンを見ていると、ついつい激しくしてしまう。結果的に、事後は私に比べてミカンの体温が高くなるのだ。

 しかし、あんな可愛い顔をされて、激しくするなという方が土台無理な話だ。そう言うと、ミカンは更に顔を赤くして、それを見られまいと、私の顔を自身の胸元にぎゅっと押し当てた。

 すぐに照れるミカンは、本当にからかい甲斐があって困る。

 暫くされるがままになっていたが、流石に息苦しくなってきて、私はミカンから無理やり身体を離した。一瞬浮かべたその寂しそうな表情が、愛らしくて堪らない。

「もー、ミカンはなんでこんなに可愛いんだろ」

「うるさいな……林檎の方が可愛いだろう」

 むすっと朱色の頬を膨らませ、私の顔に両手を伸ばしてくる。そして、その手のひらで私の頬を包み、こねくり回すように揉んできた。

「んむぅ~」

「ふふっ、何だか林檎が小さい頃の事を思い出すな」

「え?」

 懐かしそうに目を細めて微笑んだミカンだが、すぐにはピンと来なかった。暫く頬をこねられながら思い出そうと唸っていると、はっと懐かしい光景が脳裏に浮かんだ。


 ◆


 あれは中学生の頃だった。

 リビングで仰向けに寝転んで本を読んでいると、不意に私の身体に何かが乗って来た。

 本から視線を上げると、いつの間にかミカンが私の上に馬乗りになっていた。上機嫌に尻尾を左右に揺らしている。

「なぁに~ミカン」

 栞を挟んでから本を脇に置いて、ミカンに両腕を伸ばして抱きしめようとする。が――

「ぶぇ」

 あろうことか、ミカンはその可愛らしい両前足で私の頬を踏みつけてきたのだ。私は予想外の出来事に、戸惑い硬直してしまった。そんな私の頬を、ミカンは夢中でこねるように踏み続けている。

 暫くして漸く我に返り、ミカンの奇行を止めようとミカンの両前足を掴もうとしたが、思わずその手を止めた。 何故かと問われれば、ミカンの瞳を見てしまったからだ。

 その瞳は、ここ最近で一番の輝きを見せていた。あまりにも嬉しそうにしているものだから、とても止め辛くなってしまったのだ。

 しばし頬をこねられながら悩んだ末、私は諦めることにした。今ミカンを止めたら、確実に不貞腐れるだろうなと、これまでの経験からなんとなく分かったからだ。

 

 結局、ミカンが満足するまでの数分間、私は無抵抗で頬をこねられ続けた。

 それ以来ミカンはたまに、寝転がっている私の頬をこねるようになったのだ。 


 ◆


「そんなこともあったねぇ……」

 私が一連の出来事を思い出して懐かしさに浸っていると、ミカンが幸せそうな笑顔を浮かべて私の頬をそっと撫でた。

「あの頃の林檎のほっぺたはすごくモチモチで柔らかくてなぁ。好奇心でやってみたんだが、林檎の反応が可愛くて楽しくなってしまったんだよ」

 そう話すミカンの目は、あの頃のように爛々と輝いていた。

 昔から変わらないその嬉しそうな表情に、私は思わず笑ってしまった。「どうした?」と、きょとんとしているミカンに「なんでもないよ」と答え、ミカンの目を真っすぐ見つめる。

「ミカンは昔から変わらないね」

「? 林檎も変わらないぞ。ほっぺたも変わらず柔らかいしな」

「もー、いつまで続けるのさぁ」

 ミカンが満足するまでは私の頬は解放されないだろう。だけれど、好きな人の手に包まれているととても心が落ち着いて、幸せで満ち溢れる。


 だから今日も、私は無抵抗でミカンに頬を委ねるのだった。

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