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私の同居人(ペット)は狼女です。  作者: 凛之介
第2章
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君の知らない私の同居人

「こんばんは、鈴木さん」

「……新田、先輩?」


 状況が飲み込めない。

 桃の同居人さんが来るのを待ってて……、同居人さんがもうすぐ着くと言って、新田先輩が――

 新田先輩が、私と桃のところへやって来た。

 私は戸惑いながら、桃へと視線を向ける。桃はなんだか気まずそうに肩をすくめて、私と新田先輩を交互に見つめていた。

「混乱させてごめんなさいね」

 突然新田先輩に謝られ、「えっ、あっ」と間抜けな声を上げてしまう。プライベートで新田先輩に会うことさえ初めてなのに、今の状況が不思議すぎてまともな対応ができない。


 私は一旦手元の飲み物をぐいっと飲んで、ふぅと一息ついた。

「えっと、桃の同居人さんが新田先輩……? あっ、えっと桃、新田先輩は私の上司で――」

「うん、知ってる」

 慌てて説明しようとした私を、桃は静かな声で制した。知ってる? 桃が、私の新田先輩の間柄を?

 私が一層混乱していると、新田先輩が穏やかな口調で教えてくれた。


「えっとね、鈴木さん。まず、私と桃は同居しているわ。それで、つい先日、桃の恩人が鈴木さんだってことを知ったのよ。その時に、鈴木さんは私の部下だと、桃に教えたの」

 その説明を聞いて、私は思わず桃に文句を言った。

「桃、酷いよ。それなら教えてくれればいいのに」

「だって、私が勝手に言うのも何か違う気がして……」

 と、ばつが悪そうに俯いた桃を、新田先輩は静かに見つめていた。


 それにしても、まさか桃の同居人さんが新田先輩だとは……。世の中は思ったよりも狭いのかもしれない。

 新田先輩から傘を受け取った桃は、忘れ物がないかを確認してから席を立ちあがった。

「林檎はどうするの?」

「私も同居人に傘持ってきてもらうよ」

「そっか。今日は本当にありがとうね」

 そう言って嬉しそうに笑う桃。その隣に立つ苺さんが、お財布からお札を取り出してテーブルに置いた。

「これ、お代ね」

 あまりにも当たり前のように置くので、反応が少し遅れてしまった。私は慌てて断る。

「いえいえ、新田先輩に払っていただくなんて……」

 そんな私を、新田先輩はいつも会社で見せてくれる、あの優しい笑みを浮かべて制した。

「いいのよ。桃がお世話になったんだし。私からの気持ちよ」

「……はい、分かりました。ありがとうございます」

 そう言われては無下にできない。私は有り難くそのお札を財布に仕舞った。


 桃とまた何度か言葉を交わし、二人は店を後にした。

 去り際、新田先輩は私を少しだけ見つめ、静かに

「ごめんなさい、鈴木さん。ありがとう」

 と囁いて、桃のあとを追っていった。

 なんの謝罪とお礼だったのか、私には分からない。

 分からないけど、新田先輩の表情は何かを決意したような、穏やかな顔だった。


『ごめんミカン、傘持って迎えに来てくれない?』

『分かった。場所送れ』

『うん、ありがとう』


 スマホを仕舞い、ふぅと一息つく。

 桃が上京してきて、もう誰かと同居していると聞いた時は少し驚いたけど――

「そっか、新田先輩とだったんだ」

 それなら、安心できる。私もあの人にどれほど支えられたことか。

 今度三人でお出かけとかしてみたい……いや、ミカンが嫉妬するか。

 二人も大事な人だけど、私が一番大切なのはミカンだ。


 あぁ、早くミカンの顔が見たいな。


 窓から雨が降り注ぐ店の外を眺める。

 傘を並べて仲良さそうに歩く、二人の姿が見えた。

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